東京地検特捜部は「法軽視の姿勢が顕著とは言い難い」として、菅原一秀前経産相の起訴を見送った。だが、元秘書らが間近で見てきたのは、支援者の「ランク」に応じて香典や枕花を届けるよう細かく指示する菅原氏の姿だった。「法を犯していたのは明らかなのに、なぜ不起訴?」。元秘書らに困惑が広がる。

◆「枕花どうしますか?」に「即」

 「菅原氏の行為は法軽視そのものですよ。私たち自身、違法だと思いながらやらされていたんですから」

 今年初めまで菅原氏の地元事務所に勤めていた元秘書が、起訴猶予という特捜部の処分に首をかしげた。

 元秘書は生花の発注を担当。地元の東京都練馬区で支援者が亡くなると、菅原氏に「枕花はどうしますか。サイズはいかがいたしましょう」とLINE(ライン)で尋ねる決まりになっていた。

◆有権者を「A・B・C」にランク分け

 事務所はパソコンで支援者名簿を管理しており、政治資金パーティーへの参加歴や政党支部への献金額に応じて、「A」「B」「C」とランク分けしていた。昨年6月、Aランクの支援者が亡くなったことを元秘書がLINEで伝えた際、菅原氏から12分後に「枕花、大」「即」と立て続けに返信があったことが記録に残っている。

 訃報の連絡を受けた菅原氏が、別の秘書に「香典気をつけて」「2万」とメッセージを送り、香典を届けるよう指示していたのも目の当たりにしたという。

 元秘書は「枕花が公選法が禁じる寄付行為に当たることは知っていた。香典の代理持参が駄目なのも常識。でも菅原氏に意見を言えるような雰囲気ではなかったんです」と振り返った。

◆元秘書「長年続けているのに…」

 10数年前に事務所を辞めた元秘書も「当時から秘書が香典を代理で持って行っていたし、枕花も送っていた。長年続けていることなのに『法軽視が顕著でない』って…」と特捜部の処分を疑問視する。

 前法相で衆院議員の河井克行容疑者(57)夫妻が公選法違反(買収)容疑で逮捕されたことに触れ「送り先は地元の有力者ばかりだった。菅原氏がやっていたことも、選挙のためだったと思う」とつぶやいた。

 日本大の岩井奉信教授(政治学)は「政治家による地元での寄付行為は実際には各地でまん延しており、氷山の一角にすぎない」と指摘。「菅原氏は動機面などを考慮され、起訴を見送られたが、行為自体は許されるものではない。政治家はこれを機に、法令順守を徹底すべきだ」と強調した。(山田雄之、山下葉月)

東京新聞
2020年06月26日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/37931
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