地方議員ら94人に計約2570万円の現金を配った公職選挙法違反容疑で逮捕された前法相で衆院議員の河井克行容疑者(57)と妻で参院議員の河井案里容疑者(46)=ともに自民党離党=。大型買収の舞台となった昨夏の参院選・広島選挙区では、安倍晋三首相の秘書が案里陣営の支援に入っていました。首相秘書はどんな活動をしたのか―。陣営関係者が本紙に証言しました。(丹田智之)

■片手に名簿 約束なしに

 取材に応じた陣営関係者によると、昨年6月下旬に安倍首相の筆頭秘書をはじめ数人の秘書が応援に入り、一緒に4日間かけて県内の企業40〜50社を訪問したといいます。

 「名簿を片手に事前の約束もなしに回りましたが、社長さんに応対してもらえた企業も多かった。秘書は『安倍晋三事務所から来ました』と名刺を差し出してあいさつしていました。相手も総理の秘書だということで好意的な反応だった」と振り返ります。

 首相の秘書が、応援に入ることは異例です。NHKの報道(19日)によると、安倍首相は報道各社からの質問に対し「私の指示により秘書が広島に入ったことは事実だ」と回答しました。なぜわざわざ山口県から応援にいれたのか―。

 広島選挙区(改選数2)で自民党県連はベテランの溝手顕正元防災担当相を支援し、県内の企業や自民党議員の多くが応援しました。他方、党本部のごり押しで割り込んだ案里容疑者のもとには克行容疑者と親密な安倍首相や菅義偉官房長官が応援に駆け付けました。

 この関係者は「今回は厳しい選挙になる」と克行容疑者から応援を依頼され、昨年6月上旬から投票日の7月21日まで案里容疑者の選挙を手伝いました。

 「溝手さんのポスターの横に張らせてもらった案里さんのポスターが剥がされるなど、激しい票の奪い合いだった」といいます。

■公明市議の自宅も訪問

 この関係者によると、首相の秘書は公明党の支持母体である創価学会の施設や公明党市議の自宅も訪問。「選挙区では河井案里をよろしく」と支援を依頼していたといいます。

 参院選の広島県での公明党の比例得票数は14万7045票です。同党は選挙区で溝手氏と案里容疑者をともに推薦していました。

 「選挙戦の序盤は現職の溝手さんが優勢だったが、案里陣営には公明党の票が入れば勝てるという確信があった」と、この関係者は明かします。

 さらに自民党本部は克行容疑者と案里容疑者がそれぞれ代表を務める政治団体に、計1億5千万円の資金を提供しました。この金額は溝手氏の10倍とされます。

 この結果、案里容疑者は溝手氏に2万5688票差で競り勝ちました。安倍首相を先頭に異例の秘書投入と資金投下があっての“勝利”でした。

しんぶん赤旗
2020年6月21日(日)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-06-21/2020062113_01_1.html