幹事長の一存で10倍の差はできない

自民党の河井克行前法相(広島3区)の妻案里氏(参院広島)が初当選した昨夏の参院選の公示前、党本部から夫妻の党支部に入金された1億5千万円について、関係者は口を閉ざしたままだ。かつて幹事長として選挙実務を担った石破茂氏(鳥取1区)は「納税者や党員に説明できない金の使い方は許されない」と指摘する。事件によってあらわになった問題点や同党の資金支援の仕組みなどを聞いた。

 ―参院選広島選挙区を舞台にした公選法違反事件を、どう見ていますか。

 秘書が起訴された段階で断定的なことは言えない。明らかなのは新人の案里氏に対する党本部の応援が、落選した現職の溝手顕正氏に比べて手厚かったことだ。私も多くの選挙を見てきたが、物心ともに今までにない態勢だった。

 昨年の参院選で自民党は秋田や新潟、滋賀などで議席を失った。その中で案里氏にここまで肩入れしたのが正しかったのか。党は検証するべきだろう。

 ―安倍晋三首相(総裁)の下で2012年から2年間、幹事長を務められました。選挙の資金支援で10倍の差をつけたことがありますか。

 ない。10倍の差は幹事長の一存ではできない。「なぜあの人だけ」と党内に不満が充満し、統制が効かなくなる。二階俊博幹事長ほどの老練な政治家がそんな判断をするかな。そうするともっと上か、推測だが。

 ―資金の分配はどのように決めるのですか。

 自民党の選挙調査は非常に精密で年代別や男女別、地域や職業、支持政党別に実施する。候補者の優劣評価はAからDまであり、例えばAなら「Aプラス」「A」「Aマイナス」まで判定する。それに基づき効率的に金を分配し、応援態勢を敷く。

 ―10倍とは言わないまでも差を付けるのですか。

 多少の差は当然つける。当落のボーダーラインの人には特に。ただ倍までにはならない。

 ―安倍首相は党本部からの資金の支出について「全て党執行部に任せている」と国会で述べて関与を否定しました。

 だったら、なぜ案里氏の応援に秘書が山口県から入ったのか。首相の許可なしで秘書がやるのか。それなら、すごい事務所だ。

 ―検察当局は1億5千万円の一部が、買収に使われたと見ています。

 わが党の会計は(税金から支出される)政党交付金と党員からいただく党費で成り立つ。党費は市町村ごとや小学校区の支部長が自分の足で歩いて集める。

 私は鳥取県連会長。党員から「俺たちの金をああいうふうに使っていたのか」「もう払いたくない」と言われる。最前線で党のために尽くしている人々に申し訳ない。納税者や党員に説明できる金の使い方をしないといかんのだ。

 ―河井夫妻は首相と近い一方、溝手氏は首相との確執が伝えられました。

 首相に物申せばポストや金がもらえず、政権に近いと10倍の金が入るとなれば、なびく人もいるでしょう。私に「後ろから弓を引くな」と怒る人もいるが、言いたいことが言えないなら何のために政治家になったのか分からない。

中国新聞
6/2(火) 7:00
https://news.yahoo.co.jp/articles/119e0d8fd54657c9996be3c78a9a524d1c90c75f