二〇一八年三月七日朝。普段はこたつに入ったままの夫のとっちゃん(俊夫さん)が玄関まで来て、仕事に行く私に「ありがとう」と、死を覚悟して最期のひと言だった。

 「疲れるほど悩んでいる? 悩んだらだめよ」
 落ち着かず、午後四時にメールしたが返事はなく、胸騒ぎがして早く帰ると、夫は既に息をしていなかった。

 「内閣が吹っ飛ぶようなことをさせられた」
 夫が生前、つぶやいていた言葉の数々を思い出し、「財務省に殺された」と一一〇番した。二十人ほどの刑事が来て、六時間の事情聴取後、病院に戻り、母や親族の顔を見た時、ようやく涙が止めどなくあふれ、おえつが漏れた。

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 学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当していた財務省近畿財務局の赤木俊夫さん=当時(54)=が、佐川宣寿(のぶひさ)元国税庁長官の指示で決裁文書の改ざんを強要され自殺に追い込まれたとして、佐川氏と国を提訴した妻雅子さん(49)が本紙の取材に応じた。「改ざんに抵抗した夫がなぜ、死を選ばなければならなかったのか。夫のような被害者が二度と出ないよう、安倍晋三首相には真相解明のために調査の詳細を明らかにし、さらなる再調査を命じてほしい」と、現在の思いを語った。 (望月衣塑子)

東京新聞
2020年5月25日 02時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/16654