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平田オリザ氏の「炎上」発言。本意は?

製造業に冷淡?

 新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、様々な業界が休業や減収に追い込まれており、業界から国へ支援を求める声は後をたちません。そんな中、NHKのインタビューにおける劇作家平田オリザ氏の次の発言が物議を醸しています。

製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。客席には数が限られてますから。製造業の場合は、景気が良くなったらたくさんものを作って売ればある程度損失は回復できる。でも私たちはそうはいかない。

出典:【更新版】「文化を守るために寛容さを」劇作家 平田オリザさん 

 他者に対する寛容を訴えながら、製造業に対してあまりにも無理解ではないか。これを聞いて製造業の人は寛容になれるか。そういった意見がネットに噴出、取り上げたメディアもあるなど炎上の様相を示しています。このインタビューの前に平田氏が舞台演劇界の窮状を訴えていた時、それなりに同情的だった筆者でも、流石にこれは見過ごせない発言だと思います。

 これに対して、発言の本意を誤解されているのではないか、という意見もありました。本意が伝わらずに言葉だけが拡散することは誰にでもありえます。そこで、過去の平田氏の言動を確認することで、平田氏の本意を知る手がかりになるかもしれないと調べてみました。ところが、その結果は平田氏が一貫して舞台演劇以外の産業、特に製造業に冷淡ではないのか? と考えざるを得ない状況になってしまいました。

平田氏の製造業認識

 例えば、製造業に対する平田氏の認識が窺える発言に、以下のものがありました。

 たとえば製造業の方が失職すると再就職が難しいといわれていますが、これは明らかに「自己アピールができない」というコミュニケーション能力の問題です。私は今50歳ですが、私より上の年代の男性は、子どもの頃から「自分の自慢話はするな」と男親に言われて育ってきた。「今日ね、学校でこんなにがんばったんだよ」と言うと、「何を自慢しているんだ」と怒られた。それなのにいきなり、40歳、50歳を過ぎてから「自己アピールできないと再就職できません」と言われてしまう。この人たちにはある種の保護政策が必要でしょう。

出典:東洋経済Think! AUTUMN2013 No.47「【特集】人を動かし、アイディアを生み出す コミュニケーションの力1」

 「製造業の方が失職すると再就職が難しい」「コミュニケーション能力の問題」と言いながら、その理由を世代の教育に求めていますが、それなら全産業にいるその世代に共通する原因になるはずで、なぜ製造業従事者を「コミュニケーション能力の問題」の例として挙げられたのでしょうか。また、この記事では「「私たちコミュニケーション教育の専門家の間では、「中高一貫、男子校、理系」をコミュニケーションの三重苦と呼んでいる」とも発言しており、平田氏は製造業や理系に対してなんらかの偏見を抱いているように見受けられます。

「鉄は国家なり」から「文化は国家」へ

 しかしながら、アーティスト一個人が他業界を蔑視していたとしても、それにあまりとやかく言っても個人の自由なので仕方のないことです。ですが、平田氏は劇作家が本業ではあるものの、政治に大きく関わっていた時期があります。鳩山由紀夫政権時の2009年、平田氏は内閣官房参与に就任し、鳩山首相に文化行政や情報発信について助言する立場にありました。政策に影響を与えられる立場に就いていた訳ですが、就任中の読売新聞のインタビューに対し、こう発言しています。

まずは今夏、来年度の文化庁予算の概算要求を倍増する。日本の経済構造は変わった。製造業から文化、観光、スポーツに政策の重点を移したい。文化予算の増額は、若者の雇用を生むなど費用対効果は案外高い。


(略)