新型コロナウイルス感染から復帰した日本サッカー協会の田嶋幸三会長(62)がオンラインで本紙のインタビューに応じ、18日間の入院生活で目の当たりにした逼迫(ひっぱく)する医療現場を振り返るとともに、医療従事者への感謝の気持ちなどを語った。 (唐沢裕亮)

 「普段、サッカー日本代表をみんなに応援してもらっている。それなのに今、見えない敵と闘っている人たちを応援しないでどうする」

 最前線で治療に当たる人たちへ感謝の意を示そうと、同一時間に一斉に拍手をする取り組みが世界で広がる。スポーツ界も選手らが動画などで呼び掛けていることに触れ、「コロナの解決なしに東京五輪だってJリーグだってない。まずは(医療従事者を)励ますのは当然のことだ」と強調した。

 3月上旬に欧米出張から帰国後、微熱があった田嶋会長は同16日の診断で肺炎の症状が見つかり、東京都内の病院に入院。感染が判明し、日本では初めて個人名を公表した。入院中は、医師や看護師が病室の出入りのたびに医療用エプロンなどを取り換え、日ごとに患者が増えるにつれ慌ただしくなる様子を、隔離された病室からも感じた。入院中はタレント志村けんさんの訃報にも接した。「同じ病気でベッドの上にいると考えた時、本当に特別な思いを持った」と大きな動揺があったという。

 田嶋会長は今月2日の退院後しばらくはリスク管理として家族のいる自宅に戻らず、執務をウェブを通じて行っている。日本協会では2月下旬から職員らを在宅勤務に切り替えていたが、自身は欧州での会議の同席者が感染したというニュースに触れなければ「そのまま仕事をしていたかもしれない」と振り返る。より一層の危機意識が必要として「在宅勤務にできない業務もあるが、極力みんなで交代業務にするなど、さまざまな努力をするべきだ」と訴えた。
◆一問一答 医療従事者応援を/みんながピッチに戻れるように

 日本サッカー協会の田嶋幸三会長との主な一問一答は次の通り。

■経営支援

 −中断が続くJリーグのクラブ経営にも影響が出始めている。支援の考えは。

 「プロは興行。イベントがあって収入が入る。そこに関わる人たちを守らなければいけない。Jリーグはスポーツ振興くじ「トト」のベースになっている。例えば3カ月後にリーグ戦が再開したとして、その時にクラブがお金を払えず選手がどこかへ行ってしまったとなれば、トトだってどうなるか。トトのお金はスポーツ界以外にも使われ、国の収入にもなっている。しっかり継続できるように、サポートしないといけない。

 また、街クラブなどでは子どもたちが練習できなければ月謝も入らなくなる。フリーランスに近いコーチもいる。審判で生計を立てている人もいる。彼らが路頭に迷えば、サッカーが再開しても、審判がいない、コーチがいないとなってしまう。なでしこリーグ、ビーチサッカー、フットサルもそう。どうサポートするか」

 −具体的には。

 「基本は財政的なもの。協会の蓄えで済むのか、お金をお借りしてでもサポートしないといけないのか。私たち自身の運営ですらままならなくなるかもしれない。スポーツができるようになった時、みんながピッチに戻ってこられるようにしなければ」

 −J1札幌の選手が年俸の一部をクラブに返納する動きがあった。

 「クラブのことを思う気持ちが強いと思う。同じような動きがあるかは別として、日本協会も私も身を切ることをやっていかなければ、みんなに対してお願いできない」

2につづく

東京新聞
2020年4月23日 朝刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/sports/list/202004/CK2020042302000110.html