慰安婦を象徴する少女像など、一部の展示が中止された愛知県の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」への補助金について、文化庁は全額不交付とした決定を見直し、減額して交付することを決めました。

去年、愛知県で開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」では、「表現の不自由」をテーマにした企画展で、慰安婦を象徴する少女像や天皇をコラージュした作品などに抗議が集まり、展示が一時中止されました。

文化庁は、この芸術祭への補助金およそ7800万円について、愛知県側が会場の安全などを脅かすような重大な事実を認識しながら申告しなかったなど手続きに不備があったとして、去年9月、全額不交付にする決定をしました。

これに対して愛知県側は、補助金適正化法に基づき文化庁に不服を申し出ましたが、審査の中で愛知県側は、展示会場の安全性などに懸念がありながら事前に報告しなかったことは遺憾だったと認め、それにかかった経費などを減額して再申請しました。

このため文化庁は補助金を6600万円余りに減額して交付する決定をしました。

文化庁が、いったん採択した補助金を全額不交付としたことは当時、異例とされましたが、今回はその決定を見直したことになります。

この問題をめぐっては、芸術祭に補助金を出すことを採択した文化庁の外部委員が不交付決定に抗議して、辞任したり芸術家や大学教授らが抗議声明を出したりしていました。


専門家「一つの落としどころか」

文化政策が専門で文化庁の審査委員も務めた静岡文化芸術大学の片山泰輔教授は「現代アートは議論を呼ぶ作品があってしかるべきで、今回のような事案は起こりえた。当時の文化庁の判断は不自然で公平性を欠いていたと思うが、今回、判断を見直したことは、愛知県や文化庁の両者にとり一つの落としどころだったのではないか」としています。

そのうえで「今後は同じような企画が行われる場合、主催者がどのような対策を行えば補助金が交付されるのか、現場が萎縮しないよう、ある一定の基準を示すべきだ」と話していました。


文化庁「かしある判断だったと思っていない」

文化庁は、23日夜、会見を開き、愛知県の国際芸術祭、「あいちトリエンナーレ」に補助金を減額して交付決定したことについて説明しました。

このなかで今回の見直しについては、先月、愛知県側から『一部交付を受けたい』という打診があったとしたうえで、「あくまで、愛知県側からの新たな申請を受けて、適切に判断した結果だ。個別の展示内容や表現を評価したわけではない」と説明しました。

一方、当時の全額不交付の判断が、適当だったかと問われると、「われわれとしては、法令に基づいて適切に判断していた。当時も今もかしのある判断だったとは思っていない」と述べました。


愛知県 大村知事 裁判を見送る考え

愛知県の大村知事は記者会見で「双方で協議し、愛知県側から『文化庁にもご心配をおかけしたことを大変申し訳なく思っていて、今後はこれまで以上に連絡を密にするとともに安心安全かつ円滑な運営に留意する』などと表明した。文化庁側からも『十分な意思疎通が図れなかった』という表明がなされた。こうした状況から折り合ったということだ」と述べました。

そのうえで、文化庁が去年9月に補助金を全額交付しないと決めた際に「法的措置を講じ、裁判で争いたい」と述べたことについては、文化庁の決定を受け、裁判を見送る考えを示しました。

また補助金が減額されたことについては「特に感想はない」と述べました。

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NHKニュース
2020年3月23日 19時06分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200323/k10012345261000.html