「予算審議中に検察が家宅捜索するのは異例だ」――。ベテラン自民党議員からは驚きの声が漏れたという。自民党の河井克行前法相(56)の妻、案里参院議員(46)=広島選挙区=の陣営をめぐる選挙違反事件で、広島地検特別刑事部が3日、公選法違反(運動員買収)容疑で案里氏の公設秘書や克行氏の政策秘書ら3人を逮捕した。

 逮捕されたのは案里氏の公設第2秘書立道浩容疑者(54)、克行氏の政策秘書高谷真介容疑者(43)、参院選の選挙運動者だった無職脇雄吾容疑者(71)。容疑は昨年7月19〜23日、広島市の案里氏の選挙事務所など計6カ所で、参院選の車上運動員14人に対し、手渡しなどで法定上限(日当1万5000円)を超える計204万円を供与した疑い。

 公選法は、秘書らの有罪が確定するなどした場合、候補者本人が関与せずとも当選無効となる「連座制」が適用されると規定している。このため、メディアの多くは案里氏の失職の可能性を盛んに報じているのだが、この事件のキモは別にある。検察関係者がこう明かす。

「予算委開会中に現職の与党国会議員の議員会館事務所を家宅捜索したわけです。しかも、克行氏は前法務相ですよ。当然、広島地検が単独で判断できるわけもなく、稲田検事総長がGOサインを出したということ。秘書の逮捕だけで終わるはずがなく、さらに言えば、これは強引な法解釈で黒川弘務・東京高検検事長の定年を延長した官邸に対する検察の揺さぶりと言っていい」


 検察はなぜ、そこまで強気に出られるのか。カギは参院選前に自民党本部から克行、案里両氏がそれぞれ代表を務める政党支部に振り込まれた1億5000万円のカネの流れの行方だという。

「ウグイス嬢(車上運動員)への違法日当なんて、こう言っては誤解を招くかもしれないが、よく聞く話です。ウグイス嬢というのは誰でもできるわけじゃない。選挙カーに乗って地域性や有権者の属性などを見ながらトークを変える。いわば職人芸みたいなところがあるから、ベテランほど引っ張りだこ。『少しイロをつけるから』とお願いする候補者だっているでしょう。今回、問題なのは車上運動員だけでなく、報酬が認められていない運動員の買収疑惑です。広島地検の調べによると、参院選で会社員の男性が河井陣営から計3回にわたって銀行口座に約86万円が振り込まれたことや、現金10万円を手渡しされたことを認めており、他にも数十万円のカネを受け取っていた男性の存在が確認されている。原資はもちろん、1億5000万円でしょう。注目すべきは、安倍首相が国会で『知名度が弱いということもあり、私の指示で応援に入った』と認めた通り、参院選では少なくとも安倍首相の4人の秘書が選挙応援に入ったこと。仮にこれらの秘書に対して『カネを渡した』なんて話が出てきたら、首相自身が進退を問われる事態になるのです」(前出の検察関係者)

 つまり、検察が狙う“本丸”は安倍首相というわけだ。「桜を見る会」をめぐる疑惑や新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる後手後手の対応で内閣支持率が急落する中、そのタイミングを見計らったかのような検察の逮捕劇。まだまだ次の展開がありそうだ。

日刊ゲンダイ
2020/03/05 06:00
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