https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200218-00010001-kinyobi-soci
 2019年12月、中国・武漢で集団発生した新型コロナウイルス肺炎は世界的規模で感染が拡大している。

 この感染の拡大に伴って、不当な差別的言動が世界各地で現れている。日本でも百田尚樹氏、高須克弥氏などの極右系論客や、いわゆる「ネット右翼」がツイッター等で中国人嫌悪を煽っている。

 しかし、いま私たちが問題にすべきは、百田氏のような確信犯的な中国ヘイトだけだろうか。

 一例としてテレビ朝日系の「羽鳥慎一モーニングショー」1月27日放送分を取り上げてみたい。

 京都や山梨県・忍野八海など、中国人観光客に人気の観光スポットの映像が映され、訪れた中国人観光客がマスクをしているかどうかをレポーターがチェックする。大自然に触れるうちに外している人を映し出し、「マスクを外しています!」とレポーターが語り、同内容の字幕が表示された。

 しかし、そのようにマスクを外すことがそんなに大ごとなのだろうか? 短時間マスクを外しただけで、咳やくしゃみをしなくても感染リスクが上がるのか? 新型コロナウイルスは咳やくしゃみなどによる飛沫感染だけではなく、空気感染するのか? そもそもそれ以前に、マスクを外した当該者はウイルスの保有者なのか? マスクは本当に、新型コロナウイルスの感染防止に有効なのか?

「マスクを外しました!」と、さも大ごとであるかのように放送することは、いたずらに中国人観光客への嫌悪感や差別感情を喚起するだけではないだろうか。

 取材に対しテレビ朝日は広報を通じ「ご指摘の場面は、新型コロナウイルスの感染が中国で拡大する中、放送当時、中国国内でマスクをつける人々が急増する一方で、日本を訪れた中国人観光客が状況に応じてマスクを外す場面や、着用しない様子も見られたという事象を取材し放送したものです。当然ですが、差別を助長するような意図はございません」と返答した。

 ただ、現在の日本社会は、ヘイトスピーチが蔓延している。些細な言動であっても、ヘイトの空気は容易に助長される。その状況下で、このような放送内容が問題化されないのだとしたら、それは危険な兆候ではないだろうか。

【温又柔さんもツイッターで懸念】

 さらに「マスクをしていない中国人観光客」への嫌悪感が、容易に「(日本国内で)マスクをしていない中国人」全般への嫌悪感や差別感情、さらには「(日本国内で)マスクをしていない中国人・台湾人・香港人(=中国語を話す人間)」全般への嫌悪感や差別感情にエスカレートする可能性も否定できない。

 言うまでもなく、いま日本国内にいて中国語を話す人は「中国からの観光客」に限らない。出稼ぎ労働や留学等で(新型コロナウイルス流行前から)滞在している人、長期間在住している人、日本で生まれ育った人など、さまざまに存在する。そのような、最低限の知識や想像力が、日本社会にきちんと共有できているだろうか?

 台湾出身で、3歳から日本に在住し、日本語で小説を発表する作家・温又柔さんは1月30日、ツイッターに投稿した。

「おまえビョーキうつすなよ、みたいなことを言われて傷ついてる中国出身の子どもがいないように。おまえビョーキうつすなよ、みたいなことをクラスメイトに言う子どもがいないように。マトモな大人がちゃんと目を光らせてますように。大人がマトモでありますように。私がマトモでいられますように。」

 温さんの心配は杞憂だろうか。日本人は関東大震災時に朝鮮人虐殺事件を行なった過去を持つ。今、日本人は「マトモ」な行動を取れるのか、厳しく問われている。

 最後に、1938年に40万人以上の日本陸軍が武漢を侵略し、本格的な毒ガス攻撃を行なった歴史的事実も心に留めておきたい。

(植松青児・編集部、2020年2月7日号)