新型コロナウイルスの肺炎患者が拡大している中国・武漢から、政府派遣のチャーター機で帰国する際、搭乗費として約八万円の支払いが発生することに邦人の一部から戸惑いの声が上がっている。政府は「内戦や武力攻撃などとは異なる」とし、他国でも自己負担のケースはあるが、与党内やインターネット上では、緊急時のため公費で負担すべきだとの意見も出ている。 

 武漢の大学で日本語教師として働く女性(39)は現地を離れると決め、第二便のチャーター機に乗れるかどうか大使館からの連絡を待っていた二十九日、搭乗に約八万円かかると報道で知った。大学側は負担せず「高すぎる。帰国希望をキャンセルしようかと思った」。

 日本に戻ってからの心配も尽きない。感染の可能性を考えると、小さな子どもがいる親族の家に身を寄せるのは気が引ける。政府指定のホテルに泊まる予定だ。

 与党内では搭乗費用の政府負担を求める声が相次ぐ。自民党の二階俊博幹事長は二十九日「突然の災難だ。本人だけに負担させるのではなく国を挙げて対応するのは当然だ」と強調した。公明党の山口那津男代表も三十日の中央幹事会で「緊急事態でやむを得ず帰国を余儀なくされた方々だ。政府が負担すべきだ」と語った。

 ツイッター上では、安倍晋三首相が多数の支援者を招くなどした「桜を見る会」に絡め、「桜を見るのに多額の税金を使うより、こんな時こそ税金を使ってほしい」との投稿があった。

 ただ、各国の報道によると、武漢へ派遣したチャーター機の利用者に、韓国は大人三十万ウォン(約二万七千円)といった負担を求め、米国も通常の航空便より割高の費用がかかる見通しという。そのため「帰国に対してかかるコストは当たり前」と、日本政府の対応に賛成する投稿もあった。

 政府が帰国者に負担を求めるのは、エコノミークラスの片道正規料金の相当額。外務省担当者は二十九日、政府が費用を賄うべきだという声は承知しているとしつつ「現時点では徴収する予定」とした。

◆機内感染しにくい

<浜田篤郎東京医大教授(渡航医学)の話> チャーター機での帰国者から感染者が出ることは予想できたこと。国内での感染拡大をあまり恐れないでほしい。一般論だが、飛行機の中では空気は上から下に流れていて、換気もされる。飛沫(ひまつ)感染する新型コロナウイルスは広がりにくい。機内で同乗した人の感染は起こりにくいのではないか。ただし、今年は五輪があるので、一刻も早い感染症の封じ込めは必要だ。

◆過剰な心配は不要

<感染症対策に詳しい賀来満夫・東北医科薬科大特任教授の話> 中国でも無症状の人から新型コロナウイルスが検出されており、日本でも不思議はない。無症状の人からどれくらい感染するのかは不明な部分が多いが、すぐに感染が広まると考えるのはまだ早く、現段階では過剰な心配は不要だ。厚生労働省が健康確認の期間としている二週間を目安に、ウイルス量の変化を調べるなどの詳細なフォローアップが必要だろう。

東京新聞
2020年1月30日 夕刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202001/CK2020013002000280.html