https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52830960Q9A131C1SHA000/
11月中旬、自民党の石破茂氏と立憲民主党代表の枝野幸男氏がそろってBS番組に出演した。

司会者が両氏の連携の可能性を聞くと、枝野氏は「政策的に一致するなら、私は門戸を閉ざすつもりはないが、石破さんなり自民党の中の問題」と語った。

石破氏がすぐに「野党と組むなんていま考えていない。当然のことだ」と否定すると枝野氏はさらに「という方だから我々も信頼できる」と石破氏への信頼を口にした。

石破氏が率いる派閥の議員も、野党から「自民党内に味方がいないんだから一緒にやらないか」と冗談交じりに秋波を送られることがあると話す。

日本経済新聞とテレビ東京は今年、5回の世論調査で「次の首相に誰がふさわしいか」を質問してきた。トップ3は常に安倍晋三首相、小泉進次郎氏、石破氏で、4位以下を大きく引き離し続けている。

目立つのは石破氏と答えた人の増え方だ。初回の5月は首相と小泉氏がともに23%の同率1位で、3位の石破氏はその半分の11%しかなかった。ところがその後、石破氏を挙げる人は13、15、18%と増え、直近の11月22〜24日の調査では20%をとって今年初めて1位になった。
画像の拡大

トップに立った理由について石破氏は「安倍、石破、小泉の3人はいつも上にいる。他の方が減った分、私が上がっている」と分析した。首相は2閣僚の辞任や首相主催の「桜を見る会」への追及が響いている。小泉氏は政権に批判的な発言が減り、環境相として首相を支える立場になると注目度が落ちてきた。

これで石破氏が「ポスト安倍」に一歩前進かといえば、そう単純ではない。

「ポスト安倍」候補への支持を自民党支持層と野党支持層に分解してみる。石破氏は野党支持層からの期待が非常に高い。

石破氏は毎回、野党支持層からの支持が自民党支持層の倍以上に上る。野党支持層からの支持は直近の調査では立民の枝野氏の倍に達する。立民支持層で比較しても1.8倍だ。

野党に「次の首相」の有力候補がいないため、政権に批判的な石破氏が野党支持層の人気を集める。野党が石破氏に秋波を送りたくなっても不思議ではない数字だ。

とはいっても自民党総裁選の投票資格を持つのは同党の党員・党友と所属国会議員だけだ。いくら野党支持層の支持を得ても総裁選に直接は反映されない。

こうした数値について石破氏は「野党の支持が多いことは総裁選で私に何ら影響をもたらさない。しかし国政選を考えたらどうだ、ということだ」と話す。

石破氏が総裁なら、衆院選や参院選の時に野党支持層が自民党候補らに投票する可能性がある、という意味だが、その前にまずは総裁選を勝たなければならない。

石破氏の自民党支持層からの支持は5月の7%から直近は14%まで上がったが、過去5回とも首相と小泉氏に及ばない。河野太郎氏や菅義偉氏と並ぶこともあった。

首相、小泉氏、石破氏以外の「ポスト安倍」候補は平均すると10%に届かない。だが自民党支持層から高い人気を集める首相が総裁選に出馬しないと正式に決めたら、その支持層はどこに向かうか。安倍政権の路線継承を求める声が大きければ石破氏以外の候補に流れるだろう。

いまの石破氏は自民党内で政権を批判するからこそ評価を得ている面もある。野党支持層に人気があるからといって党を離れればその強みを失う。

「ポスト安倍」に首相の名前を挙げる自民党支持層をどう攻略するか。石破氏の大きな課題だ。

(政治部次長 佐藤理)