東京フィルハーモニー交響楽団と18年に及ぶ蜜月を築く。アジア各国の若者を束ねるアジア・フィルハーモニー管弦楽団を1997年に創設し、北朝鮮と韓国の楽員を一緒に演奏させるという夢の実現に向けたプロジェクトにも心血を注ぐ。あらゆる分断を強く意識し、音楽による未来への提言を続ける世界的指揮者の目に、現在の日韓関係はどう映るのか。

 ――10月に韓国で開かれたアジア・フィル公演には、台風の影響で日本人が参加できませんでした。

 「アジア・フィルはそもそも、文化も歴史も異なるアジア各国の若者たちに、音楽という共通言語で、人間としての真の信頼関係を築いてもらうために結成した楽団です。プロになるかどうかはここでは全く重要ではない。大切なのは、未来を担う日中韓の若者に互いの友情を確かめ合ってもらい、その成果を多くの人に示すこと。ですので、今回は本当に残念でした」

 ――日韓の現在の関係性をどう見ていますか。

 「同じ分断の問題でも、たった1人の男が劇的に国を変えてしまった米国とは違い、日韓の現在の特殊な緊張関係には、絶対に克服しなければならない難しい歴史的背景があります。未来の人々に『あれは大したことじゃなかった』と笑って振り返ってもらえるよう、私たちの友情を素晴らしい音楽の形に実らせ、世界に示し続けることが私の使命だと思っています」

 「私は今の日本の天皇が個人として大好きです。それは彼が人間的に素晴らしい人だからであり、天皇という立場とは一切関係ありません。個人的な友情の輪を広げてゆくことが今、何より求められていると感じます。人間性への素朴な信頼を、私たちは今こそ取り戻さねばなりません」

朝日新聞
2019年11月5日18時00分
https://www.asahi.com/articles/ASMC112RKMB0ULZU010.html