■投票率を高める行為は反政権的

 7月21日投開票の参議院選挙は、48.8%という記録的な低投票率となりました。そこで、過去30年あまりの参院選の投票率を振り返ってみましょう。

・1989年 65.02% 前年にリクルート事件が発覚。社会党が躍進し、参院で与野党逆転。93年の政権交代の布石になった。
・1992年 50.72% 直前に成立したPKO法が争点。PKO法への姿勢をめぐり、野党間で対立し、社会党退潮のきっかけになった。
・1995年 44.52% 自社さ政権での選挙。新進党が伸びた一方、社会党が大幅に減少。自民党はふみとどまり、反転のきっかけになった。
・1998年 58.84% 堅調だった自民党への支持が、所得税の恒久減税に消極的な橋本首相発言で失われ、民主党と共産党が躍進。
・2001年 56.44% 小泉政権での選挙。自民党の議席が大幅に増加し、連立相手の公明党と合わせ、過半数を維持。
・2004年 56.57% 民主党が50議席を獲得し、自民党の49議席を抜いた。その後のねじれ国会、政権交代の基盤になった。
・2007年 58.64% 安倍政権での不祥事続発を受け、民主党が60議席を獲得して躍進。参院で与野党が逆転して、ねじれ国会に。
・2010年 57.92% 民主政権での選挙。堅調だった民主党への支持が、消費増税を示唆する菅首相発言で失われ、与党の議席減。
・2013年 52.61% 第二次安倍政権での最初の参院選。自民が34議席から65議席に躍進した一方、民主が44議席を17議席に減らす。
・2016年 54.70% 自民が50議席を56議席に増加させた一方、民主後継の民進が45議席を32議席に減らすも、退潮の勢いを弱める。

 つまり、30年前の89年を最後に、参院選では有権者の半分程度しか、投票しない状態が続いています。ただ、投票率55%を境に、それよりも投票率が上がると、政治を変える結果となり、投票率が下がると、政治を現状維持させる結果になりやすいことが分かります。なお、現状維持は必ずしも自民党と紐づけられるとは限らず、01年のように「自民党をぶっ壊す」と訴えた小泉政権が、支持を集めた例もあります。

 しかし、近年は、参院選のみならず、政権選択を迫る衆院選の投票率も低調傾向です。60%前後で推移してきた90年代、00年代に対し、14年の衆院選は52.66%、17年は53.68%と、参院選から見ても高いとはいえない投票率にとどまっています。

 今や、有権者の2人に1人しか、投票しない社会になってしまったのです。その状態は、安倍政権を強化する方向で、機能しています。なぜならば、確実に投票してくれる政権支持者の一票を相対的に強めるからです。

 有権者の半分しか投票しない社会とは、投票率を高める行為、それ自体が政権の脅威となります。政治や選挙を積極的に報道することは、それが政権の「提灯記事」であっても、反政権的なのです。よって、安倍首相が掲げた「政治の安定」という争点は、まさに記録的な低投票率によって「信任」されたことになります。

2につづく

ハーバービジネスオンライン
田中信一郎
2019.07.24
https://hbol.jp/197799