九州を襲った記録的な大雨の余韻が残る4日、令和初の国政選挙となる参院選が公示され、論戦の火ぶたが切られた。老後資金2千万円問題で再燃する年金不安、10月の消費税増税の是非など、暮らしに直結する課題は多い。与党はアベノミクスをはじめとした安倍政権の6年半の実績をアピール。対する野党は年金問題を突破口に、「1強」政治の隠蔽(いんぺい)体質に矛先を向ける。未来を託せるのはどの候補者、政党か。有権者にとって耳を澄まし、考える17日間が始まった。

 「老後の備えに2千万円もためられるわけがない」。参院選を前に、福岡県内の女性会社員(47)から悲痛な声が届いた。女性が落胆したのは金融審議会の報告書。年金を老後の収入の柱とする一方、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した。現実の暮らしとのギャップはあまりに大きく‐。

 女性は報告書に関するニュースを見て、たまらず電卓をはじいた。報告書が示した2千万円には、月9万円の貯金が必要だった。

 女性はシングルマザーで、母(68)と子ども4人、孫1人の7人暮らし。月収は手取りで三十数万円で、いわゆる中間層だ。

 家計は「火の車」という。住宅の35年ローンに14万円、車のローン3万円、光熱費3万〜4万円、家族の携帯電話代3万円、学費や定期代などもある。毎月の赤字は10万円前後になり、一部の支払いをボーナスまで待ってもらうこともしばしばだ。

 月5万円の年金を受給する母と長女(20)も家計を支えようと働くが、生活費や保育費などで手いっぱいで貯蓄には回らない。女性は孫を抱く長女の姿を見ていると、老後を子どもには頼れないと強く思う。「だからといって、年金だけで老後が送れるなんて思っていません」

■「逃げないでほしい」

 「年金100年安心プラン」。政府は小泉政権による2004年の年金改革以降、こう唱えてきた。安倍晋三首相は、「100年安心」とは年金受給者の生活を100年保証するものではなく、少子高齢化に合わせて年金水準を減らしていけば、制度を100年先まで維持できるという意味だと説明している。

 では今後、どのくらい年金水準が引き下げられるのか。それに伴い、老後資金はどのくらいためておけばいいのか。

 実は、報告書はこうした「公助」の限界について指摘し、「自助」の努力を呼び掛けている。それが現実ならば議論の土台になるはずが、麻生太郎金融担当相は「政府の政策スタンスと異なる」として受け取りを拒否してしまった。5年ごとに公的年金の将来見通しを確認する厚生労働省の「財政検証」の公表も、参院選後に先送りした。

 女性は「老後資金がどれだけ不足するのか、それをどう補えばいいのかを正直に示し、対策を考えるのが政治家の仕事。逃げないでほしい」と訴える。

2につづく

西日本新聞
7/5(金) 12:14配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190705-00010001-nishinp-soci