「民主党政権時代の10倍だ」――。最近、安倍首相は、年金積立金の運用益「44兆円」をやたらに強調する。この数字には、政権移行期の12年10〜12月期の運用益5兆円も含まれ、安倍政権だったのは数日だけ。5兆円を民主党政権時代にカウントすれば10倍ではなく4倍になる。いつもの姑息な誇張には呆れるしかないが、年金の運用益にはもっと深刻な問題がある。


 安倍首相が必要以上に運用益をアピールするのは、金融庁の報告書を機に国民に広がる年金への将来不安を打ち消すためだろう。しかし、リスクの高い株式投資の運用益を示されても、とても安心できない。実際、累積の運用益57兆円(昨年12月末時点)が、あっという間に消える恐れがあるのだ。

 年金積立金151兆円を運用するGPIFは2014年10月、国内株と外国株の比率をそれぞれ12%から25%に引き上げ、全体の50%にし、株価を下支えしてきた。

「安倍政権発足時の株価は1万2000円台でした。GPIFに加え、日銀が年6兆円のETFによる株の爆買いをした結果、株価は右肩上がりで伸びました。安値で取得した株がどんどん上昇し、大きな運用益を得られたのです。ところが、現在は2万円台で頭打ち。運用益を出しにくくなっています。そのことを察知した外国人投資家は日本の株式市場から手を引き始めています」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)

■世界の流れは「安全資産」

 東京証券取引所によると、昨年度、外国人投資家は日本株を5兆6913億円売り越した。過去2番目の規模だ。また、外国人投資家の昨年度末の日本株保有比率は29.1%と前年度から1.2ポイント低下。安倍政権が発足した12年度末(28%)以来の低い水準だ。外国人投資家は、官製相場による株価かさ上げの限界を見抜いているのである。

「こうした変化を受け、GPIFも株式の運用割合を減らすべきです。世界情勢の懸念から、世界的にはリスクの高い株から安全資産への流れがあります。もし、GPIFが同じ割合で株式運用を続ければ、57兆円の運用益などすぐに吹っ飛びかねない。年金の支給にも大きな影響が出ます」(森岡英樹氏)

 日銀は、18年度の株の評価益を1兆2000億円も失った。GPIFは、昨年10〜12月期で14兆8039億円もの運用損を出した。年末の株安のせいだという。

 年金積立金を原資にした株ギャンブルをやめさせないと「100年安心」どころか、明日が不安だ。

日刊ゲンダイ
19/07/01 06:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/257158/