厚生労働省の毎月勤労統計で昨年の賃金伸び率が異常に上振れした問題で、複数の厚労省幹部が2017年中に「18年になれば伸び率が高めになる可能性が大きい」との認識を共有していたことが4日、西日本新聞の取材で分かった。統計の責任者だった酒光一章元政策統括官も、上振れの可能性が高いことを事前に把握していたという。厚労省は昨年、過大な伸び率を十分な説明もせずに公表し、賃上げが実勢以上に進んだかのような誤信を招いた。経緯の解明を求める声が改めて強まりそうだ。

 18年の賃金伸び率は、月給ベースで実勢より0・8ポイント程度上振れしたとされる。厚労省は上振れの要因として、計算で用いる労働者数データの更新▽調査対象企業の入れ替え▽04年から続いた不正調査を本来調査に近づける補正‐の3点を挙げている。

 政府関係者によると、このうち労働者数データ更新の影響は17年後半に省内で非公式に試算され、伸び率を大きく押し上げる見通しが判明、酒光氏ら幹部にも報告されていた。省内には「世間に賃上げが急に進んだかのような誤解を与える」との懸念の声もあったが、酒光氏らは改善策の検討は指示しなかったという。

 労働者数データ更新時の対応を巡っては、厚労省が総務省統計委員会に報告せずに、伸び率の急変を防ぐ過去値の改定を18年1月から取りやめていたことも発覚している。これに伴う伸び率の上振れは0・4ポイント程度。影響の大きさを踏まえると統計委に事前に報告すべきだが、厚労省幹部は今年4月の本紙の取材に「(データ更新の)影響の大きさを認識していなかった」と釈明していた。

 一連の問題では、厚労省が昨年8月末にホームページに説明文を掲載するまで上振れについて情報発信をせず、不正調査と補正の事実も伏せ続けた。メディアも過大な伸び率をそのまま受け止め、同6月分は「21年ぶりの高水準」などと報道。一方、内閣府の統計「雇用者報酬」も連動する形で過大推計となり、公表値を修正する異例の事態に追い込まれている。

【ワードBOX】毎月勤労統計の上振れ問題

 昨年1月に統計の作成手法が変更されるなどし、賃金の前年比伸び率が高めに出るようになった。上振れにつながった過去値を改定しない作成手法は、首相秘書官や麻生太郎副総理兼財務相の問題意識を受けて導入された。野党や専門家は「アベノミクスを好調に見せる偽装があった」と批判。政府は、上振れの影響を除いて算出している「参考値」を景気指標として重視すべきだとしている。

西日本新聞
6/5(水) 9:42配信
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