「シンゾー、だったら参院選後にしよう」――。アメリカが日本に対して農産物の輸出拡大などを求めている「日米貿易交渉」について、先月26日、日米首脳会談を開いた安倍首相とトランプ大統領が、結論を参院選後に先送りする「密約」を結んでいた。参院選への悪影響を避けられる安倍首相はホッとしていたという。ところが、米中協議が決裂したことで状況が一変。トランプが「密約」を破棄する可能性が強まり、安倍政権は真っ青になっている。

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 米誌「タイム」が、安倍―トランプの「密約」をスクープしている。交渉責任者のライトハイザー米通商代表部(USTR)代表ら高官の助言を無視し、トランプが「本格協議の時期の先送りに応じた」というもの。

 個別品目の関税撤廃・引き下げ交渉の結論は、夏の参院選後に先送りされる可能性があるという。

「トランプは首脳会談後の会見で、貿易交渉について『5月末の来日時に妥結できる。我々はそこで署名するかもしれない』と突然、発言。これに慌てた安倍首相は、報道陣が退出した後の会談で『さっきの5月妥結はダメ。日本では夏に参院選があるんです』と食い下がったといいます。トランプは『シンゾーの話は分かった』と、とりあえず応じる姿勢を示したとみられています」(日米外交事情通)

 参院選前に米国産農産品の輸入拡大を許し、自動車輸出の数量規制で譲歩しようものなら、安倍自民は惨敗必至。要するに、安倍首相は選挙対策で交渉先延ばしをトランプに“懇願”したわけだ。

 ところが、トランプが米中貿易協議を巡って、中国からの2000億ドル(約22兆円)分の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げるとツイートしたことでもくろみは崩れた。

「トランプの突然のツイートで米中協議の先行きは不透明になった。中国側は今週に予定されている高官級の通商協議の取りやめを検討しているとされ、『近く妥結』とみられていた貿易協議は暗礁に乗り上げつつある。長期化の可能性が出ています」(在米ジャーナリスト)

■ただの“リップサービス”

 米中協議が迷走すれば、トランプが新たな成果を求め日本に無理難題を突きつけてくるのは間違いない。そもそも、トランプの譲歩発言とは裏腹に、ライトハイザー米通商代表部代表ら米政府高官は「5月妥結」の考えを変えていないのだ。当然、“密約”も白紙撤回だろう。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。

「現状、目立った成果がないトランプ政権は相当、焦っているはずです。事務レベルで交渉の前面に立つ米政府高官はシビアです。暗礁に乗り上げつつある米中協議の“代替策”として、日本からもぎ取った成果を大統領選の材料に使いたいはず。『参院選後』との口約束を反故にし、早期妥結を迫ってくる可能性が高い。譲歩発言は“イエスマン”の安倍首相との関係をつなぎとめておくためのトランプ氏の個人的なリップサービスでしょう」

「これで参院選はバッチリ」と思っていた安倍首相は、今ごろ真っ青になっているに違いない。

日刊ゲンダイ
19/05/08 15:00
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