安倍晋三首相とトランプ米大統領がワシントンで会談した。両首脳は会談で「北朝鮮の完全非核化への連携強化」を確認したという。

 今年2月に行われたトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との第2回会談では、完全非核化の道筋が見えるまでは制裁を解除しないとする米国と、一部の措置で制裁の大幅な解除を求める北朝鮮の溝が埋まらず、物別れに終わった。

 北朝鮮はその後、核・ミサイル開発再開を疑わせる不穏な動きを見せている。一方でトランプ大統領への直接的な批判は控え、3度目の米朝会談に向けた駆け引きを活発化させている。

 今回の日米会談の直前、金委員長はロシアでプーチン大統領と会談した。中国に続いてロシアを後ろ盾に付け、米朝会談への足場を固める戦略だ。

 こうした情勢下で行われた日米会談で、両首脳は「今後の米朝プロセスを展望し、進め方について突っ込んだやりとりをした」(安倍首相)という。

 安倍首相は会談後、「日本としても朝鮮半島の非核化に向けて積極的な役割を果たす」と語った。さらに拉致問題に関し「次は私自身が金委員長と向き合い、解決する」と意欲を見せた。ただ、こうした安倍首相の決意表明が、どれほど現実の日朝間の水面下交渉に裏打ちされているのか、さっぱり見えてこない。もし近い将来の日朝首脳会談のめどが立たないまま、やる気だけをアピールしているのなら、不誠実というほかない。

 金−プーチン会談が行われたことで、かつての6カ国協議参加国の中で金委員長との首脳会談が実現していないのは日本だけとなり、「蚊帳の外」感は強まる。安倍首相は「トランプ大統領からは(拉致問題解決に)『全面的に協力する』という力強い言葉があった」と胸を張ったが、米国の協力取り付けを大きな成果のように語るのは、もはやむなしく響くだけである。

 安倍首相が自らリスクを取り、北朝鮮との直接交渉を進めなければ、米朝交渉が進展したにしても、その後の多国間交渉における日本の発言力は弱まる。交渉が日本抜きの「5カ国協議」になる懸念すらある。

 日米会談のもう一つの焦点だった貿易交渉では、トランプ大統領が農産物の関税撤廃を求め「協定の5月締結」に言及した。日本にとっては厳しい要求だ。仮に貿易交渉がこじれた場合、北朝鮮対応への悪影響を恐れる日本が譲歩を迫られることにならないか、不安が残る。

 トランプ大統領との関係で全てを解決しようとする、安倍政権の「寄り掛かり外交」の限界が見えてきたようだ。

=2019/04/28付 西日本新聞朝刊=
2019年04月28日 10時30分
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/506370/