「夜明け前が一番暗い」というイギリスのことわざがあるが、そんなことはない。夜明け前は少し明るい。今回、私は大阪でそれを感じた。前代未聞の知事、市長入れ替えダブル選挙。知事選では、大阪維新の会政調会長で前大阪市長の吉村洋文と自民党が擁立した元府副知事の小西禎一。市長選では、大阪維新代表で前府知事の松井一郎と自民が立てた元市議の柳本顕の対決となる。

今回、大阪維新は「大阪都構想」に対する賛否を争点として掲げているが、2015年の住民投票ですでに市民の判断は示されているし、そもそも「住民投票は1回しかやらない」と繰り返していたのは大阪維新である。なぜ、こんな非常識なことがまかり通るのか?

 直接、確認しにいったほうが早そうだ。私は大阪に取材に向かった。

 荷物をホテルに置き、梅田駅から天満橋近くにある選挙事務所にタクシーで向かった。

 70歳くらいのタクシー運転手に、今回の入れ替えダブル選挙をどう思うか聞いてみた。
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「邪道やと思いますよ。橋下さんが出てきたときは僕も応援してたんやけど、今やっとるのは二番煎じですわ」

 私が小西・柳本陣営の事務所に向かっているので、リップサービスかと思ったが、どうもそうではないらしい。

「大阪市民の気持ちを分断する住民投票もええ加減にしてほしいわ。だいたい松井は八尾のオッチャンやないですか。あの人が大阪市長をやる姿を想像できひん。僕の仲間もみんなそう言ってますよ。なんで八尾のオッチャンが大阪市を潰すんやと」

■広がる維新への飽きと嫌悪

 他のタクシーやバーでも現地の人から話を聞いたが、前回の住民投票のときのような、熱狂的な維新支持の空気は完全に消滅していた。飽きられてきたのだろう。大阪維新の手法も代わり映えしない。公職選挙法上、禁止されている告示以降の政治活動を繰り返し、街頭演説では「大阪市はなくならない」と平然と嘘をつく。松井は悪名高いデマサイトが流した「小西を中傷するフェイクニュース」をリツイートし、拡散させた。

連中は「野党は野合だ」と繰り返しているが、大阪維新は全野党が力を合わせて駆除しなければならないとんでもない集団であるということが、大阪でもきちんと理解されるようになってきたようだ。

 維新に近いメディアが誤誘導しているように、今回は「維新VS反維新」の戦いではない。「嘘、デマを社会にまき散らす勢力VSそれはよくないということで結束する諸政党」の戦いだ。大阪維新は野党を「既得権益にしがみつく」と批判するが、この10年間、大阪の権力を牛耳ってきたのは連中である。

 選挙事務所前に着いた。運転手が領収書を渡しながら言う。

「僕は大阪市生まれ、大阪市育ちで、大阪市が好きなんです。市民税もぎょうさん払っとる。それで大阪市をなくしたないと言えば、既得権益を守る銭ゲバやと言われる。どないせえっちゅう話ですわ」

 大阪の人々が今、立ち上がろうとしている。

=つづく

日刊ゲンダイ
適菜収
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/251040/