【時代の正体取材班=石橋 学】県議選と政令市議選が告示された29日、極右政治団体「日本第一党」が3人の候補者を立てた相模原市議選で、同党の党首が応援演説で差別発言を連発した。一方、川崎市議選でも同党幹部の支援を受ける候補がヘイトスピーチを正当化。選挙戦で深刻な人権侵害が繰り広げられる様子に「この先どうなるのか」と、市民に不安の声が広がった。

 夕刻の小田急線相模大野駅前(相模原市南区)、同党が同市議選で擁立する中村和弘氏の応援演説だった。警察官が取り囲む異様な状況の中、同党党首の桜井誠氏ががなり立てた。

 「ここにいるのは北朝鮮の工作員、異常者、テロリストだ。彼らはいつか爆弾を爆発させる」

 無言で抗議のプラカードをかざす市民らに向かってなされた常軌を逸した言動。「朝鮮人を皆殺しにしろ」と叫ぶデモを繰り返し、全国で差別事件を起こしてきた団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の会長時代から変わらぬ光景だった。

抗議しているのは日本人であるにもかかわらず「根性なしの朝鮮人」「選挙権のない朝鮮人は帰れ」とヘイトスピーチを連発。傍らで運動員が市民に詰め寄る。「われわれの主張のどこがヘイトなんだ」。通りすがりの女性は「恐ろしい人たちだ」と眉をひそめ、同市内3カ所であった演説を目にした男性は「公選法で守られているという思いがあるのか、演説ごとに過激になっている」と案じた。

 在日コリアンが多く暮らす川崎市川崎区池上町では、同党が支援する佐久間吾一氏が姿を現すと市民が抗議の声を上げた。差別的言動を打ち消す「カウンター」と呼ばれる対抗行動。「(差別的言動は許されないとする)ヘイトスピーチ解消法で示された国民の務めだ。公選法も人権侵害は認めていない」

 同党最高顧問の瀬戸弘幸氏や差別扇動団体メンバーが都内や埼玉から顔をそろえ、同町の在日住民を「不法占拠」とおとしめ「完全解決」とうたうのぼり旗が掲げられた。

 公園の隅で在日2世の女性(78)が手で顔を覆って泣いていた。「追い出されるということか。みんなこの町で一生懸命生きてきたのに」。抗議のために都内から駆け付けた男性は「女性が傷つけられていたように、彼らの言動はヘイトスピーチ以外の何ものでもない。とりわけマイノリティー集住地区では許しがたい」。佐久間氏は神奈川新聞社の取材に対し、「『出て行け』は国民主権の観点から許される」と違法なヘイトスピーチを正当化してみせた。

神奈川新聞
2019年03月30日 01:00
https://www.kanaloco.jp/article/entry-157853.html