1月22日にモスクワで今年初めての日ロ首脳会談に臨み、共同記者発表で「相互に受け入れ可能な解決策を見いだすための共同作業を力強く進めていく決意を確認した」と強調した安倍晋三首相だが、ロシア側は会談以降も妥協する姿勢を一切見せず、逆に日本に対し「領土は渡さない」とのシグナルを次から次へと送っているのが現状だ。

 交渉相手が発する政治的シグナルを正しく受け取ることが外交の根幹をなすことは言うまでもないが、会談のたびに「平和条約締結交渉を加速させることで一致」などと“大本営発表”を繰り返す安倍政権はどうとらえているのだろうか。日本が描いていたとされる歯舞群島、色丹島返還で交渉を決着させる「2島プラスアルファ」での年内大筋合意の構図は崩れ、新たな戦略の構築に迫られている。ロシアメディアの報道などを基に、硬化する一方のロシア側の姿勢を検証してみたい。 (共同通信=太田清)

 ▽冷や水

 2月12日、安倍晋三首相は衆院予算委員会で、ロシアとの平和条約締結交渉を巡り「平和条約を締結するということは国境を画定することだ」と明言。北方四島のうち歯舞群島、色丹島の返還で交渉を決着させる「2島決着」をにじませた。

 一方、ロシアのラブロフ外相は16日のドイツ・ミュンヘンでの河野太郎外相との会談後、北方領土がロシア主権下にあると認めることが平和条約締結の絶対的条件との従来の主張を繰り返した上で、交渉について「ロシア側は一切の期限を設けていない」と指摘、6月の大筋合意との日本の戦略をけん制。交渉期限については、プーチン氏も1月の首脳会談で「骨が折れる作業が今後控えている」と早急な解決が難しいとの姿勢を示していた。

 ラブロフ外相はさらに、2月24日までに行われたベトナム、中国メディアとのインタビューで、安倍首相がロシアとの領土問題を解決して、平和条約を締結すると表明していることについて「その確信がどこから来ているのか分からない。プーチン大統領も私も、そうした発言につながる根拠は与えていない」として「現状では平和条約締結のための条件は日ロ間で全く存在していない」と冷や水を浴びせた。安倍首相は翌25日の衆院予算委員会で、ロシア外相の発言に対し「交渉の場以外の発言について、いちいち反応するつもりはない」とコメントを拒否。立憲民主党会派の今井雅人氏は「ゼロ回答だ。ロシアに相手にされていない」と指摘した。

 ▽異例の調査

 ロシア政府系「全ロシア世論調査センター」は2月、北方領土の島民約7700人に対する調査を実施。島民だけを対象とした調査は異例で、96%が日本への島の引き渡しに反対したと発表した。調査は北方領土に住む有権者の約3分の2を対象に実施。択捉島で97%、国後島で96%、色丹島で92%が引き渡しに反対(歯舞群島には民間人は住んでいない)、引き渡すべきだとの回答は2%にすぎなかった。一部では、この時期に政府系の調査機関が島民対象の世論調査結果を発表したことに政治的意図があるとの指摘もされた。

2につづく

47NEWS
2019/3/14 14:53
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