毎月勤労統計の調査方法変更を巡り、厚生労働省の有識者検討会が二〇一五年九月に中間報告をまとめた際、調査方法変更に慎重な意見が出ていたのに、厚労省がこうした部分に触れず趣旨の異なる実質的な虚偽文書を作り、政権の意に沿うような内容で総務省の統計委員会に示していたことが、統計委の会議資料で分かった。経済財政諮問会議で、麻生太郎財務相ら閣僚が調査方法の変更を統計委に求めていた時期と重なる。 (井上靖史)

 厚労省が作成したのは、「検討会の主な意見」などとタイトルが付いた文書。厚労省の有識者検討会が一五年六〜九月に六回開かれた後の同十二月、統計の見直しを話し合う統計委の部会で、同省雇用・賃金福祉統計課の課長(当時)が示した。

 検討会は、統計の調査対象とする中規模事業所のサンプルについて、二〜三年に一度、全数を入れ替えるやり方から毎年一部を入れ替えるやり方に変えることは事務負担が増すなどの懸念から、「合理性は低い」などとして「引き続き検討する」としていた。ところが、厚労省が作成した文書は、こうした方針に触れていなかった。

 また検討会では、サンプルを入れ替えると平均賃金に高低差が生じるため補正が必要との指摘があり、規模別の労働者数などに基づく指数も補正が必要としていたが、厚労省の文書では「あえて増減率を補正する必要はない」などの文言に変わっていた。

 厚労省は一八年一月に勤労統計の調査方法を変更。厚労省文書は一八年八月、調査方法が変更された毎月勤労統計を検証するための統計委の会合でも、資料として提示された。

 サンプルを全て入れ替えるよりも、毎年部分的に入れ替える方が賃金の下落を抑えられる。麻生氏ら閣僚からは、こうした調査変更を望む発言が相次いでいた。

 検討会で座長代理を務めた横浜市立大の土屋隆裕教授は取材に「(問題の文書は)検討会で出た一部の意見だけ拾い、肝心な部分が入っていない」と話した。

◆「安倍一強」への忖度

<新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)の話> 一言でいえば政権への忖度(そんたく)だろう。その背景にあるのは、「安倍一強」の政治体制が続き、少しぐらいルール違反しても、政権におべっかを使った方が身のためという、役人の深刻な職業倫理の欠如ではないか。

2につづく

東京新聞
2019年2月21日 朝刊
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