安倍首相の外遊詰め込みで先延ばしにされた通常国会は28日、ようやく召集された。「戦後外交の総決算」を掲げる安倍首相は、日ロ平和条約締結交渉を前進させると意気込み、25回目の首脳会談に臨んだものの、手ぶらで帰国。「外交交渉」を口実に詳細な説明から逃げているが、日ロ交渉は終わったも同然だ。

 共同通信が26日に報じたパノフ元駐日ロシア大使のインタビューは、合点がいく内容だった。それによると、北方領土問題を巡り、安倍首相は昨年11月の首脳会談でプーチン大統領に1956年の日ソ共同宣言に基づく交渉受け入れを表明。歯舞群島、色丹島の引き渡しだけで解決する方針を伝えたという。国会にも国民にも一度も説明することなく、従来の政府方針である4島返還を後退させ、2島返還で手を打とうとしているのである。

 ロシア側には好都合な展開にもかかわらず、先週の首脳会談はシラケきっていた。プーチンの遅刻はお決まりだが、民間企業トップらの同行を拒否。共同記者発表で安倍首相がプーチンとの親密さをアピールするとラブロフ外相は露骨に顔をしかめ、両首脳の握手シーンでは日本側が拍手で盛り上げたにもかかわらず、ロシア側は棒立ちだった。 

「プーチン大統領は昨年まとめた年金受給開始年齢の引き上げで世論の猛反発を招き、急激に求心力を失っています。14年のクリミア併合で支持率を上げたように、ロシアは領土拡大には大賛成し、喪失には大反対する国民性です。このタイミングで領土交渉を進めようとする安倍首相は“招かれざる客”でしかありません」(筑波大教授の中村逸郎氏)

■支持率さらに低下 過去最低32・8%

 ロシア政府系世論調査機関「全ロシア世論調査センター」の政治家信頼度調査(20日時点)によると、プーチンは1位だったものの、「信頼する」との回答は32・8%まで低下。06年以降に公表している中で最低の数字だという。

「ジリ貧の支持率に苦しむプーチン大統領にとって、領土交渉は鬼門です。安倍首相を相手にするだけ、世論の反発を増幅しかねない状況のため、“安倍パッシング”に拍車がかかるのではないか」(対ロ外交関係者)

 ラブロフがしかめっ面を見せたのは、安倍首相が「6月にウラジーミルをG20サミットにお招きします」と言及した瞬間だった。慣例を破ってG7前にG20を開催する汚い手まで使い、7月の参院選対策の成果に躍起の安倍首相だが、「プーチン欠席」で大恥をかく展開もありそうだ。

日刊ゲンダイ
2019/01/28
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