勤労統計で偽装ソフト 厚労省、04年から不適切調査

 賃金や労働時間の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計調査」について、全数調査が必要な対象事業所の一部を調べない不適切な調査が二〇〇四年から行われていたことが分かった。担当者間で十五年間引き継がれてきた可能性があり、データを正しく装うため改変ソフトも作成していた。統計を基に算定する雇用保険などが過少に給付されていたことも判明し、厚労省は不足分を支払うことを検討する。

 勤労統計は厚労省が毎月、都道府県を通じて調査し、従業員五人以上の事業所が対象で、従業員五百人以上の場合は全てを調べるルール。

 しかし、東京都内では全数調査の対象が約千四百事業所あったが、実際には三分の一程度しか調べられていなかった。さらに、全数調査に近く見せかけるため、統計上の処理が自動的に行われるようプログラミングされたソフトも作成されていたという。賃金が比較的高いとされる大企業の数が実際より少ないと、実態よりも金額が低く集計される可能性がある。

 勤労統計は月例経済報告といった政府の経済分析や、雇用保険や労災保険の算定基準など幅広い分野で用いられる国の「基幹統計」。雇用保険の失業給付の上限額は、勤労統計の平均給与額を踏まえて決まる。

 仕事で病気やけがを負ったと労災認定された場合に支払われる休業補償給付も、平均給与額の変動に応じ見直される仕組みで、正しい手法で調査した結果、平均給与額が高くなれば、こうした保険が過少に給付されていたことになる。

 厚労省は近く、これまでに判明した事実関係について公表する。政府統計を所管する総務省も、十七日に専門家らによる統計委員会を開催し、厚労省から今回の事態について説明を求める。

◆昨年11月分を公表

 厚生労働省が九日発表した昨年十一月の毎月勤労統計調査(速報、従業員五人以上)によると、物価の影響を加味した実質賃金は前年同月比1・1%増え、四カ月ぶりのプラスとなった。調査対象に漏れがあったことが判明したが、全数調査へと是正されないままの公表となった。調査手法が不適切なため信頼性に疑義が残るが、厚労省担当者は「規則により発表することが決まっているため」と説明した。

 厚労省は問題の詳しい経緯や、他の政府統計への影響を調べている。

 基本給や残業代などを合計した一人当たりの現金給与総額は2・0%増の二十八万三千六百七円だった。

中日新聞
2019年1月10日 朝刊
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2019011002000072.html