高額報酬の問題をきっかけに経済産業省と対立を深めた国内最大の官民ファンド産業革新投資機構(JIC)は、田中正明社長ら民間出身の取締役9人が辞任を表明する事態となった。坂根正弘・コマツ相談役ら社外取締役5人もコメントを発表し、田中氏同様に経産省を批判した。コメントの抜粋は次の通り。



坂根正弘氏(取締役会議長・コマツ相談役)

 「今回の混乱の根本原因が、最終決定権者が不明確なボトムアップ意思決定プロセスにあったとすれば、人材確保と意思決定スピードが勝負を決める米国社会で成功を期待することは難しく、私が失望したのは、この点にあります」

冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)

 「この数カ月の経緯をみるに、官の側との丁寧な調整を積み重ね、会社法上も産業競争力強化法上も適法かつ適正な手順によって合理的に取締役会で決定した事項について、当初、論点になっていた報酬の問題だけでなく、広範な事項について後から覆されるリスクが高いガバナンス実態、意思決定メカニズムになっていることが露呈しました」

星岳雄氏(米大学教授)

 「私の研究でよく知られているものの一つに、ゾンビ企業の研究があります。業績が悪いために正常な競争状態では市場から淘汰(とうた)されるべき企業を、政府などが救済するなら、新規参入は阻害され、優良企業の拡大を妨げられ、全体の経済成長は低下してしまう、というものです。産業革新投資機構が、ゾンビの救済機関になろうとしている時に、私が社外取締役に留まる理由はありません」

保田彩子氏(米大学教授)

 「日本の官民ファンドの下で働きたいと思ってもらうためには、ルールベースの、法、契約に基づいたガバナンスを保証しなくてはなりません。なぜなら、(特に国際)ビジネスは契約に基づいて信用が構築されていくものだからです。いったん文書を交わしたら、たとえ誰であっても法の下の一法人格で、交わした相手と同レベルの法律上の扱いを受ける、それを保証できるということが法治国家であると思います」

和仁亮裕氏(弁護士)

 「経産省は自らの意思で申し込み、提示した報酬体系が経営陣によって、いったん承諾された後で、その撤回・無効を主張し、信頼関係が破壊されたと主張されています。株式会社として、JICが産業競争力強化法、株式会社法の枠内で多数派株主である経産省の意向を尊重しなくてはならないのは当然ですが、すでに有効に成立した私人との契約の効力について、このような主張をされるのは、法治国家の政府機関として、法律的に納得を得られるものではありません」

朝日新聞
2018年12月10日18時48分
https://www.asahi.com/articles/ASLDB5PXMLDBULFA047.html