約70年ぶりとなる漁業法の大改正が参議院で審議されている。改正案では、法律の目的を記す第1条から「漁業の民主化を図る」という文言を削除。漁業権を与えるかの判断に関わる委員会の委員を選挙で選ぶ制度も廃止し、全委員を知事が任命する形に。改正案はすでに衆議院を通過し、政府は今国会での成立を目指すが、「漁業の民主化」はもう必要ないのか。

 「議論のない業界は滅びる。『民主化』は役目を終えていない」。宮城県塩釜市でワカメ養殖を手がける赤間廣志さん(69)は憤る。東日本大震災の翌2012年、宮城海区漁業調整委の委員に初めて立候補し、現在2期目だ。

 当時、県が漁業権を民間企業にも開放する復興特区構想を進めていた。赤間さんは「被災直後に進めるべきではない」と考え、長く無投票だった委員選挙で議論を促そうとした。結局、選挙は無投票で復興特区も実現したが、「選挙をなくすのは言語道断だ」。

 岩手県陸前高田市で、海底に仕掛けた刺し網で漁をする菅野修一さん(65)も改正案を心配する。同県は15年、資源保護などを理由に刺し網でのサケ漁を不許可に。同じ立場の計90人で、県に解禁を求める訴訟をしている。「選挙がなくなれば、今まで以上に弱い漁師の声が届かなくなるのでは」

 漁業の民主化をうたった現在の漁業法は49年にできた。民主化の具体策が、全国64の海区ごとにある漁業調整委員会だ。選挙で選ぶ9人の委員と知事が選ぶ6人からなり、漁業権や漁場計画について都道府県知事の諮問に答申する。4年ごとに改選され、漁業者同士による利害調整を担ってきた。

 水産庁は、戦後期の有力者によ…


朝日新聞
2018年12月6日7時17分
https://www.asahi.com/articles/ASLCV74C0LCVULZU019.html