二〇二〇年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として政府が検討している「サマータイム」を導入し、時計を二時間進めた場合、夕方に屋外で行うはずの最大六競技の開始が、暑さのピークの正午〜午後三時(現在時刻)となる可能性が浮かんでいる。競技の開始時刻が実質二時間繰り上がるためだ。世界中でテレビの生中継時間も早まることになり、メディアや視聴者への影響も大きい。関係者らから「サマータイムは考えられない」と批判が上がっている。 (原田遼)

 サッカーとラグビーは午後二時半。馬術は同三時−。時間が二時間繰り上がった場合の開始時刻だ。「夕方開始」が「昼すぎ開始」と早まることで、気温が二度程度上昇することが見込まれ、熱中症の危険にさらされる。屋外開催の可能性があるアーチェリーとスポーツクライミング、バスケットボール三人制も同二時台のスタートとなる。

 「選手が壊れてしまう」と憤るのは日本サッカー協会の元幹部。一試合で計十キロ以上走るサッカーでは、夏場は夜間開催が一般的だ。数万人の観客についても「次々倒れてもおかしくない」と懸念した。

 大会組織委員会は午前七時開始のマラソンなどを涼しい時間帯にしようと、サマータイム導入を政府に要望したが、恩恵を受けるのは午前開始の屋外十五競技が中心だ。

 馬は人よりも暑さに弱いとされる。日本馬術連盟の木口明信常務理事は「決まっている『午後五時』より暑い時間帯の開催は無理」と断言。「組織委からの問い合わせは一度もない。各競技の特殊性を聞かずに話を進めるのはおかしい」と不信感を口にした。

 サマータイムは、導入済みの欧米で健康被害が報告されるなど問題点が既に指摘されているが、そもそも、国際オリンピック委員会が決めた競技時間を実質二時間早めるような変更が可能なのか。東京五輪の放映権は米テレビNBCが持ち、日程や時間の決定に関与したとされる。

 米国スポーツに詳しい元プロ野球楽天ゼネラルマネジャーのマーティ・キーナートさんは「望ましい時間に放送できなくなれば、NBCが再変更を求めてくるかもしれない」と危ぶむ。

 組織委は取材に「国の検討状況も踏まえ、必要に応じて関係団体と緊密に連携し対応する」と回答した。

 陸上短距離の元五輪選手で、法政大の杉本龍勇教授(スポーツ経済学)は「今年の暑さでは、日中に競技ができないと誰もが思うはず。競技団体は今、声を上げないと手遅れになるし、将来にもつながらない」と指摘した。

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東京新聞
2018年8月30日 朝刊
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