自衛隊の海外派兵の違憲性について論陣を張ってきた国会議員に路上で「バカなのか!?」と罵声を浴びせた幹部自衛官に処分が下った。それは、今後の人事に影響する懲戒処分(免職、停職、減給、戒告)ではなく訓戒(記録に残さない口頭注意の類い)だそうである。

 しかし、これでは、防衛省は「文民統制(シビリアンコントロール)」の意味が全く分かっていない……と断ぜざるを得ない。

 自衛隊は物理的には紛れもなく「軍隊」である。そして、軍隊とは、国内で唯一、国家を制圧する能力を有する組織である。

 古今東西、軍隊が自分たちの組織的な判断と名誉を自己目的化して国政を壟断し、国の針路を誤導して国民大衆を不幸にした事例は枚挙にいとまがない。第2次世界大戦時のわが国もその典型例である。

 そこで、日本国憲法66条2項は「国務大臣は文民でなければならない」と定め、軍人が政権に入ることを禁じている。軍人は、何よりも軍部の意向をすべてに優先する人格に育てられるもので、それでこそ強い軍隊になるからである。

今回の路上「罵倒」事件は、当人が「自衛官である」と名乗ってから議員に言い掛かりをつけた点こそが重要な事実である。つまり、それは、防衛省が認定した「勤務後」の私的な場面における紛争ではない。それは、かつて、制服に軍刀を帯びた帝国軍人が「黙れ!」と議員を一喝した事件と同じで、文民政治家に対する軍人による威圧そのもので、文民統制違反の典型例であろう。

 文民統制とは、不可逆的な破壊力を行使する軍隊が主権者国民の意思を無視して行動することがないように、軍隊の行動を、主権者国民の直接代表で構成する国権の最高機関国会の統制下に置く……という統治原理である。

 それは、法律・予算、国会の審議と首相・防衛相による統制に服させる……という制度条件に加えて、それを徹底する……という首相・防衛相の意思と、それらに服従する……という軍人側の意思で成り立つものである。

 今回の処分は、それらのうちの2つの意思の欠如を示す以外の何ものでもない。

日刊ゲンダイ
2018年5月17日
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/229166