同じものを見ているはずなのに見え方がちがう。これぞ新聞の面白さであり、読み比べの醍醐味である。

■証人喚問の日の夕刊 朝日、読売、ゲンダイ、フジを並べてみると
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佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問は格好のケースだった。喚問がおこなわれた日の夕刊を見てみよう。

「改ざん 『答弁差し控える』証人喚問佐川氏 捜査理由に」(朝日新聞 3月27日)

「佐川氏 首相の指示否定」(読売新聞 3月27日)

佐川氏に対して、朝日からは不満が、読売からは安堵が見えた。そんな行間を感じた。

■では過激さが売りのタブロイド紙はどうか。
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「安倍佐川 臨終」(日刊ゲンダイ 3月29日付)

ゲンダイは怒っていた。一面には他に「『死んだふり』貴乃花」というのもあり、臨終やら死んだふりやらで忙しい。夕刊フジは、

「佐川喚問 史上最低」(夕刊フジ 3月29日付)

フジもてっきり佐川氏を叱ってるかと思いきや、その下に「野党自滅 隠し玉なし」という見出し。「史上最低の証人喚問」の責任を野党に見ていたのだ。同じものを見ているのに全然ちがうゲンダイ師匠とフジ師匠。

■東京新聞にみる「忖度」の証明

各紙をたかぶらせた今回の喚問。その理由は、《決裁文書改ざんの核心部分は「刑事訴追のおそれ」を理由にほとんど語られなかった一方で、外部からの指示についてはきっぱり否定した。》(朝日 3月27日)という佐川氏の「戦法」にある。

東京新聞の一面コラム「筆洗」は佐川氏の答弁について、《うまくかわした、おつもりかもしれぬ。しかし、核心を避けながら「責任は自分に」と誰かを守ろうとする姿を国民はどう見たであろう。その証言自体にこの問題に潜む「忖度(そんたく)」の二文字があらためて浮かばなかったか》

佐川氏はむしろ「忖度」の証明をしてしまったのでは? と指摘。

■読売ならではの説得力ある与党解説

与党の戦法の答えは読売新聞に載っていた。「沈静化図る与党、昭恵氏の証人喚問『必要ない』」(3月28日)という記事。

《証人喚問にあたり、与党議員は改ざんや国有地売却が「あくまで財務省職員の主体的な判断で行われた」(自民党幹部)との構図をあぶり出す作戦で臨んだ。》

読売ならではの説得力ある与党解説。しかし記事の最後に、《首相と距離を置く議員を中心に「佐川氏が官邸をかばったようで印象が悪い」(中堅)との声が漏れている。》

こんな声も入れざるを得ないほど(読売から見ても)与党の戦法はみえみえだった。

ここでしびれを切らしたのが保守おじさん産経新聞。編集委員・田村秀男氏のコラムを載せた。タイトルは「【佐川氏証人喚問】財務官僚の自作 日本経済を道連れにするな 」(3月28日)

野党は国政そっちのけだと書き、《ちょっと待て。アベノミクスによって再生しつつある日本経済を財務官僚自作の文書改竄問題の道連れにしてはならない。》

さらに、《森友問題関与を執拗に報じてきたメディアによって悪化した首相のイメージ回復が遅れると、アベノミクスの信頼度に響き、脱デフレが遠のく。首相の支持率に敏感な市場は円高、株安に振れ、回復する日本経済に逆流が渦巻きかねない。》

産経師匠は証人喚問について「野党 誤算、裏目、空振り」と野党の責任を5面でも問うている。

>>2以降に続く

3月30日 文春オンライン
http://bunshun.jp/articles/-/6838