なんと半数超え――。全国大学生活協同組合連合会が発表した大学生の読書時間の調査にギョッとした人もいるだろう。

 1日の読書時間が「0分」と答えた学生が53.1%に達し、初めて半数を超えた。2人に1人以上がまったく本を読まないのだ。

 なぜこうなるのか。作家で社会学者の岳真也氏に聞いた。

「私も大学で教えていて、つい3、4年前は教室で文庫本を読んでいる学生を見かけたものです。ところが最近はみんながスマホをいじり、読書派はゼロ。文学的好奇心が薄れてしまいました。これは社会にとってマイナスです。たとえば小説は登場人物の心の機微に触れることで、他人の気持ちを斟酌できるようになるテキストみたいなもの。読書離れで幅広い感受性を養うことができなくなるのは嘆かわしいことです」

 ルポや歴史書なども同じ。若者は他人の生き方に接することによって、人格が形成されるのだ。

 衆院議員で元首相の菅直人氏(立憲民主党)は「読書をしないと物事を考える力が身につかないのではないか」と指摘する。

「学生は本によって物事を理解し、想像し、さらに深い考察ができるようになるものです。読書とは『こんな考え方、こんな世界があるのか』と感動するためのトレーニング。私自身はハクスリーの『すばらしい新世界』を読んで自分の思想形成に影響を受けました。若者が本を読まないと、考える能力が徐々に劣化していくのではないかと心配です」

 その一方で、1日に120分以上読書する学生も5.3%存在する。

「これからの日本人は実務はできるけど教養が乏しい人と、読書から学んだ知識人に二極化していくでしょう。知性の格差社会に進むことになる。これは危険なことです。物事がどう帰結するかを想像できない人が増えると、『米軍は北朝鮮を攻撃すればいい。自衛隊も出撃しろ』といった安直な声が高まる。戦争で大勢が犠牲になることをイメージできないのです。かつて日本がアジア・太平洋戦争に突き進んだ時代は大卒者が極端に少なかった。国民の多くが読書習慣がなかったため翼賛政治と軍部を盲目的に支持、『一億総懺悔』となった。同じ悲劇が起こりかねません」(岳真也氏)

 本離れが進んで若者の思考力が鈍化。一方で一握りの知性派の官僚が国民を支配――。首相官邸はニンマリだろう。

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