2018年2月21日 夕刊 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201802/CK2018022102000275.html

厚生労働省の不適切なデータ処理が問題になっている裁量労働制を巡り、政府は二十一日、働き方関連法案のうち、同制度の適用拡大の施行時期を、予定より一年遅らせる検討に入った。高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」創設も一年遅らせ、いずれも二〇二〇年四月施行とする。

 両制度の適用は労使交渉の大きなテーマとなる労働条件の変更に当たるため、現行案の一九年四月施行では周知や準備が間に合わないと判断した。不適切データの問題も影響したとみられる。

 ただ、「長時間労働を助長する」として両制度に反対する野党は、データ問題を受け、法案からの削除を求めている。施行延期でも収まらず、反発はさらに強まりそうだ。

 与野党は二十一日の衆院予算委員会理事会で、働き方関連法案などをテーマとする集中審議を二十二日午後に四時間実施する日程で合意した。

 立憲民主党など野党六党はデータ問題を踏まえ、二十一日午後に幹事長・書記局長会談を開く。民進党の平野博文国対委員長は記者会見で、「(延期は)小手先のテクニック。(労働実態の)調査をやり直すべきだ」と語った。

 一方、自民党の二階俊博、公明党の井上義久両幹事長は同日、東京都内で会談し、法案の閣議決定に先立ち両党で厳正に審査することを確認した。与党審査は終盤に入っており、さらなる変更には与党内からも批判が予想される。

 厚労省は来週中に与党の了承を取り、三月上旬の法案提出を目指す。

 働き方関連法案には、残業時間の上限規制や非正規労働者の処遇改善に向けた「同一労働同一賃金」も含まれる。政府は既に、中小企業への適用などは施行を延期する方針を固めている。

 裁量制を巡っては、厚労省が一般労働者と裁量制の人の労働時間について異なる条件で調べた数値を比較し、裁量制の労働時間の方が短いとするデータを作成していたことが発覚。データに基づいて国会で発言した安倍晋三首相は十四日に答弁を撤回した。

◆本質変わらず
<解説> 政府が裁量労働制の拡大と残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)の施行日を一年延期する検討に入ったのは、準備期間を十分確保するとして野党の反発を少しでも和らげ、「働き方」関連法案を今国会で成立させたいからだ。ただ、施行を遅らせても両制度が長時間労働を助長しかねないという本質は変わらない。

 裁量労働制の拡大を巡っては、本来比較できないデータを比べていたことが明らかになり、安倍晋三首相が謝罪する事態になった。政府は来月初めにも法案を国会に提出する方針だが、強引に成立させようとすれば、野党の反発は強まり、世論の批判が高まることが予想される。

 報道機関の世論調査では、裁量労働制の拡大に反対の人が六割近くに上る。政府は柔軟な働き方が可能になり、生産性が向上すると強調するが、国民に十分理解されているとは言い難い。政府が適用拡大にこだわる理由の一つとして、残業代を抑制したい経済界の意向があることも忘れてはいけない。

 裁量労働制は現行でも不適切運用が相次いで発覚している。野村不動産は裁量労働制が認められていない営業職の社員六百人に適用していたとして、東京労働局から是正勧告を受けた。厚労省は現在、全国一万三千社を対象に実態調査を行っている。

 施行を一年延期するより、現行の問題点を正確に把握し、改善する必要がある。(木谷孝洋)