2018.2.7 DIAMOND
http://diamond.jp/articles/-/158386

規制緩和によって、銀行に人材紹介業という新たなビジネスの道が開ける。

 1月23日、金融庁は銀行向け監督指針の改正案を公表。その中で、銀行が取引先企業に対して人材紹介業を手掛けることが可能であると明文化した。

 背景には、銀行の将来性に対する金融庁の問題意識がある。

 金融庁の森信親長官は「顧客目線を無視して融資量や金融商品の販売手数料を伸ばすというビジネスモデルは、成り立たなくなってきた」と、繰り返し指摘。取引先企業が抱えるさまざまな課題を解決する顧客本位のビジネスへのシフトを促してきた。

 また、政府が掲げる地方創生において貢献が期待される地方銀行に対しては、地元企業の生産性向上や経営再建を支援することで、地域経済の底上げを図るよう求めてきた経緯がある。

 これまで、預金者のお金が損なわれないように、預金を取り扱う金融機関には厳しい業務規制があった。しかし、地方創生に資する業務について、金融庁は「金融機関のニーズを把握しながら規制緩和の具体的な検討を進める」(金融庁幹部)方針を固めていた。

 今回の業務解禁もその一環。地方に不足している経営を担える人材や専門性の高い人材を、銀行が地元の取引先企業に紹介すれば、本業支援につながるというわけだ。

■中小企業に押し付けるな
 しかし、この規制緩和が地方経済の特効薬になるほど現実は甘くない。経営人材や専門性の高い人材を地方へ送り込む取り組みは、すでに人材紹介会社や内閣府の「プロフェッショナル人材事業」が手掛けているが、その成功確率は必ずしも高くないからだ。

 その原因は、人材側と受け入れる企業側の双方にある。

 人材側の理由としては、「そもそも地方の中小企業において再現可能な経営の成功体験やノウハウを持つ人物が少ない」(大手人材紹介会社幹部)ことが挙げられる。

 一方、企業側は「立場が上の取引先から、出世の道を断たれた役員などを押し付けられてきたというのが中小企業の実態」(同)であり、人材紹介に対する拒否反応が強い。「自社で一線を退いた“一丁上がり”の人間の片棒を担ぐのか、大企業の人は役に立たないと、相当な反発を受けた」(同)といった話が聞かれる。

 取引先企業を“天下り先”にしてきたという意味では、銀行こそその代表格。現在はかつてほどではないとはいえ、その銀行が人材を紹介するとなると、企業側の拒否反応は推して知るべしだ。

 また、本業支援が必要な企業となれば、立場は銀行の方が圧倒的に上。そんな企業に対して、本当に銀行の都合を押し付けず、役に立つ人材を紹介できるのか。

 業務解禁後、銀行がどのような運営をしていくのか注視が必要だろう。