http://www.sankei.com/politics/news/180206/plt1802060024-n1.html

 「選挙はテレビがやってくれるのよ」

 これは、小池百合子都知事が昨年の衆院選前、周辺に語ったとされる言葉だ(朝日新聞電子版、10月5日)。何とも有権者をバカにしたセリフだが、これまで日本の選挙、政局がマスメディアによって左右されてきたことは事実である。(夕刊フジ)

 ワイドショーが連日騒げば、無責任な為政者が「ヒーロー・ヒロイン」となる。大勢のド素人を「候補者」に仕立てただけの中身なき政党が選挙で大勝する。逆に、テレビが「怪しい」と言い続ければ、不正の事実など1つも見つからなくとも、首相の支持率を大幅に下落させられる。

 「メディアは第4の権力」と言われる。だが、この30年ほどの日本では、選挙結果はおろか、政治家の生殺与奪の権も握り、政争の仕掛け役となってきたマスメディアこそが「第1の権力」だったのではないか。

 そんなマスメディアに受難の時代が訪れた。

 新聞は部数を、テレビは視聴率を落とし続けている。朝日新聞の部数が年間約30万部(2017年9月、ABC部数)も減り、人件費がカットされる日が来ようとは、私の若い頃には考えられない事態だ。

 いや、むしろ新聞やテレビの栄耀栄華が長すぎた。数百万の発行部数を持つ全国紙が5紙もある国は他に類を見ない。日本人ほど「テレビの言うこと」を信じ、影響される国民もない。

 一方、テレポリティクス(テレビ政治)の本場、米国では昨年、メディアに「フェイクニュースだ!」と言ってケンカを売るドナルド・トランプ大統領が現れた。そのトランプ氏に「あなたと私には共通点がある。あなたはニューヨーク・タイムズに徹底的にたたかれ、私も朝日新聞に徹底的にたたかれた」と言って意気投合した安倍晋三首相が、長く日本の政権を担っている。

 メディアの顔色をうかがわざるを得なかった政治家の中に「挑戦的」な姿勢に転じる者が出てきた背景には、SNSの存在が大きい。「権力の監視役」を気取ってきたマスメディアが、今やネット民によって監視される側へと転換させられた。

 安倍首相は昨年末の筆者のインタビューで、政治家にも脅威だと指摘しながら、「SNSの浸透で、あるメディアが世論を一方向に持っていこうとしても、できない時代になった」と語った。

 これまで「報道の自由」「言論・表現の自由」を謳歌(おうか)してきたマスメディアは、「監視されない権力は腐敗する」の真理の通り、すっかり腐敗していた。健全な監視が及ぶようになった現状は喜ばしい。

 安倍首相は「韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪開会式に合わせて訪韓」というスクープを、産経新聞の独占インタビューという形でリリースした。自身のコアな支持層を読者に持ち、真意を歪めないという信頼が理由だろう。

 権力者とメディアの間に「なれ合い」は禁物だが、「権力者のクビを取るためなら何でもあり」というメディアの放縦は、もはや許されない。

 「メディアvs政治権力」から、「メディアvs政治権力vsSNS上の国民」という三つどもえの構図へ。平成から御代が代わる今、「政争」の形も大きく変化している。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)など多数。