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自民・公明の政権与党が圧勝し、野党側は民進党の分裂で混迷を深めた衆院選は、いわゆる「リベラル」の足元を大きく揺るがす日々でもあった。長野県松本市を歩くと、野党候補の選挙運動を支えた人たちから「後に『あの選挙がターニングポイントだった』と言われる」「今回は正念場」などの声が次々に飛び出した。「護憲」「平和」「民主主義」といった戦後日本の価値観を信じ、支えてきた人たちは、この選挙でどう動き、何を感じたのか。伝統的にリベラルが強いとされる北アルプスの麓から報告する。(宮本由貴子/Yahoo!ニュース 特集編集部)   
「組織人ですから」と希望の党へ

社民党松本総支部の入るビルは、松本城から北西へ徒歩数分の場所に立つ。衆院選の公示が1週間後に迫った10月3日の午後4時。松本城がよく見える3階の部屋では、同党長野県連の幹部5人が下条みつ氏(61)の到着を待っていた。5人はいずれも年配の男性。口の字形に並べた机の一方に並んで座っている。

下条氏が入ってきたのは、午後4時半ごろだったという。

その直前、東京では希望の党が第1次公認候補192人を発表していた。長野2区で民進党から出馬するはずだった下条氏も含まれていた。安全保障政策などで見解が一致しない民進党候補を「排除します」と小池百合子代表が発言したのは、その数日前である。

下条氏は2003年の衆院選で旧民主党から出馬して初当選し、その後2度当選。2012年と前回2014年の選挙では敗れたものの、小選挙区で勝てる可能性を持つと目されていた。しかも今回は、社民党や共産党などと「野党共闘」を進める動きが出ていた。

会合で口火を切ったのは、社民党県連の吉田進副代表(66)だった。出席者によると、こんなやりとりが続いたという。

——希望の党から出るって聞いたけど、本当にそうなの?

「長野県の民進党議員はそろって対応(希望の党に合流)すると聞いています。私も組織人ですから」

——(同じ民進党の)長野1区の篠原孝氏は違うと聞いているが……。希望の党から出るとなれば、われわれは応援できませんよ。

「9条改憲反対、戦争反対はこれからも変わりません」

——政党政治なんだから、(改憲を意図する希望の党に属すれば)そういうわけにはいかないでしょう?

「みなさんと一緒にやってきた思いは変わりません」

——無所属ならわれわれは応援できる。その余地はないの?

「……ありません」

この返答で会合は事実上終わり、社民党側は「そっちに余地がないなら、俺たちに支援できることはない。残念だけれど、お帰りください」と言い切ったという。

「安倍政権を終わらせるため」「憲法を改正させないため」の野党共闘、市民との共闘……。最近の選挙ではそんな言葉がよく使われたが、共闘の強さはどれほどだったか。会合の場にいた一人は振り返る。

「身内に裏切られたら怒りも湧くけれど、下条氏はそもそも民進党。他党のことだし、社民党と民進党が正式に政策協定を結んでいたわけでもないから怒るに怒れない。そんな頼りない結びつきを信じてきた自分にも落胆して……。がっくりきたよ」

(略)