週刊文春:2017/7/28
http://bunshun.jp/articles/-/3477

 稲田朋美防衛大臣にイライラする保守派の「読売」「産経」、というコラムを先日書いた。
(稲田朋美の不始末に“保守おじさん代表”「読売」「産経」が怒る怒る怒る)

 その稲田大臣がここにきて、ついに辞任を表明した。南スーダンPKO日報問題だ。
読売と産経の「怒りの度合い」を比較してみる

 私が驚いたのは7月20日の「読売」の2面だ。

「稲田氏、虚偽答弁か」「与党・防衛省からも批判」

「読売」は「虚偽答弁」というインパクトのある言葉を大々的に使用したのだ。

 ナベツネの、いや「読売」のご立腹の様子が行間からみえるではないか。

 一方、この日の「産経」。

 稲田大臣は、

《防衛省・自衛隊内で求心力を失っており、格好のスケープゴートになったとの見方もある。》(7月20日)

 と書いた。

 稲田氏に怒る「読売」とは対照的に「産経」は稲田氏の現状を淡々と分析していた。
というか、とっくに見放していた?

 さてその翌日。「読売」をひろげたら、あっと思った。

「防衛省 不信の渦」(7月21日)

 3面をほぼ使っての大きな記事であった。「意趣返し」という文字も躍る。これはどういう意味か?

《日報問題では、制服組(自衛官)が公然と不満を述べるまでには至っていないものの、水面下で「稲田氏の隠蔽への関与を印象づけようと、陸自が政治的に激しく動いている」(政府関係者)という構図となっている。》

 つまり「意趣返し」とは、陸上自衛隊の「制服組」が「稲田氏や背広組を人事や処分で道連れにしようとする」ことだという。

「読売」が本当に言いたい部分

 同じページにはこんな解説も。

《陸自の不満の背景には、人事もある。陸海空の各幕僚長が持ち回りで担う統合幕僚長は、順当に行けば次は陸の番で、岡部氏が就くと予想されていた。
だが、今回の問題で、その構想にも黄色信号がともってきたためだ。ある防衛官僚は「稲田氏や黒江氏の言動が報道されるのは、陸自が漏らしているからだ。陸自は組織防衛に走っている」と不信感を隠さない。》

 そして「読売」の言いたいのはここ。

《制服組が防衛相の足を引っ張ろうとするかのようなやり方には、文民統制の観点からも問題視する声があがっている。》

「読売」は稲田氏の資質よりも陸自の動きにスポットを当てたのだ。これは前日の「(稲田氏には)与党・防衛省からも批判」という見出しとは対照的である。

 あれだけ稲田氏を叱り続けてきた「読売」が、他紙に先駆けていち早く「文民統制の観点」に重点を置いたのはどういう意味だろう。

「読売」はこのままいくと稲田氏個人の問題ではなく安倍政権にかかわると判断したのではないか。
政権の問題にしたい新聞と、したくない新聞

 その伏線となる記事が前日の「東京新聞」

7月20日 東京新聞朝刊
「記録文書『隠す』『捨てる』『ない』 政権 非開示押し通す」(7月20日 )

・南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報

・学校法人「森友学園」への国有地売却

・学校法人「加計学園」の獣医学部新設

「東京新聞」はこの3つの問題をまとめ、これらの対応で浮かび上がるのは、

「隠す」「捨てる」「ない」

 という政権の手法だと指摘したのだ。

 この3つの言葉があらためてセットでひろがると、今回の稲田問題は個人の進退の話ではなく政権の問題になってくる、ということだ。ちなみに「朝日」を見てみると、

「閣僚強弁 政権手詰まり」(7月21日)

 と、稲田氏と加計学園問題をめぐる山本地方創生相の発言をセットで報じていた。

 政権の問題にしたい新聞と、したくない新聞。各紙を読み比べたらそんな「攻防」が伝わってきたのである。

 そんな雰囲気が各紙の行間から漂う中、もう一度「産経」を見てみると、

「混乱招いた稲田氏言動 」(7月21日)と1面で書いていた。

 そこには「制服組に不信感」という「読売」と同じ指摘もあるものの、「奇抜な服装で外遊」「不安定な国会答弁」と稲田氏の言動を大きく報じていた。やはり「産経」は稲田氏個人の資質の問題だと考えているようだ。

 以前も紹介した、「トップを務めているのは、『お子さま』のような政治家だった。」(「産経抄」6月30日)というコラムといい、「最後まで」稲田氏にキツかったのは「産経」だった。