トランプ米大統領の勢いに翳りが見え始めてきた。といっても、政治的評価の面ではとっくの昔に起きていたことだ。ここにきて曲がり角に来ているのは、トランプ大統領の最強の、というか、唯一の武器である、ツイッター戦略そのものなのである。

 6月22日から27日に行われた調査(クイニピアック大学実施)では、61%の回答者がトランプ大統領はツイッターを止めるべきだと答えている。続けるべきだと答えた割合は32%に留まっている。

 この調査は、トランプ大統領がMSNBCのニュース番組「モーニング・ジョー」のアンカーウーマンのミカ・ブルゼジンスキーに批判されたことを受けて、同女史をツイッターで「整形した顔から血がひどく流れている」と誹謗中傷する内容を書いた後に行われたものである。

 これに対して、与党、共和党内部からも激しい批判が出てきた。共和党のベン・サッセ上院議員は「もう止めてくれ。これはどうみても正常ではない。大統領の威厳を損なうものだ」と厳しい声明を出した。リンゼー・グレイハム上院議員も「大統領、あなたのツイッターは政府にとってふさわしいものではない」と批判した。

 民主党議員は当然のことながら、共和党の多くの議員が同様な批判を加えている。クイニピアック大学の調査でも、61%の回答者が、このツイッターを削除すべきだと答えている。

 さらに追い打ちをかけたのは、2007年に行われたレスリングの試合のビデオに修正を加えて、トランプ氏が1人のレスラーに場外で攻撃を加えている映像を、ツイッターに載せたことだ。レスラーの顔にはCNNという文字が貼られており、ツイッターに「Today, we make America great again.(今日、我々はアメリカを再び偉大にした)」という文章が書かれていた。このツイートは、トランプ大統領のツイッターの中で最も多くの人に共有された。

 メディアは、大統領はジャーナリストに対する暴力を容認するのかと、一斉に批判を加えた。


ツイッターで大統領になった男

 ドナルド・トランプの大統領選挙での勝因のひとつは、ツイッターを使って対抗馬であったヒラリー・クリントン候補を追い込んだ巧みな選挙戦略にあった。

 大統領就任後も相次いで発信されるツイートがさまざまな波紋を引き起こしている。内外の政治だけでなく、経済や株式市場も、トランプ大統領のツイートに敏感に反応し、翻弄されている。大統領が個人的に発信するツイートが国内政治の争点を決め、国際関係にまで重大な影響を及ぼしている。

 イギリスの新聞『フィナンシャル・タイムズ』が4月1日に行ったインタビューで、「同盟国や政敵について無神経なツイートを行い、後悔していないか」という質問に対して、トランプ大統領は「何も後悔していない。なぜなら、私のツイートに対して誰も何もできないからだ。何百回もツイートしていれば、時には大失敗をすることはあるし、それは悪いことではない。ツイートしなければ、私は大統領になっていないだろう。私には非常に多くのフォロアーがいるし、“フェイク・ニュース”とも戦わなければならない」と答えている。

 トランプ大統領はメディアを利用することで、大統領の地位を得たと言っても過言ではない。不動産業者として、またテレビショーのホストとして、常に世間の注目を浴びてきた。メディアの利用の仕方は熟知している。かつて「悪いニュースでもメディアに取り上げられないよりはましだ」と語っていたくらいだ。

 特に既存の政治の世界の挑戦するためには、ツイッターは最も有効な武器である。敵対する多くのメディアを迂回して国民に直接訴える手段として、最適なのである。トランプ大統領は1月末にクリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワークのインタビューで「メディアを通さずにメッセージを国民に送ることができる」と、ツイッターの有効性を語っている。

 トランプ大統領は、炉辺談話をラジオを通して放送し、分かりやすく自分の考えを国民に語り掛けたフランクリン・ルーズベルト大統領や、俳優の経歴を持ち、名演説で知られるロナルド・レーガン大統領と同じように、IT時代の優れたコミュニケーターである。

 トロント大学のメーガン・ボーラー教授は「トランプ大統領のコミュニケーション戦略は非常に効果的で、世論形成に驚くほど効果を発揮している」と指摘している。