先週、大枠合意した日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の交渉が始動したのは、2013年3月25日のことである。日欧首脳が電話会談し、交渉開始で合意した。

 そのわずか10日前、安倍晋三首相は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に「参加する決断をした」と表明した。日本は2つの交渉を、同じ時期に始動させたことを思い出す。

 そうなったのは、これを成長戦略の柱にしようとした日本の思惑ばかりが理由ではない。TPPを意識するがゆえに、EU側が動いた面も大きかった。

 それ以前のEUは対日交渉に慎重だった。日欧貿易では、EUの方が多くの輸入品に関税をかけ、関税収入も多い。EPAでの関税撤廃は「損」だという発想があったのだろう。

 だが、日米中心のTPPが世界の貿易秩序を築けば、EUはその潮流から取り残されかねない。だから、経済連携重視に転換した。EUが13年7月に米国との通商交渉を始めたのも、同じ文脈でみることができる。
TPPが米国の離脱で漂流した今、その構図が逆になったのは皮肉だ。日欧EPAには、TPPを「損」だと断じる米国の保護主義が勢いづくのを阻み、自由貿易での連携を世界に促す契機になり得る意義がある。

 自由化の恩恵を示す材料には事欠かない。TPP合意時、EUは豚肉などの対日輸出でTPP勢より不利になるといわれたが、今は逆である。協定があれば攻守はすぐに入れ替わる。

 注目は自動車だ。日本はTPPで、米国が課す2・5%関税の撤廃に25年もかける不利な条件をのんだ。TPP交渉に遅れて参加した代償である。日欧EPAでは、10%のEU関税が発効から7年で撤廃される。

 かねて、米国が自動車貿易で理不尽な対日要求をするなら、TPPより撤廃時期を早めるよう逆提案するのも手だと思っていた。今ならさしずめ、こう迫れる。「2・5%の撤廃ならEUほど時間はいるまい。5年、3年、それとも即時撤廃はどうか」。米国の独善を許さぬ攻めの思考を備えておきたい。

http://www.sankei.com/column/news/170711/clm1707110005-n1.html
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