「昔はよかった」──そう言いたいのではない。利権や派閥の論理に彩られた「古い自民党」は、国民の猛批判を浴び、下野を余儀なくされたこともあった。
しかしそうした「汚さ」の半面、かつて党の中枢を担った議員たちには「政治とはかくあるべし」の矜持があった。彼らは言う。
「今の自民党は、もはや国民のために在る政党ではない」──と。副総裁、建設大臣を歴任した山崎拓氏(80)が諫言する。

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9条改正自体には賛成です。私が考えた憲法改正案は、「戦争放棄」の1項を残し、「戦力不保持」の2項を変えて「自衛のための実力保持」を明記するというものでした。

しかし、安倍案では1項、2項を残したまま、追記するとしています。果たしてそんなことが法理論的に可能なのか。2項で戦力不保持といいながら追記で戦力である自衛隊を認めたら、矛盾が起きるのではないか。

自衛隊という特殊な言葉を使い、軍隊じゃありませんというわけです。自衛隊員は、自分たちは軍隊じゃない、警察でもない、じゃあなんなのか、ということになる。それに海外では今も自衛隊の位置づけは軍隊です。
憲法は国内だけでなく国際的にも通用するものでなくてはならないのに、どうするつもりなのか。

安倍総理は、来年の次期総選挙で与党3党合わせても改憲の発議に必要な国会の3分の2を割るのは確実なので、焦ってスピードを上げているように見えます。

これまで衆参両院の憲法審査会では、9条には触れず、災害時などの国家緊急事態に国会議員の任期延長を定めることなど、超党派で合意できる改憲案を議論してきましたが、
例の読売新聞の安倍インタビューを境に、突然、作業がストップした。おそらく、自分の在任中に超党派で合意するのは不可能と判断し、公明と維新が賛成しそうな案で、3党で発議するつもりなのでしょう。

私も自衛隊をわざわざ災害救助の組織として位置づける憲法審査会の案には反対ですが、しかしこの案では、安倍総理は自分の政治的レガシー(遺産)を残すため、改正のための改正をやろうとしているようではないか。

問題は党内に憲法について議論できる人が少ないことです。憲法改正は党是だといっても、70年前にできて放置されてきたわけで、選挙のテーマにならないから誰も憲法について勉強しようとしない。だから、安倍総理に意見する者もいない。

かつて私と加藤紘一、小泉純一郎の3人はYKKと呼ばれましたが、私は中曽根(康弘)さんの流れを汲む改憲派で、加藤さんは大平(正芳)さんの流れを汲む改正反対派と、思想や政策はまったく違っていました。
党内の派閥間で政権交代するのもそうですが、自民党は政策にしろ理念にしろ、“振り子の原理”でやってきたのです。

ところが、いまはオール保守化してリベラル勢がいなくなった。そもそも理念がないし、いまの国会議員は知的レベルも下がってきている。稲田防衛相が、応援演説で「自衛隊が応援している」などと口にしてしまうセンスには絶句するほかない。
そんな状態だから、安倍総理に誰も意見できないのです。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

2017年7月10日 11時0分 NEWSポストセブン
http://news.livedoor.com/article/detail/13316019/