俺はふぅーっと息をつく。
そして、空を見上げる。
すると、そこには雲一つない青空が広がっていた。
俺は目を細めながら呟くように言った。
「夏だな……」
バッティングセンターでひと汗流した後は、近くの喫茶店に入って休憩がてらコーヒーを飲むことにした。
ここのマスターは顔馴染みの人で、いつも美味しい珈琲を出してくれるのだ。
俺はカウンター席に座ってアイスカフェラテを口に含む。
口の中に広がるほろ苦さと冷たさが最高にマッチしている。
あぁ~、やっぱり、この味だよな。
俺は心の中でそう思った。
しばらくすると、目の前には大好きなホットケーキが置かれる。
この店ではパンケーキと言うらしいが、まぁ~、呼び方なんてどっちでも良い。
俺にとってはホットケーキこそが至高の存在なのだから。
メープルシロップをたっぷりかけてから口に運ぶ。
907道の駅2023/02/11(土) 17:42:53.72ID:c3sCu7WB
うんめぇーー!なにこれ?うめぇ!
思わず叫びそうになるのを堪える。
やはり、甘いものは正義だと言わざるを得ないようだ。
どんなに辛いことがあっても、甘いものを食べただけで元気になれる。
それはきっと、心の栄養分が満たされているからだと思う。
人間は幸せを感じることができる生き物だからこそ、毎日を生きていく活力を得ることができているのだ。
そんなことを考えているうちに完食してしまった。
ごちそうさまでした。
俺は満足感に浸りつつ、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
会計を済ませようとレジに向かうと、マスターは笑顔を浮かべながら俺に向かって話しかけてきた。
「唯我さん、最近よく来てくれますね」
俺は財布を取り出しながら答える。
「えぇ、この店の料理はとても美味しいですから」
マスターは嬉しそうな表情を見せた。
「ありがとうございます」
俺は小銭を手渡しながら言う。
「また、来させていただきますよ」
マスターはニコッとした。
俺もつられて微笑んでしまう。
なんとも言えない幸福感に包まれた気分だった。
この世の中にはお金で買えないものがたくさんあるが、この時間はその最たる例だろう。
俺はこの貴重な一時を大切にしたいと思った。
時刻は午後2時前。
俺は喫茶店を出ると、自転車に乗って自宅へと向かった。
自宅に着いてからシャワーを浴びて、さっぱりしたところで、俺は新宿の映画館に向かった。
これから観るのは、先週公開になったばかりの映画だ。
実は原作小説を読んでいたのだが、なかなか面白かったので、ぜひ実写版を観てみたいと思っていたのだ。
待ち合わせ場所に到着すると、すでに彼女は待っていた。
彼女の名前はS。
年齢はまだ20歳で職業はアイドルの卵。
つまり、まだ売れていない地下アイドルというやつだ。
彼女は俺の姿を確認すると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
俺は少し照れくさくなりながらも、右手を挙げて挨拶をする。
すると、彼女も満面の笑みを浮かべながら俺の名を呼んだ。
その瞬間、俺は改めて思う。
今日もまた幸せな1日が始まるのだと――。
Sとのデートは楽しかった。
映画の後はカラオケに行き、そこでも楽しい時間を過ごせた。
本当に充実した休日を過ごすことができたと思う。
帰り際になると、Sは名残惜しそうな表情を見せてくれた。
そんな顔を見たら、もう少し一緒に居たいと思ってしまった。
しかし、これ以上遅くなるわけにもいかない。
明日は朝早くから仕事が入っているのだ。
だから、俺は彼女に別れを告げる。
すると、Sは目に涙を浮かべながら言った。……ねぇ、最後にキスしてくれない? もちろん、俺はOKする。
そして、俺は彼女と熱い抱擁を交わしてから、お互いの唇を重ねた。
初めてのキスは甘酸っぱいレモン味ではなかったが、とても甘く感じられた。
この思い出があれば、俺はもう何もいらない。
そう思えるほどに最高のひとときだった。
その後、俺は家に帰るとベッドの上で横になる。
天井を見上げながら考えることはただ一つ。
Sのことを愛しているということだけだ。
だが、それと同時に不安もある。
果たして、この気持ちをいつまで持ち続けることができるだろうか。
こんなことを思い始めたのは、つい最近のことだ。このままではいけないと思いつつも、現状を変えることができないでいる。
俺は一体どうすればいいのか。
誰か教えて欲しい。
2006/07/23(Sun)
俺は携帯電話のアラーム機能を使って午前6時に目を覚ました。
それから、いつものように顔を洗い、歯磨きをして、朝食を食べ終えると、私は会社に出社するための準備を始めることにした。
スーツを着て、ネクタイを締める。
鏡の前で髪を整えたあと、髭剃りを行う。
身だしなみが整うと、カバンを持って家を出発した。
電車に乗り、駅に着くと改札口を出てから徒歩で勤務先のオフィスビルへと向かう。
エレベーターに乗って最上階である12階のフロアに到着すると、そこには既に数人の社員がいた。
彼らは俺の顔を見るなり、「おはようございます」と挨拶してきたので、俺もそれに応えるように挨拶をした。
俺は自分のデスクがある部屋に入ると、パソコンの電源を入れた。
起動が完了するまでの間にコーヒーメーカーのスイッチを入れてから椅子に座って一息つく。
やがて、コーヒーが出来上がったことを知らせる音が鳴ったので、カップに注ぐと、それを一気に飲み干した。
これで完全に目が冴えた。
それから、メールの確認を行い、今日のスケジュールを確認した。
今日は特に予定がない。
だから、午前中は溜まっている仕事を片付けようと思った。
カタカタとキーボードを打つ音だけが部屋に響く。
ふと時計を見ると、時刻は既に正午を過ぎていた。
俺はキリの良いところで作業を切り上げると、昼食をとるために席を離れて食堂へと向かった。
昼飯を食べるために食堂に行くと、ちょうど良いタイミングだったらしく、ほとんど人がいなかった。
俺は券売機で食券を買うと、おばちゃんに手渡してからカウンターの前に立った。
数分後、注文していた塩カルビ丼が出てきたのでそれを受け取る。それから、空いているテーブルを見つけると、そこに腰掛けた。
割り箸を手に取りパキッという音を鳴らして割ってから、早速食べ始める。
食事を終える頃には午後1時になっていた。
仕事に戻る前にトイレに寄ることにした。
用を足したあと、洗面台の前に立つ。
蛇口を捻り水を出すと、手で掬い上げて顔にかけた。
冷たい水が火照っていた体を冷やしてくれるようで気持ちが良い。
その感覚がクセになり、何度も繰り返すうちに、いつの間にか両手で水をすくえるくらいの量になってしまった。
俺は慌てて手を離すと、ハンカチを取り出して濡れてしまった部分を拭いてからその場を離れた。
そして、再び自分のデスクに戻ると、先程までやっていなかった分の仕事に取り掛かった。
しばらくして、全ての業務を終えた俺は退社することにした。会社を出ると、最寄り駅に向かって歩き出した。
電車に乗り込み自宅のある駅に着くと、改札を抜けて外に出た。
駅から出ると、外はもうすっかり暗くなっていた。
街灯が点々と光っている。
家に帰ろうとして、ふと立ち止まった。
このまま真っ直ぐ家に帰ってもいいのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだのだ。
別に何か目的があったわけではない。
ただ何となく歩いてみようという気になっただけだ。
だから、俺は当てもなく歩くことにした。
どこへ行こうか迷ったが、結局は適当に進むことにした。
しばらく歩いていると、気付いた時には見覚えのない場所にいた。
辺りを見渡すとそこは薄暗い路地裏のようなところだった。
道幅はとても狭く、建物の壁には落書きが描かれている。
どこか嫌な感じがする。
早くここから出たいと思い、来た道を戻ろうと振り返ると、目の前には3人の男が立っていた。
そのうちの1人は見たことのある顔をしている。
以前、新宿歌舞伎町で絡まれたチンピラだ。
確か名前は佐藤とか言った気がするが、よく思い出せない。
他の2人も似たようなものだったと思うが、名前までは知らない。
彼らは俺の姿を目にするとニヤリと笑った。
どう見ても友好的な雰囲気ではない。
俺は面倒なことに巻き込まれたくないので、何も言わずに通り過ぎようとしたのだが、肩を強く掴まれてしまいそれは叶わなかった。
仕方なく彼らの方へと視線を向ける。
男たちは相変わらず下卑た笑いを浮かべている。
正直言って不愉快だ。
こっちは疲れているというのに。
本当に鬱陶しい連中だと思う。
俺は心の中でため息をつくと、彼らを無視して歩き始めた。
しかし、すぐに行く手を阻まれてしまう。
俺は舌打ちをしたくなったが、それを堪えながら口を開いた。
「……何か?」
なるべく穏便に済ませたかったが、そうはいかないようだ。
まぁ、仕方がない。
こういう時は実力行使しかないだろう。
俺は覚悟を決めると、拳を握り締めた。
次の瞬間、右頬に強い衝撃を感じた。殴られたのだと理解するのに時間はかからなかった。
俺は地面の上に倒れ込んだ。
それから間髪入れず、今度は腹を蹴られた。
胃液が逆流してくるような感覚に襲われる。
痛いというよりも苦しいといった表現の方が適切かもしれない。
呼吸ができないほどではないが、かなり不快ではある。
その後も暴行は続いた。
男のうちの1人が馬乗りになってくると、さらに顔面を殴ってきた。
視界が赤く染まる。
鼻血が出ているようだったが、痛みはあまり感じない。
それよりも、胸の奥の方から沸々と湧き上がって来る怒りを抑えることで精一杯だった。
今すぐ殴り返してやりたいと思ったが、我慢した。
ここで騒ぎを起こすわけにはいかないからだ。
それに、下手に手を出してしまえば、警察沙汰になる可能性もあるし、そうなれば会社にも迷惑をかけてしまうことになる。
それだけは避けなければならない。
だからといって黙って耐え続けるというのも性に合わないので、隙を見て反撃に出るつもりではあるが。とりあえず今は大人しくしておくことにする。
しばらくすると、満足したのか男たちは去っていった。
俺は立ち上がり服についた汚れを払うと、その場を離れた。
家に帰るまでの間、俺はずっと考えていた。
あの男たちが言っていた言葉の意味について。
あれはどういう意味なのだろうか。考えてもわからない。
そもそも考えたところで答えが出るはずもない。
あいつらが何を考えているかなんてわかるわけがないのだ。
あんな奴らのことなんか気にする必要などないだろう。
だが……。
それでもやはり考えてしまう。
もしも俺がもっと上手く立ち回ることができていたなら、未来は変わっていたのではないか。
そんなことを考えてみたが、無意味なことだ。
所詮はifの話でしかない。
いくら後悔したところで過去に戻ることはできないのだから。
だから、これから先のことだけを考えることにしよう。明日は休みだし、ゆっくり休もうと思う。
俺はそう決めると眠りに就いた。
2006/07/24(Mon)