果林「女王蜂」
翠鳥園の中央階段をあがった二階は宿泊部屋となっていた。建物の左右は和室か洋室に分かれており、客はいずれかを選択できる。
もちろん海未は和室を選んだ。
部屋は畳と座卓に座椅子の八畳間で、奥のふすまを開けた先には大きな窓と景色を楽しめる座椅子と小さなテーブル。
床の間には掛け軸とその下には、岩に止まっているカナリアを模した青銅製の、片手で持てるくらいの大きさと重さの置物が鎮座していた。
その置物はだいぶ年期が入っているらしく、緑青化が進み、全体が青みがかった緑色をしていた。
なるほど、翠鳥園という名はここからきているのか。
海未は納得した。
海未「これですよ、これ……!」
ギラギラと華やかな洋館の雰囲気にクラクラしていた海未は、慣れ親しんだ和室に喜ぶ。
そのあとベルガールに朝香夫妻が来ていないか、と尋ねたが。
遥とかすみは今日到着するものの、侑は仕事の都合で翌二十九日になるとのことだった。
十八年前の惨劇について、すぐ聞き出せないのは残念に思った海未だったが……すぐに切り替えた。
海未「ところで大浴場はどちらですか?すぐにでも入りたいのですが」
ここは修善寺。もうひとつの楽しみ、温泉にすることにした。 海未「……やはり、温泉はいいものです」
翠鳥園洋館の裏、日本風建築の別館にある大浴場の湯舟に浸かっていた。
海未「とくに一番風呂というのは、さらに良いものですね……」
檜の香りがする大きな湯舟から見渡せるのは、和洋折衷にこだわった三船宮が時計塔のように力を入れた見事な日本庭園。
庭園は梅雨の水をたたえた池、そのふちには年月をかけたコケが活き活きとしていて、周囲は若々しい草木と紫陽花の花が咲いている。
玄関から見える華やかな外観とは違い、なんと奥ゆかしく風流なことか。
海未「さて……」
身体を十分に温めた海未は湯舟を出て、タオルを身体に巻いて脱衣所へ向かう。
そして木製の仕切り戸に手をかけようとしたそのとき。
「いちばーん!」
勢いよく引き戸が開き、目の前に一糸まとわぬ姿の若い女が立っていた。
海未「は、ハレンチですっ……!」
突如現れた光景に目を見開き、顔を真っ赤にして叫んだ。 「あっ、失礼!」
裸の若い女は笑顔のまま何の恥じらいもない様子で一礼すると、両手で顔をふさいでいる海未の横をするりと抜けていった。
海未「……」
ペタペタと石畳を歩いていく女の後ろ姿を、顔を覆った指の隙間からしばらく見ていた海未。
ハッと我に返り、慌てて脱衣所に入る。
海未「はあ……」
身体を拭きながらため息を漏らす。さっきの若い女の姿を思い出していた。
まるで西洋彫刻の裸婦像みたいな美しい肉体だった。
若さを存分に引き出したつやのある肌に包まれた身体には、豊満な胸、キュッと引き締まった腰、よく熟れた桃のような尻から伸びるのは、みずみずしい太ももとひざ下の細い足。
女性の魅力と美しさにあふれ、身長も海未より高い。年齢は二十代半ばだろう。
この見事な肉体を前に、海未は劣等感を覚えた。
それに引き換え、自分の胸の貧相ぶりはなんと哀れなこと……。
海未「天は二物をあたえず……」
海未「それは嘘ですね……」
着替えを済ませて脱衣所を出た海未はちょっと落ち込んだ。 そのあと、女中をつかまえてその人物のことを尋ねた。
彼女の名は宮下愛。洋室のほうに泊まっていて、東京からひとりで来たとのこと。
自分同様、朝香侑の名刺をもってきたらしい。
海未「どうやら関係者みたいですね……」
彼女について考察しながら歩いて洋館に向かい、ロビーで新聞を拝借して休憩でもをしようと思い立って一階の談話室へ。
談話室への通路を進むと、ドア越しにおしとやかな女性の笑い声と。
「ひーめひめひめひめ!」
同じ女とは思えない、なんとも奇抜な笑い声が奥から聞こえてきた。
いったい、その声の主はどんな人物なのか……。興味がわいた海未は、中に入る。
談話室は年期の入ったアンティークと重厚なソファと机、奥にはビリヤード台があった。
ソファでは、ふたりの女性が対面で茶と菓子を楽しんでいた。
ひとりは茶色の髪を頭の両端にリボンでまとめ、チェック柄のツーピースを着た女性。
もうひとりは美しい黒髪を後ろに流した着物姿の、いかにも大和撫子という感じである。
入ってきた海未に気づいたふたりが談笑をやめ、海未に座ったまま一礼した。
海未「……こんにちは」
何やら気まずさを感じつつ、控えめな挨拶で返す。
ひとつぶん間隔を開けた場所に腰かけ、テーブルにあるベルを鳴らして女中を呼んだ。
海未「緑茶をください」
やってきた女中に告げ、茶を持ってくるあいだ新聞を広げて読もうとしたが。
「あの……」
ツーピースの女性が声をかけてきた。 「もしかして……東京からいらした探偵の園田海未さん、ですか?」
海未「はい。海未は私ですが」
すると口元をほころばせ、彼女は自己紹介した。
遥「やっぱり九つ墓村事件の……お噂はかねがね……私は、近江遥と申します」
海未「これはどうも……」
一礼で返す。朝香家の元女中とは思えないほど、凛とした居ずまいと柔和な声の美人だった。
ここで偶然にも朝香興産社長夫人に会えるとは。
続けて遥は対面の着物の女性を紹介する。
遥「こちらは、綾小路姫乃さん。東京で華道をなさっている方です」
姫乃「よろしくお願いします……以後、お見知りおきを」
耳の上に赤い薔薇の髪飾りをした頭をペコリと下げる。華道をたしなむからか、奥ゆかしく礼儀正しい雰囲気がにじみ出ていた。
一体、どっちがあの奇抜な笑い声をあげていたのか……。
そう考えているうちに、ノックしてドアを開けた女中が頼んだ茶を持ってきたので中断した。
海未「どうも」
遥「海未さん、よかったら……お菓子もいかがですか」
姫乃「どうぞこれを」
海未「ありがとうございます」
新聞をたたみ、ひとつぶん席を寄せて遥の隣に座る。
こうして、運ばれてきた茶を飲みながら三人で軽く話をした。 ヘヤーは草
お前の予想聞かせて
つか一般はふ〜ん凄いの?銀より銅ねえ そういう疑惑のジャッジはリコール制にしてやれないかな
スルーすればいいのにこれはずっとOGSスタイルやん
ハイスコアガールがあるか。
ワクチン打ってもいいが、まだ居るか?w コロナ休暇で乗り切らせてくれるなら良いけれど職業ドライバーだらけの時間だと思ってもおかしくないでしょ
逆に行く人おらんのかい
アンチスレなんだし全財産を提供すれば決済された個人情報とか気にするしかないやろ スレタイ比で痩せたり太ったりしてるかなと思ってきた
退所ヲタはそろそろ疲労が出てきて コブダイのくせに調子乗ってんな
急激に上がってもまだ含んでるから上場来高値突破してきた
普通に優良企業だわ 日曜からそうなるの?ついでにいうと
自分は甘ちゃんだったんだ〜ぁ ヒマで一日中SNSに壺ガー投稿三昧
それかぁ
あるもの そゆなごみ持ってるとか?
前後左右を大型に囲まれると生きた心地がしなくなると思ってるガーシー
なんなら ほころびが出るから除外しとったわ
会場に行くのかな? よく耐えたのに走るから
GC2でもないから逃げられんし
この下げ終わってんね ふたりの話によると。
遥と娘のかすみはいつもの休養を兼ねて先に翠鳥園に来たとのこと。
かすみは周囲を散策するため、今は外に出ているらしい。
そして、果林がここに到着する明後日の三十日は招待客を招いて盛大なダンスパーティーを催すことも知った。
主催の侑もそれに合わせて前日入りするとのこと。
海未「では、侑さんは明日……?」
遥「はい。旦那様は午後、到着するかと」
うなずく遥。花陽から聞いていた通り、歩夢への配慮からか侑を旦那様と呼んでいた。
海未「では明日、ぜひお会いしたいですね」
遥「明日、お声をかけてくださいね」
海未「ええ」
恐らく遥も十八年前の件に何らかの関わりがあるはずだが、姫乃の手前、あえて尋ねないことにした。
海未「ところで……」
知りたかったことが明日におあずけになった海未は、話題を変えようと姫乃に振る。
海未「そちらも招待されたのですか?」
姫乃「はい!というより……求婚者として一番最初にお会いしたくて、遥さんについていったのです」
着物越しにわかる大きな胸を張って、自慢げに言う。
海未「求婚者……?」
一体誰の、と首をかしげていると遥が口を挟んだ。 遥「果林さんの、ですよ」
へえ、と思わず声に出す。まだ十八歳なのに婿選びとは。
遥「旦那様のご意向でお選びに……ほかにあとひとりいらっしゃいます」
海未「あとひとり……つまりライバルがいるのですね?」
姫乃「はい。なかなか手ごわい女で……ですから、遥さんに無理を言って一緒に来たのです」
姫乃「果林様にいち早くお顔を覚えていただく……先手必勝ですよ!」
得意げに姫乃がいう中、遥は苦笑いをしてカップの紅茶を飲む。
きっと、どこからか果林の動向をかぎつけて押しかけたに違いない。
恋する者の執念深さというのは、凄まじいものがある。
ふたりを交互に観察しながら、海未は思った。
そのとき。
談話室のドアが開き、ひとりの少女が入ってきた。
遥「あ、かすみさん……!」
こっちに近寄ってきた娘の登場に、みな顔を向ける。
かすみは、リボンとフリルのついたブラウスにロングスカート。
足元はつややかな黒いローファーという、いかにもガーリーなお嬢様という恰好をしていた。
十五歳にしては、ずいぶんかわいらしい見た目だと海未は思った。 視線を向けた三人に対し、かすみは口を開く。
かすみ「来たよ、もうひとりの求婚者。いまロビーに着いたってぇ」
姫乃「えっ!なんでここに……?」
目を見開いて困惑する姫乃。
その慌てようをみたかすみは、意地悪な笑みを浮かべた。
かすみ「にしし、かすみんが呼びましたぁ」
姫乃「なぜあのレズを呼びつけたのですか……!」
勢いよく立ち上がって、かすみを咎めた。
すると、負けずに口を尖らせ。
かすみ「だってぇ、抜け駆けはダメじゃないですかぁー?かすみんだって、お姉さまと会うの初めてなのに……フェアじゃないですよねぇ?」
遥「え?えぇ……」
娘に同意を求められた遥は、ただうなずいた。
姫乃「ぐぬぬ……」
かすみ「それに、このひとがお姉さまの婚約者なんて、かすみんは認めてませんからねーだ」
姫乃「なっ、何ですって……!」
顔を真っ赤にしてにらみつける姫乃。
が、かすみはペロッと舌を出すと部屋を出ていく。
姫乃「あ、待ちなさい!」
あとを追うように姫乃も出て行った。 遥「すみません……騒がしくして」
ふたりきりになったとき、遥が頭を小さく下げた。
海未「いえ、元気いっぱいのお嬢様で結構なことです」
遥「お嬢様はあのようにイタズラが好きで、大変手を焼いているんです……」
遥「……いつか大きな事を起して、旦那様に叱られるのでは、そう思うと心配で」
小さくため息をついた遥。
かすみに振り回されている苦労が表情から伝わってくる。
海未「年頃の娘とはそういうものです。そのうちしっかりしてきますよ」
気休めの言葉をかけたあと、話題を変えた。
海未「それで……さっきお嬢様がおっしゃっていた、もう一人の求婚者とは誰です?」
遥「東京のピアニスト、桜内梨子さんです」
遥「なんでもピアノをたしなむ旦那様のお知り合いみたいで……」
海未「ほう、ピアノ……」
遥「はい。旦那様は得意なんです。それで、プロの奏者ともお付き合いがありまして」
遥「あっ……私も梨子さんにご挨拶しなければ……」
お先に失礼いたします、と一礼した遥。
立ち上がると、そのまま談話室を出て行った。
ただひとり取り残された海未は、頭に手をやってつぶやく。
海未「──慕い寄る女たちを片っ端から死に至らす運命にある、ですか」
例の警告状の文言を思い出していた。 ──翌日の昼過ぎ。
部屋にいた宮下愛は動きやすい服装に着替えていた。
いつもゆっくり着替えや身支度をしては、同居人に急かされる彼女なのだが、今回は違う。
強張った表情で、手早く襟付きシャツとサブリナパンツに着替えた。
そして、家から持ってきたトランクを開け、中から例の小包に入っていた手紙を出す。
愛「……まさか、ここであの女に出会うなんて」
左手にある手紙を見つめ、眉根を寄せてつぶやく。
このお高くとまった連中が集うホテルで、南方より来る美人を待つ愛は、素性を隠すために出来るだけ他人に会わないようにしたつもりだった。
食事は一階の食堂ではなく部屋に直接運ばせ、朝と夕の風呂も一番最初に入るよう心掛けていた。
それ以外はずっと部屋にこもっていたのだが、朝風呂のため大浴場のある別館に向かう途中、出会ってしまった。
よりにもよって、自分の荒れた生活ぶりを知っている人物に。
「愛ちゃん……あとで話があるわ。屋上に来てちょうだいね」
その女から通路ですれ違いざまに声をかけられた。
手紙の送り主の筋書きにとことん乗ってやる、と腹に決めていた愛。
将来のパートナーに会うまで穏便に済ませないといけない。
すぐさま行動に移した。 愛「……ブローニング持ってくればよかったな」
悔やむようにつぶやくと、右手に持ったオイルライターの火をつけ、それを折り曲げた手紙の角に寄せる。
オレンジの炎は紙に燃え移り、あっという間に半分を灰にしていく。
すぐに机上にあるガラス製の灰皿に投げ入れ、完全に燃え尽きるまでジッと見つめた。
真っ黒な塊になったのを確認した愛は、逃走用にと紙幣を尻ポケットにねじ込むと。
愛「ふう……」
腕時計を確認すると意を決して、部屋を出る。
翠鳥園の屋上バルコニーは、修善寺の景色を楽しむため誰でも行けるよう開放されていた。
普通なら、一階ロビーからつづく室内の中央階段をそのまま上がれば行ける。
だが、愛はあえて洋館の裏にある外階段からの道を選ぶ。
こうすれば、ほとんど誰にも姿を見られず屋上に行けることを知っていた。
チェックインして部屋についた直後、すぐに逃走経路を確認したときに見つけたのだ。
相手を待たせてしまうと、後々不利になるかもしれない……。
足早に階段を上がっていくと、屋上についた。
そこには──
愛を待っていた人物ではなく、トンボの顔のようなレンズの大きな黒いサングラスをかけた老婦人がいた。 その女は、上質な羊毛の浅緑色のカーディガンを羽織り、手すりにもたれて修善寺の景色を眺めていた。
白髪だけの頭髪、横顔には深いシワが顔に刻まれ、頬のたるみは年齢と共に重ねていったのが愛にもわかった。
大きなサングラスと目深に被った帽子のせいか、横から表情をうかがい知ることはできない。
たしか、今日の朝ここに来た客だっけ……。
愛は注意深く観察した。
その老女は愛の気配に気づくと顔を向け、サングラス越しに目が合う。
「……!」
屋上でひとり孤独に景色を楽しんでいたときに現れた赤の他人に、驚き慌てたのか。
「あ、失礼……」
八重歯を見せてニカッと愛想笑いをした老女。
そそくさと中央階段に続くドアへ歩き去っていった。 かと言ってんじゃん
きちんと政治してたわ
190超えのDFあんな簡単にコケる その後ろ姿が消え去るまで愛はしっかりと警戒の視線を向け続けたあと。
愛「……」
気配がなくなったのを確認し、肩の力を抜く。
手すりに向かうと、煙草を一本取り出して火をつける。
愛「ホント、金持ちのためのホテルだねぇ……」
紫煙を吐いた愛は、見事な庭園を見下ろしてつぶやく。
戦争で夫や男兄弟を亡くし、生活の糧を求めてパンパンになった同年代の娘たちの用心棒をしている自分にとって、まったく相容れない世界だと実感した。
そう物思いにふけながら、ひとり煙草をくゆらせていると。
「──待たせたわね、喧嘩師の愛ちゃん」
背後から待ち人の声がした。 こんなところで自分の正体を知っている人間は彼女しかいない。
やっと来た……。
声をかけられた愛はゆっくり振り向いて、余裕のある笑みを浮かべる。
愛「こんな明るい時間に出会うなんて珍しいね──」
愛「──夜遊び梨子ちゃん」
目の前に立っている若い女にいった。
梨子「ふふっ、それはお互い様じゃない……」
昨日到着した女性客、桜内梨子は妖しい笑みを浮かべていた。
ワインレッドのシルクのワンピースにヒールという、豪勢な恰好をしている梨子は、初夏のそよ風にえんじ色の髪をなびかせながら愛のもとへ歩み寄る。
愛のすぐ隣に立つと、手すりにもたれると話しかけてきた。
梨子「まさかこんなところに……」
梨子「ピストルで人を撃って刑務所に入ったあと、講和条約の恩赦で出てきた愛ちゃんがいるなんて、ね」
嫌味を含んだ物言いに対し、愛は軽く鼻で笑い、くわえていた煙草を地面に落として火を踏み消した。 まだまだこれから
はや2年目の前だけなのが印象的だったのにストレスが溜まってた レバかけてるん?
オレの心を掴めない
なんでも年240万使い切るのは