ルビィ「最近変な夢をみるんだあ」
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【7/4】
その夏の夜は、いっとう賑やかな様子でした。
お父さんも、お母さんも、近所に住むおじいさんも。
みんながいっぱい笑って、お酒を飲んで、お囃子の音色が一体に響く、その日はどこに行っても提灯が吊るされていて、今が夜だというのが信じられないほどに辺りは明るく照らされてました。 いつ作ったものか、村のまんなかには大きな台が組まれていて、その周りは特にきらきら光っているのです。その上で、かりん、かりん、きらびやかな音を立てる鈴を持って、おねえちゃんとそのおともだちの皆が舞う。
お着物がふわりと跳ねるようになびく度に、とりどりの布がそれは綺麗にゆらめいていて、その舞姿に多くのひとたちが歓声をあげていました。
周りでは色々なひとが、お店のまねごとのような出し物をしていました。
赤黒く日焼けしたおじいさんが、ひんのべ、ひんのべえ、と道行く人に声をかけながら、大きな鍋に入った美味しそうな匂いの汁を振る舞っています、すこし離れたところに近所のともだちがみんなして群がっているから何かと思えば、飴売りが水飴を伸ばしていました。 何処から呼んできたのか、へんな節を付けながら何かのお話をがなっているひとまでいます。
◼◼◼には話の意味は良く分からなかったけど、近くの大人は酒に酔った赤ら顔でがらがらと笑っているので、きっと面白いものなんだと思います。
普段とは違った様子の笑顔を見ているだけでも◼◼◼は、何だか楽しいような、わくわくするような気分になっていました。
その日は、たのしむための日なのだそうです。
それは、たのしい事をするための催しなのだそうです。
幼い◼◼◼が初めて見るその催しを、大人たちはおまつりと呼んでいました。 [スクールアイドル広報 2017年7月号]
『夏本番!思いっきり楽しめるお祭り特集』より
Aqoursの高海千歌です!
なんと◼◼には何百年も前から続いているお祭りがあるんだそうです!
◼◼神社という由緒正しい神社を中心に催される納涼祭は、その地に伝わる神様を称えて、楽しい歌や踊り、食べ物などを奉納するという行事から始まったと言われています! そんな歴史もあってか、お祭りの屋台や出し物はとっても豪華!定番のわたあめやベビーカステラなどは勿論、そば粉を使った名物のおやきに、美味しい地酒も振る舞われるそうですよ!
さらにお祭りの日だけの特設ステージでは、私達Aqoursのライブは勿論!生の巫女さん(ダイヤさんもいるよ!)による華麗な舞の奉納も見れちゃうんです!皆さんも是非、◼◼神社お祭りで、私達と一緒に楽しい夏の思い出を作ってみませんか?! 【7/10】
お神楽がひとしきり終わったあと、先程まできれいな舞を舞っていた、◼◼◼姉が、◼◼◼のもとへ来てくれました。
左手には、なにやら小さな桐の箱を持っています、見てくれてたの、まあ可愛いお着物、そんなことを言いながら◼◼◼姉は空いている手で◼◼◼の頬を撫でました。
◼◼◼はそのすべらかな指で撫でられるのが、それなりに好きだったのです。
すこし、くすぐったくもあったけど。 「今日は、あなたもお揃いなの」
◼◼◼姉が◼◼◼に言いました。
一ヶ月くらい前から、お母さんが今日は特別だからと言って、白い綺麗なお着物を仕立ててくれていたのです。
そのお着物は、目の前で笑いかける◼◼◼姉が羽織っている千早のように、所々に刺繍がなされていました。
今日の昼に届いたその着物を着た◼◼◼を、お母さんもお父さんも嬉しそうに見ていたのを覚えています。
ここ最近、夜になると何やら二人でぼそぼそと話し合い、時には泣いてさえいた両親が元気になったのを見て、何となく誇らしいような気にもなりました。 お母さんは体調が優れないからと言って家の中で留守居をしているのですが、お父さんなどは、今日は何でも買ってやるとまで言い出したのです。
滅多にものを買ってくれないお父さんがそんな事を言うので、◼◼◼はすこし可笑しくもありました。
その事を◼◼◼姉に話すと。彼女はいつもの優しい口調で、今日は目一杯楽しむのよと言い、◼◼◼に笑いかけました。
そしてまた◼◼◼を撫でてくれましたが、
さっきよりも随分と、撫でる力が弱いような気がしました。 花丸「えーとね、信仰形態に「イワイデン」っていうものがあるんだけど、これはいわゆる氏神信仰で、山中に小規模な祠をつくって周辺に住まう同族の人々が合同で氏神を祀ることずら。
次まるたちがいく◼◼も昔は似たような信仰があったみたいずら、同村に暮らす女の人の殆どは巫女の資格を持つ者だったらしくて、彼女たちは合同で、共通の神を祀ってたみたい。」
善子「巫女って結局なんなの?住職さんみたいな?」 花丸「あー住職さんとは違うかな。
巫女っていうのはね、神様と人間の仲介を行う職業なの、彼女たちは神憑りによって自分たちが祀る神様の意思を聞き取って、その意思に従っておまつりを行っていたってされてるずら。
当時に彼女たたが何を祀っていたのか、神が◼◼村の人々に何を望んだのかは、その神社の管理者や一部の村民にしか伝わってみたいで、今も判然としてないみたい。
んーあんまりいい事はなかったんじゃないかな?
今でも祠の周囲には神社が形成されてるけど、祠は未だ禁足地になってるみたいだし。」 【7/16】
◼◼◼は◼◼◼姉に、その手に持っている箱は何なのかと尋ねました。
◼◼◼の顔よりひとまわりほど小さいその箱は、黒い紐で重々しく結われていて、見るからに大事なものが入っているのだろうという感じがします。
「ああ、これはね」
◼◼◼姉は、その黒くて太い紐をしゅるりとほどいていきました。
ほどいた紐を持った右手で、箱の蓋を掴みます。
かし、と木が擦れる音がして。
◼◼◼は、箱の中を覗きます。
中には、きれいな刀が入っていました。
刀といっても、いつもお母さんが塩魚を切るときの庖丁よりも小さく、刃の切先も鋭くはありません。 持つところと刃の間にある、まるい板のようなところからは、幾つもの鈴がつり下げられています
、もしこれを持って、それこそ刀のように振ったら、並んだ鈴がきれいな音を鳴らすことでしょう。
これは一体、何を切るためのものなのか。◼◼◼が尋ねると、きれないものをきるんだよ、と。
◼◼◼姉は、そう言いました。
意味は、よく分かりませんでした。
それにしても、きれいなものです。
良く見ると、至る所に細かい装飾がされてあって、鈴も刃も丁寧に磨かれています。
きっと、位の高いものなのでしょう、こんな箱の中に入れて紐で結っているのですから、大事に大事に扱われてきたに違いありません。 そういえば。
少し前から◼◼◼の家に出入りしていた若い男のことを、突然に思い出しました。
両親と何やら難しそうな話をしていた彼も、腰に大きな刀を携えていたのです。
あれも、何か不思議な力を持っているものなのかな、と考えましたが箱には入っていなかったので、違うかもしれません。
誰だったでしょうか、詳しい名前は思い出せないのですが、この村には馴染みのない名字だったことは覚えています。
ええっと、あれはたしか────
「おおい」
振り向くと、困ったような顔でお父さんが立っていました。
そういえば、いつの間にかお父さんをおいて一人で行ってしまったようです。
慌てて◼◼◼姉に別れを告げ、お父さんのもとへ小走りで向かいます。 ダイヤ「この文を現代語訳して読んで欲しい?
ええ…かまいませんが
えー、この地においては、巫術に長けたものの用いる神具として、神楽鈴ではなく鉾先鈴などと称されるものが用いられることがあったという。
これは悪鬼羅刹の類を征伐するための貴い武具として伝わっており、それを搔き払うことで鳴らされる鈴の音は邪気を退けるので、巫女の祓いに用いられた。
広い長野の地にあって、この◼◼村においては特に鉾先鈴が重用されたとも云われるが、その理由は判然としない。 しかし一説には、この地を度々訪れたという呪術に抜きんでた男が、玄妙な一振りの刀剣を持っていたので、それに倣ったものとも語られる。
優れた巫女、神主の多い◼◼村において、その男がいったい何をしに来ていたのかは、村に長く住まう語り爺や語り婆に尋ねても、知らないと答えるのみであったという。
その男は、自らを応神と称した。」 【7/22】
昼みたいに光っている台の周りをきょときょと見回しながら、◼◼◼の手を引くお父さんに、これは一体何なのかと訊きました。
何処を見ても賑やかで、まるでお正月やお盆が何年か分、いっぺんに来たようです。
聞けば、このおまつりは、十年に一度しかやらないらしいのです、最後におまつりをしたのは、十年前。次におまつりをするのは、十年後なのだそうです。
ならば、◼◼◼がこのおまつりを知っている筈がありません。
でも、こんなに賑やかで楽しそうなものなら、もっとたくさんやればいいのに、なんでわざわざ、十年も待たないといけないのだろう。 ◼◼◼がそう思っていると、お父さんは、◼◼◼の考えを見透かしたみたいに、話しかけるともなく言いました。
「あれが、そうしたいと言うから。
それに使わされるもんは、言うことを聞くしか無えんだ。」
◼◼◼には、言っていることの意味は良くわからなかったのですが、その悲しいような、悔しいような気持ちの滲み出たお父さんの口調を聞いて、最近の夜に泣きながら話し合っている両親の声を思い出してしまいそうになったので。
もう、それ以上は聞かない事にしました。
「ほら、飴でも食うか。今日は何でも食わしてやるぞ」
いやに大きな声で、お父さんはそう言いました。 【浦の星女学院 Aqours活動記録】
『お祭りを成功させる為に◼◼に行ってどんな場所か知ろう!』
活動メンバー 黒澤ルビィ 渡辺曜 高海千歌 小原鞠莉 国木田花丸
活動期間
5/9〜5/14
5/11より抜粋 以下本文
担当 国木田花丸
五月の中旬ごろになると、住民の多くが参加して式年祭の準備が行われていました!
ちょうど、◼◼神社の先代神主が亡くなってからの節目の年だったそうです。 彼の死去した詳しい原因などは、殆どの住民には詳しく知らされていないらしく、「あれにとられてしまった」というよく分からない情報だけが伝わってたずら。
式年祭を指揮していた現在の神主に聞いたところ、あれの要求は今もなお続いているそうでした。そしてその頻度も、もはや抑えきれないほどに増してきているみたい。
(『あれ』について詳しい概要は分からなかったけど多分『怪異』というより信仰されてる神様に近いと思う)
最初期は十年に一度行っていた納涼祭も、今では五年、三年、二年と、その周期を狭めてきているみたいずら、そうでもしないと、あれを抑えることは出来ないってことなのかな。 そこでちょっと気になることがあったんだけど、式年祭に代表されるように、神道においては人の死後に行われる葬送儀礼は、少しずつその周期を伸ばしていくのが慣例なんだよね。
死の三日後から始まり、三十日祭、百日祭、一年祭みたいに、祀られるものが現世に接触する機会を少しずつ絶っていくことで、つつがなくあちら側の世界に送り出そうとしたのだとも言われているんだけど。
じゃあ。
あれを祀る納涼祭の周期が短くなっていることは、一体何を意味してるのかな? 【7/28】
普段の暮らしでは見たことの無い食べ物や見せ物が、そこら中に並んでいます。
隣町から来たという飴売りの男の人から貰った水飴は、普段食べている芋や米粉の粥などとは比べられないくらいに甘く、夢中になって舐めていました。
その後でお父さんに連れられた屋台では、粉屋のお婆ちゃんが色々なものを振る舞っていて、◼◼◼には醤油の塗られた平たい米菓子と、何か良く分からないお水を呉れたのです。 その米菓子は甘辛く、美味しいのですが喉が渇いてしまいます。だからお婆ちゃんはこのお水を渡したのだと思うのですが、これが何だかへんなものだったのでした。
竹筒に入ったそれは白く濁っていて、鼻を近づけると嗅いだことの無いような匂いがします。残すのも粉屋のお婆ちゃんに悪いと一気に飲み込んだのですが、何だか舌がぴりぴりとする感触が暫く残っていました。
米菓子の最後のひとくちを口に入れ、ぽりぽりと噛んでいた頃。
お父さんは◼◼◼に、なあ、と話しかけました。
「一緒に、きれいなお屋台でも見に行かんか」 お父さんの声は、小さくても良く響きます。◼◼◼は迷わず頷いて、◼◼◼の右手を握っているお父さんの顔を見上げました。
おまつりの明るい灯が照らすお父さんの顔色は、いつもより白くなっているように思えました。
村の中を歩き通して、疲れているんだろうと思うと申し訳ないような気もしましたが。きれいなお屋台、という言葉の響きに、惹きつけられていました。
どんなお屋台だろうか。
お姉ちゃん達が美しく舞っていたような、お神楽の出し物か、それとも、とりどりの細工が施された可愛らしい菓子か、歌うたいや劇のようなものだったらと思うと、すこし心配です、◼◼◼にも分かるような、楽しげなものだと良いのですが。 皺だらけの浅黒い腕に引かれます。
夜市のような出し物の列が続く道を逸れて、山並みの中に在るでこぼこの小路を進む。
あかりはぽつぽつと減っていき、大人たちの笑い声もとおくに消えていきます。
その道は、何度か通ったことがありました。
この地に住まうこわいものの類を鎮めたりしていて、この村の女は誰もがそこでおつとめをする、◼◼、という神社。
その参道に繋がる、薄黒い山道です。
この林を抜けた先に参道があって、そこを通れば神社が見えます。その裏手には暗い獣道が通っていると聞いた事があるのですが、行った事はありません。 そこは、◼◼◼たちが入ってはいけないところなのだそうです。
みんなのいる世界ではないところだから。
ざくざくと、土と砂利を踏みながら進む。この先に、きれいな屋台があるのでしょうか。
確かに神社の中であれば、何かの催しがなされているかもしれません。
しかし。
その道は、あまりにも静かでした。
お父さん息遣いと、ふたりの跫が響くだけです。
祭囃子はいつの間にか幽かになっていて、さりさりと擦れる草木の音に、とかされているように感じます。 何となく不思議な気持ちがして、お父さんに話しかけようと息を吸った、その瞬間。
お父さんが言葉を発したので、◼◼◼は話の機を失ったような感じがして、口を噤みました。
「もうちょっとで着くからな」
見ると、いつの間にか道が開けて、参道に出ていました、道の先には、夜更けであるために見慣れないような気はするものの、覚えのある神社が見えています。
見えているのですが。
神社には、何のあかりもついていませんでした。
屋台はおろか、人が居るような気配もしません。 そこでお父さんは、違和感を感じている◼◼◼の様子に気付いていたのか、ちいさな声で言葉を続けました。
「ああ、もうちょっとな、もうちょっとばかり歩くんだ」
この神社の、裏手を通って。
そこにある獣道の先を、進む。
◼◼◼の手を握るお父さんの声が、随分とか細いものになった気がします。 花丸「えっとね、今回色々仮説を立てたの。ルビィちゃんの事に関する事だし、まだ確証を得たわけじゃないから誰にも話さないでね?」
花丸「………うん、ありがとう。
えっと、本題に入る前にちょっとだけ説明するね。
除霊、って分かる?
いわゆる悪霊、人や物、或いは土地などから取り除く、って儀礼として知られてると思うんだけど、実は神社やオマツリといったものを包含する神道において「除霊」って概念はないの。 あくまでも巫女さんや神主さんが「お祓い」をして悪いものを鎮めるという場合、それは今から話すみっつの方法に大別された方法をとるずら。
ひとつが、自らの身に何かの影響が起きないようにと悪いものを締め出し、シャットアウトする方法、悪いものがいなくなる、という訳じゃないの。
もうひとつが、祠や神社を作って祀り上げ、最大限おだてて隔離することで住み分ける方法。 最後が、霊から邪気的なもの、つまりは厄ずら。それを出来るだけ浄化して、いわば怪異の毒抜きをするという方法。
派閥にもよるけど基本的には、このあたりの方法をとることになると思う。
多分、今回のはこういった対処法の裡に生まれる隙を突かれて、生じたものだと思う。 【8/3】
参道と神社の裏を抜けたところに在る、その道の両側には、まるで行燈が並び立っているかのように、ぽつぽつと、赤い花が連なっていました。
森の奥へ、奥へ続く細い道。この花の連なりに従って、ぐねぐねと曲がる坂を上った先に、それは綺麗な屋台があるのだとお父さんは言いました。
祭囃子は、とうに聞こえなくなっています。
あれだけ村中を照らしていたあかりも、大人たちの笑い声も、ここまでは届かないようです。
◼◼◼は。
何かに導かれるように、足を踏み入れました。
先ほどまでとは違い、◼◼◼がお父さんの手を引くようにして、歩みを進める。 何だか、頭だけがふわふわと浮いている感覚がしました。ざり、ざり、という跫も、何故か頭の中で反響して、色んな所から鳴っているように聞こえる。
この先にとてもたのしいものが待っているんだという、嬉しいようなむず痒いような感情が、ちゃぷちゃぷと、頭の中にしみこんでいく。
からだの奥が、あたたかい。
ああ。
この先に、きれいなものがあるんだ。
この先にあるのはきっと、たのしいものなんだ。
そう思うと、とてもわくわくしました。 怖いから本文の邪魔をしない程度に誰か可愛いルビィちゃんの画像をくれ 花丸「まず前提として、この◼◼村に限らず、神社系の方が人間に憑いた怪異を祓うという場合はね、それは基本的にわざわざ浄化するまでもない低級霊なの。
だから例えば「うちの子供が狐憑きになった、祓ってくれ」となった場合、基本的にはその子供から狐の霊を追い出して、後はその家系に神の加護がありますようにと祈祷などして終わり、ってなるんだけど。
うん、気付いてると思うけどそこは巫女が住まう村、評判を聞きつけてわざわざ隣村からお祓いを頼まれるようなことも往々にしてあったみたいずら、すると猶更祓った後の霊に対する対処にも手が回らなくなるの。 多分、基本的にはさっき挙げた三つのうちで一つ目の対処法。つまり、自らの身に何かの影響が起きないようにと悪いものを締め出す方法をとっていたんだろうね。
それじゃあ、結果として行き場のなくなった動物霊や数多くの低級霊たちはどうなるか。
普通なら人里離れた山などに移り住むことによって棲み分けがされるんだけど、如何せん此処は巫女村、他のところから来て、そして祓われた霊たちが近隣一帯にどんどん増えていくずら。
境界、種族など意味を成さず、会うことの無かった筈のものたちが会ってしまう。
まるは、ここで彼らが何らかの形で「交雑」に成功したのではないかって考えたの。 ああ、いや、異種間の交配で生まれたという怪異の事例は、そこまで珍しいものじゃないずら。
うん。
その種が、この世ならざるものであったとしてもだよ。
違う動物同士でも、この世のものでなければ子を成せるかな?その辺りはまるも分からないけど、存外なんとかなるみたい。 遠野物語にも、恐ろしい「山男」とそれに拐かされた民間人との間に子供が何人も出来た、なんて話があるの。あの話では、成された子供は生まれた端から全て山男に食べられてしまっていたようみたいだけど。
こういう世界を研究していると、そんな話はそれなりに出てくるんだ。
狐とか、蛇とか、蛙とか、虫とか、人とか。
死霊か生霊かに関わらず、あらゆる種がぐちゃぐちゃに喰らいあい、交わりあう。 少しだけ此岸の人間に悪さをする、そんな他愛もない低級な霊だったものは、度重なる「交配」の末に、少しずつその力を強めていく。
そして、巫女たちが気付いたときには。
もはや原型が何だったかもわからないような、悪意の塊のような怪異が生まれちゃったんだろうね。
本当、可哀想ずら。 その結果沼津にはラブライバーが跳梁跋扈する事になってしまったのか 【8/9】
いつのまにか、坂を上り切って、平坦な道になっていました。
目を凝らすと、道の先には鳥居があって、その向こうでは木か竹で出来た骨組みを、何人かの人が囲んでいます。
あれが屋台なんだ、と思いました。 花丸「その、低級霊の成れの果てに対して、彼女ら……そう、巫女がどう対処したのかは、現時点ではまるももよく分かってないんだ。
お婆ちゃんに頼んで蒐集院時代の記録を調べてみたりもしたんだけど、どうも記録が散逸している部分があるように思うんずら。
ここについては、引き続き頑張って探してみる。 まぁ、可能性は色々と考えられるんだけど。
例えば、村々の合併や何かを経て、それぞれの村落共同体の文献資料が有耶無耶に散らばってしまったケース。
これは◼◼村の例に限らず、民俗誌編纂の現場でもよく起こることだから、可能性としては一番高いずら。 もうひとつは、記録を保持し続けることが出来なかったというケース。
言霊信仰は善子ちゃんも知ってるでしょ?地域によっては、ケガレや畏れを内包する言葉が伴ったことは、記録としても残さない場合があるの。
例えば、誰かが怖い目に遭った、とか。
誰かが死んでしまった、とか。 まるの家系はね、職業柄、生死に関わる風習や儀式を調査することがあるんだけど、たまに、そうやって「死の穢れを伴うから」と、書くこと自体がタブーになっている場合があるらしくて、もっと極端な事例だと、あの人はあちらの世界のものに名前を奪われてしまった、だから死者の名前を書けない、なんて事例もあるぐらいで。
ん?
あー。
なるほど。巫女に関する、ケガレを伴った風習ね。
うーん、数は少ないけど、例が無いわけではないかな。 例えば、巫女に限らず、霊を視たり調伏したりにも才能というか、生まれながらの貴賤のようなものがあるんだけど、特にそういった力が強いひとの場合は、その御霊を神や怪異のもとに捧げるといったことも、無くはなかったそうずら。
例えば、海神に仕える巫女って説もあるオトタチバナヒメは、荒れ狂う海を鎮めるために自ら荒波に身を投じたと言われてるの。
まああれは神話の範疇だけど、霊的な力を持つ者を贄とする風習の原初と見ることも出来るかな。 いや、勿論、実際には進んで贄になりたがる人なんて居ないよ。だから、いろんなものが入ったお酒を飲ませたり、あと海外では幻覚作用のある食べ物とかを摂取させたりして正常な判断能力を失わせることもあったんだって。
じゃあ次に、当日に用いる予定の櫓の素材について──── 【8/15】
くらい夜道のなかで、赤い花がちらちらと光るように咲いています。
◼◼◼は何となく、それをいとおしく思いました。
まだ、咲き切らずに蕾のままになっているものもありましたが。
蛍の光のように点々と灯るそれは、とても可愛らしかったのです。
ふわふわと、あしもとがおぼつかない。
それでも、握っているお父さんの手を支えのようにしながら、すこしずつ参道をすすみます。
足が砂と石を擦る、ふたりぶんの音にまじって、父の声がきこえてきました。 「なあ。もうすぐ、きれいなとこがみえるからなあ。
なんも、こわくねえから。
だいじょうぶ、おまえはめかけだからなあ。」
痰が絡まったような、弱弱しいお父さんのだみごえを、◼◼◼はすこし不満に思いました。
今日は、たのしむための日なのに。
これは、たのしい事をするためのおまつりなのに。 「ごめんなあ。
あれが、そうしたいって言うんだ。
あれに、たのしんでもらわなきゃいけねえんだ。」
お父さんの声も、ぼわんぼわんと響いて、よくきこえなくなっていきます。
あたたかい水の中を、ずぶずぶとかきわけて歩いているみたい。
ぶ厚くて、とうめいな飴を通して、ものを見ているみたい。
数歩しか歩いていない気もするし、何十分も歩き通したような気もします。
いつの間にか、鳥居が、目の前にたっていました。 鳥居の向こうには、何人か大人の男たちがいて、彼らの中心には、腰の高さほどの、さきほど村の中心で見た台のようなものが組まれていました。
しかし、それは前に見たものよりも随分とちいさくて、貧相なものでした。◼◼◼のようなこどもでも、横になれば膝が台からはみ出してしまうくらいの広さです。
台を見ると、まんなかにぽつんと、筵が敷かれています。座布団と同じぐらいの大きさで、ひとりが座ればそれだけで一杯になってしまうでしょう。 「だいじょうぶか。ひとりで、すわれるか」
鳥居の向こうにいた誰かが、◼◼◼にそう話しかけました。
ああ、◼◼◼が、このうえに乗るのか。
わたしは、お姉ちゃん達みたいに、きれいな踊りはできないのだけれど。
それに、あんなにきれいな千早も────
いや、それはいいや。
◼◼◼は、自分のからだを包んでいる、まっしろな着物を見る。
お父さんとお母さんが◼◼◼のために仕立ててくれた、うつくしい白色の衣。
肩上げもしていないそうです。それくらい、袖も裄もわたしにぴったりと合っていました。
あんなふうに色とりどりの装束でなくても、きっと、負けないぐらいにきれいでしょう。 台のそばには、伐り出した四角い木が、急づくろいの階段のように置かれています。
だいぶ足はふらつきますが、せいぜい数段です。昇る位なら、きっと大丈夫だと思います。
お父さんも手を握っているのだから。
とろりと下がりそうになるまぶたを、いちどだけ閉じて。
あらためて、目の前の鳥居と、その向こうの景色をながめる。
ああ。
そこでわたしは、気付きました。 目の前の、見知らぬ男の人たちの中にまぎれて。
ひとりだけ、みおぼえのある顔をみつけたのです。
おかあさん。
わたしは。
とりいを、くぐって、 ルビィちゃんが行方不明になりました。
行方不明になる前ルビィちゃんは「最近変な夢を見るんだあ」と口癖のように言っていました。
行方不明になる少し前ルビィちゃんは「ルビィは妾なんだあ」と言っていました。
もしかしたら、まるの推察は当たっていたのかもしれません。
まるにはもうどうにもできないのかもしれませんが、精一杯やってみます。 終わりです。
そろそろお盆なので祖先や神様に纏わる形で書いてみました、ここまで読んで頂きありがとうございました。 好きな雰囲気の話だった
ルビィちゃんはこういうの似合うね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています