きな子「結ヶ丘女子高等学校吹奏楽部B?」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
長編SSです、吹奏楽の知識は殆ど無いのでご了承ください。 第一章
きな子「音楽科の教室は何処っすか……」
きな子「(新しく出来たクラスメイトに吹奏楽部の見学に誘われたはいいものの……その子とは逸れるし場所は分からないしで……)」
きな子「まさか普通科と音楽科の音楽室が違うなんて誰も思わないっす……死ぬ……しぬぅ……」
きな子「あの子には悪いっすけど、もう帰った方が良いっすかね……」トボトボ きな子「(それにしても、人の気配がするのに静かな音楽室っす……)」ソーッ
「――三、四」
きな子「(あ、これ……)」
きな子「(……楽器の、演奏?)」
きな子「(規則正しい指揮に合わせてそれそれが音を出してる……)」
きな子「(んん…よく見えないっすけど……演奏してるのは二人だけ?……随分少ないっすねぇ……)」ムムム きな子「(……すごい、薄く儚い音にも、胸に直接響くような重さがあって……)」
きな子「(中学時代の吹奏楽部はこんなしっかりとしていた……?思わず身体を前のめりにして演奏に聞き入ってしまうっす……)」
きな子「(包み込むように朗々とした美しい音色に合わせて、柔らかで深々とした音色、全体に響くような暖かい音色。どの音も気持ち良く調和していて、演奏している人達が楽しそうで、綺麗で、輝いていて――)」
きな子「(なんだか、少し羨ましいっす……)」
「――あれ、新入生の子?」
きな子「ぎゃっ!?」ビクッ きな子「ご、ごめんなさい!ただ少し道に迷って……音楽室を探していたら此処に着いたんすけど、演奏、やってて。つい聞き入ってしまったっす!ごめんなさぁいっ!」ペコペコ
千砂都「お、落ち着いて!?別に怒ってるわけじゃないから」
すみれ「ちょっと、何の騒ぎよ」ガララッ
千砂都「あ、すみれちゃん。この子、教室の前にへばり付いてたの。話し掛けたら凄いパニックになっちゃったみたいで……もしかして入部希望とか?」
きな子「ひぇっ!?にゅ、入部!?」 千砂都「うん。いくら音楽科とは違えど、こっちも立派な吹奏楽部だからね。ほらっ、ちゃぁんと書いてあるんだよ」
きな子「な、なんすかこれ……」
きな子「吹奏楽部、びー?」
千砂都「そうっ!ここは吹奏楽部B!訳あって、音楽科の吹奏楽部とは違うんだ」
かのん「わ、なになに、新入部員?」ヒョコ
可可「まさかの新学期初日に!」ヒョコ
きな子「ち、違うんですぅ〜っ!!!」アワアワ ―
――
―――
かのん「成程。迷っちゃったんだね」
きな子「はい……誘ってくれたクラスメイトの子ともはぐれちゃって…行き場を無くして居た時に見つけたのが、普通科の音楽室……吹奏楽部、びーの部室で……」
可可「でも見つけてくれて嬉しいデス!ここの音楽室は授業以外に通り掛かることなんて一切無いデスから、奇跡デスよ奇跡!」ズイッ
すみれ「こーら、がっつかないの」 すみれ「それで?さっき扉の前でへばりついてたっていうのは?」
千砂都「私がこっちに来た時からへばりついてたけど……もしかして、演奏聞いてくれたとか?」
きな子「あっ、はいっ!すっごく良い演奏でした!きな子、吹奏楽とかあんまり興味無かったっすけど、何でか惹き込まれちゃって!」コクコク
きな子「見たことない楽器で演奏していたから余計に!」キラキラ かのん「そう?見たことないかな?」
可可「クゥクゥは割と有名な方だと思っていマシタけど……」
すみれ「オーボエもユーフォも、吹奏楽興味無い人からしたら馴染みも薄いに決まってるでしょ……」
千砂都「そうだ!きな子ちゃん、もう少しだけ見ていかない?折角吹奏楽部の見学に来たんだから、試しに楽器吹いてみたりしてもいいよ」
きな子「ほ、本当っすか!」パアァッ
千砂都「もっちろん!この部活の部員、私達四人だけなの。だからきな子ちゃんに入って貰えたらすっごい嬉しいなぁ」
きな子「そ、それは……」 すみれ「千砂都、無理に勧誘しない。……じゃあ、それぞれの担当楽器紹介でもする?」
きな子「はいっ!聞きたいっす!」キラキラ
すみれ「なら先ずは私から…私が担当しているのはこれ!トランペットよ!見た目も音色も知っている通り、カッコ良くて、目立ちまくりの楽器よ!」
きな子「ラッパ!ラッパっすよね!」
すみれ「トランペットだっての」
すみれ「でも私が思うに一番カッコイイ金管楽器よ!」
千砂都「いやいや、トランペットじゃないよ金管ナンバーワンは」
可可「その通りデス。現実見ろデスよ」
すみれ「現実見てるのは私の方じゃない???」 千砂都「すみれちゃんは置いといて……私はこれっ、ホルンって楽器なんだ!私が大好きなのはこの真ん丸なフォルム!演奏するのはちょっぴり難しいんだけど……仲良くなれたら綺麗な音を出してくれるようになるんだぁ」
きな子「ホルン!カタツムリみたいな形っす!」
可可「クゥクゥはこれデス!ユーフォ!ユーフォニアム!カッコイイデショウ!?」バーンッ
きな子「初めて見たっす」
可可「唉呀!?マジデスか!?」ガーンッ
可可「……こ、これはクゥクゥのお姉ちゃんから譲り受けた大事な大事なユーフォニアムデス!とーっても柔らかくて暖かくて、優しい音色が出せマス!」
きな子「すごいっす!UFO!」
可可「違いマス!!」 かのん「あっはは……えっと、私はオーボエっていう楽器です……」
きな子「………………え、それだけっすか……?」
かのん「いざ説明するとなると、意外と難しくて……」
すみれ「試しに吹いてみたら?」
かのん「ええっ!?は、恥ずかしいよ〜……」
すみれ「あっそ。……どれか興味は持てた?」
きな子「そりゃもう全部興味出てきたっす!……でもその、きな子、全然楽譜とか読めないし……楽器も吹いたり出来ないっすから、迷惑掛けちゃうんじゃないかと……」
かのん「そんなことない!初心者でも大歓迎だよ!」
可可「クゥクゥ達が手取り足取り、全部教えマス!」
きな子「ほんとっすか……?」 すみれ「ええ。無理にとは言わないから、もし本当に入部してみたいって気持ちがあるんだったら責任を持って私達が教えるわ」
千砂都「そうそうっ!四人も居るんだもん!楽譜の読み方からぜーんぶ教えちゃうよ!」
きな子「そうっすか……」
きな子「……あの、さっきからずっと気になってたことがあるんすけど……」チラッ
千砂都「……ん、どうかした?」
きな子「さっき『音楽科の吹奏楽部とは違う』って言っていたけど、あれはどういう意味っすか?」
きな子「先輩は音楽科の人っすよね?」
千砂都「……そうだなぁ、どこから話す?」 かのん「う、うーん……そう言われると難しいというか……」
かのん「ちぃちゃんは確かにこの中で一人だけ音楽科だけど、こっちの部活に入ってくれた…みたいな?」
すみれ「音楽科の吹奏楽部はコンクールで全国に出て、金賞取ることが目標なのよ。それはどこの吹奏楽も一緒、だとは思うんだけど。私達はその例外っていうか」
可可「それぞれ違った事情があって、ただ楽しく皆で演奏シタイ!……という気持ちで生まれたのがこの吹奏楽部Bなのデスっ」
きな子「事情……?」 すみれ「……それは本人達しか知らないわ」
千砂都「私達、全然そういうこと共有し合ってないんだよねぇ……」
かのん「部活は楽しくやるものだしさ!無理して嫌な思いするのはちょっと……」
可可「人数が少ない分、出来る曲は全然無いデスけど……こういうのも楽しいんデスよ。……きな子ちゃんは嫌デスか?」
きな子「えっと……」アワ
きな子「入部、少し考えてもいいですか……?」
かのん「…………分かった」
かのん「無理言っちゃってごめんね」 きな子「いえ!見学、すっごい楽しかったので!」
かのん「それなら良かった。それじゃあ、また」
きな子「はいっ、失礼しますっ」ガララッ パタン
きな子「…………ふぅ」
きな子「(それぞれ違った事情を抱えて、皆で楽しく演奏しているだけの吹奏楽部Bか、それとも……全国を目指して必死に練習している音楽科吹奏楽部Aか……)」
きな子「(どっちが正しいかなんて、きな子には……)」 ―
――
―――
かのん「今日から一年生の正式入部が出来るらしいんだけど……」
千砂都「誰も、来ないね……」
ガララッ
可可「ダメデスぅ……後輩、ゼロ……」ズーン
すみれ「向こうの吹部は結構来てるみたい……ここまで来てないのは私らだけじゃない?」
かのん「でもそれらしい勧誘はしなかったし仕方ないと言えば仕方ないんだろうけどさぁ……」
コンコンコンッ
かのん「あーあ、来ないかなぁ……一年生……」
「「「「……………………」」」」 可可「え!?今ノックされマシタよね!?」
すみれ「されたわよね!?私の幻聴じゃないわよね!?」
かのん「嘘!?やっぱり!?」
千砂都「こ、これはまさか……!!」
ガララッ
きな子「しっ……失礼するっす!」ペコッ
きな子「入部、したいっすけど!」
かのん「……え、」
かのん「本当に、ここでいいの……?」
きな子「はい!」 きな子「あの日からずっと考えてました。……だけど、楽しそうに演奏している先輩達みたいになりたい。きな子もああいう風に吹けるようになりたい!そう思ったっす!」
千砂都「きな子ちゃん……」
可可「うぅ……良い後輩デスっ……クゥクゥ、良い後輩を持ちマシタっ……」ウルウル
すみれ「……ったく、遅いったら遅いわよ」
すみれ「これから宜しくね」ポンポンッ
きな子「――!はい!」パアァッ
かのん「良かった、良かったよぉぉ……」ポロポロ
千砂都「な、泣いてる!泣かないでかのんちゃ〜ん!」アワアワ 可可「五人デス五人!!嬉しいデスね〜!」
きな子「お世話になりますっす!」ペコッ
すみれ「それじゃあ今日は新入部員が入ったってことで、打ち上げにでも行く?」
千砂都「いいねぇ、行っちゃお行っちゃお!」
かのん「きな子ちゃんありがとおおぉっ!」ポロポロ
すみれ「あんたはいい加減泣き止みなさいよ……」 ―
――
―――
かのん「――ということで、今日から練習を始めていこうと思います」
きな子「はいっ!よろしくお願いします!」
かのん「と言っても、まだ楽器決まってないよね」
千砂都「今から音楽科の音楽室まで行って、楽器を見に行こうと思ってるんだ。ちゃんと許可は取ってるから怒られたりはしないし、安心して」
可可「実際に楽器を見てみて、吹いてみて、自分がやりたいと思った楽器を探して欲しいデス!」
すみれ「今は吹けなくとも、練習を重ねて行くうちに音は出るはずだから、出る出ないじゃなくて、好きになれそうな楽器を選んだらいいわよ」
きな子「分かりました!」 千砂都「それじゃあ、音楽科へ、れっつごー!」タッ
可可「行きマスよ〜、きなきな!」タッ
すみれ「あ、こら!2人とも廊下走るんじゃないわよ!」タッ
かのん「私達も行こっか、きな子ちゃん」
きな子「はい!」コクリ ―――
きな子「楽器が、いっぱいっす……!」キラキラ
千砂都「どれか気になる楽器はある?」
きな子「あの!きな子、かのん先輩が吹いてるやつみたいなのが良いっす……!」
すみれ「オーボエ?」
可可「オーボエ側としてはどうデスか?」
かのん「ダブルリードは音出すの難しいからなぁ……これとかどう?」ガサガサ
きな子「これは?」キョトン
すみれ「クラリネットよ。雰囲気は似てるでしょ?」 かのん「取り敢えず吹いてみて?」
きな子「わ、分かったっす……!」プスーッ プスーッ
きな子「はぁ……はぁっ……なんで出ないっすか……」ゼェゼェ
千砂都「どうしようか……違う楽器も見てみる?」
きな子「いえ!きな子、これにします!」
可可「そんなあっさり!?大丈夫デスか!?」
きな子「今はダメでも、努力して、この楽器を好きになっていくうちにきっと吹けると思うんです!……それじゃ、ダメですか?」
かのん「……ううん、大丈夫っ」 かのん「きな子ちゃんがそこまでやる気になってくれるなんて思わなかったよ」
千砂都「そうだねぇ、良いこと良いこと!」
千砂都「それじゃ、その楽器を持って向こうの音楽室に戻――
「何をしているのですか」
すみれ「あんたは……」
恋「……」キッ
千砂都「れ、恋ちゃん!あのね、私達の部活に新入部員が入ったから楽器を取りに来たの」
恋「そう、だったのですか……?」
千砂都「うんっ、しっかり先生にも許可取ってるよ」 恋「そうですか……すみません、勘違いをしていて……」
千砂都「ううん、気にしないで。葉月さんはこれから練習?」
恋「はい」
千砂都「そっかそっか。頑張ってね」フリフリ
恋「ありがとうございます…」チラッ
きな子「……?」キョトン
恋「……貴女は、本当にそこで満足しているのですか」
きな子「は、はへぇ?」 かのん「ちょっと、いきなり何言うの」
可可「む、無理な勧誘はやめてくだサイ!」
すみれ「これのどこが勧誘よ!?あんた、なんのつもり?」
恋「……その人達は……コンクールも目指さないで…ただ皆で仲良しこよししているだけの部活なのですよ……あまりにも無意味過ぎます」
かのん「!……そんなこと……っ!」ギリッ
恋「本気で吹奏楽部として練習したいなら、こちらに来るべきだった」
恋「貴方達吹奏楽部Bという部活動は、音楽科を……いえ、この学校の名を汚しています」
かのん「……っ、…!」バッ
すみれ「かのん」ガシッ すみれ「……あんたの言い分は分かったわ。でも、私達の活動を侮辱する権利はあんたに無い。あんたが何と言おうと、私達はこれを続ける気で居るから」
すみれ「行きましょ」スタッ
かのん「……すみれちゃん……」
きな子「ど、どういうことっすか……?」
可可「とにかく行きましょう、きなきな」
きな子「わ、わかったっす!」
千砂都「…………葉月さん」
恋「……っ、帰ってください……」
千砂都「……うん。ごめんね」
パタンッ
恋「…………」 ―――
きな子「あの人は一体誰っすかぁ……」グデッ
かのん「ごめんね、きな子ちゃんにはまだ言ってなかったっけ……」
可可「あの人は可可達がこの部活を設立した時から邪魔してくる人なのデス!」
すみれ「ほんと、今年も付き纏われるのね……」
かのん「……葉月さん、どうして私達のこと嫌ってるんだろう……」
千砂都「分からないけど……多分、気にしちゃうのかな。本気でやってる人が私達を見ると、やっぱり何処か遊んでるように見えちゃうんだと思う」
かのん「遊んでるなんてそんな……!」
すみれ「でも、実際そうでしょ?……自分達の事情を盾にして皆で仲良しこよししてるだけじゃない」
「「「「「………………」」」」」 千砂都「きな子ちゃんの楽器も無事見つかったところだし、今日はもう帰ろうか」
きな子「えっ……もう帰るっすか……?」
千砂都「練習出来る雰囲気でも無いしね」
かのん「……ごめん」
千砂都「う、ううん!かのんちゃんが悪いって言ってるんじゃないよ」
きな子「先輩……」
可可「じゃあ、きなきなは可可と残りまショウ。基礎を少しだけ教えマスよ」
きな子「可可先輩……でも……」
すみれ「可可、今日の練習は無くなったんだからそれは……」
可可「ただの自主練デスよ。駄目デスか?」 千砂都「……それなら、問題無いよ。じゃあ可可ちゃん任せてもいい?」
可可「はいっ!」コクリ
すみれ「……なら私も自主練していくわ」
きな子「すみれ先輩もっすか!?」パアァッ
千砂都「──じゃあ、私達は帰ろうか」
かのん「……うん、ごめんね、2人とも。きな子ちゃんも……」
きな子「大丈夫っす!明日からまた一緒に練習しましょう!」ニコ
かのん「……ありがとう。それじゃ、また明日」
千砂都「それじゃあ、うぃっすー!」
ガラララッ
パタンッ…… きな子「────あの、」
きな子「この部活、どうしてあの葉月さんって人に目を付けられてるっすか?」
くぅすみ「「………………」」メアワセ
可可「……話した方が良いのではないデスか」コソッ
すみれ「何で私が言うのよ。あんたが言いなさいよ」コソッ
可可「嫌デス。すみれ、絶対笑いマス」コソッ
すみれ「笑わないから言って見なさいよ、ほら早く」コソッ
きな子「あの、先輩……?」
くぅすみ「「……!」」ハッ すみれ「……はぁ、あのね、前にも話したと思ったんだけど…私達、それぞれが抱えた事情があるのよ」
きな子「その事情、というのは?」
すみれ「私は……中学の時だったわね。コンクールでソロパートを吹けるように、一人でずっと真面目に練習してきたの」
すみれ「同じパートの同級生はずっと駄弁ったり、遊んだりばっかりで練習は全くしないし、……私より、下手だったし……」ギリッ
すみれ「……でも、ソロパートに選ばれたのは駄弁ってばかりの同級生だった。その人と仲が良かった先輩が推薦したんですって」
可可「すみれ……」 すみれ「悔しくて、納得出来なくて、私はそこで吹奏楽部を退部したわ。……それから、コンクールも全部嫌になっちゃって」
きな子「……でもっ、」ガタッ
きな子「でも、音楽科の吹奏楽部に入ったら真面目に練習した人が報われるんじゃないっすか!?……どうして、音楽科じゃなかったっすか……?」
すみれ「そうね……なんかもう、嫌なのよ。そういうの」
すみれ「……コンクールでソロパートを吹いてみたいって気持ちは今でもある。でも、また同じようなことになってしまったら…私はトランペットまで嫌いになってしまう」
すみれ「それは、嫌なのよ」
きな子「先輩……」 可可「……っ、」ギュッ
すみれ「さ、私はちゃんと話したわよ。可可も話しなさいったら話しなさい」
可可「……可可は、…いえ可可のユーフォは元々お姉ちゃんの物だとはこの間言ったと思いマス。覚えてマスか?」
きな子「はいっす!」コクリ
可可「お姉ちゃんのユーフォは、とっても綺麗な音色で柔らかくて、優しくて……可可はお姉ちゃんのユーフォが大好きデシタ」
可可「お姉ちゃんは、お母さんからの誘いで中国のブラスバンドに入って毎日楽しくユーフォを演奏していマシた」
可可「可可もお姉ちゃんのお陰でユーフォが大好きだったので、偶にお姉ちゃんのユーフォを借りて演奏したりもしていマシて……」 可可「でも、ある日突然、お姉ちゃんはユーフォ奏者を辞めてしまったんデス」
可可「お姉ちゃんはユーフォを辞める前、可可に『私の代わりに日本で演奏して欲しい』と言いマシた」
すみれ「……どうして中国じゃ駄目だったの?」
可可「中国には吹奏楽という文化が無いんデスよ。だから日本に留学して、高みを目指した方がいいって」
可可「だから可可はユーフォを辞めてしまったお姉ちゃんのユーフォを持って留学してきマシた」
きな子「……どうして可可先輩のお姉さんはユーフォを辞めちゃったっすか?」
可可「……それが分からないんデス」フルフル
可可「ただ可可は、もしかしたらお姉ちゃんは中国ブラスバンドのコンクールメンバーに選ばれなかったのかなと思っているのデスが、実際のところは分からなくて……」
可可「でも、もしそうだったらお姉ちゃんがコンクールに対して良く思っていないのは確かで……可可も、コンクールは、……出ない方が良いのかなって……」ショモ
きな子「……そうっすか……」 すみれ「お互いがお互い、コンクールに対してのトラウマや嫌な気持ちがあるのよ。だから音楽科と一緒にコンクールを目指さずに、私達だけでって部活をしていたら目をつけられるようになったってこと」
きな子「はへぇ……部活は違うんだし、好きにさせたらいいのに……大変っすねぇ……」
すみれ「さ、そろそろ練習しましょ」ガタッ
すみれ「私達はコンクールに出ないとは言ったけど、だからと言って練習しなくてもいいってことにはならないしね。きな子、まだ音出ないし」
きな子「ぅぐっ……ごもっともっす……」
可可「そうデスねっ、今日の目標は音を出すことデス!」
きな子「…………」チラッ
くぅすみ「「……」」ワチャワチャ
きな子「(先輩も、色々あるっすねぇ……)」 吹奏楽部って文化系なのに体育会系の嫌なとこだけあるからなあ −
−−
−−−
翌日
担任「はーい、ではプリントを配るので一人一枚取ったら後ろに回して下さい」
きな子「……クラリネットはどうやったら音が出るんすかね……咥え方?吹き込み方?それとも……」ブツブツ
メイ「おい、桜小路、プリント……」
きな子「……でもかのん先輩は音が出ないなら最初は運指を学んだ方がいいって……」ブツブツ
メイ「?……お、おいって」ポンッ
きな子「はひっ!!」ガタッ
担任「さ、桜小路さん……?大丈夫ですか?」
きな子「……あっ」
きな子「す、すみません……」サッ メイ「大丈夫か……?」
きな子「す、すまねぇっす。部活のこと考えてて……」
メイ「……桜小路って、何部に入ったんだ?」
きな子「きな子は吹奏楽に!と言っても、音楽科と合同じゃなくて、普通科の数人が集まってる吹奏楽部っすけど……」
メイ「……ふぅん」
キーンコーンカーンコーン
担任「じゃあそのプリントは必ず各自明日までに記入してくること。はい、終わります」
日直「起立、気をつけ、礼」
「ありがとうございました〜」 きな子「(やっと放課後っす!)」ガタッ
メイ「あ、桜小路、まっ──」
きな子「(今日こそ音出すっすよ〜!)」タッ
メイ「……行っちゃった……」
四季「メイ、帰ろう」
メイ「……ああ、今行く」
四季「……気になるの?吹奏楽」
メイ「聞いてたのかよ……」
メイ「……別に、興味ねぇよ。私らも何か部活に入らないといけないんだろ。ただ参考になると思っただけだ」
四季「……そう」 −−−
かのん「息を吹き込みながら咥える場所を少しずつ変えてみて。そうしたら音出る場所が見つかると思うから」
きな子「は、はいっす……」スッ
きな子「…………っ、」プスーッ プスーッ
きな子「……っ!」プーッ!
きな子「かのん先輩!音!音出たっす!」パアァッ
かのん「そうそう!そんな感じで、何回もやってみて音が出る場所を覚えるの!」
きな子「しかも!!唇が!ぶるぶるって!!マナーモードくらいぶるぶるって!!!」キラキラ
かのん「うんっ、その感覚も覚えとこうね!」 可可「可愛いデスねぇ、きなきな」
すみれ「音出たのが余っ程嬉しかったのね……」
ガラララッ
千砂都「うぃーっす!」
可可「あっ、千砂都ぉ〜!」トテトテ
千砂都「まさか可可ちゃん、またあれ?」
可可「そうなんデスよ、折角ユーフォ見つけたのにぃ……」ペソ…
千砂都「買い取るよ、いくらだった?」
可可「400円デス〜……」
千砂都「400円かぁ、今度は高いねぇ」 きな子「あれって何ですか?」
かのん「ああ、可可ちゃんガチャガチャ好きなんだけど、ユーフォが入ってるガチャガチャってそんなに無いんだよね。しかも金管楽器のガチャガチャって、ホルン率高くて……毎回ホルンが出たらああやってちぃちゃんに買い取ってもらってるの」
きな子「はへぇ…そんなガチャガチャがあるっすか?」
すみれ「今度見に行く?多分クラリネットもあるわよ」
きな子「えー!見に行きたいっす!」
千砂都「じゃあ練習終わったら皆で見に行こっか!」
きな子「はいっす!」コクリ
すみれ「じゃあ練習再開するわよ、かのんはきな子と2人ね。他は簡単な合奏練習から」
「「「「はーい」」」」 −−−
かのん「それじゃ今日の練習はここまで!お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした〜」」」」
きな子「……あ、きな子教室に忘れ物してきたっす……」
可可「着いて行きまショウか?」
きな子「いえ、きな子ひとりで行けるっす!先輩達は先行ってて下さいっす!」
かのん「分かった、じゃあ下駄箱のとこで待ってるね」
きな子「はいっす!」タッ きな子「──えっと、ノート……ノート……」ガサゴソ
四季「桜小路、きな子ちゃん」ヌッ
きな子「ぎゃあああっ!!?!?」ビクッ
きな子「わ、若菜さん!!!?どどどどどうしてきな子の机の下に隠れてるっすかぁ!!!」
四季「驚くと思って」
きな子「そりゃ驚いたっすよ!!!きな子が来なかったらどうするつもりだったんすか!!!」 四季「その心配は無い。ずっと見てたから」
きな子「み、見てたぁ……?」ポカーン
四季「うん、ここの教室、きな子ちゃんの席。ちょうど音楽室が見えるの。きな子ちゃんが走って出て行ったのを見て、もしかしたらと思って」
きな子「そ、そうだったんすか……それで、そんな所に隠れて何をしてるっすか?かくれんぼっすか?」
四季「お願いがあるの」
きな子「お願い……?」 四季「実は、私とメイは吹奏楽部に興味がある」
きな子「ほんとっすか!?……メイ、メイ……米女さんも!」パアァッ
四季「明日、体験入部とかさせて貰えないか聞いてきて欲しいの」
きな子「な、なるほど…体験入部の期間は終わってるっすけど、かくにんしてきてほしいってことっすよね」
四季「うん。ダメ?」コクリ
きな子「いえ!問題無いっすよ!今日は先輩達と一緒に帰るっすから、その時聞いてみるっす!」
四季「ありがとう、宜しく」
きな子「はいっす!それじゃあまた明日!」タッ
四季「うん、また明日」フリフリ
四季「──ん、」ガタッ
四季「結局、ノート忘れてる……」 −−
−−−
翌日・放課後
きな子「──ということで、体験入部に来た若菜さんと米女さんっす!」
四季「よろしくお願いします」ペコリ
メイ「よ、よろしくお願いし──って四季!これどういうことだよ!?!?」
四季「興味ありそうだったから、頼んだ」✌ ブイ
メイ「んなこと頼んだ覚えはねぇよ!」
かのん「え、えっとぉ……」
メイ「!」ハッ
メイ「よ、よろしくお願いします……」ペコリ 千砂都「えっと、突然だったから音楽科の方からの許可が降りなくって……今日は取り敢えずココにある楽器しか使えないんだけど大丈夫?」
四季「……」コクリ
メイ「あ、ああ……」コクリ
可可「ならトランペット、オーボエ、ユーフォ、ホルン、クラリネット……後は誰も使ってないサックスとトロンボーンと、チューバ……それから打楽器が少しだけ……」
すみれ「ひとつずつ吹いてみたら?」
四季「そうしてみます」
メイ「わ、私も……」 かのん「それじゃあさっき可可ちゃんが言った順番で行こっか。若菜さんと、よめ…よね……よめめさんだっけ?」
メイ「よ、米女です……というかメイでいいです……」
かのん「あっはは、……ごめん、こういうの苦手で……メイちゃんと、」チラッ
四季「……四季」
かのん「四季ちゃんね。メイちゃんと四季ちゃん、お互いに待つ時間を無くす為にもメイちゃんはトランペットから、四季ちゃんは打楽器とチューバから吹いてみよっか」
メイ「わ、分かりました……」 すみれ「じゃあメイは私が着くわ。トランペット、私のだし」
千砂都「なら私もメイちゃん着くよ」
かのん「私と可可ちゃんは四季ちゃんに着こっか」
可可「はいデス!」コクリ
四季「……よろしくお願いします」
すみれ「はい、」ヒョイ
メイ「こ、これは?」
すみれ「トランペットのマウスピースよ。……あ、ちゃんと洗ったから……汚くないから……」
メイ「べ、別に気にしてません……」 すみれ「これに息を吹き込んで音出してみて。唇を震わせる感じで」
メイ「は、はい……」スッ
メイ「──っ!」ブーッ!
千砂都「おおっ、メイちゃん上手いねぇ。一回で鳴らせるなんて凄い!楽器、やってたの?」
メイ「い、いえ……何も……」
すみれ「なら早速本体吹いてみましょ。マウスピースで直ぐ音鳴らせるんだったら多分行けるわよ」スッ スッ…
メイ「は、はい……っ」
メイ「(どうしよう……)」
メイ「(が、楽器吹くだけなのにめちゃくちゃ緊張すりゅぅぅぅ〜!!!)」バクバク
きな子「が、頑張れっすふたりとも〜!」コットンキャンディー エイエイオー
メイ「……ぁ、え……」フルフル
千砂都「だ、大丈夫……?」
メイ「す、すみません……緊張して……」スッ 可可「頑張ってくだサイ!気合いデス!」
四季「……っ!」フーッッ!
四季「……無理です、音が出ません……」
かのん「チューバは難しいもんねぇ、私達も全然音出たことないんだよ」
可可「かのんはちょーっとだけ出てマシたよね?」
かのん「演奏出来るくらいには音出せないけど……」
四季「……ん」チラッ
メイ「!」ハッ メイ「……ふ、吹いてみます……」
メイ「……っ!」プーッ!
すみれ「ほら、普通に出るじゃない」
メイ「……で、出た……」
きな子「米女さん凄いっす!!!きな子なんて全然音出ないのに!」
すみれ「金管と木管じゃ違うでしょ……」
四季「メイ、凄い」パチパチ
メイ「なっ……ぁ、う……」カアァッ 千砂都「メイちゃんは金管が得意かも。トロンボーンとか誰も居ないからこっちも吹いてみる?」
メイ「は、はいっ……」
かのん「四季ちゃんはもう少し金管試してみる?」
四季「…………あれ、」ユビサシ
可可「サックスデスか?」
四季「……吹いてみたい、ダメですか?」
かのん「ううん、大丈夫だよ。あれも吹いてみよっか」
四季「……」コクリ
千砂都「……良かったね、お友達入って来そうで」コソッ
きな子「はいっす!」ニパッ −−−
「「「「「「「お疲れ様でした〜」」」」」」」
きな子「ふたりとも!今日の体験はどうだったっすか!?」
四季「楽しかった」
メイ「ま、まあ……私も、楽しかった……」
きな子「入部してくれるっすか!?」
メイ「そ、それは……」
四季「……メイ、」
メイ「……分かってる」グッ
きな子「?」キョト メイ「……なぁ、桜小路」
きな子「どうしたっすか?」
メイ「……私も、…四季から聞いてはいたと思うんだけど、吹奏楽部に興味あるんだ」
メイ「ほら、中学とかでも放課後残ってりゃ演奏が中庭とか、音楽室とか。パート練習だと近くの教室からとか、色々聞こえるだろ?」
メイ「……音楽は嫌いじゃない。いつかはあそこに混じって、私も演奏がしてみたいって思うようになって……」
メイ「だけどさ、苦手なんだよ。集団。……グループって言うのが、そこまで好きじゃなくて。自分には向いてないんじゃないかってずっと思ってた」
メイ「でも、桜小路が勇気を出して入部した吹奏楽部は、私が見てきたものを変えたんだ。初心者でも、練習に着いて行けるんだったら、私も、桜小路と一緒に頑張りたい」
メイ「正式に入部、しようと思ってる」
きな子「〜っ!」パアァッ
きな子「嬉しいっす!先輩達もきっと喜んでくれるっすよ!」 きな子「若菜さんはどうするっすか!?」パッ
四季「わ、私……?」
四季「私は……」
メイ「興味、湧いてきたんだろ」
メイ「最初は私の為だったかもしれない。でも、サックス吹いてる時の四季の顔は物凄く楽しそうだったし、輝いてた」
メイ「……私と一緒に、始めてみないか?」
四季「メイ……」
四季「……っ、わ、私も……入部、したい……」
きな子「若菜さんも!!」パアァッ
きな子「やったっすやったっす〜!」ワーイワーイ
きな子「今日は打ち上げっすよ!ファミレスに行くっす〜!!」タッタッ
メイ「あっ、ちょっと待て桜小路〜!」タッ
四季「……っふふ、」タッ −
−−
−−−
翌日・放課後
しきメイ「「よろしくお願いします」」ペコリ
すみれ「い、一気にふたり……大豊作ね……」
千砂都「担当楽器の希望は、メイちゃんがトロンボーン、四季ちゃんがサックスって聞いてたけど間違いない?」
四季「はい。合ってます」コクリ 可可「ここにある楽器希望なら音楽科の方まで取りに行かなくていいので良かったデスね」
かのん「そうだねぇ、また葉月さんに何か言われたら嫌だし……」
メイ「その、葉月さんっていうのは?」
すみれ「……また1から説明しないとね」
かのん「うん、実は──」
しきメイ「「────コンクールに出ない?」」 千砂都「うん、この部活はそういう風にやらせてもらうって約束で音楽科の吹奏楽部とは別々にやってるの」
すみれ「全員がコンクールに対して良い思いは持ってない、それなのに、コンクール全国大会金賞、なんて目標付けても意味無いでしょ?」
メイ「そ、それはそうかもしれないけど……」
かのん「……不満?」
メイ「不満、というか……私は全員で、この少人数でコンクールに出るのかと思ってたから……なんか、……」ムムム
可可「納得出来なさそうデスね……」 千砂都「……やっぱり辞める?私達の我儘を後輩達に押し付けるのは、ちょっと可哀想じゃない……?」
可可「そうデスね……かのん、すみれ。あの、可可達もコンクール目指して頑張──」
かのん「──無理、だよ……」
かのん「……ごめん、私には無理……」フルフル
きな子「か、かのん先輩……震えてるっすか……?」
すみれ「……」ガタッ
すみれ「私は、出てもいい。だけど全員が納得する形で出来ないのなら私はこの部活ごと辞めるわ」
千砂都「え、えぇ?……ちょ、ちょっとふたりとも一旦落ち着こうよ……」アワアワ メイ「す、すみません……私が変なこと言ったばっかりに」
千砂都「う、ううん!メイちゃんは悪くないよ!」
四季「あの……出るか出ないかに関わらず、それぞれ抱えている事情を話すべきではないですか?……その、そうしないと、全員が納得する形、というのは……」
可可「そ、そデスね……っ」グッ
千砂都「……ふぅ、いい加減話そうか。私達も隠してたって良い気はしないでしょ?」
かのん「…………うん……」 八つ橋です。今日は家に居ないのと、投下分の内容が準備出来ていない為 おサボりします。すみません。 可可「……可可は、お姉ちゃんから譲ってもらったユーフォニアムをもっと上手くなりたいという思いで日本に留学してきマシた」
可可「…お姉ちゃんのユーフォ、……元々お姉ちゃんもユーフォニアム奏者だったんデス」
可可「でもある日突然辞めてしまって、……お姉ちゃんは可可のことを心配して、偶に連絡をしてくれるのデスが、ユーフォのことは全く聞かなくて……」
可可「この間、きなきなとすみれにこの話はしマシたよね。……その後電話で聞いてみたのデス。お姉ちゃんは、可可がコンクールに出るとしたらどうする、と」
可可「『もうその話はしないで』と言われてしまいマシた……その時思ったのデス」
可可「もしかしたらお姉ちゃんは、ユーフォを……コンクールを、嫌いになってしまったのかなって……」 四季「……平安名先輩は?」
すみれ「……私は可可と同じできな子には話したのだけれど、私にはコンクールの会場でソロを吹いてみたいって気持ちがあったの」
かのん「……っ、」ピクッ
すみれ「だからその為にも一人でずっと真面目に練習していたのに、……結局選ばれたのはふざけてばかりの態度で練習に参加してた人だった」
すみれ「そこで吹奏楽部は退部したわ。……でも、コンクールには行ったの。その人のソロは本当に酷かったわよ。笑っちゃうくらいにね」
かのん「……」ギリッ
千砂都「……かのんちゃん」
かのん「分かってる。分かってるけど……」
すみれ「?……何?そんなに私の話が嫌なの?」
かのん「ち、違うよ!……そうじゃなくて……」
すみれ「だったら何よ。さっきからビクビクビクビクしてるけど、一体何なの?」 可可「す、すみれ。そんな言い方は……」
かのん「────吹けなかったの」
すみれ「は?」
かのん「……私、コンクールでソロを吹かせてもらえることになってたのに……本番、吹けなかったのっ!!」
かのん「本番の会場の大きさ、観客の多さ……それから、周りからのプレッシャーで……私はソロの場面で過呼吸になって、その場で倒れたの……」
かのん「コンクールは台無しで……私、どうしたらいいのか分からなくなっちゃって……」
可可「か、かのん……」
メイ「……っ、」 メイ「……千砂都先輩は、どうしてコンクール目指さないんですか」
千砂都「……ふぅ、」
千砂都「私は、かのんちゃんと小さい頃から仲良しだったの。だから小学生の時に一緒にブラスバンドを始めて、中学校の時も一緒に吹奏楽部に入った」
千砂都「……私は、ずっと見てたの。かのんちゃんのこと」 千砂都「……勿論、吹けないところも見てたよ。かのんちゃんが倒れて、会場中パニックで、……どうしたらいいのか分からなくて」
千砂都「かのんちゃんがまたコンクールで吹けるようになるまで、隣で支えようって思ったの」
千砂都「だから私はコンクールには出ない。今は、ね。いずれは皆で出たいなって思ってるよ」
千砂都「皆は、どうかな?」 すみれ「……私は出たい。演奏に偏りは出てしまうけど、それでも出たいわよ」
可可「……可可は……お姉ちゃんが……」
千砂都「お姉ちゃんとか関係無いよ。……可可ちゃんは、出たくない?」
可可「……いえ、可可も出たいデス。…出て、お姉ちゃんに、聞いて欲しい」
すみれ「……あんた達は?」
きなしきメイ「……!」ビクッ
きな子「き、きな子は……まだ分からなくて……」
メイ「私もまだ決められない。まだまだ始めたばかりだし曲も吹けないし、……そんな私らが出たい!……なんて言える雰囲気でも無いだろ」
四季「メイの言う通り。私達が胸を張って言えることでは無いと思う」 千砂都「かのんちゃんは?」
かのん「……私、は……」
すみれ「……リベンジ、出来るかもしれないわよ」
かのん「リベンジ……」 −
「外苑西中学校、銅賞」
ザワザワ
「やっぱり?だってソロの子倒れてたもんね」
「あのオーボエ、凄い上手だったのに勿体無いね」
かのん「………………」
千砂都「…………」
「かのんちゃんが居たら、全国行けると思ってたのに」
かのん「……っ!」
− かのん「はっ…っ……!」ハッ ハッ
千砂都「かのんちゃん!」バッ
かのん「こ、ないで……っ……」ハッ ハッ
かのん「……私が、……私の所為で……っ」
きな子「……かのん、先輩……」
すみれ「……帰りましょうか」
可可「え?」
メイ「い、良いのか?ほっといても……」
四季「……多分、帰った方がいい」 千砂都「ごめんね、皆。かのんちゃんは私に任せて」
すみれ「……ごめんなさい」
千砂都「大丈夫、謝らないで!私は大丈夫だからっ」
すみれ「……ええ」
ガララッ
パタン… 可可「…………どうしまショウか」
四季「練習、出来ない」
メイ「まさかあそこまで荒れるとは思わなかった……すみません、私の所為で……」
すみれ「メイの所為じゃないわよ。私が、火に油を注いじゃったから」
可可「誰が悪いとか、誰の所為とか言ってる場合じゃないデスよ。……折角2人入ってくれたのデスし、ファミレスにでも行きまショウ!」ワーイ
きな子「……」
可可「きなきなは何が食べたいデスか?可可はナポリタンが食べたいデス〜!」
メイ「ならパスタでも食べに行きますか?」
きな子「きな子は……野菜たっぷりのカレーが食べたいっす」
四季「それじゃパスタ屋さんには無い」 すみれ「……っふふ、全く……」
すみれ「私の家、来る?ナポリタンでもカレーでも、メイ達が食べたいものも全部作るわよ」
メイ「えっ!マジですか!?」パアァッ
四季「……モンブラン……」
すみれ「もっ、モンブラン……まあ途中でケーキ屋さん寄りましょ……」
ワイワイ −
−−
−−−
可可「それじゃまた明日〜!」フリフリ
きな子「はい!さようなら〜!」フリフリ
きな子「…………」スッ
きな子「……」トボトボ −
かのん「……私、コンクールでソロを吹かせてもらえることになってたのに……本番、吹けなかったのっ!!」
かのん「本番の会場の大きさ、観客の多さ……それから、周りからのプレッシャーで……私はソロの場面で過呼吸になって、その場で倒れたの……」
かのん「コンクールは台無しで……私、どうしたらいいのか分からなくなっちゃって……」
−
かのん「……私が、……私の所為で……っ」
− きな子「……コンクールって……そんなに怖いんすかね……きな子もコンクール、出たいけど……まだ下手っぴだし……音も出ないし……」
きな子「……はぁ……」
きな子「あっ、そういえばシャンプー切れてたっす。買いに行かないと──」
かのん「きな子ちゃん?」
きな子「ぎゃっ!!!」ビクッ
かのん「やっぱりきな子ちゃんだ!まだ制服だね、何処か行ってたの?」
きな子「は、はい……先輩達とご飯食べてきたっす。あの、かのん先輩……」
かのん「あっはは……心配掛けちゃってごめんね。もう大丈夫だよ。きな子ちゃんは、これから何処かお買い物?」
きな子「はい、シャンプーを買いに……」
かのん「なら一緒に行こう、私も今日買い出し当番なんだ」 きな子「買い出し当番?」
かのん「うんっ、ウチ、カフェやってるの。きな子ちゃんも今度おいで、奢ってあげるから!」
きな子「そ、それは申し訳無いっす……」
かのん「きな子ちゃんは良い子だねぇ」ヨシヨシ
きな子「は、はあ……」
かのん「それじゃ行こっか、買い出し!」ニッ −
−−
−−−
かのん「それじゃまた明日の放課後ね」
きな子「……」ショモ
かのん「……気にしなくて大丈夫だよ。ねっ?」
きな子「はい……」コクリ
かのん「じゃあ、また明日」フリフリ きな子「(これで、いいの?)」
きな子「(先輩はコンクールでリベンジしたい。きな子達もコンクールに出てみたい。……諦める理由なんて、──ひとつも無い)」グッ
きな子「かのん先輩!」タッ
かのん「へっ?」クルッ
きな子「きな子、もっともっと上手くなります。今はまだ、音も出ないけど……、でも、でもっ!」
きな子「かのん先輩達と、大きな会場で吹いてみたいです!大きな景色を見てみたい!かのん先輩と一緒に吹きたいです!」
かのん「きな子ちゃん……」
きな子「それじゃ……ダメ、ですか?」 かのん「……私、また吹けないかもしれない。また同じように倒れちゃって、皆が汗水垂らしてコンクールの為に練習してきた毎日が無駄になっちゃうかもしれない」
かのん「きな子ちゃんは、……こんな先輩でも、コンクール出ていいよって言ってくれる?」
きな子「……っ」グッ
かのん「……私、期待されるのが怖い。かのんちゃんなら大丈夫、かのんちゃんが居れば勝てるって。そう言われるのが怖い」
かのん「でもね、オーボエは好きなんだ。もっと上手くなりたいし、もっと好きになりたい」 かのん「……実は私も、最初はほとんど音出なかったんだよ」
きな子「え?」
かのん「でも必死に足掻いて、やっとあの音色を手に入れたの。きな子ちゃんがまだクラリネットの音が出なくて悩んでるかもしれないけど、それは気にしなくていいよ」
かのん「本気でコンクール出たいって、言ってくれてるなら、私も全力で応える。……私も、きな子ちゃんとあのホールで演奏したい」
かのん「ダメ、かなぁ?」コテリ
きな子「かのん先輩……!」パアァッ
きな子「きな子、もっと頑張るっす!だから沢山教えて欲しいっす!」
かのん「うんっ!一緒に頑張ろうね!」
かのきな「「えいえいおー!!!」」オーッ −
−−
−−−
翌日・放課後
かのん「──ということで……私は、コンクール賛成、なんだけど、……皆はどうかな?」
すみれ「ど、どういう風の吹き回しよ……まあ元々私は賛成してたしね」
可可「可可も賛成デス!」
千砂都「……私も賛成。皆でパワーアップしていける機会中々無いしね!」 かのん「きな子ちゃん達は、どうかな?」
きな子「きな子も賛成っす!先輩達とおっきなホールで吹きたくて、今から練習したくて仕方ないっす!」
メイ「……私は……」
四季「私は賛成。目標があるのは物事を進めることに至って効率的」
メイ「……私も、賛成だ。ずっと夢だったコンクールに出られるんだよな」コクリ
千砂都「決まりだね、それなら方針が変わったって音楽科の方に言いに行かないと」
すみれ「……ん?」 すみれ「でも待って。同じ学校から2組がA編成に出ることって出来たかしら?……A編成とB編成、になるわよね?」
かのん「えっ!?」バッ
四季「そもそも私達の人数で出場することって出来るんですか?」
全員「………………」
かのん「ど、どうしよおおおおおっ!?!?この人数じゃヤバい!やばいよおおおおおっ!!!」 かのん「あ、でも5人でA編成に出場した高校もあるみたいだけど……」
すみれ「いや、それは無理ね」
すみれ「A編成は確実に音楽科の吹奏楽部が出場すると思う。落ちこぼれの私達は強制的にB編成に決まってるわ」
かのん「だよねぇ……」
メイ「A編成とB編成の違いって、一体何なんだ?」
可可「A編成は部員が36人以上。しかし55人までと規制があるので、ほとんどが部内オーディションを行ってコンクールメンバーを決めていることが多いデス」
可可「一方B編成は部員が31人以上35人以下であること。B編成は大体部内オーディションに落選した子達がこっちへ流されることが多いデスね」 千砂都「A編成とB編成の大きな違いは全国大会まで行けるかどうか。A編成は行けるけど、B編成はそこまで大会が無いの」
すみれ「全国大会に行きたいなら、それ相応の実力と音楽科の吹部を納得させられる理由が必要になるってこと」
可可「……問題はやはり音楽科デスね」
メイ「音楽科って、そんなに上手いのか?」
可可「勿論。大体こういう場合は、音楽に力を入れている音楽科が優遇されるのデスよ。可可達が座学している間にも演奏練習していたり……、勝てっこないデス」 きな子「はぇ〜……ど、どうするっすか?」
すみれ「どうするも何も、一旦音楽科に言ってみるしかないでしょ」
かのん「そうだね、一か八か行くだけ行ってみよう」 −−−
音楽科・音楽室
恋「認められません」
かのん「だ、だよねぇ〜……」
恋「大体、どうして突然コンクールに出たいなど言い出したのですか。去年は頑なに出たくないと言っていたのに」
すみれ「別に良いでしょ。私達の部活なんだし好きにさせなさいよ」
恋「そういう訳にも行きません。貴女達がコンクールに出ると言った以上、私達が関わらなくてはいけなくなりました。勝手に出場することは許しません」
可可「む……相変わらず頭がカチンコチンデスね」 メイ「…………これが攻略不可能な葉月さんか……」コソッ
四季「だいぶ、捻れてる」コソッ
きな子「怖いっすねぇ。……生理中っすかね?」コソッ
恋「そこ。聞こえてますよ」ギロッ
きなしきメイ「「「!」」」ビクッ 四季「……音楽科や普通科で括りを付けずに決めるべきだと思う」
恋「例えば、何があるのですか」
千砂都「…………オーディション、とか」
千砂都「学科同士でオーディションして、どっちが相応しいか決めよう。それで音楽科が出るべきだって思ったら音楽科が出てもいい」
千砂都「でもその代わり、私達の方が上手かったら私達がA編成に出たい。それはダメ?」
恋「千砂都さん……わ、私は問題無いですが、そっちは大丈夫なのですか?」
恋「楽器の数は勿論ですが、迫力や技術は初心者ばかりの吹奏楽部Bには難しいのでは無いですか?」 きな子「……絶対大丈夫です!この先輩達と一緒なら、もっと頑張れます!」
メイ「私もだ。音楽科には気合とやる気は絶対負けない」
四季「Me,too」
恋「……なら好きにしてください。オーディションのことについては私からまた連絡します」
かのん「……分かった。ありがとう、葉月さん」
千砂都「それじゃ皆戻ろっか」 −−−
普通科・音楽室
かのん「どうしよおおおおおっ!!!!」
かのん「勢いであんなことになっちゃったけど……オーディションなんて絶対無理だよおおおおおおおっ!!!!」
千砂都「もー、メソメソしないで?」
すみれ「あんたが言うな!オーディションとか決めたのあんたでしょ!」
千砂都「ご、ごめん……」ショモ 可可「どうしマスか?可可達はともかく、きなきな達は正真正銘の初心者…1から指導しないと音楽科に勝つことは……」
千砂都「……一年生には、課題曲を作ろう」
千砂都「オーディションまでに、課題曲を形に出来れば一緒にオーディションを受ける。だけど、形にならないようなら、オーディションは私達4人だけで出よう」
一年生「「「「……え?」」」」 すみれ「ちょ、ちょっとそれどういうこと!?」
可可「そんな可哀想なことするんデスか!?」
千砂都「私達も全国大会目指すならこのくらいの覚悟が無いと無理だよ。私達も、一年生も」
千砂都「課題曲は『聖者の行進』。この曲は初心者でも演奏出来る比較的簡単な曲だから真面目にやれば形になるはず」
千砂都「指導に関しては皆が選んでいいよ。同じ木管だからかのんちゃんにした、とか、教え方が上手いから可可ちゃんがいい、とか。それは好きにしてもらって構わない」
千砂都「だからかのんちゃん達もそれに応えて、全力で教えてあげて欲しい」
かのん「……分かった」 かのん「まず基礎を吹けないと曲も演奏出来ないから、今日から基礎を固めてこう。きな子ちゃんは私が、メイちゃんはすみれちゃんが、四季ちゃんはちぃちゃんが担当しよう。可可ちゃんは困ってる子を中心に回って欲しい」
可可「分かりマシた。じゃあ今日の練習は一年生を中心に、ということデスね!」
すみれ「なら早速適当に空き教室使ってやりましょ。時間は無いんだし、早く練習するに越したことはないわ」
千砂都「そうだね。じゃ、練習始めよう!」 −−−
かのん「じゃあ今日はここまでにしようか。お疲れ様でした!」
「「「「「「「お疲れ様でした〜」」」」」」」
可可「お腹空いたデス〜…すみれ!今日もご飯作って!」
すみれ「はぁ〜?今日も?……まあ、別にいいけど」
千砂都「あっ、二年生だけ残れる?ちょっとこれからの指導法について少し話したいんだけど……」
くぅすみ「「はーい」」 メイ「じゃあきな子、四季、私らは帰ろうぜ」
可可「あれ?メーメー達、楽器持って帰るんデスか?」
四季「……家でも繰り返しやりたちから……」
すみれ「練習熱心なのはいいことだけど、無理だけはしちゃダメだからね」
メイ「はい、分かってます」
しきメイ「「お疲れ様でした」」ペコ
きな子「あーっ!待って2人ともー!きな子も一緒に帰るっす〜!」
きな子「先輩達、お疲れ様でした!」タッ メイ「あんまり廊下は走んなよ。葉月さんに怒られるぞ」
きな子「良いんすよ良いんすよ。さて、きな子も帰るっすよ〜!」ゴソゴソ
きな子「あっ……楽譜忘れたっす……」
きな子「メイちゃん、四季ちゃん。先帰ってて欲しいっす」
メイ「いいよ、待ってるから早く行ってこいよ」
きな子「メイちゃん!優しいっす!すぐ戻って来るっすから!」タッ −
普通科・音楽室
千砂都「どう思う?一年生」
かのん「十分伸び代はあるよ。……でもやっぱり3人だけだとバランスが悪いというか…一年生も気張りつめちゃうし、あと何人か入ってくれたら良いんだけど……」
すみれ「でも教えるにはもう手一杯でしょ。これ以上初心者が増えたらどうしようも無いわよ」
可可「せめてあと1人デスね。初心者なら今は可可が手が空いてマスし、1人くらいなら簡単に指導出来マスよ」 千砂都「……技術はどう?」
かのすみくぅ「「「!」」」ハッ
すみれ「……メイは上手いわ。初心者なのにあそこまで安定した音が出せるのは才能がある証拠よ。あとは音階とかを身につけておけばすぐに曲の演奏は出来そうね」
可可「シッキーも肺活量が無いだけで十分伸び代はありマス。入部すると決めた時からサックスについて色々調べたようで、運指も少しずつデスが、出来ていマシた」
千砂都「メイちゃんと四季ちゃんは問題無さそうだね。きな子ちゃんはどんな感じだった?」
かのん「……そう、だなぁ……」 かのん「──きな子ちゃんは、頑張ってるけど……まだ音も上手く出ないみたいだし、楽譜もまだ読めないみたいだから、…間に合うかどうかは……」
千砂都「……そっか」
かのん「でも、きっときな子ちゃんならやってくれると思う。凄い頑張り屋さんなんだなっていうのは十分伝わってるからね」
ガタッ
可可「んぁっ!?だ、誰デスか!?」ビクッ
きな子「す、すまねぇっす……」ヒョコ
かのん「き、きな子ちゃん!?聞いてたの!?」ガタッ きな子「ごめんなさい……忘れ物、しちゃって……あの、きな子……」
すみれ「これから一緒に頑張っていきましょ。最初から出来る人なんていないわよ、ねっ……?」
きな子「はい……」
きな子「あの、部員、足りないんすか…?」
可可「……はい、このままではやはり演奏に厚みが出ず、音楽科に圧倒されてしまうかと……」
きな子「……そうっすか……」
千砂都「きな子ちゃんは気にしなくて大丈夫だよ。元々私達がちゃんと勧誘しておけば良かったんだしね」
かのん「うんうん、気にしないで?」
きな子「……分かったっす……」 すみれ「はい、これ」ヒョイッ
きな子「え?」
すみれ「忘れ物って、楽譜でしょ?ちゃんと目通しておきなさいよ」
きな子「ありがとうございます!……それじゃあ、今度こそお疲れ様でした」ペコリ
ガララッ
パタン…… きな子「…………」トボトボ
きな子「…………きな子、才能無いっすかね……」ペラッ
きな子「(あれ……楽譜、何か書いてある……)」
『きな子ちゃんならもっともっと上手くなる!一緒に頑張ろうね! かのん』
『加油!今頑張ったら、後から見える景色は素晴らしいですよ! クゥクゥ』
『厳しいこと言っちゃったけど、ほんとはきな子ちゃんのことだーいすきだからね!がんばろう! ちさと』
『ちょっとずつだけど上手くなってるわよ。一緒に頑張りましょ すみれ』
きな子「せ、先輩ぃ……」ウルウル メイ「おい、何ぽけーっとしてんだよ。置いてくぞ」
きな子「あっ!?そういえば待たせていたっす!!」ハッ
四季「楽譜、何か書いてあった?」
きな子「はいっす!先輩達から応援メッセージが!」ジャーン!
メイ「私らにも書いてあったぞ。楽器とか譜面台を用意してる時わざわざ書いてくれたんだろうな……」
四季「うん、先輩優しい」
メイ「入って良かったな。この部活」
きな子「はいっす!明日からも頑張るっすよ〜!!」エイエイオー! −
−−
−−−
翌日・普通科 一年生教室
きな子「(とは言ったものの、部員数が足りないのは事実っすよね……)」ウーン
きな子「(きな子が朝からクラスメイトに話し掛けてるっすけど、やっぱり皆何処か部活に入ってるっす……)」
きな子「(というかこの時期まだ帰宅部の人とか居るっすかねぇ……)」ムムム 「オニナッツー!」
きな子「おに、なっつ?」キョトン チラッ
夏美「日々のあれこれエトセトラ!貴女の心のオニサプリ!オニナッツこと、鬼塚夏美ですの〜っ!」
きな子「何してるっすか?」コテリ
夏美「ちょっとぉ!何画角に入って来るんですの!これだとリテイクになってしまいますの!」
きな子「りて……???」ポカーン
夏美「はーっ!もうこれだから田舎者は!」 夏美「やっぱり学校での撮影は無理ですの。早く家に帰って編集を……」ブツブツ
きな子「部活、やってないっすか?」
夏美「え?……ええ、入る意味が無いから」
きな子「一年生はこの時期、必ず入部しないといけないっすよ?」
夏美「ぅぐ……ば、バレなきゃいいんですのバレなきゃ……さ、さぁて、私はこれで失礼するですの〜」ソローリ
きな子「ま、待って!」パッ
夏美「な、何ですの?腕を掴んで……」 きな子「あ、あの……吹奏楽部、興味無いっすか!?」
夏美「吹奏楽?別に興味無いですの」
きな子「そう言わずに……っ!見学だけでも来てくださいっす!」
夏美「……大体、吹奏楽を本気でやりたい人は音楽科に行くべきでは無いのですの?」
夏美「少なくとも、私は普通科でのんびりとした授業を受け、嗜む程度に部活をし、帰って編集していた方が有意義な時間が過ごせますの」
きな子「……そう、っすか……」ショモ… 夏美「……はぁ、執拗い人ですのね。そんな顔されたら私が悪者になってしまいますの」
夏美「あくまで見学だけ。入る気は無いので勘違いはしないでください」
きな子「!」パアァッ
きな子「ありがとうっす!鬼塚さん!」 −−−
普通科・音楽室
夏美「鬼塚夏美です。この人に誘われて見学だけ来ましたの」ペコリ
メイ「い、一年だ……」
四季「同じ一年生……」
夏美「な、なんですの……」 かのん「きな子ちゃん!勧誘して来てくれたの!?」
きな子「はいっ、やっぱり先輩達困ってるなって思ったっすから。……ダメだったっすか?」
可可「いえ!きなきなは良くやりマシたよ〜♪」ナデナデ
きな子「えへへぇ」ニマ すみれ「まあ取り敢えず見学ってことだけど、色々な楽器を吹いてみるといいわよ」
千砂都「そうだね、まずチューバから行ってみる?」
夏美「えっ?いやあの、見学だけって……」
千砂都「良いから良いから♪ほら、ここに座って」
夏美「は、はあ……」ストン
可可「じゃーん!これが、チューバデス!」バーン!
夏美「知ってますの」
可可「唉呀!!!!」ガーン 夏美「……こんな大きな楽器、私には似合わないですの」
すみれ「まあまあ、取り敢えず吹いてみて?」
夏美「……む、」ブオォーッ
かのん「おおっ、音出るじゃん!」 夏美「……凄いんですの?」
かのん「そりゃもう!チューバって凄い肺活量がいるから、音が出ない子も居るんだよ」
四季「私も、出なかった」
メイ「私はスカスカな音しか出なかったな」
きな子「そもそもきな子はチューバが重くて構えられなかったっす!」
夏美「……そう……」 千砂都「夏美ちゃん、この楽器やってみない?地味だし重いし、今は好きになれないかもしれないけど……すっごく気にいると思うんだ」
夏美「だから入るつもりは──」
きな子「鬼塚さん、絶対楽しいと思うっす!きな子達もまだまだだし、先輩達に迷惑掛けてばっかっすけど、……でも、きな子、鬼塚さんと一緒に頑張りたいっす!」
四季「発展途上だけど、その分伸びる。この先輩方は教えるのが物凄く上手いから、貴女も簡単に吹けるようになると思う」
メイ「私も、一緒に頑張ってくれるやつが一人でも多く居ると励まし合えるし、何より高め合えると思うんだ。……一緒にやらないか?」
夏美「…………はぁ、」 夏美「それで断ったら私が悪い人になってしまいますの」
すみれ「えっ、じゃあ入ってくれるの?」
夏美「……仕方なくですの。大体、この時期は必ず入部しないといけないのでしょう?お試しですのお試し」
かのん「や、やったー!」ヨッシャー!!
可可「これで8人デス〜!チューバ!低音!同じデス〜!」
千砂都「良かったねぇ、可可ちゃん。それなら可可ちゃんは夏美ちゃんの指導頼んでいい?」
可可「分かったデス!一緒に頑張りまショウね〜♪目標はオーディションまでに『聖者の行進』の演奏が出来ることデスよ〜♪」
夏美「は?オーディション?」
可可「あっ」 すみれ「そういえば説明してなかったわね」
すみれ「実は────」
夏美「な、なるほどですの……音楽科と競い合っているのですね」
すみれ「競ってるつもりはないけど……」 メイ「それで、一年生はある程度吹けないと先輩達と一緒にオーディションに出られないんだ。だから、課題曲の『聖者の行進』を形にすることを求められてるんだ」
四季「ただ、そこまで難しくはない。みたい。……初心者からすると、難しい。楽譜が追い付かない」
きな子「きな子は音も出ないっす……」ウゥ…
夏美「だ、大丈夫なんですの?それ」
千砂都「その為にも今は私達二年生がマンツーマンで指導するから、夏美ちゃんにはしっかり着いてきて欲しい」 すみれ「頑張った分だけ見える景色は大きくて綺麗なの。一緒に頑張ってくれるかしら?」
夏美「……分かりましたの。今はまだチューバを好きになれるか自信が無いですけど……やっていくうちに、好きになるかもしれないですの」
夏美「やる!やるったらやってやるですの!」ウオオオッ
可可「おお!ナッツ燃えてマス!」
かのん「それじゃあ打倒音楽科目指して頑張るぞ〜!」
「「「「「「「「お〜〜っ!!」」」」」」」」 −
−−
−−−
一週間後・普通科音楽室
すみれ「──ストップ」
すみれ「きな子、チューニングズレてる」
きな子「えっ!?あ、ほ、本当っすか!?」
すみれ「うん、やり直してみて」 すみれ「メイと四季は焦り過ぎ。ちゃんと周りの音聞いて」
しきメイ「「はい」」
すみれ「夏美は……途中で疲れちゃってるわ。音が段々無くなってる。もっと肺活量付けて」
夏美「分かってますの!」
すみれ「……良し、私はここまでね。各自自主練なり、他の先輩捕まえるなりして合奏練習して」
きなしきメイなつ「「「「ありがとうございました」」」」 メイ「はあぁぁっ……」グデッ
四季「すみれ先輩の指導、very hard……」
夏美「厳し過ぎですの……休憩無しって……」
きな子「難しいっす〜……」
メイ「……でも一週間でよくここまで仕上げたよな。私達」
夏美「案外才能あるかもしれないですの」
四季「先輩方の教え方も上手いから身につきやすい」 きな子「皆はいいっすよ、才能あって……きな子なんかまだまだっす……さっきもチューニング注意されたし……」
夏美「たまたまですの。元気出して?」
きな子「むーっ……」
四季「次、誰かに頼む?」
メイ「そうだな、あと一人頼んで今日はもう自主練にした方が良さそうだしな」
夏美「出来るだけ優しい先輩がいいですの……」 メイ「んーとなると……かのん先輩は教え方下手だし、千砂都先輩は鬼だし、すみれ先輩はさっきやって貰ったから……」
きな子「可可先輩?」
四季「それなら優しく指導してくれそう」
夏美「………………そうでもないですの」
メイ「ん、何か言ったか?」
夏美「いえ何も。さ、早く言いに行くですの」 −
きな子「可可先輩!ご指導願えますか!!」
可可「良いデスよ〜!」
可可「ちゃんと言いに来るなんて偉い後輩ちゃん達デスね〜♪可愛い可愛い」ナデリナデリ
きな子「えへへぇ、って違うんす!!」
メイ「合奏練習、お願いしたいんですけど……」
可可「ああ!そういうことデスか。いいデスよ!」 可可「じゃあその4つのイスを使いまショウか。はい、座って楽器構えてくだサイ」
きな子「……はいっ、」スッ
メイ「……」スッ
四季「……」スッ
夏美「軽い楽器は羨ましいですの……よっこいしょっ、と……」スッ
可可「ん……」キョロキョロ
可可「三、四──」スッ
きな子「……っ、」 可可「(一週間でここまで仕上げてくるなんて大した後輩デスね。可可達が抜かされてしまうのも時間の問題かもしれまセン)」スッ スッ…
可可「(──でも目立つ。ひとりひとりのミスが……)」
可可「ナッツ!一息一息丁寧に!音が小さいデスよ、そんなんじゃ合奏した時聞こえマセン!」
可可「メーメーはスライドが雑!ピタッと止めないと正確な音は出まセンよ!」
可可「シッキーは音が走ってマス!周りの音をしっかり聞いてくだサイ!」
可可「きなきな!音が出てマセン!ちゃんと練習してるんデスか!」 可可「……一旦ストップ」スッ
可可「全っ然ダメです。運指だけを気にし過ぎていたら全員吹くスピードがバラけていマス!ちゃんと指揮も見てくだサイ!」
きな子「ひゃ〜……可可先輩厳しいっす……」コソッ
メイ「だ、誰だよ可可先輩優しいとか言ってたヤツ……」コソッ
四季「ごめん。私。でもここまで指導してくれるなら夏美ちゃんが短期間でチューバ吹けるようになったもの納得」コソッ
夏美「可可先輩、見掛けによらず凄いスパルタですの。何度三途の川が見えるほど息を吐かされたことか……」コソッ
可可「こらーっ!集中デス集中!」ムキーッ
ガララッ
千砂都「可可ちゃん、ちょっといい?」
可可「あぇ、千砂都?全員での合奏練習はまだデスよね?」 メイ「そ、それって……」
千砂都「うん、それで一年生の課題曲の確認もするから」
きな子「…………」ゴクリ…
夏美「随分と早い話なのですね。まだ入って一週間しか経ってないというのに……」
可可「……やっぱり、可哀想なのではないデスか?いきなりこんな……」
千砂都「話は後。さっ、音楽室に移動しよ」 >>146 ミスりました
千砂都「音楽科からオーディションの詳細が来たの。皆もちょっと集まってくれる?」
メイ「そ、それって……」
千砂都「うん、それで一年生の課題曲の確認もするから」
きな子「…………」ゴクリ…
夏美「随分と早い話なのですね。まだ入って一週間しか経ってないというのに……」
可可「……やっぱり、可哀想なのではないデスか?いきなりこんな……」
千砂都「話は後。さっ、音楽室に移動しよ」 −−−
音楽科・音楽室
千砂都「ごめんね葉月さん、遅くなっちゃった」
恋「いえ、わざわざありがとうございます」
恋「一応音楽科吹奏楽部の顧問と、理事長へオーディションの件を話したところ、快く承諾してくれました」
恋「オーディションの日程ですが、今日から丁度二週間後になります。音楽科吹奏楽部の顧問と、音楽科の教師数名、それから神宮音楽学校の生徒であった理事長が審査をしてくださるとのことです」
かのん「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃ音楽科が有利じゃない?」 恋「学科の贔屓はしないよう言ってあるので大丈夫です」
メイ「信用出来ねぇ。どうせそう言っても音楽科が優遇されるんだろ」ズイッ
すみれ「ちょ、ちょっとやめなさいよ。あんたの先輩でしょ?」
メイ「ふんっ……」プイッ 恋「それならそれで結構です。貴女達が音楽科より上手ければ良いだけの話なのですから」
可可「そんな言い方しなくても……っ」
恋「……ただ、課題曲は貴女達が決めてください。私達音楽科も二週間でその曲を仕上げます」
千砂都「本当に何の曲でもいいんだね?」
恋「……はい、そういう話なので」 千砂都「……じゃあ、課題曲は『聖者の行進』。ウチの一年生は今これを練習してるから、私達も負けない。絶対に二週間で形にするよ」
恋「分かりました」
千砂都「それじゃこれで── 「待ちなさい」
きな子「あっ、あの人は……」
理事長「普通科と音楽科でオーディションを行うにあたって、約束があります」
かのん「約束……?」 理事長「もし普通科吹奏楽部がA編成に決まっても、音楽科吹奏楽部から抜粋したコンクールメンバーを加えることにしてください」
理事長「ただし、普通科吹奏楽部がB編成になってしまった場合には、音楽科吹奏楽部からコンクールメンバーに落選してしまった人を加えてB編成としてください」
すみれ「……ということは」
夏美「オーディションに落ちても通っても音楽科の人達とコンクールに出るってことですの……?」
理事長「そういうことになります」 かのん「…………分かりました」
四季「…………約束、するんですか?」
かのん「そういうことになっちゃってるんだもん……もう言い訳出来ないよ……」
恋「…………それでは、また二週間後。ここでお待ちしています」タッ −−−
普通科・音楽室
すみれ「話が違うじゃない!」バンッ
千砂都「すみれちゃん。気持ちは分かるけどもう少し落ち着いて……」
すみれ「でも……っ、」
可可「音楽科と合同だなんて聞いてマセンよ。話が違うというか……」
きな子「違うニュアンスで伝わっちゃったんすかねぇ?」
メイ「でもおかしいだろ。普通科は普通科だけで出ると思ってたのに、合同って……」
夏美「誰がこんな約束決めたんですの?」
すみれ「音楽科に決まってんでしょ!……もうっ……なんで今まで私達を軽蔑してきた人達とコンクール出なくちゃいけないのよ……っ」ギリッ かのん「……とにかく練習するしかないよ」
四季「そう。何か言っていても、約束してしまった以上受け入れないといけない」
メイ「それはそうだけどさ……」
千砂都「一年生もまだまだ出来てないことばかりだしね。一旦全員で合奏練習を何回かやったら、二年生と一体一で指導をしよう」
千砂都「……折角だし、コンクールと同じ並びで座ってみようか」
きな子「えっ!ほんとっすか!?」パアァッ 千砂都「うんっ、きな子ちゃんとかのんちゃんは一番前の……この席使おっか。座って座って」ポンポン
きな子「やったっす〜!かのん先輩と隣〜!」ストンッ
かのん「この席指揮が近くて嫌なんだよねぇ……」ストン
千砂都「夏美ちゃんはかのんちゃんの後ろね。四季ちゃんはきな子ちゃんの後ろ!」
夏美「分かったですの。よっこいしょ……」ストン
四季「……」ストン 千砂都「すみれちゃんとメイちゃんが一番後ろね。その間に私と可可ちゃんが入るから」
すみれ「はいはい」ストン
メイ「こ、ここでいいのか……?」キョロキョロ
すみれ「合ってるわよ、楽器持って座りなさい」
メイ「あ、ああ……」ストン
可可「可可はここデスね〜!」ストンッ
メイ「え”っ!?」
可可「え?」
メイ「い、いや……なんでも……」
メイ「(案外ちっかいな……スライド……可可先輩に当たりそうで怖ぇ……)」 千砂都「よーっし、メトロノームをセットして……」コトッ カチッ…カチッ…
千砂都「皆、楽器構えて」スッ
「「「「「「「………………」」」」」」」スッ
千砂都「──三、四」
かのん「(何だかぎこちないけど……ちゃんと形にはなってるんだよね……)」
かのん「(一年生、相当努力したんだろうなぁ……)」 すみれ「(……きな子、またチューニングズレてる。……いや、チューニングがズレてるというより吹いてる音が違うのかしら……でも運指は合ってるわよね……)」ムムム
可可「(ふむ……やはり指揮が居ないと演奏が走りマスね。特にシッキーは走りがちデス…指揮が居ないから……四季だけに、むふふふ……)」 きな子「(……っ、……ぁ。…またミス……音が、細いっす……どうして……)」アタフタ
四季「(……ズレてる?私だけ、少し早い?…メトロノームの音を聞こうとすると、今度は自分の演奏が聞こえなくなる……難しい……)」
夏美「(チューバって何でこんなに地味なんですの。……聞こえていないかもしれないのに、こんな必死に息を吹き込んで……なんか、かっこいいですの。裏で権力を握ってる感じで……むふふふ……あ、ミスりましたの)」 メイ「(くそっ……視界がぼやけて楽譜が見えねぇ……もうほぼ感覚でやってくしかないな……ん、今のうちにもう少し、前に出て……)」スッ
メイ「(……ここで、スライド!)」スッ!
可可「んあっ!!」ゴッッ
可可「こ、後頭部……クゥクゥの後頭部が……!」 すみれ「ちょ、ちょっと大丈夫?」ガタッ
可可「あああっ、痛い!痛いデス〜!」ジタバタ
メイ「ひいいいぃっ、すみません!すみません〜!!」ペコペコ
四季「……メイが……」
夏美「きな子みたいになってますの」 かのん「だ、大丈夫?ぶつけたの?」
千砂都「いや、多分……」チラッ
メイ「すみませええぇぇんっ!」オロオロ
千砂都「当てちゃったんだろうねぇ」 可可「可可は平気デス……メーメーこそ大丈夫デシタか?マウスピースに歯が当たったりとか……」
メイ「大丈夫です!自分、石歯なんで!」
きな子「石歯ってなんすか?」
すみれ「石頭みたいに言うな」 可可「ダメデス。ちゃんと見せてくだサイ。あー、して」グイッ
メイ「ひょえええぇっっ……」アワアワアワ
四季「顔、真っ赤」
きな子「乙女っすねぇ」
可可「…………ん、問題無さそうデスね」パッ
メイ「……はぁっ、はぁ……可可先輩、顔面……強っっっ!!!!」アタマカカエ
かのん「なんて??」
千砂都「大丈夫?あれ」ユビサシ
すみれ「ほっときなさい」 千砂都「……ってダメダメ!音楽科とのオーディションまであと二週間、この演奏じゃB編成にも出して貰えないよ!」ブンブン
すみれ「どうする?各自気になったところでも言ってみる?」
かのん「そうだね。でも私はそこまで気にならなかったかなぁ。一年生も皆上手くなってるし……」
すみれ「そんだけじゃダメに決まってんでしょ。ほんと指導するのは絶望的に向いてないんだから」 すみれ「私が気になったのはきな子ね」
きな子「えっ……」
すみれ「多分、吹き方?息の吹き込み方が少し違うのかも。これは割と初心者あるあるなんだけど、オクターブ上吹いてるわよ」
千砂都「あっ私も思ってた。きな子ちゃん、多分高い音吹いてるよね」
かのん「あ、そういうことならメイちゃんもかな?ちょっと高いかも」
メイ「わ、分かりました……音が高い、っと……」カリカリ
きな子「き、きな子も書いとくっす……カリカリ」 可可「シッキーは吹くスピードが皆より早いデス」
四季「……やっぱり」ショモ
可可「自分で分かってるならまだまだ大丈夫デス!メトロノームの音を聞こうとすると難しいデショウ?速度の感覚を掴んでいけば大丈夫デス!」
四季「はい」コクリ
千砂都「夏美ちゃんはまだ息が続いてないかな。もう少し肺活量を付ける練習しようか」
夏美「げっ……」チラッ
可可「?」キョトン
夏美「わ、分かりましたの……」 メイ「ドンマイ」ポンポン
四季「強く生きて」ポンポン
きな子「夏美ちゃんのことは忘れないっす」ポンポン
夏美「やかましいですの」 かのん「可可ちゃん……そんなにスパルタ指導してるの……?」
可可「このくらいしないと間に合いマセンので。……それに」チラッ
夏美「……?」コテリ
可可「可可の後輩はこの短期間でここまで出来るんだって、音楽科に自慢したいんデス!」
夏美「……可可先輩……」 可可「さっ!そういうことなので、練習シマスよ〜!」トテテテッ
かのん「い、行っちゃった……」
すみれ「多分あれ、照れ隠しね……」
千砂都「じゃあ、一年生と二年生、ペアに分かれてまた練習しようか。17時半にはまた全体で合奏練習をするから、ちゃんとその時間に音楽室に戻ってくること!」
四季「分かりました。……よろしくお願いします、千砂都先輩」
千砂都「うんっ、頑張ろうね」 すみれ「さっ、メイも行くわよ」スタッ
メイ「はぁい……」トテテ
かのん「私達も練習始めよっか」
きな子「!」パアァッ
きな子「はいっす!」ニパッ −
−−
−−−
千砂都「明日からの練習メニューはこの紙の通りに進めていきます。少しハードな内容になってるので、各自体調管理はしっかりすること」
すみれ「一年生は無理したりすると、身体を壊しやすいから特に気を付けなさいよ」
千砂都「それじゃ今日の練習はここまでです。お疲れ様でした」
一年生「「「「お疲れ様でした〜」」」」ペコリ ガララ
パタン……
メイ「さ、早く帰ろうぜ」
きな子「っすねぇ……お腹ペコペコっす……」
四季「どこかで食べていく?」
きな子「良いっすね!!」パアァッ
夏美「…………忘れ物しましたの」ピタッ メイ「どいつもこいつも、忘れ物が多いんだよ。ぼさっとすんな」
四季「待ってる?」
夏美「いえ、職員室まで教室の鍵を取りに行ったりしないといけないので時間が掛かりますし、先帰っててくださいの」
きな子「分かったっす!また明日」フリフリ
メイ「じゃあな」フリフリ
四季「お疲れ様」フリフリ
夏美「はい」フリフリ −−
普通科・音楽室前廊下
可可「あっ!すみれ〜!先帰るなデス〜!」
すみれ「今日あんたが鍵当番でしょ〜」
可可「コンチクショー!待ちやがれデス!」
夏美「──あの、」クイクイ
可可「あぇ、ナッツじゃないデスか。忘れ物デスか?」キョトン
夏美「いえ。少しお願いがあるんですの」 −
−−
−−−
帰宅後・桜小路宅
きな子「……はぁ……」ポスッ
きな子「今日もミスばっかりしてしまったっす……」
きな子「…………」ペラッ
『きな子ちゃんならもっともっと上手くなる!一緒に頑張ろうね! かのん』
『加油!今頑張ったら、後から見える景色は素晴らしいですよ! クゥクゥ』
『厳しいこと言っちゃったけど、ほんとはきな子ちゃんのことだーいすきだからね!がんばろう! ちさと』
『ちょっとずつだけど上手くなってるわよ。一緒に頑張りましょ すみれ』 きな子「(……きな子は、先輩達の期待に……応えられてるっすかね……)」
ピコンッ
きな子「ん……なんすかね……?」チラッ
『オニナッツチャンネルがライブ配信を始めました』 『【鬼教官!】先輩からチューバを指導してもらいますの!【オニナッツ】』
きな子「……夏美ちゃん……」
きな子「……きな子も、負けないように練習しないと……っすよね」グッ
きな子「(みんな、仲間でもあるし、ライバルでもある。高めあえる、競い合える、そんな仲間)」
きな子「……よし、頑張るっすよ……」 まさかのミスで今までチマチマ書いていた分が全部消えてしまいました。今泣き崩れているので、立ち直ったら再開します。 ドンマイ
ここ最近で一番楽しみなssだから気長に待ってる −
−−
−−−
一週間後・普通科音楽室
すみれ「きな子、少し焦ってるわ。もう少し落ち着いて吹いてみて」
きな子「は、はいっ」
きな子「(難しい…音を出すことで頭の中がいっぱいになっちゃうっす……)」
きな子「(楽譜なんて見ている余裕無くて……運指はどうするんだっけ……ひとつ覚えると、前の過程をひとつ忘れてしまうのが、凄く。凄く悔しい……っ)」
すみれ「……」ジッ
すみれ「きな子、大丈夫。ちゃんと上手くなってるのよ。そんなに追い詰められないで」
きな子「……っ、でも……」ショモ きな子「でも……先輩達は、本当にきな子は練習してるのかって、思ってるんじゃないかって……」
すみれ「きな子は頑張ってるわ。誰も練習してない、なんて思ってない。皆ああいう言い方するけど、本当は思ってないのよ」
きな子「……そうっすかね……そうは見えないっすけど……」
すみれ「大丈夫。……それとも、私の言ってることが信用出来ない?」
きな子「……」フルフル
すみれ「ふふ、ありがと」クスッ すみれ「仮によ、そう思っている人が居たりしても、私はそんなこと思わない。私は、きな子の味方よ」
きな子「すみれ先輩……」
すみれ「もう17時ね。全体練習の時間になるから各教室に居る皆読んできてもらってもいいかしら?」
きな子「…………」ジッ
すみれ「……全く。甘えんぼさんは困っちゃうわね。ほら、一緒に行くわよ」
きな子「はいっ!」タッ −−−
すみれ「──今日はここまで」スッ
すみれ「四季、良くなってるじゃない」
四季「今日は、可可先輩に教わった」
夏美「ドンマイですの。可可先輩の鬼教官っぷりに着いて行けたら苦手なとこ無くなりますの」
可可「えへへぇ、可可、教えるの上手デスからっ」ムンッ
すみれ「あんたさっきミスってたの知ってるわよ」
可可「……ぅ”っ……」 かのん「皆教えるの上手でいいなぁ。なんか今日メイちゃんに『真面目に教えてください!』怒られちゃったもん。私はすっごい真面目だったのに」
メイ「何吹いても『いいね』とか『良くなってる』ばっかじゃ指導された気になれねぇんだよ……」
すみれ「バカじゃない……」
かのん「ば、バカじゃないよー!」 可可「千砂都は、誰が気になる人は居ましたか?」
千砂都「────きな子ちゃん、」
きな子「は、はい……」
千砂都「クラリネット、難しいかな?」
きな子「……え?」
ちさきな以外「「「「「「!?」」」」」」
千砂都「……いっそ、他のところに移る?パーカッションとか」
かのん「……ちぃちゃんっ!」
きな子「……それは……」 千砂都「あと一週間後には音楽科の所に行って、オーディションがあるんだよ。コンクールの編成が……皆の夢が掛かってるの」
千砂都「そのままじゃ、きな子ちゃんは出せない」
すみれ「千砂都!いい加減にしなさいよ!」
可可「き、きなきな、気にしなくても大丈夫デスからね?」
きな子「…………」ギュッ
千砂都「でも、事実でしょ?このままじゃB編成どころか、コンクールまで出して貰えなくなっちゃうの」
きな子「………………」 可可「……千砂都……これ以上言うなら可可が許しまセン」キッ
かのん「……私も。どうしてそんな言い方するの?もっと優しく言ってあげればきな子ちゃんだって……」
千砂都「優しくし過ぎた結果がこれなんでしょ?……それなら、誰かが強く言わないとダメ」
千砂都「かのんちゃん達がそれでいいよって甘やかしてるから、こうなっちゃったんじゃないの?」 きな子「(きな子の所為で……先輩達が喧嘩してるっす……頭、痛い……目が回る……)」
可可「き、きなきな……大丈夫デスか……?」
きな子「!」
きな子「(みんなが、こっちを見てる……ダメだ、きな子、もう耐えられない……)」ジワッ
きな子「──っ!!」ダッ
メイ「お、おいきな子!」ダッ
四季「きな子ちゃん!」ダッ
夏美「待ってくださいの!」ダッ すみれ「…………千砂都、さっきのは言い過ぎなんじゃないの」
千砂都「…………」
すみれ「誰かが言わなきゃダメって言うのは分かるわ。でももう少し言い方があったでしょ。あんなきな子を追い詰めるような言い方しても、誰も良い気はしない」
かのん「そ、そうだよ。あれは言い過ぎだったんじゃないかな?……きな子ちゃん、辛そうだったし……」
千砂都「………………」ハァ… 千砂都「かのんちゃんは、一年生に教える時、本当にいいねって、良くなってるって思うの?」
かのん「……え?」
千砂都「さっきメイちゃんも言ってたよね。それじゃ指導された気になれないって」
千砂都「きな子ちゃんにも同じような事しか言ってないんじゃないの?きな子ちゃんに、厳しいこと、ひとつでも言った?」
かのん「……それは……」 千砂都「教え方が上手いって言われてる可可ちゃんがどんな指導の仕方してるか知ってる?」
千砂都「可可ちゃんはね、思ったことを正直に言ってる。音がズレてたり、速度が早かったり遅かったり、音が出てなかったり、……ひとつひとつ、全部しっかり聞いてそれを伝えてる」
千砂都「すみれちゃんは褒めて伸びる子には適度に褒めて、厳しくすればするほど伸びる子には凄い厳しいの。その子に合った指導をしてる」
千砂都「言い方とか、練習の詰め込み方とか、そういうのは一番すみれちゃんが考えてると思う。特に一年生全員で演奏する時は、無駄なお喋りを挟まないように休憩無しで吹かせたりね」
千砂都「かのんちゃんは、ただ肯定するだけ。それじゃあ誰の役にも立たないよ」
かのん「…………」 可可「ち、千砂都……もうやめまセンか?……可可達が揉めていては部活が出来なくなってしまいマス……」
千砂都「……ごめん……」
千砂都「ちょっと、頭冷やしてくる。酷いこと言っちゃってごめん」
すみれ「……後でちゃんときな子にも謝るのよ」
千砂都「……うん」
パタンッ…… ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています