栞子「私に曇らせの適性がある?」しずく「はい💙」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
栞子「えっと、しずくさんのおっしゃっている意味がよく分からないのですが……」
しずく「どこが分からないの? 何でも聞いてよ」
栞子「そもそもの話として、その『くもらせ』というのは何ですか?」
しずく「ああ、そっか。まずはそこからだね」
しずく「この場合、『曇る』っていうのは、絶望や心配のために心や表情が沈んだ状態になることだよ」
しずく「それで、『曇らせ』っていうのは、誰かがそうなるように仕向けることかな」
栞子「なるほど……」
しずく「分かった?」
栞子「はい、言葉の意味は理解できました」
しずく「よかった! それでね! 私の目に狂いがなければ、栞子さんには曇らせの高い適性があるの!」
しずく「だから私の同志として、一緒に愉悦同好会を作ってくれないかな?」
しずく「それで実績を積んで、ゆくゆくは愉悦部に昇格を――」
栞子「ちょっと、ちょっと待ってください!」 栞子「えっと、ほら、あれですよ……」エーット
栞子「同好会の立ち上げには、5名の生徒が必要なんです。なので、私たちだけでは……」
しずく「そこは新生徒会長様の権限で、こっそり便宜を図っておいてよ」
栞子「ダメに決まってるでしょう!?」
しずく「でも、『やりたいことはどんどんやるべき』なんでしょ? 公約だよね?」
栞子「何でもいいわけではないですね」
しずく「えー」
栞子「それに、私が曇ってもつまらないと思いますよ?」
栞子「私は感情が薄い方ですし、残念ながらしずくさんの期待には応えられないのではないかと――」
しずく「違う、違う! そうじゃないの!」
しずく「栞子さんは曇る適性が高いんじゃなくて、曇らせる適性が高いんだよ」
栞子「え?」 栞子「私が誰かを絶望させるということですか?」
しずく「そうだよ! 栞子さんには、曇らせの才能がある。自信を持って!」
栞子「そんな才能は必要ありませんが」
しずく「えー」
栞子「だいたいですね。意図的に他人を絶望させたり心配させたりだなんて、許されないことです」
栞子「みなさんに信任していただいた生徒会長たる私が、そんな同好会を認めるわけにはいきません」
栞子「そんなことをしては、前生徒会長の菜々さんにも申し訳が――」
しずく「うん、そうだね。栞子さんの言ってることは、人としてとても正しいと思うよ」ウンウン
しずく「でも、どうしてかな? その理由を言うのが、ちょっと遅いんじゃない?」
栞子「え?」
しずく「言葉を選ばずに言えば、誰かを傷つけて楽しむ同好会を作りたいって私は言ってるんだよ?」
しずく「そんな話を聞いたら、普通は真っ先に『そんなことしちゃダメだ!』って言うはずでしょ?」
しずく「それを立ち上げの人数がどうとか、自分を曇らせてもつまらないとか……。どうして?」ン?
栞子「いや、それは……」 栞子「当たり前のことすぎて、わざわざ言葉にしなかったというだけですよ」
しずく「本当にそうかなあ?」ンー?
しずく「それに、さっきも曇らせなんてしてはいけないって言うばっかりで……」
しずく「誰かを曇らせるだなんてしたくないとは、一度も言ってないでしょう?」ネ?
栞子「……たまたまですよ。深い意味はありません」
しずく「それに、感情が薄い自分が曇ってもつまらないって栞子さんは言ったよね?」
しずく「それは裏を返せば、感情が豊かな人が曇るのは面白いって思ってることになるんじゃないかな?」
栞子「……まさか、そんなわけがないでしょう。考えすぎですよ」 しずく「そっか、まだ栞子さんは自分の魂のかたちを分かってないんだね」
しずく「本当の自分が、いったい何に愉悦を感じるのかを知らないんだ💙」
栞子「いいえ、私は自らのことを正確に理解しています」
栞子「みなさんを幸せにするために努力する生徒会長。それが私です」
しずく「なるほど。高く積み上げた方が、崩すときに気持ちいいもんね」
しずく「知ってる? 今が幸せな人ほど、これから不幸になれるんだよ?」
栞子「へえ、考えたこともありませんでした」
しずく「ふふっ、頑固だなあ。そういうとこも嫌いじゃないよ💙」
栞子「そうですか。ありがとうございます」 しずく「じゃあ、まずは体験入部ってことでどうかな?」
栞子「体験入部? 曇らせ同好会とやらを、生徒会で認可した覚えはないのですが……」
しずく「愉悦同好会だよ」
栞子「どちらにしても、存在しないものに体験入部も何もないでしょう?」
しずく「存在はしてるよ。私しか所属していない非公式の同好会だけどね」
しずく「栞子さんと一緒に、公式な同好会にしたいと思ってるんだ」
栞子「そんな怪しいものに、私が体験入部する理由など……」
しずく「生徒会長なら、学校の闇に蠢く怪しい同好会のことは知っておくべきだと思うな」ネ?
栞子「……闇に蠢くって、しずくさんが作ったせいじゃないですか!」
栞子「それに、たとえ知るべきだとしても、しずくさんから話を聞けば十分なんじゃ……」
しずく「百聞は一見にしかず。百見は一触にしかず。そう言うでしょ?」
しずく「話を聞くだけじゃ、理解するには遠いよ。スクールアイドルだってそうだったよね?」
栞子「それは、まあ……」 栞子「……いえ、やっぱりダメです。確かに知る必要はあるかもしれませんが、体験入部というのは……」
しずく「だったら監視委員会ってことでどうかな? 愉悦同好会に対する監視委員会」
しずく「せつ菜さんから前に聞いたことがあるんだけど、生徒会の規定にそんなものがあるんだよね?」
栞子「よく知っていますね。設立することなど絶対にないだろうと思っていたのですが……」
しずく「今回ばかりは仕方ないよ。だって、すごく怪しい同好会の存在が発覚したんだもん」
栞子「どの口が言うんですか……」
しずく「生徒会長の栞子さんが愉悦同好会の私の活動を監視して、問題がないかチェックするの」
しずく「どうかな? 栞子さんには必要なことだと思うよ。色々な意味でね」
栞子「…………分かりました。口車に乗るようであれですが、確かにそれがよさそうです」
しずく「決まりだね! じゃあ、愉悦同好会の活動をじっくりと見ていってよ」
栞子「内容に問題があるようでしたら、愉悦同好会は解散させますからね」
しずく「えー、非公式の同好会を解散させる権利なんて、生徒会長にだってないでしょ?」
栞子「しずくさん!?」ガーン! しずく「まあまあ、とりあえずは今日の活動を見てみてよ」
しずく「愉悦同好会をどうするかは、それから考えても遅くないでしょ?」
栞子「はあ、分かりました。それで、今日の活動というのは?」
しずく「今日のターゲットは、かすみさんだね。かすみさんを曇らせるよ!」
栞子「かすみさんですか!?」エッ?
しずく「そうだよ。我が同好会の一番のお得意様だね!」
栞子「嫌なお得意様もあったものですね」
しずく「今日は生徒会長による監視を記念したキャンペーン中だから、いつもの倍は曇らせるよ!」
栞子「本当に嫌なキャンペーンもあったものです」 栞子「ですが、かすみさんとは意外でした」
しずく「そうかなあ? 私が何かするとしたら、相手はかすみさんって感じがしない?」
栞子「それは分からなくもないですが、今回は事が事ですし……」
栞子「仲がいいように見えましたけど、本当は嫌いだったんですか?」
しずく「まさか! そんなわけないでしょ!」バンッ!
栞子「だったら、どうして……」
しずく「かすみさんは私の太陽なの。かすみさんの輝きに、いつだって私は魅せられる……」
しずく「命っていうのはね、暗い闇の中に置いてこそ美しく光り輝くの」
しずく「私は、誰よりも大好きなかすみさんを、何よりも綺麗に輝かせたいんだ」
しずく「愛だよ。愛なんだよ、栞子さん。これが私の愛なの。愛さんじゃないけど!」
栞子「……そうなんですね」 栞子「しずくさんが、かすみさんを嫌っているわけではないということは理解しました」
しずく「私の気持ち、分かってくれたんだね。嬉しいなあ」
しずく「ふふっ、これは愉悦同好会に入部するのも時間の問題かな」
栞子「そんなわけないでしょう。勘違いしないでください」
栞子「しずくさんの心情に共感したのではなく、その動機を把握したというだけです」
栞子「それに忘れないでいただきたいのですが、あくまで私は生徒会長として監視をしているんですよ?」
栞子「何をするつもりか知りませんが、あまり酷いことをするようなら途中であっても止めますからね」
しずく「大丈夫だよ。かすみさんには指一本たりとも触れないから」
栞子「それ、あんまり大丈夫な理由にならない気がするんですけど……」
しずく「まあ、とにかくこれを見てよ。もう仕込みは済んでるから」
栞子「タブレット? これは、かすみさん?」
しずく「うん、そうだね。今から一緒に、かすみさんの命の輝きをただ愛でよう?」 栞子「えっと、愉悦同好会の過去の活動を記録した映像ということですか?」
しずく「ううん、ライブ映像だよ」
栞子「ライブ映像!? これ、部室ですよね!? 普段から盗撮してるってことですか!?」
しずく「そんなことしないよ。今回のために、さっきカメラを設置したの。終わったらすぐに撤去するから」
栞子「本当ですか?」
しずく「もちろんだよ。私は生まれてから今までの人生で、一度も嘘をついたことがないのが自慢なんだ」
栞子「その台詞、明らかに嘘つきしか言わないやつじゃないですか……」
しずく「まあまあ、これでも飲みながら最高の名作を鑑賞してよ」つ凵
栞子「それは、甘酒ですか!?」
しずく「うん、大好きなんだよね?」
栞子「はい、いただきます!」ゴクッ ゴクッ
栞子「……あれ? んん?」コクコク
しずく「そこら辺のスーパーで買った安物だから、栞子さんの口には合わなかったかな?」
栞子「……いえ、すみません。思った味とは違いましたが、まずいというわけではありませんから」チビチビ 栞子「それで、かすみさんは何をしているんですか? あれは、かすみさんボックス?」
しずく「かすみんボックスだね。かす虐のために、神が生み出したもうたアイテムだよ」
栞子「かすぎゃく?」
しずく「かすみさん虐待」
栞子「ああ、そういう……。あれを作ったのは、かすみさん本人でしょうに」
しずく「つまり、かすみさんは神だってことだね!」
栞子「その神を虐待するしずくさんは何者ですか?」
しずく「私はただの大女優だよ💙」
栞子「しずくさんを知ってから、私の中で大女優という言葉の持つ意味が変わっちゃったんですよねえ」 しずく「そんなことより、ほら見て! かすみさん、すっごく嬉しそうだよ」
栞子「おや、本当ですね。ああ、かすみさんボックスの中にファンレターが入っていたわけですか」
しずく「いつもは3通もあれば多い方なのに、今日は10通もあるからね」
栞子「へえ、この前の単独ライブの影響ですかね」
しずく「10通のうちの7通は私が書いたものなのにね💙」
栞子「しずくさん!?」ガーン!
しずく「あ、大切そうに読み始めたよ。あれは私が書いたやつだね」
栞子「まあ、7割が外れなわけですからね……」
しずく「あー、外れだなんて酷いなあ。心を込めて書いたんだよ?」
栞子「申し訳ありませんが、浅学な私では他に適切な言葉を思いつきませんので」
しずく「えー」 栞子「ですが、1人で7通も書いて大丈夫なんですか? 筆跡やら何やらでバレそうなものですけど……」
しずく「大丈夫だよ。筆跡も文体も、かすみさんに普段から手紙を出してる別々の人のを模倣したから」
栞子「……しずくさんは、女優ではなくスパイを目指した方がいいのでは?」
しずく「安心して。女優とスパイって、とてもよく似た職業だからね。何も問題はないよ」
栞子「今のしずくさんの説明に、安心できる要素は何もなかったように思うのですが……」
しずく「私のことなんかより、今は注目しないといけないものがあるでしょ?」
しずく「ほら、タブレットを見て! かすみさんの素敵な表情! ここからが見どころだよ!」
栞子「……確かに少し泣きそうに見えますね。ファンレターを読んでいるはずなのに、どうして?」
栞子「あっ! しずくさんが書いた手紙は、誹謗中傷の類ということですか!?」
栞子「さすがにそれは看過できません! やはり愉悦同好会は解体です!」
しずく「まさか、そんなことするわけないよ」
しずく「あれらはどれも、間違いなくファンレターと呼べる内容のものだよ」
栞子「……だったら、どうして?」 しずく「ファンレターって言っても、一から十まですべてを肯定してるとは限らないよね?」
しずく「こうして欲しいとかあんなところが見たいとか、そんな要望が書いてあることもあるでしょ?」
栞子「もっと弾けて欲しいという内容の手紙を、確かに私も頂いたことがありますね」
しずく「かすみさんが読んでるファンレターにも、そういうファンからのお願いが書いてあるんだよ」
栞子「何が書いてあるんですか? 何を書けば、かすみさんがあんな顔を……」
しずく「『かすみちゃんには部長の雑務なんかじゃなくて、もっともっと自分のしたいことをして欲しい』」
しずく「『新旧生徒会長という向いている人たちがいるんだから、無理に部長をしなくても大丈夫ですよ』」
しずく「『大好きなかすみんが苦手な部長の仕事で潰れそうで辛い。そもそも先輩は何をやってるんだ!』」
しずく「どれも表現の仕方は違うけど、すべてが同じことを伝えようとしている」
しずく「そう、『中須かすみは部長にふさわしくない』ということを」
しずく「1通だけならスルーできても、10通すべてから言われたんじゃ無視できないよね」フフッ
栞子「悪魔ですか、あなたは」
しずく「ふふっ、褒め言葉だよ💙」 栞子「かすみさんは部長の仕事を一生懸命に頑張ってくれてるじゃないですか!」
栞子「あれを見ておきながら、どうしてそんな酷いことを思いつくんです?」
しずく「今回の作品の着想は2つあるんだ」
しずく「1つ目は、元からあった3通のファンレターのうちの2通が、部長の仕事の負担を心配してたこと」
しずく「そして2つ目は、栞子さんだよ」
栞子「私、ですか? それは、どういう……」
しずく「ほら、かすみさんが最後の1通を読もうとしてるよ! ここがクライマックスだからね!」
栞子「いえ、それより私から着想を得たというのがどういうことかを説明して――」
しずく「焦らないで。今から、かすみさんの素敵な表情を見ながら説明するから」 栞子「素敵な表情って、またどうせ……」
栞子「おや? 確かに笑顔が戻ってきていますね」
しずく「かすみさんは笑顔も可愛いけど、あれは私が言うところの素敵な表情ではないかな」
しずく「でも、かすみさんが喜んでる理由は分かるよ」
しずく「スクールアイドルかすみんの一番のファンからの手紙を読んでるからだね」
栞子「一番のファン?」
しずく「コッペパン同好会のコペ子さんだよ」
栞子「ああ、あの方ですか。かすみさんと仲がいい……。って、コペ子ではないでしょう!?」
しずく「手紙の前半は、この前の単独ライブの感想だからね。かすみさんを褒めちぎってるよ」
栞子「……そういう言い方をするということは、後半に地雷が埋まっているわけですね?」
しずく「そう、そうだよ。さすが栞子さん、飲み込みが早くて私も鼻が高いよ」
栞子「それはどうも」 しずく「ちなみに後半に埋まっている地雷は栞子さんだよ。今回の着想の2つ目だね」
栞子「だから、それがどういう意味なのかを説明して――」
しずく「ほら、見て! あのかすみさんの顔!」キャッキャッ
栞子「え? 何が――」ビクッ!
しずく「驚愕、落胆、悲嘆、諦観、葛藤……。数え切れないほどの感情が、かすみさんの心に渦巻いてる」
しずく「そして、すべてを覆い尽くす99%の絶望と、それでも消えない1%の強い意志……」
しずく「あぁ、最高だね💙」ハァハァ
栞子「……」
しずく「かすみさんのあんな表情を見るために、きっと桜坂しずくはこの世に生まれてきたんだ」 栞子「……」ジー
しずく「ふふっ、栞子さん? 気に入ってくれたみたいだね💙」
栞子「あっ、いや、そういうわけでは……」アセアセ
しずく「今さら隠そうとしなくてもいいんだよ?」
栞子「いえ、そういうわけではありません! 私はただ、その、えっと……」ゴニョゴニョ
しずく「ん? なあに?」フフッ
栞子「そ、そうです! あの手紙の後半に何が書いてあるのかを考えていたんですよ!」
栞子「ほら、私に関係することらしいですし!」ネ?
しずく「ふーん、そっかあ」
栞子「ええ、それだけです」 栞子「ですが、本当に何が書いてあるんですか? まったく見当がつきません」
栞子「コッペパン同好会のあの方が、かすみさんを傷つけるようなことを書くとは思えないんです」
栞子「彼女がスクールアイドル中須かすみの大ファンなのは、私の目から見ても明らかですから」
しずく「ふふっ、それがね? コペ子さんったら、勘違いをしちゃってるみたいなの」
しずく「栞子さんがしてたのと同じ勘違いをね」
栞子「私と同じ勘違い?」
しずく「うん、スクールアイドル同好会の部長はせつ菜さんだって思ってるみたい」
しずく「あの手紙の後半で、かすみさんがセンターの全体曲を作ったらどうかって提案してるんだけど……」
しずく「それを部長のせつ菜さんに頼んでみたらいいんじゃないかって書いてあるんだ」
栞子「ああ、なるほど。そういうことですか……」 しずく「栞子さんも、そうだったよね。入部届をせつ菜さんに提出しようとして……」
しずく「それどころか、せつ菜さんが部長じゃないって分かっても、侑先輩に渡そうとしてさ」クスクス
栞子「あれは、だって、仕方ないじゃないですか!」
栞子「かすみさんは1年生ですし、事前に知らなければ部長だとは……」
しずく「まあ、そうだね。何も知らないのにかすみさんを部長だと思う人がいたら、そっちの方が変だよ」
栞子「でしょう?」ホラ!
しずく「それでも、一番のファンには分かって欲しかっただろうね」
しずく「コペ子さんに悪意がないのは明白だからこそ、自らが部長に見えないという事実が浮き彫りになる」
しずく「それにね? きっと栞子さんに間違えられたときのことも思い出してるはずだよ」
しずく「勘違いしたのが1人だけなら偶然だって言い訳も立つけど、複数から間違われちゃうとね」フフッ
栞子「……かすみさんのあの表情は、私のしたことの影響でもあるの?」ゾクゾクッ
しずく「そうだよ。栞子さんのおかげだね。『せい』じゃなくて、『おかげ』だよ」 しずく「やっぱり栞子さん、素質あるよ。嬉しそうな顔しちゃって💙」
栞子「あ、いや、私は……」
しずく「甘酒もずいぶんと進んだみたいだね。あれだけ味にがっかりしてたくせにさ」
栞子「え? あっ、いつの間に……」つ凵 カラッポ
しずく「バイトしてた彼方さんに聞いて、スーパーでも最低の安物を用意したのになあ」
栞子「そんなことしたんですか!?」ガーン!
しずく「どうかな、栞子さん。私と一緒に、これから愉悦同好会を盛り上げてくれない?」
しずく「栞子さんが美味しいと感じる甘酒を、何度だってご馳走するから。また飲みたいよね?」 栞子「……いえ、生徒会長として愉悦同好会なんてものを認めるわけにはいきません」
しずく「そっか、残念だなあ」ハァー
栞子「ですが、こんなに怪しい同好会を放置もできませんよね?」
栞子「学校の治安を守る者として、今後も見張る必要があります」キリッ
しずく「え?」
栞子「とはいえ、監視委員会の常態化はいただけませんね。こんなものは今回に限るべきでしょう」
栞子「うーん、困りましたね。そうだ、しずくさん。何かいいアイデアはありませんか?」
しずく「そうだなあ……。あっ、いっそのこと入部しちゃうってのはどうかな? 監視のためにさ」
栞子「ほう、監視のために入部ですか?」
しずく「そうだよ。そもそも愉悦同好会は非公式の同好会だから、学校としてもどうこうできないよね?」
しずく「学校には監督権限なんてないし、愉悦同好会にも活動内容の報告義務はない」
しずく「でも同好会のメンバーになれば、一緒に活動して色々と知れるし、内容に口も出せるよ」
栞子「なるほど。それはいいですね! では、そうしましょう」ウンウン しずく「ふふっ、栞子さんって思ったより融通が利くタイプの人だったんだね」
栞子「私はお堅い生徒会長ですよ。臨機応変な対応ができればいいとは思いますが、まだまだです」
栞子「今回の件も、学校の闇に蠢く怪しい同好会を見張るためというだけです。ただ……」
しずく「ただ?」
栞子「……甘酒の味というものは、肴によって思いのほか化けるものですね」
栞子「しずくさんの言うように、これほど美味と感じる甘酒ならば……」
栞子「ぜひとも、また飲んでみたいものです」
しずく「うん💙」 栞子「それで、甘酒がなくなってしまったので、また買ってきてもらえませんか?」
栞子「これと同じもので構いませんから、2杯お願いします」
しずく「2杯? まあ、いいけど……」
栞子「私の分と、しずくさんの分です。ああ、次の肴は私が用意しますね」
しずく「え?」
栞子「愉悦同好会を見張るためとはいえ、入部した以上は私も活動しなくてはいけませんから」
しずく「うん! ちょっと待ってて! すぐに買ってくるね!」
栞子「あまり期待しないでくださいね。初めてなので不出来でしょうし……」
しずく「ううん、すっごく楽しみだよ!」 30分後
栞子「早かったですね」
しずく「そりゃあ急いだからね。久しぶりに本気で自転車をこいだよ」ハァハァ
しずく「ほら、甘酒! 彼方さんに聞いて、スーパーにある最高級品を買ったんだ!」ババーン!
栞子「別に先ほどのものでも構いませんでしたのに……」
栞子「まあ、いいです。それじゃあ、行きましょうか」スタスタ
しずく「行くって、どこに?」スタスタ
栞子「それはもちろん、これから曇らせるターゲットのところですよ」 栞子「ランジュ、調子はどうですか?」
ランジュ「きゃあっ、栞子! 来てくれたのね!」
しずく「ランジュさん、自主練してたんですか? 同好会は休みなのに偉いですね」
ランジュ「しずくも来てくれたの? いいわね、いいわね!」
栞子「ここでランジュが練習していることは聞いていましたからね」
栞子「この前の単独ライブの興奮が、まだ冷めていないみたいで」
しずく「へえ、私は逆に少し気が抜けちゃったのに、ランジュさんはエネルギッシュだね」
栞子「まったくです」 ランジュ「ねえねえ! 2人とも一緒に練習しましょうよ! ね!」
栞子「いえ、今日は体を休めたいですし、他にやることもありますので」
ランジュ「えー、いいじゃない! 一緒にやれば楽しいわよ!」
ランジュ「ね? しずくもそう思うでしょ?」ネ?
しずく「うーん、そうですねえ」ンー
ランジュ「ほら、しずくもこう言ってるわ! ねえ、栞子も――」グイグイ
栞子「いい加減にしてください! 私はやらないと言ったでしょう!」
栞子「しずくさんだって、明らかに乗り気ではないじゃないですか!」
栞子「どうして人の気持ちが理解できないんです!」
ランジュ「し、栞子……?w」
栞子「私が嫌がっていることも、見れば分かるはずですよね?」
栞子「たった1人の幼馴染の気持ちすら分からないんですか?」
ランジュ「な、なによう……」
しずく「💙」 ランジュ「ご、ごめんなさい……。ランジュ、その……」シュン
栞子「いえ、私も言いすぎました。大切な親友が対人関係でトラブルを起こさないか心配で、つい……」
ランジュ「し、親友!? ランジュのことよね?」
栞子「ええ、そうですが。違いましたか?」
ランジュ「いいえ、違うわけないわ! ランジュと栞子は親友よ!」ペカー
しずく「ふふっ、よかったですね」
ランジュ「ええ! それに、しずくだってランジュの親友よ!」
しずく「あら、私のことも親友だと思ってくれるんですね」
ランジュ「もちろんよ!」
栞子「ランジュに仲のいい友人が増えてよかったです」 栞子「それじゃあ、そろそろ我々は行きましょうか。しずくさん、先ほどの話の続きがしたいです」
しずく「そうだね」
ランジュ「2人で何かお話しするの? きゃあっ、親友のランジュも混ぜてちょうだい!」
栞子「ランジュは練習をするんでしょう?」
ランジュ「いいのよ。練習なんて、いつでもできるもの。それより、2人と一緒に――」
栞子「ダメですよ。やると決めたことはやるべきです。中途半端は好きじゃありません」
栞子「それに、『練習なんて』だなんて……。スクールアイドルを舐めてるんですか?」
ランジュ「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
栞子「だったら、どんなつもりだったんですか? 言い訳は聞きたくありませんね」
栞子「ランジュのストイックなところは尊敬していたのですが、私の勘違いでしたか?」
ランジュ「ううっ、栞子ぉ」ウルウル ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています