【SS】歩夢「侑ちゃんが誘拐された……!?」
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代行ありがとうございます!!
※栞子、ランジュ、ミアが加入前の同好会の設定です .
----- プロローグ -----
侑「今日も練習お疲れ様!」
侑「相変わらず可愛かったよ、歩夢」
歩夢「ふふっ、ありがとう」
歩夢「同好会のみんな、すごくレベル高いから、私も頑張らなきゃって」
侑「そうだね、数か月でみんな別人のように成長してるよ」
侑「私もサポートのし甲斐があって楽しいよ!」
歩夢「うん、いつも侑ちゃんにはすごく助けられてるって、みんな言ってるよ」
侑「それは良かった! 私、みんなのためならなんでもするよ」
侑「いつもスクールアイドルを、同好会を、そして歩夢を支えること、それが生きがいなんだ」 .
歩夢「侑ちゃん……/// そんな生きがいだなんて、大げさだよ」
侑「そんなことないよ! そしてね、いつかは、日本中、いや世界中のスクールアイドルのために」
侑「スクールアイドルフェスティバルよりもっと大きな、びっくりするようなこと、成し遂げてみたいんだ」
歩夢「えっ、びっくりするようなこと?」
侑「といっても、具体的なことは全然考えてないんだけどね」
歩夢「そっか、でも侑ちゃんならきっとできるよ、楽しみにしてるね」
侑「うん、ありがとう!」
歩夢「明日は土曜日だけど、またピアノの練習?」
侑「え、っと……うん、そうだね、早く音楽科の子たちに追いつかないと」
歩夢「夢中なのは良いんだけど、無理しないでね?」
侑「大丈夫! じゃあ、またね、歩夢!」
歩夢「うん!」
歩夢(こんな、何の変哲もない会話を最後に、侑ちゃんは――)
歩夢(姿を、消した) .
----- 翌朝、部室 -----
かすみ「あああ、あついです~~」
エマ「もうすっかり夏の気温だね」
かすみ「梅雨入りしたばっかりなのに、こんなに暑くなるんですか~?」
せつ菜「まだ10時なのになにをへばってるんですか! 今日も1日、気合入れますよー!」
愛「おー!!!」
かすみ「ああ、暑苦しい……」
璃奈「そんなときは、愛さんのダジャレで冷ましてもらうと良い」
愛「ちょっとちょっと、りなりー? 冷えるの前提なの?」
愛「じゃあ、梅雨にちなんで……」
しずく「それより、歩夢さん遅いですね?」 .
かすみ「そうですよ! 呼び出した張本人が遅れるなんて!」
彼方「あのLINEからして、ただならぬ雰囲気だったよね~」
しずく「1時間以内に急いで部室集合! だなんて、何かあったとしか……」
璃奈「璃奈ちゃんボード『ガクブル』」
せつ菜「それでも、ちゃんとみんな集まるんですから、素晴らしい結束力です」
愛「あれ、果林いなくない?」
エマ「果林ちゃんは、休みの日はこの時間まだ起きてないよ」
エマ「もうそろそろ起きてLINE見てくれると思うんだけど……」
かすみ「そんなことだろーと思いました」
かすみ「鎌倉に住んでるしず子すら間に合ってるのに!」
しずく「ううん、昨日、たまたま演劇部の子の家でお泊り会してたんだ」
せつ菜「奇跡的なタイミングでしたね!」
彼方「まだみたいなら、彼方ちゃんもう少しだけすやぴ……ZZZ」
かすみ「じゃあかすみんも、寝不足なので失礼して……」 この後に及んでR3BIRTH抜きの同好会のSSとか… バァン
歩夢「みんな! 遅れてごめん!!」
彼方「うおっ、びっくりした~」
せつ菜「歩夢さん、遅刻ですよ!」
歩夢「はあ、はあ……ごめん、ちょっと、落ち着いて聞いてほしいの」
エマ「すごい汗……」
しずく「一体、どうしたのですか?」
歩夢「今朝、うちの郵便受けに、私宛の封筒が入ってたの」
歩夢「中身はこれ、なんだけど」スッ
璃奈「……? 普通の、手紙?」
せつ菜「パソコンで作成して印刷したみたいですね」
愛「読んでもいい?」
歩夢「うん、みんな冷静に読んでほしい」
愛「どれどれ…… 上原歩夢様」
愛「高咲侑の身柄は預かった」 .
愛「……は?」
かすみ「ど、どういうことですか?」
エマ「侑ちゃんの、身柄を……!?」
愛「無事を確かめたければ、以下の場所のいずれかへ行け」
愛「……と、なんだこれ」
せつ菜「暗号、でしょうか」
『東京の7人のサブリーダー
色彩感覚に優れた若輩者
望まれた11の命 輝いた5つの瞳
今は冷たい闇を見つめる』
彼方「どういう意味……?」
璃奈「……意味不明」
かすみ「手紙は、それで終わりですか?」
愛「あ、えと、」 .
愛「タイムリミットは今夜18時」
愛「もし警察や家族に知らせれば、高咲侑の安全は保障できない」
愛「相談して良いのは、同好会のメンバーのみ」
愛「貴殿らの健闘を祈る」
歩夢「……これで、終わり」
せつ菜「ばかばかしい、きっとただのいたずらですよ」
彼方「そうだね~」
かすみ「歩夢せんぱい、侑先輩への連絡は?」
歩夢「それが、全然LINEも電話も反応しなくて」
歩夢「直接家にも行ったんだけど、誰もいなくて」
エマ「ご両親もいなかったの?」
歩夢「うん、いま侑ちゃんのご両親は海外に行ってるから、実質一人暮らしなの」 .
彼方「寝てるだけじゃないかな? 果林ちゃんみたいに」
歩夢「違うの、合鍵つかって入ってみたんだけど、本当に誰もいなかったの」
せつ菜「あ、合鍵?」
歩夢「うん、幼馴染だから、お互いの家の合鍵も持ってるんだ」
かすみ「理由になるんですかそれ……」
愛「ゆうゆと歩夢の関係なら不思議じゃないかも!」
歩夢「昨日、侑ちゃん、今日は一日家でピアノの練習するって言ってたし」
歩夢「もし近所に出かけてるだけにしても、まだLINEも電話も反応無いなんて……」
せつ菜「……なるほど」
歩夢「でね、皆を呼んで、ここに来る前に、侑ちゃんの部屋をもう一度調べてたんだけど」
歩夢「何の手がりも無くて、私どうしたらいいか……」
歩夢「万が一、侑ちゃんの身にもしものことがあったら……」
歩夢「……うっ、うっ」ポロポロ .
愛「わわわ、落ち着いて!」
璃奈「璃奈ちゃんボード『オロオロ』」
しずく「警察に、連絡したほうが良いでしょうか?」
かすみ「だめだよ! 手紙には警察呼んだら安全の保証は無いって」
せつ菜「……出ないですね、確かに侑さんに電話つながりません」
エマ「どうしよう……」
せつ菜「しかし、妙ではないですか? 一般的に誘拐の目的となれば、金銭」
せつ菜「その要求をせずに、家族に知らせるな、と」
果林「金じゃないなら……体かしら?」
愛「から……うわっ!? 果林!!」
果林「遅れてごめんなさい、でも私に10時集合は無理よ」キリッ
かすみ「ドヤ顔で言わないでください……」 .
果林「なんとなくの事態は把握したわ、侑が大変みたいね」
愛「体が目的ってことは、ゆうゆは、今頃……」
歩夢「やめて!!!!」
愛「あっ、ごめん……」
せつ菜「万が一のことを考えてやはり、警察に連絡しましょう」
せつ菜「日本の警察は優秀です、犯人を刺激しないよう捜査してくれるはずです」
璃奈「賛成」
彼方「女子高生だけじゃ、限界があるもんね」
ブー
歩夢「……LINE? 侑ちゃんから、LINEだ!!」
しずく「侑さんから!?」
歩夢「えっと……ひっ!!」
ガシャン
愛「どうしたの!?」 愛の果林の呼び方は漢字で果林じゃなくてカタカナでカリンなんだけど .
せつ菜「失礼します……侑さん! 侑さんの写真です!」
エマ「縛られてる……!!」
かすみ「写真まで送られてきたということは、いよいよ本当のようですね」
愛「文面も送られて来てる……繰り返し言うが、警察には連絡するな」
愛「お前たちの動きは常に見張られていると思え」
璃奈「見張られて……!?」
歩夢「ゆ、ゆうちゃん……」グスグス
かすみ「こうなったらやはり、私たちの力で、すぐに助けに行かなくちゃですよ!」
彼方「それしか、なさそうだね~」
かすみ「とりあえず、犯人の指示にしたがってあげましょう」
しずく「でも、どうすれば……」
果林「お優しいことに、初めからヒントをくれてるじゃない」
せつ菜「ヒント……ああ、手紙に書いてあった暗号ですね」 .
かすみ「まず、みんなでこれを考えてみましょうよ!」
愛「手紙、テーブルの真ん中に置くね」
しずく「えっと、もう一度暗号を見ますと……」
『東京の7人のサブリーダー
色彩感覚に優れた若輩者
望まれた11の命 輝いた5つの瞳
今は冷たい闇を見つめる』
愛「愛さん、こういう謎解きって苦手なんだよね、もっとストレートに伝えてほしい」
璃奈「この文章の出典がないか、念のため調べてみる」カタカタ
彼方「以下の場所のいずれかへ行け、のあとにこの文章だから、場所を示してるんだよね~」
エマ「東京都内というのは間違いないってことで良いのかな」
歩夢「都内と言っても、広いから……」
果林「東京のサブリーダーって、何のことかしら?」
しずく「東京のリーダーといえば、都知事ですか?」
愛「首相なら、日本のリーダーって書きそうだもんね」 .
しずく「それならサブリーダーは副知事でしょうか?」
果林「シンプルに考えるとそうだけど、副知事って7人もいる?」
せつ菜「いえ、都の条例により副知事は4人までと定められています」
しずく「すると、違いそうですね……」
エマ「でも、確かにまずリーダーを何とするか考えるのは良さそう!」
璃奈「ちなみに案の定、この文章の出典は特に見つからなかった」
せつ菜「なるほど……すこし、難航しそうですね」
せつ菜「璃奈さん、すみませんが、先ほどの侑さんが閉じ込められている写真について」
せつ菜「明度など変えて、どこで撮られた写真か、解析することは可能ですか?」
せつ菜「または、侑さんのスマホの位置情報を探ることなど……」
璃奈「明度変えるくらいは簡単にできる、位置情報は……やってみる」
璃奈「歩夢さん、さっきの画像、私のスマホに転送してほしい」
歩夢「う、うん、わかった」
愛「愛さんもりなりー手伝う!」 .
璃奈「ありがとう、少しだけ人手がほしいかも」
果林「じゃあ、画像解析班と暗号解読班で分かれましょうか」
しずく「犯人の示したタイムリミットは今夜18時……手分けして対応した方がよさそうですね」
璃奈「私と愛さん、歩夢さんが、画像その他暗号以外の観点から推理する班で良い?」
かすみ「かすみんもそっちが良いです! 頭痛くなるようなのは嫌いで、こっちにいても戦力にならなそうですし」
璃奈「わかった。それ以外のメンバーが暗号解読に専念しよう」
彼方「璃奈ちゃんのリーダーシップ、発揮できてるね~」
せつ菜「新たな才能……素晴らしいまとめ役ですね!」
璃奈「璃奈ちゃんボード『テレテレ』」
果林「それぞれ作業して、とりあえず30分後の12時を目安に進捗を報告し合いましょう」
愛「おー!!」
かすみ「了解です!」 .
-----
璃奈「侑さんの写真、明度を挙げてみたけど、背景は全体的に真っ黒だし、場所の特定は難しそう」
璃奈「どこか、小屋か倉庫の中かとは思われる」
璃奈「GPSも切られてる。最後に侑さんのスマホ位置を確認できたのは自宅付近みたい」
歩夢「侑ちゃん……」ジワ
かすみ「あああ、歩夢先輩、大丈夫、大丈夫ですから!」
愛「うーん、さすがにそんな簡単にはいかないか」
愛「……犯人、犯人か」
かすみ「え?」
愛「歩夢、今朝ゆうゆの家に行ったとき、家の中は不審な点は無かった?」
歩夢「侑ちゃんの家の中? うん……部屋も、いつも通り綺麗だった」
愛「なるほど、荒らされてないなら、部屋から無理矢理連れ去られたとは考えにくいね」
歩夢「うん、それに、さっき言った通り侑ちゃん今実質一人暮らしだから、」
歩夢「鍵とかの防犯はしっかりしてるはず。窓から入り込める高さでもないし……」 .
愛「確かに!じゃあ、やっぱり外出したときに連れ去られたんだ」
璃奈「歩夢さんは、侑さんの家のドアの開閉音とかドアホンの音とか聞いてない?」
歩夢「うん……深夜でもない限り、結構乱暴に閉めないと聞こえないと思う」
かすみ「良いマンションですもんね」
愛「じゃあさ、ゆうゆが毎朝日課にしてる外出の用事とか聞いてない? ランニングとか」
愛「もしそうであれば、犯人はランニングコースで待ち伏せして……」
歩夢「ううん、聞いたことないよ、日課があるとすればピアノだと思う」
歩夢「もしランニング趣味があるなら、私も1回は誘われてると思うし」
愛「なるほど……」
かすみ「じゃあ、ふとコンビニとかに行ったんですかね」
璃奈「そうであれば、待ち伏せもできないし、場当たり的な犯行ってことになる」
愛「街でゆうゆを見つけて、突発的に連れ去ったってこと? あんな暗号まで用意しておいて?」
愛「私が犯人なら、毎日姿を見せる学校帰りとかを狙うけどな」
かすみ「歩夢先輩と一緒に下校しているためそれが不可能だったのでは?」
歩夢「でも、週に1~2日くらいは音楽科の補講で帰りが別のときもあるよ」
愛「じゃあやっぱり、いつ外に出るかわからない休日より、下校時間を狙った方が確実だよね」
歩夢「どちらにしても、マンションの前は常に人通りがあって、人さらいなんて目立つことできないよ」
愛「そっか、じゃあわざわざ人通りの少ない場所を通る用事がゆうゆにあったってこと?」
歩夢「でも昨日、侑ちゃんは今日何も予定ないって……」 .
璃奈「歩夢さんに内緒な用事か、急な用事。どちらにせよ、おそらく誰かに呼び出された」
かすみ「だれかって、犯人?」
璃奈「たぶん……」
歩夢「どうやって、言葉巧みに侑ちゃんを?」
璃奈「それはわからない。警察とか親族とかを装っておびき寄せて誘拐する手法は外国であったようだけど」
かすみ「なんて狡猾な……」
歩夢「……ねえ、璃奈ちゃん、侑ちゃんの写真、もっと拡大して、鮮明にしてもらうことできる?」
歩夢「腕とか脚とか顔に、乱暴された跡がないことは確かめたいの」
璃奈「わかった。 ちょっとまって……」カタカタ
璃奈「これでどうだろう」
歩夢「ありがとう、……うん、良かった、大丈夫そう」
愛「とりあえず、ひと安心だね」
璃奈「璃奈ちゃんボード『ホッ』」
璃奈「……あれ?」
かすみ「どうしたのりな子?」
璃奈「ここ、画面の隅の方だけど、少しだけ色が薄い場所がある」
愛「うん、本当だね、言われてみれば」
璃奈「これは……」
璃奈「塩?」 .
-----
せつ菜「さて、東京のリーダーについて考えますか」
エマ「首都東京自体が、日本のリーダーではあるよね」
エマ「スイスだと、首都ベルン、経済都市チューリッヒ、国際都市ジュネーブ、どれか迷うけど」
果林「そうね。政治面でも、経済面でも東京がリーダーではあるわね」
彼方「その東京の中でも、さらに中枢を担うところか~」
しずく「私個人のイメージでは、東京のリーダーといえば、やはり都知事、都庁ですけど」
彼方「都庁の支社とか?」
せつ菜「支社が7つあるという話は聞いたことがありませんが……」
せつ菜「万が一そんなところに閉じ込められていたら、大問題ですね」
果林「可能性の一つとして残しておいたら良いと思うけど、副知事も4人だし、ちょっとなさそうね」
彼方「彼方ちゃんのイメージとしては、東京の中心といえば皇居かな~」
彼方「リーダーって表現は適切じゃないかもしれないけど、地理的にも千代田区ど真ん中だし」 .
せつ菜「そうですね、皇族にリーダーという役割はございませんが」
せつ菜「皇居はもともと江戸城だったことを考えると、それならリーダーと捉えても良いかもです」
エマ「天皇様のおうちがリーダーとすると、サブリーダーは?」
しずく「うーん……他の皇族の宮廷でしょうか」
果林「赤坂御用地ってこと? 宮廷が7つもあったかしら」
せつ菜「えーと、調べたところ、宮廷は全部で5つのようです。上皇の住む御所をいれても6つ……」
果林「はずれみたいね」
しずく「それに、この線でもやはり、国を挙げての大誘拐になってしまいますね」
果林「うーん……他に東京のリーダーと呼べる人や場所はない?」
エマ「私、みんなほど日本にいる時間が長くないから、的外れかもしれないけど」
エマ「はじめに日本に来たとき、成田に降りて、そこからバスで東京駅まで来て」
エマ「ここが日本を代表する場所なんだって思ったことはあるよ」 .
彼方「うん、地理的かつ交通の観点から見てもそうかも~」
彼方「東京駅から全国に新幹線が出てるし、それも東京都の中心ではあるね」
せつ菜「そうですね、大手町や丸の内のあたりは東京都の中心……つまり都心ですね」
せつ菜「周辺の千代田区、中央区、港区は特に都心3区と呼ばれています」
果林「ん? 都心……リーダー……えっと」
果林「もしリーダーがそれを指すんだとしたら……」
果林「ふふっ、なるほどね」
しずく「果林さん、どうしました?」
果林「ごめん、もう一度暗号の前半部分を見せてもらえる?」
しずく「あ、はい」
『東京の7人のサブリーダー
色彩感覚に優れた若輩者』
果林「……やはり、間違いなさそうね」
果林「前半に関しては、解けたみたいだわ」 .
----- 12:00 -----
果林「さて、12時になったし、お互い進捗を話しましょうか」
愛「のぞむところだ!」
かすみ「なんで勝負みたいになってるんですか……」
璃奈「こちらの班としては、わかったことは3つ」
璃奈「ひとつ、スマホのGPSは切られていて追跡ができない」
璃奈「ふたつ、侑さんは、家にいたところを犯人に呼び出された可能性が高い」
璃奈「みっつ、侑さんの写真は……海岸沿いの小屋か倉庫で撮られたらしい」
エマ「海岸沿い?」
璃奈「そう。写真を拡大してよく見ると、隅の方に微かに塩のようなものが見えた」
璃奈「これは、塩分を多量に含む大気や風が入り込んだものだと思われる」
璃奈「だから、この場所は潮風が吹いている場所、もしくはまれに海水が入る場所」
彼方「おお~、名探偵だね」
果林「さすがね。そして、その結果はこちらの考察を裏付けるものでもあるわ」 .
かすみ「というと……」
愛「暗号、解けたの!?」
果林「まだ前半だけよ。自信はあるけど確証はないから、違和感あったら指摘して頂戴」
『東京の7人のサブリーダー
色彩感覚に優れた若輩者』
果林「そもそもこの暗号は、侑が閉じ込められている場所を示しているもの」
果林「だから、リーダーとは、特定の人ではなく、どこかの場所の例えだと考えたわ」
かすみ「それで、どの場所に?」
果林「リーダーとは、つまり、東京都心のこと」
果林「だからサブリーダーは、それに準ずるもの、すなわち」
璃奈「副都心……!」
果林「あら、言われちゃったわ」クスッ
愛「え、地下鉄の副都心線のこと?」
果林「そう、その由来となった副都心よ。東京では副都心として7つの地域が指定されているわ」 .
果林「副都心線が通る新宿、渋谷、池袋のほか、大崎、上野・浅草、錦糸町・亀戸、臨海の7つ」
歩夢「それが、7人のサブリーダー……」
果林「そして2行目の色彩感覚に優れた若輩者。これがどの地域かを指している」
果林「副都心の指定は、1958年に新宿、渋谷、池袋、1982年に大崎、上野・浅草、錦糸町・亀戸」
果林「最後に、1995年、臨海地域が指定されている。これが若輩者よ」
歩夢「すみません、りんかい地域って……」
果林「つまりここ、お台場ね」
歩夢「えっ……!」
果林「お台場の正式な愛称はレインボータウン。この学校の虹ヶ咲という名前もそこから取ったんでしょうけど」
果林「この点も、2行目の色彩感覚に優れたという部分に合致するわ」
果林「だから、侑は台場にいる」
かすみ「す、すごい……完璧です!」
かすみ「いまスマホで調べましたけど、果林先輩の言ってること、全て正しいみたいです」ポチポチ .
愛「うん! 愛さんもそれで意義なし!」
愛「カリン、学校のテストはできないのに物知りだね!」
果林「ひとこと余計よ……」
歩夢「そっか……お台場のどこかに……」
彼方「近くにいて、良かった~」
璃奈「うん、私も、すごいと思うけど」
果林「けど?」
璃奈「本当に大丈夫かな。ここで方向性を誤ると、今日中の解決が難しくなる」
エマ「そうだけど、これ以外に思いつかなくて……」
果林「そうね、他の可能性について、念のためもう少し考えてみても良いかもだけど……」 .
ブー
璃奈「!」
歩夢「あ、また、侑ちゃんからLINE!」
愛「なになに、なんて言ってるの!?」
『正解だ 高咲侑は台場に関連したどこかにいる』
せつ菜「ええっ……!!」
果林「……驚いたわね」
エマ「と、とりあえず正解したみたいだけど……」
彼方「問題は、そこじゃないね」
かすみ「と、盗聴器ですよ! きっと誰かのカバンにつけられてるんです」
愛「こわっ! まさか愛さんの!?」
せつ菜「皆さん、それぞれカバンを探しましょう!」 .
歩夢「……あっ!!」
しずく「歩夢さん?」
歩夢「なんだろう、これ……かばんの横のポケットに何か知らないキーホルダー入ってる……」
璃奈「これが、盗聴器……?」
かすみ「き、きっとそうですよ!! 歩夢先輩、早く捨てちゃってください!」
歩夢「え、あ、うん、えっと」
かすみ「窓の外です! 貸してください! おりゃー!!」ブン
ポーイ
かすみ「はあ、はあ……」
エマ「これで、大丈夫なのかな……」
ブー
歩夢「また、LINEだ!」 .
『盗聴器を捨ててしまうなんて さみしいじゃないか
では ここからは追加のヒントは無し 貴殿らの到着を待つ』
せつ菜「なんだかムカつく言い方ですけど……」
せつ菜「良かった、先ほどの物体は本当に盗聴器だったみたいです!」
かすみ「ふー、ひと仕事終えた気分です」
愛「ナイス! かすかす!」
かすみ「かすみんですぅー!」
歩夢「で、でも、なんで私のカバンに……」
果林「……犯人が恐れているのは警察への連絡だから」
果林「それを見張るために、一番侑を心配して通報しそうな歩夢のカバンに付けたのかしら」
歩夢「いつ、つけられたんだろう……怖い……」
果林「盗聴器はひとつとは限らないわ、みんな警戒しておいて」
しずく「……そうですね」 .
かすみ「では、暗号解読に戻る感じですか?」
果林「そうね。それしかないでしょう」
せつ菜「しかし、ここからが問題です。上2行は、愉快犯のおかげで言質がとれましたが」
せつ菜「お台場と言ってもまだ広いので、下2行の解読も必須です」
『望まれた11の命 輝いた5つの瞳
今は冷たい闇を見つめる』
エマ「ここが、少しだけ調べてみたけど、まだわからないんだよね……」
せつ菜「台場で11と言えば、首都高速11号線が浮かびますが」
彼方「一応、11号線……芝浦JCT~有明JCTの長さが5kmらしいけど……」
愛「それで11の命、5つの瞳とするには、無理があるね」
果林「ただ、ここで唸っているのも飽きたから、実際に歩いて探してみようと思うわ」
果林「海岸沿いと、念のため首都高沿いを念入りにね」 .
エマ「みんなで手分けすれば、探せると思う!」
せつ菜「なるほど、それは良い案です!」
かすみ「うげげ、この暑い中歩き回るんですか?」
果林「もちろん、足が痛くならない程度に休んだり、効率重視でバスとか使いましょう」
果林「あと、連絡は密に取り合うこと」
かすみ「そうですね、それは大前提ですけど」
璃奈「私は、もう少し、この画像からわかることないか解析を進めてみる」
璃奈「何か調べ物をする必要があれば連絡して」
果林「わかったわ、お願いね」
果林「えっと、8人いるから、2人×4グループで分かれましょうか」
愛「じゃあ、愛さんは歩夢と組もうかな」
かすみ「かすみんはしず子で!」
果林「じゃあ、私とエマ、彼方とせつ菜で良いかしら」
せつ菜「承知しました! 彼方さん、必ず見つけ出しましょう!」
彼方「お~!」 .
----- 13:00 -----
かすみ「あああ、暑いです~」
しずく「かすみさん、それさっきも聞いたよ」
かすみ「でも、暑いものは暑いの! 明け方は涼しかったのに……」
しずく「1日の寒暖差すごいもんね。体調崩さないよう気をつけないと」
しずく「どこかで飲み物買おうか、熱中症になったら大変だもんね」
かすみ「そうしよう……果林先輩も、休んだりバスとか使えって言ってたし」
かすみ「で、学校出て、青海方面に海岸沿いを行くんだっけ?」
しずく「うん、何か閉じ込められてそうな小屋や倉庫があればしらべてみたいな」
かすみ「でもお台場って、倉庫は山ほどあるよお」 .
しずく「そうだけど、もう使われてなくて、勝手に人が立ち入れるものはそんなに多くないんじゃないかな」
かすみ「うーん……」
しずく「もし蒸し暑い倉庫の中に閉じ込められてたら、脱水症状をきたす恐れもあるし!」
かすみ「えっと、それは大丈夫じゃないかなあ」
しずく「どうして?」
かすみ「さっきのりな子の話だと、小屋とか倉庫の中だとしても潮風が吹きこんでるってことでしょ」
かすみ「風通しは良いなら、灼熱地獄にはならないと思うよ」
しずく「そっか……でも、それでも、1日中倉庫の中はつらいよ! 早く行こう!」
かすみ「はーい」 .
----- 13:30 -----
せつ菜「高速道路沿いに、東雲駅の近くまで来ましたね」
彼方「変わったことは特になし……やっぱり首都高は無関係なのかな」
せつ菜「そうですね。11号はまだしも、5kmを5つの瞳と表現するのは……」
彼方「5kmで5つなら、強いて言えば、各kmのキロポストかな」
せつ菜「さすがにキロポストを瞳と言い換える理屈はなさそうですが……」
せつ菜「それに、レインボーブリッジの真下の部分なら歩けますが、キロポストって高速道路上のものですからね」
せつ菜「そんなところに人を閉じ込める小屋や倉庫があるとは思えません」
彼方「そう信じたいけど……」
遥「あれ、お姉ちゃん!」
彼方「おお、遥ちゃん~」
遥「せつ菜さんも、こんにちは!」
せつ菜「はい、こんにちは」 .
彼方「遥ちゃんは、午前中部活だったね」
遥「うん! お姉ちゃんたちはこんなところで何してるの?」
彼方「それがね、侑ちゃんが……」
せつ菜「彼方さん!」
彼方「あ! えっと、侑ちゃんが……その、」
彼方「みんな足腰を鍛えるためにウォーキングしなさいって言うから、散歩してるんだ~」
遥「ふうん……? 学校の運動場じゃだめなの?」
彼方「ほら、いつも運動場じゃ飽きちゃうから、たまには外でね」
遥「そっか! 良い案だね!」
せつ菜「あはは……」
遥「この後、友達と遊んでくるね! 夜ご飯までには帰ると思う!」
彼方「はーい、どこに行くの?」
遥「観覧車に乗るの! もうすぐ観覧車の営業終わっちゃうでしょ? だから、その前に」
せつ菜「ああ、観覧車のあるパレットタウンが2022年8月で完全閉館するんでしたよね」
https://i.imgur.com/du6IC7G.jpg .
遥「はい! 高校の友人とはまだ乗ってないので、思い出づくりにと思いまして」
彼方「わかったよ~、楽しんできてね」
彼方「あとごめん、彼方ちゃん夕飯は同好会のみんなと食べるかもだから、昨日の作り置きを食べてもらえる?」
遥「そうなの? わかった!」
遥「では、失礼致します!」
せつ菜「……いつお会いしても、礼儀正しくて良い妹さんですね」
彼方「遥ちゃんは彼方ちゃんの自慢だからね~」
彼方「そっか……あのお台場のシンボルの観覧車も、もうすぐ乗れなくなっちゃうんだね……」
せつ菜「はい、さみしくなりますね」
せつ菜「私ももう一度くらい、行くことがあるでしょうか……」 .
----- 14:00 -----
璃奈「……お、新しいソフト、入手完了」
璃奈「さっそく侑さんの画像を……」
璃奈「ん~」カタカタ
璃奈「……だめか、さすがに写真を撮影した場所の情報は拾えない」
璃奈「次はどうしようかな……あれ」
璃奈「これは、どういうことだろう」
璃奈「今日みんなが集まりだしたのは10時少し前だったから……」
璃奈「関係ないかもしれないけれど、一応、皆に報告しておこう」 .
----- 14:20 -----
歩夢「すみません、今日、どこかでこの子みませんでしたか?」
通行人「いえ……ごめんなさい」
歩夢「……ありがとうございます」
愛「なかなか見つからないね、ゆうゆの目撃者」
歩夢「うん、侑ちゃんを知っている人はいても、今日の目撃情報は無し」
愛「プロムナード公園とダイバーシティにも、暗号に関する手掛かりはなかったし」
愛「まずいな、もう14時半か……あ」
しずく「愛さん! 歩夢さん!」
かすみ「どんな感じですか?」
愛「やっほー、ふたりとも」
歩夢「ごめん、まだ何も……」
しずく「そうでしたか、実はこちらも」 .
かすみ「倉庫の中とか虱潰しに探してたんですけど、いつのまにか立ち入り禁止のとこ入ってて」
かすみ「関係者の方に見つかってだいぶ怒られました……」
歩夢「それは大変だったね……ありがとう、そこまで探してくれて」
しずく「いえいえ、侑さんのためですから」
しずく「そういえば、先ほどの璃奈ちゃんからのLINE、どう思いますか?」
愛「え、りなりーからLINE来てるの?」
しずく「はい、15分ほど前に」
歩夢「本当だ、えっと……解析の結果、縛られた侑ちゃんが撮られたのは」
歩夢「午前7時……?」
愛「つまり、写真が届いた11時ころに、タイムリーに撮られた写真じゃないってことだ」
歩夢「じゃあ、少なくとも7時より前には連れ去られていたってこと?」
愛「そうなるね……ゆうゆは6時ころには家を出たってことだ」
歩夢「そんな早くに……誰を名乗って何て言えば、そんな時間に不審なく呼び出せるの?」
しずく「それが不思議ですよね、私も今、かすみさんと話していて……」
かすみ「かすみんには全然わかんないです!」 .
愛「……あ」
歩夢「ん?」
愛「もしかして、呼び出したのは……知りあいだった?」
しずく「え?」
かすみ「ちょっと、愛先輩、まさか仲間を」
愛「えっと……逆にさ」
愛「歩夢は、朝6時に誰かに誘われたとして、誰だったらひょいひょい外へ出ていく?」
歩夢「私? それは、家族じゃなければ、えっと……侑ちゃんとか?」
愛「しずくちゃんは?」
しずく「えっと、そうですね、私もかすみさんとか、同好会の……」
かすみ「しず子、ストップ」
愛「…………」
歩夢「まさか、愛ちゃん」
愛「ご、ごめん、忘れて! あはは、だめだな、変な考えしか浮かばなくて」 .
愛「やっぱり愛さんには推理は向いてないや」
歩夢「え、うん……」
愛「暗号解いた果林みたいに、何か役に立ちたいって思ってちょっと焦っちゃった」
かすみ「そうですよ、変な冗談はやめてください」
歩夢「…………」
歩夢「果林さん、よくあの暗号、解けたよね、副都心なんて」
歩夢「まるで知っていたみたいに……」
歩夢「朝も遅れて来てたし、もしかして……」
愛「歩夢!!」
歩夢「っ!」
かすみ「ちょっとちょっと、先輩方……」
愛「……歩こう、台場公園で集合だって」
歩夢「うん……」
しずく「……?」 本日はここまでになります
続きは明日
いろいろ稚拙ですが、読んでくださりありがとうございます 時系列の設定とかツッコみたいことはあるけど、面白そうなので続き期待してます どうでもいいけど、一応アニメ設定なら侑先輩と璃奈さん、ね
どう考えても身内に犯人いそうだし、犯人の特定に繋がりそうな盗聴器ポイ捨てしてるのもヤバそう…… .
----- 14:40 -----
果林「ええと、台場公園は向こうかしら?」
エマ「果林ちゃん、そっちは来た方角だよ……」
果林「あら、ごめんなさい、エマがいて心強いわ」
エマ「方向感覚と早起きに関しては、果林ちゃんには私がいないとね」
果林「あら、少なくとも早起きなら、私だってできるときはできるのよ」
エマ「えっ、そうなの!?」
果林「……まさかそんなに驚かれるとは思わなかったわ」
果林「うーん、侑は見つからないし、暗号の11と5の謎も解けてないままね」 .
エマ「11と5、実はさっきひとつ思いついたものがあるの、絶対関係ないけど」
果林「あら、何? ぜひ教えて」
エマ「五十音だよ。日本語のひらがなを覚えるときの表、11列5行だった」
エマ「『ん』を単独で1列としたときのパターンだけど」
果林「なるほどね。あかさたなはまやらわ+んで11列、あいうえおで5行か」
果林「これを『望まれた11の命、輝いた5つの瞳』と表すかしら」
エマ「うーん、ごめん、そこまではちょっと……」
果林「ありがとう、その線でもいったん考えてみましょう」
エマ「うん!」
果林「さて、あの海に突き出てるのが台場公園よ」
果林「みんな来てるかしら」
https://i.imgur.com/Nu91tMT.jpg 暗号わかっちゃったけど書かないほうがいいかな
そこからの侑ちゃんの居場所はさっぱりだけど .
----- 15:00 -----
彼方「あ、果林ちゃんとエマちゃんだ~」
せつ菜「お疲れ様です! いかがでした?」
果林「収穫はゼロよ。足が棒のようになっただけだわ」
彼方「そっちもか~」
果林「そのようだと、特に手掛かりは得られなかったみたいね」
せつ菜「残念ながら……」
エマ「この公園の中は?」
せつ菜「私たちも今到着したところで、まだ確認できていません」
果林「そう。じゃあ、仕上げに1周回ってみましょうか」
エマ「でも、この公園、変なところにあるよね」
エマ「住宅地からも少し離れてるし、海の上にちょんと突き出た感じで」
彼方「彼方ちゃん、来たこと無かったかも~」
せつ菜「それについてはですね、この公園が後からできたのではなく、」
せつ菜「この公園が、台場の歴史の始まりなんですよ」 .
エマ「え、どういうこと?」
果林「あら、詳しいわね」
せつ菜「はい! 一度、小学生のころに自由研究で調べたことがあるんです」
せつ菜「ほら、あそこに史跡が見えるでしょう」
エマ「うん、錆びててよく分からないけど……あれは何?」
せつ菜「はい、あれはですね……」
果林「あっ!!!!」
彼方「うわあ」
せつ菜「ど、どうしました?」
果林「……解けたわ……」
エマ「え?」
果林「おそらく……いや、うん……きっと」
果林「あの暗号、この話だったんだわ……」 .
----- 15:15 -----
愛「おーい! 遅くなっちゃった」
歩夢「ごめん、何も、見つけられなくて……」
せつ菜「愛さん! 歩夢さん!」
かすみ「かすみんもいますよ!」
しずく「お疲れ様です」
彼方「おお、皆さんお揃いで」
かすみ「りな子も今、お台場海浜公園駅から歩いて向かってるそうです」
エマ「やっと涼しくなってきた、だいぶ汗かいたね」
しずく「はい、ただ、それに対する成果が得られず……」
果林「大丈夫。それなら、ちゃんとここで、謎は解けたから」
歩夢「え!?」
愛「あの暗号、解けたの!?」 .
果林「ええ、璃奈ちゃんが着いたら、詳しく説明するわ」
果林「彼女にはひとつお願い事をしてもらっていたから」
歩夢「……また、果林さんが解いたんですか?」
果林「んー、まあ、そうね。私が一番先かしら」
歩夢「なんで、そんなに解けるんですか?」
果林「ん? だからそれは、これから説明して……って、どうしたの? 顔怖いわよ」
愛「歩夢」
歩夢「……いえ、すみません、推理楽しみにしてます」
せつ菜「歩夢さん……?」 .
璃奈「ごめんなさい、遅くなった」
愛「りなりー! これでそろったね」
かすみ「早く暗号の答えを聞かせてくださいよぅ!」
果林「ええ、では、後から来たみんなに向けて説明させていただくわ」
『望まれた11の命 輝いた5つの瞳
今は冷たい闇を見つめる』
果林「えーと、かすみちゃん、お台場の成り立ちは知ってるかしら?」
かすみ「え、か、かすみんですか? すみません、そういうのは専門外で……」
果林「私はこっちに引っ越してくるとき、せっかく住む場所ならと思って、いろいろ調べたことがあるんだけど」
果林「台場。この名前の由来は、砲台があった場所よ」
果林「1853年、ペリー来航に危機を感じた江戸幕府は、東京湾に11の砲台を作ることを計画」
果林「莫大な金をかけ、すぐさま工事に着手したわ」 .
果林「しかし、工事計画を縮小せざるを得なくなった事情と、外国との戦争は無いまま開国したことから」
果林「実際に完成したのは5つ。2つは途中で建設中止、4つは着工すらされなかったわ」
歩夢「もしかして、それが暗号の……!!」
果林「そう。望まれた11の命、輝いた5つの瞳。これはこの砲台についての話としか考えられない」
せつ菜「気づいたきっかけは、あそこにある史跡、砲台跡です」
https://i.imgur.com/CEHd5E7.jpg
せつ菜「この台場公園は、もともと第3台場のあった場所を、公園として整備したものなんですよ!」
しずく「え!? そうだったんですか……」
歩夢「じゃあ、ここに侑ちゃんが!?」
果林「いえ、それが、いなかったわ」
エマ「ちゃんと探したんだけど、ここじゃないみたいなの」
せつ菜「この公園には小屋のようなものはありませんし……」 .
愛「じゃあ、他の砲台の近くに?」
果林「それしかないわね。ただ、完成した第1,2,3,5,6台場のうち」
果林「第3はここで、第2台場は今はもう海の底。第6台場は……あそこの島よ」
歩夢「え、あの島が……」
https://i.imgur.com/caLKt6G.jpg
果林「そう、でも、あそこは民間人は立ち入り禁止だから、犯人も入れないはず」
果林「念のため、璃奈ちゃんに調査してもらったけど、どうだった?」
璃奈「うん、昨日深夜から今朝にかけて、あの島に近づいたボートなんて絶対に無いって」
璃奈「そんな時間に渡る船があったら目立つからわかるって」
璃奈「一応、深夜から朝にかけての定点カメラ映像も早送りで見たけど、映ってなかった」
果林「ありがとう、やっぱりそうね」
果林「じゃあ、残りは第1台場と第5台場の2つ。いずれも今は土の中だけど、これらの跡地付近に侑はいるはず」
果林「暗号文最後の今は冷たい闇を見つめる、これは砲台が今は土の中にあることを示しているはずよ」 .
愛「早速行こう! その2つはどこにあるの?」
せつ菜「それらは天王洲アイル駅から歩いて行けますので、東京テレポート駅から電車で移動しましょう」
愛「あれ、向こう側なんだ!」
果林「部室にいるとき歩夢に来たLINEの言い方が気になってたのよ」
果林「高咲侑は台場に関連したどこかにいるって言い方……なんで台場にいるって直接表現するのを避けたんだろうってね」
果林「きっと、歴史的な意味での台場には関係するけど、現在の住所では台場じゃないから、この言い方にしたんだわ」
歩夢「なるほど……」
かすみ「やっとゴールが見えてきましたね!」
歩夢「…………」
果林「どうしたのよ歩夢、さっきから」
歩夢「もし、その砲台跡にも手掛かりが見つからなければ、18時を待たずに警察へ連絡します」
歩夢「良いですか?」
果林「私にきくの? そうね、もしこれでもいなければ私もお手上げだし、賛成するわ」
愛「大丈夫! きっといるよ! すごい納得できる内容だったもん」
かすみ「はい! 絶対大丈夫です」
彼方「お~」 .
----- 16:00 -----
果林「天王洲アイル駅についたわね」
果林「残りは第1と第5があるのだけど、二手に分かれましょうか」
しずく「はい、それで大丈夫です」
果林「ひとつは10分くらい歩くのよね、もうひとつはすぐそこなんだけど」
璃奈「私、今日あまり歩いてなくてまだ足に余裕あるから、遠い方で良い」
かすみ「かすみんも第5台場で良いです!」
果林「あら、ありがとう。じゃあ申し訳ないのだけど、QU4RTZの4人で第5台場を見てきてもらえる?」
果林「この道沿いに、まっすぐ歩いたところにあるはずよ」
果林「エマにLINEでおおよそのマップを送っておくわ」 .
彼方「おっけ~」
エマ「はーい!」
せつ菜「すみません、よろしくお願いします!」
かすみ「いってきまーす」フリフリ
果林「さて、私たちは第1台場付近に向かいますか」
愛「やるよー!」
歩夢「…………あの」
歩夢「果林さん、みんな、ちょっと、お話良いかな?」
愛「お!」
果林「……あら」
果林「もうさっそく始めるの? 私も、確認したいことがあるわ」
歩夢「……」コクン .
----- 16:15 -----
かすみ「進め進め進め~♪」
エマ「えっと、果林ちゃんが送ってくれた地図だと、この変なんだけど」
璃奈「でっかい倉庫かオフィスしかない」
エマ「埋立地の先端まで来ちゃったね」
彼方「あ、でも見て、品川台場食堂っていうお店があるよ~」
https://i.imgur.com/2Wu73rC.jpg
かすみ「じゃあやっぱり、このあたりで間違いないですね!」
エマ「砲台跡はどこだろう?」
彼方「地下に埋まってるって言ってたから、地下に続く道が?」
璃奈「でも、侑さんの写真は潮風が入る風通しの良い小屋のはずだった」
彼方「たしかに~」
エマ「写真を撮ってから、場所を移した可能性もあるんじゃ?」
璃奈「……その可能性も完全には捨てきれないけど」 .
彼方「そうなると、探すのかなり大変だね~」
彼方「小屋みたいな場所っていうのは、前提で話してたし」
エマ「でも念のため、地面とかにも怪しいところがないか……」
かすみ「あっ! 見てください、あの小屋怪しくないですか?」
璃奈「ん……まあ、たしかに」
彼方「一応、開けてみようか」
エマ「でも、鍵とかかかってるんじゃない?」
かすみ「よいしょっ!」
ガタン
彼方「おお、開いた……暗いね」
璃奈「ライト、つける」ピカッ
エマ「ん~……」
璃奈「誰も、いない」
かすみ「侑せんぱーい?」 かすみ、侑がそこにいるの知ってるかのように呼んでるような... 暑い暑い言ってたのに、自分から遠い方に行こうとするのも怪しい .
エマ「いなそうだね……」
彼方「誰かいた形跡も無いし、やっぱりここじゃないんじゃ……」
璃奈「まって、何か紙が置いてある」
璃奈「これだけ、ほこりをかぶってなくてきれい」ピラ
彼方「どれどれ……」
『おめでとう、同好会諸君
君たちのチームワークに感動した
高咲侑の身柄は本日中に解放することを約束する』
璃奈「……これは」
彼方「おお~!」
かすみ「やりました! かすみんたち、勝ったんですよ!」
エマ「やったね!」
彼方「最後は、なかなかあっけなかったね~」
璃奈「…………」
かすみ「どうしたのりな子、うれしくないの?」 .
璃奈「嬉しい、けど……まだ、もやもやが消えない」
かすみ「え?」
エマ「確かに、まだ侑ちゃんの無事も、犯人の正体もわかってないもんね」
彼方「うん、そうだよね」
エマ「とりあえず、ここから出ようか」
エマ「で、果林ちゃんたちに連絡を――」
果林「その必要は無いわ」
彼方「あれ?」
璃奈「……みんな、おそろい」
かすみ「もう、第1台場を見終わって……?」
エマ「みんな! 侑ちゃんはいなかったけど、解放してくれるって、手紙あったんだよ!」
エマ「これで終わりみたい!」
果林「そうね、これで一旦ゲームは終了ってことなのかしら」 .
エマ「え?」
かすみ「ゲーム……」
璃奈「…………じゃあ」
璃奈「確信したんだね、果林さん」
果林「ええ、さっきこっちで話し合って、おそらく間違いないと思うわ」
かすみ「りな子……?」
エマ「ねえ、果林ちゃん! 全然言ってることが分からないんだけど……」
歩夢「侑ちゃん!!!」
歩夢「侑ちゃん! きっと近くで見てるんでしょ!! ねえ!」
果林「侑! 出てきて良いわよ、もう全て分かってるから」
果林「答え合わせ、しましょうよ」
彼方「な、なにを……」
ガタン
エマ「……えっ」
愛「音がしたね、小屋の裏?」 .
果林「そんなところにいたの」
侑「…………」
侑「あはは、お見通しかあ」
愛「ゆうゆだ!」
せつ菜「本当にいました……」
しずく「私も半信半疑でしたけど、果林さんの話、真実のようですね」
エマ「本当に、侑ちゃんなの……?」
歩夢「侑ちゃんっ!!!」
歩夢「なんでこんなこと……っ 心配したんだから!!」
侑「歩夢、ごめん、本当にごめんね……」
侑「……えっと、皆にもたくさん謝らなくちゃいけないんだけど」
侑「その前に、気づいていること、全部教えてくれると嬉しいな」
果林「ふふっ、今日何回目の推理ショーかしらね」
果林「来る途中に公園があったわ、場所を変えましょう?」 .
-----
エマ「偽装誘拐……?」
せつ菜「誘拐されたように見せかけることですね!」
果林「ええ。今日の出来事を順に追って整理しましょう」
果林「朝9時前、歩夢が自宅のポストに侑を誘拐した旨の手紙が届いていることに気付く」
果林「歩夢は合鍵を使って侑の家に入り、侑がいないことを確認、メンバーに集合するよう連絡」
果林「11時頃、歩夢に侑のスマホから、縛られた侑の写真が送られる」
果林「ただし、その写真は朝7時に撮られたものだった……」
侑「撮影時間がバレちゃうとは、考えてなかったなあ」
果林「そこで、部屋が荒らされてなかったことから、朝6時頃に誰かに呼び出されて外でさらわれたと考えた」
果林「でも、不審な点がひとつ。侑のスマホのGPSの最後の記録は、侑の家付近であること」
果林「マンションの目の前は早朝でも一目につく場所。さらわれたのなら、少しマンションから離れなきゃいけないわ」
果林「だからあなたは、自宅で自分でGPSをオフにし、自分の意志で外出した」
侑「……GPSをオフにする場所かあ、私も詰めが甘いな」 .
璃奈「GPS調べたの私なのにそこまでは考察できていなかった、無念」
果林「その縛られた写真を初めから歩夢に送信しなかったのは、そうした場合、歩夢がすぐさま警察に電話しかねないからね?」
侑「うん、当たり。みんなに相談するまでは、イタズラの可能性を残しておきたかったから」
愛「実際イタズラだったけどね!」
果林「あとはまあ、犯人の動機の不自然さね」
果林「途中で『正解だ』なんてヒントを与えてきたり……暗号を解かせることだけに目的を持ってるようだったわ」
侑「暗号、結構悩んで、いじわるに作ったんだけどな、すごいや」
侑「果林さんがひとりで解いたの?」
果林「いいえ、数時間以内に解けたのはチームワークがあってこそよ」
果林「台場公園でせつ菜と砲台の話をしなきゃ、後半部分の鍵は思いつかなかったしね」
侑「なるほど、皆の力でここにたどり着いて、かつ偽装誘拐とも見抜けた……」
侑「あとは私が、動機を話す番かな?」
果林「いいえ、推理ショーはまだこれからが本番よ」 .
侑「……というと?」
歩夢「侑ちゃん、これ、全部ひとりでやったの?」
侑「!!」
果林「そんなはず無いわよね? ひとつ、単純に、縛られた侑の写真」
果林「これ、両手もバッチリ縛られてるけど……侑ひとりなら、どうやって撮ったのかしら」
果林「2つ目は、璃奈ちゃんから。さっき私だけにとても有用な情報をリークしてくれたわ」
璃奈「うん。歩夢さんのカバンに付けられてた、キーホルダー型の盗聴器」
璃奈「外に投げた後、落ちてるの拾って分解してみたけど」
璃奈「盗聴器なんてついてなかった……ただの、何の変哲もない、キーホルダーだった」
璃奈「だから、部室に盗聴器があるのかと思って調べたんだけど、見つからなくて」
璃奈「思ったんだ、最初から盗聴器なんてなかったんじゃないかって」
彼方「そうなると、おかしいな、どうして犯人はあんなにタイミング良く……」
果林「だから、そういうことよ」 .
果林「暗号解読の進捗を確認しながら侑に報告したり」
果林「警察に頼らず、全員が自分たちで暗号を解くように流れをつくったり」
果林「盗聴器を本物だと思い込ませるような行動をとったりする役割が必要だったはず」
果林「つまり、この偽装誘拐事件、外部の犯人はいないにしても」
果林「内部に協力者がいたんでしょう? このメンバーの中に」
エマ「えっ……!!」
彼方「この中に、協力者が……」
侑「……それは、誰かな?」
果林「もう否定しないのね。じゃあここは……しずくちゃんに言ってもらおうかしら」
しずく「わ、私ですか?」
果林「ええ。名探偵の演技をしてるつもりになって、ビシッと決めてほしいわ」
しずく「わかりました…………ふう」
しずく「この偽装誘拐事件、侑さんの協力者は……」
しずく「あなたですね」
シュバッ
しずく「かすみさん」 .
かすみ「くっ……!!」
彼方「かすみちゃん……!?」
エマ「なんでかすみちゃんが……」
かすみ「な、なんでかすみんが共犯なんですか!? ここまで、皆と一緒に頑張ってたじゃないですか!」
果林「正直言って、現時点では直接的な証拠は無いわ」
かすみ「なんだ、それで仲間を疑うようなこと言ったんですか」
愛「その仲間って言葉、さっきも使ったね?」
かすみ「え、さっき……?」
愛「かすかすとしずくが、愛さんと歩夢と合流したとき。ほら……」 .
歩夢『そんな早くに……誰を名乗って何て言えば、そんな時間に不審なく呼び出せるの?』
愛『もしかして、呼び出したのは……知りあいだった?』
しずく『え?』
かすみ『ちょっと、愛先輩、まさか仲間を』
愛「愛さんは知りあいとしか言ってないのに、仲間……つまりメンバーを疑うのは、突飛じゃないかな?」
愛「ゆうゆにだって、学校以外の知り合いもたくさんいるだろうし、学内の同好会以外の友達だっているはず」
愛「なんで、メンバーの中に犯人がいること前提なの?」
かすみ「それは……ふとそう思っただけですよ!」
かすみ「その後の会話からして、かすみんがそう言わなくても、そういう流れになっていたじゃないですか!」 .
果林「つぎは私から。天王洲アイル駅に着いて、第1台場と第5台場を見に行くときの会話ね」
果林『残りは第1と第5があるのだけど、二手に分かれましょうか』
果林『ひとつはすぐそこなんだけど、もうひとつは10分くらい歩くのよね』
璃奈『私、今日あまり歩いてなくてまだ足に余裕あるから、遠い方で良い』
かすみ『かすみんも第5台場で良いです!』
果林「あなた、台場の歴史を聞いたときには、そういう話は全然知らないって言ってたのに」
果林「どうして駅から遠い方が第5台場だって知ってたのかしら?」
かすみ「そ、そんなの、適当ですよ! 第1と第5って言われたら、第5の方が遠そうに思えるじゃないですか」
果林「それに、一番歩き回るのを渋っていたあなたが、遠い方を立候補するのも違和感あるわね」
果林「第5台場がゴールだと知っていたからじゃない?」
果林「だから、私たちは第1台場を確認せず、かすみちゃんたちの後をすぐに追ったのよ」 .
璃奈「第5台場付近に到着したときも、すごくスムーズだった」
璃奈「みんなが探す方針に迷ってたのに、一発で正解の小屋に着目して、ためらいなく開けてた」
かすみ「……それもたまたま、怪しく思っただけです」
璃奈「次に、さっきの、盗聴器は盗聴器じゃなかった話」
璃奈「あのキーホルダーを盗聴器として信じ込ませるとともに、」
璃奈「本当は盗聴器が無い中で完璧なタイミングで歩夢さんにLINEを送るためには、こんなやりとりがあったはず」
犯人LINE『暗号の前半解けたので、正解ですって送ってあげてください』
犯人LINE『その3分後に、盗聴器捨てるなんて……ってLINEを送ってください』
侑LINE『了解』
璃奈「つまり犯人は、部室での話し合いの最中に歩夢さんのカバンにこっそり盗聴器らしきキーホルダーを入れ」
璃奈「カバンに盗聴器らしきものが仕掛けられてることを皆に示唆し、盗聴器らしきものを捨てるまで実行した人物」
エマ「あ、かすみちゃん、確かに果林ちゃんが副都心の説明をしたときスマホいじってた……」 .
かすみ「…………」
果林「そろそろ言い返せなくなってきたかしら?」
果林「あと、あなた今朝、寝不足って言ってたわよね?」
しずく「かすみさん、私と歩いてるときも、『明け方は涼しかったのに……』ってぼやいてたけど」
しずく「そんなに朝早く、何をしてたの?」
果林「朝早く起きて、侑と合流し、縛られた写真を撮る。そして用意していた手紙を歩夢の家のポストに入れる」
果林「朝からやることがたくさんあって、早起きしたのよね」
かすみ「そ、それこそ、ただの揚げ足取りです! 私が協力者だって証拠には……」
果林「あら、ついに一人称がかすみんから私になったわね」
歩夢「じゃあ、ひとつお願いがあるんだけど」
歩夢「かすみちゃんへの疑いを晴らすために、LINEのトーク画面、見せてもらえないかな」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています