千砂都「かのんちゃんのコスプレをしてくれない?」
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《5》
千砂都「あー」
千砂都(最悪の目覚め)
千砂都(昨日、どうやってバイト先から帰ったんだっけ)
千砂都(混乱して、全然覚えていない)
千砂都(確認するのも怖いな、色々……) 千砂都(そんなことより)
千砂都(いや、仕事にそんな事とか言っちゃいけないのはわかっているけど)
千砂都「クゥクゥちゃん……」
千砂都(なんて謝ればいいんだろう)
千砂都(私は最低な事をした)
千砂都(かのんちゃんの方が好きとかならまだしも)
千砂都(好きじゃないとか、あんなの)
千砂都(嫌いだ、そう言ってしまったみたいで) 千砂都「あれは本心じゃない」
千砂都(パニックになって、思ってもない言葉を口走ってしまっただけ)
千砂都(そう言って信じてもらえれば、どれだけ楽か)
千砂都(昨日の私の行動は、最悪の連続)
千砂都(クゥクゥちゃんを泣かせて、かのんちゃんを困らせて)
千砂都(バイトはたぶん途中で投げ出して)
千砂都(むしろ心のモヤを増やしただけ)
千砂都(馬鹿だな、私) 千砂都「……学校いかないと」
千砂都(こういう日に限って朝練)
千砂都(早々に、二人に顔を合わせなきゃならない)
千砂都(まずはクゥクゥちゃんに会って、謝らないと)
千砂都(かのんちゃんには上手い事言って、昨日の事を誤魔化して)
千砂都(そうすれば今までどおり)
千砂都(……今までと同じで、いいのかな)
千砂都(そりゃ、同じに戻れたら上出来なんだけど)
千砂都(ギクシャクした感じは変わらないだろうし)
千砂都(なんかだかな……) ◆
千砂都「いってきます!」
千砂都(しまった、考え過ぎて遅刻だ)
千砂都(急がないと――)
可可「遅いですよ、千砂都」
千砂都「く、クゥクゥちゃん?」
可可「おはようです」
千砂都「お、おはよう」
千砂都「もしかして、待っていてくれた?」
可可「はい、話したいことがあったので」 千砂都「やっぱり、昨日の事?」
可可「まあ、そうですね」
可可「本当は登校しながら話をするつもりだったのですが」
千砂都「ご、ごめん、時間」
可可「いえ、伝えておかなかった可可も悪いので」
千砂都「……」
可可「もう、朝練には間に合わないですね」
千砂都「そ、そうだね」 可可「急げば途中からは参加できるかもですけど、学校へ着く前にどうしても話したいことがあるので」
可可「今日は二人で休むと連絡を入れてしまいました、ごめんなさい」
千砂都「……いや、私の方こそ、ごめん」
可可「だからいいですよ、可可にも――」
千砂都「そうじゃなくて、昨日の事」
可可「ああ、その事ですか」
千砂都(クゥクゥちゃんは、何でもないことのように言う)
可可「可可の方こそごめんなさいです、せっかくのたこ焼きを駄目にしてしまって」
千砂都(そんなこと、謝らないでよ) 千砂都「……酷いこと、言ったのに」
千砂都(傷ついていなかったわけがないのに)
可可「全部が本心じゃないことぐらい、可可にも分かります」
可可「だいたい、千砂都のかのんへの愛の重さは百も承知ですよ」
可可「かのんウォッチング仲間として、誰よりも近くで体感してきたのですから」
可可「いちいち気にしていたらやってられないです」
千砂都「……そっか」
千砂都(この子の言葉も、本心だとは思わない)
千砂都(だけど、強いな。根がいつまでも弱虫な私とは大違い) 可可「もう無理に隠す必要はないのではないですか?」
千砂都「へっ?」
可可「本当は、言いたいんでしょう」
可可「綺麗事や理想を抜きにして、かのんに本当の事を言いたいんでしょう」
可可「だからこそ、昨日の千砂都はそれを告げてしまいそうになった」
千砂都「……」
可可「全部隠して、今の関係を無理して続ける方がよっぽどかのんへの負担になってしまいます」
可可「千砂都のかのんへの気持ちは隠しましたが、昨日話してしまいました」
可可「千砂都には好きな人がいること、可可との関係はあくまで代わりだということ」
可可「かのんはおそらく、千砂都の気持ちにも少しは気づいているんだと思います」 可可「加担してしまった私が言えることではないかもですが」
可可「結局、千砂都は言い訳を重ね、関係が終わることが怖がって逃げているだけです」
可可「言えばいいじゃないですか、好きな気持ちを隠してないで」
可可「かのんに、好きだと」
可可「キスして、抱き合って、セックスしたいんでしょう」
可可「ずっとずっと、かのんの一番近くにいたいんでしょう」
可可「千砂都が欲しいのは、可可が演じるかのんじゃない」
可可「本物のかのん、ですよね」
千砂都「それは……」 可可「今日の放課後、かのんに千砂都と二人で話してくれるように頼んであります」
可可「無理をする必要はありません」
可可「だけど、可可はこれ以上千砂都に苦しんでほしくはないです」
千砂都「でもさ、クゥクゥちゃんもかのんちゃんの事が好きなんじゃないの?」
千砂都「いいの、そんな風に私の背中を押して」
可可「好きですよ、大好きです」
可可「だけど千砂都のかのんへの気持ちとは少し違います」
可可「二人が恋人になっても素直に祝福できる。そんな種類の好きです」
千砂都(……そんなわけ、ないのに) 千砂都「……わかった」
可可「じゃあ」
千砂都「私、かのんちゃんに話すよ」
千砂都「自分の気持ち、全部」
可可「千砂都!」
千砂都「クゥクゥちゃんの言うとおり」
千砂都「このまま逃げ続けるのは、よくないと思うから」 可可「頑張ってくださいね」
千砂都「うん」
可可「結果だけ、ちゃんと教えてください」
可可「一人で抱え込もうとしないでくださいね」
可可「もし駄目でも、しばらくは今まで見たいに可可がかのんの代わりになってあげますから」
可可「本物に比べれば意味なんてないかもしれないですけど、少しは気持ちも楽になりますよね」
千砂都「ありがとう、クゥクゥちゃん」 千砂都(放課後……)
千砂都(かのんちゃんと私が話をすべき場所)
千砂都(気持ちを伝えるのに相応しい場所は、やっぱり)
千砂都(『かのんちゃんへ』と)
千砂都「ねえ、クゥクゥちゃんも一緒に来てくれない?」
可可「ふぇ?」
千砂都「出てこなくていいからさ、影で見守っていてほしいんだ」
『放課後、昔よく遊んだ公園へ来てくれる?』 ◆
千砂都「かのんちゃん、まだかな」
千砂都(少し用事を済ませてから行きたいというかのんちゃんを)
千砂都(小さい頃、よく乗ったブランコに揺られて待つ)
千砂都(黄昏時、綺麗な空)
千砂都(昔、かのんちゃんと二人でよくこの時間まで遊んでいたっけ)
千砂都(最初は人がちらほらいたけど、夕やけこやけの音楽と共に、子どもたちは帰り始めて)
千砂都(私は昔みたいに、ひとりぼっち)
千砂都(この公園内での自分以外の登場人物は、かのんちゃんだけだったな) 千砂都(目を瞑って振り返ると、蘇る記憶)
千砂都(子どもの頃の二人)
千砂都(小学生の時の二人)
千砂都(中学生の時の二人)
千砂都(そしていま、高校生の――)
トントン
千砂都(肩を軽く叩かれる)
千砂都(目を開かなくても、相手は分かるよ) 千砂都「かのんちゃん」
かのん「ちぃちゃん、さっきぶり」
千砂都(良かった、ちゃんと来てくれた)
かのん「ごめんね、待った?」
千砂都「うーん、少しだけ」
かのん「良かった、帰っちゃったか少し心配だったから」
千砂都「帰らないよ、自分からお願いしたことだし」
千砂都「なにより、かのんちゃんとの約束だもん」
千砂都「私はいくらでも待つよ」
かのん「あはは、それはそれで困るよ」 千砂都「ありがとね、今日は」
かのん「私の方こそ、ちゃんと話したかったから」
千砂都「……だよね」
かのん「クゥクゥちゃんと、話したんだよね」
千砂都「うん。昨日の事も謝って、たぶん許してもらえたと思う」
かのん「そっか、よかった」
かのん「二人があのまま、仲違いしたら嫌だったもん」
千砂都「ごめんね、心配かけて」 かのん「ねえ、ちぃちゃん」
千砂都「うん」
かのん「今日、ちぃちゃんが話したいことって、昨日の続きだよね」
千砂都「そうなるかな」
かのん「わかった、だったら一つだけ」
かのん「話す前に教えてほしいことがあるの」
千砂都「教えてほしい事?」 かのん「ちぃちゃんは、クゥクゥちゃんのこと、どう思っているの?」
千砂都「どう?」
かのん「勝手に申し訳ないけど、何となく話は聞いたよ」
かのん「好きだから、あんな事をしたの?」
かのん「それとも、他の人の代わりに利用していただけなの?」
かのん「それを知らないと、私はちぃちゃんと前を向いて話すことができない」
千砂都(……やっぱり、かのんちゃんは) 千砂都「最初は、利用していた側面がない、とは言えない」
千砂都「でもクゥクゥちゃんの事を好きじゃなきゃあんな事はやらない」
千砂都「私はちゃんと、クゥクゥちゃんの事が好き」
かのん「うん」
千砂都「だけど他に大切な人もいる」
千砂都「ずっと、想い続けてきた相手がいる」
千砂都「それも、事実」
かのん「そっか……」
千砂都「これじゃあ、答えとしては駄目かな?」
かのん「そんなことはない」
かのん「十分だよ、ありがとう」 千砂都「じゃあ、私の話をしてもいいかな」
かのん「う、うん」
千砂都(緊張感が漂う)
千砂都(こんなシーン、ずっと思い描いていた)
千砂都(小さい頃から、想像の世界で)
千砂都(相手は決まってかのんちゃんで)
千砂都「あの、ね」
千砂都(情けない私は、なかなか言い出すことができず) 千砂都「私、ね」
千砂都(言葉にしてしまえば、たった二文字)
千砂都「その、ね」
千砂都(だけど重い、その言葉を口に出せずに)
かのん「……ちぃちゃんは」
千砂都(だからいつも助けてくれるの)
かのん「ちぃちゃんは、私にしてほしいことはない?」
かのん「なんでも受け入れる。私にできることなら、なんでもする」
かのん「大切な幼馴染の為なら、どんなことでもできるよ」
千砂都(想像の世界と一緒だ)
千砂都(こうやっていつもどおり。私を引っ張ってくれる)
千砂都(大切な人、大好きな人) 千砂都「……かのんちゃんには」
かのん「うん」
千砂都(きっと、最後のチャンスだ)
千砂都(ここで好きと言えば受け入れてくれるかもしれない)
千砂都(幼い頃から秘め続けていた願いが成就するかもしれない)
千砂都(夢の世界でしかみたことのなかった、幸せな世界へ辿りつけるのかもしれない)
千砂都(でも) 千砂都「私にとってのかのんちゃんは、世界で一番の人」
千砂都「格好いい、永遠の、私のヒーロー」
千砂都「だから」
千砂都(これを言った時点で、終わる)
千砂都(叶わない夢は、夢でさえなくなってしまう)
千砂都(怖い、この決断を後悔するかもしれない、けど)
可可(……………)
千砂都(視界の隅、物陰のクゥクゥちゃんが目に入る)
千砂都(それで、覚悟は決まった) 千砂都「かのんちゃんにはこのまま、まっすぐに羽ばたいてほしい」
千砂都「高く高く、誰の手も届かないような場所まで、辿りついてほしい」
千砂都「そうして、私たちを連れて行ってほしい。知らない世界へ」
千砂都(私はそれを支える裏方、もしくは観客)
千砂都(直接触れてはならない、それもまた、私が思い続けていた事)
かのん「ちぃちゃんは、それでいいの?」
千砂都「うん」
かのん「そっか、分かったよ」
千砂都(最初は少しの困惑、だけどすぐに何かを悟ったように頷く)
千砂都(理解してくれたんだろうな、きっと)
千砂都(やっぱりかのんちゃんは、最高の幼馴染だよ) かのん「よし、ちぃちゃんの本音も聞けてすっきりした」
千砂都「うん、よかった」
かのん「ちぃちゃんがこれ以上話すことがないなら、私は帰るよ」
かのん「外、暗くなってきたし。ちょっといい曲のアイディアが浮かんでさ」
千砂都「わかった」
かのん「ちぃちゃんはどうする?」
千砂都「私はもう少し、ここに残ろうかな」
かのん「そっか、じゃあバイバイだね」
千砂都「うん、バイバイ」
かのん「また明日、学校でね」タタッ 千砂都(元気に走り去っていくかのんちゃん)
可可「いいんですか、あれで」
千砂都(入れ替わるように、姿を表すクゥクゥちゃん)
千砂都「うん、いいんだよ」
可可「結局、逃げちゃったんですね」
可可「それはそれで、やさしい千砂都らしいのでしょうか」
千砂都「違うよ、本心からこれでいいと思っちゃったんだ」
千砂都(かのんちゃんへの私の感情は、これで) 可可「……千砂都には、もう少し自分を大切にしてもらいたいです」
千砂都(私のセリフだよ、それは)
可可「本当に、仕方のない人」
千砂都(やさしく抱きしめてくれる)
千砂都(何かを勘違いしたまま、それもそれでクゥクゥちゃんらしい)
千砂都(言わなきゃ伝わらない事)
千砂都(いっぱい、いっぱい、あるんだね) 可可「千砂都はすぐに溜め込んじゃうので、可可が傍にいて支えてあげます」
千砂都「……じゃあさ、さっそく甘えてもいいかな」
可可「もちろんですよ」
千砂都「クゥクゥちゃんの家、行ってもいい?」
可可「はい、大歓迎です」
可可「今日のかのんのコスプレは何にします?」
可可「大出血サービスで、どんなことでも応えてみせますよ!」
千砂都「うーん、そうだな」 千砂都(最初は違った、それは確か)
千砂都(だけどある日から、それが変わって)
千砂都(心のどこかでは気づいていたんだ)
千砂都(私が求めていたのは、仮初のかのんちゃんじゃなくて)
千砂都「コスプレじゃない、生身のクゥクゥちゃんがいいな」
可可「また可可のコスプレをしたかのんですか。千砂都も変わった趣味をしていますね」
千砂都「あはは、そうだね」
千砂都(その裏側にいた、君のことだって) 以上です
思いのほか時間が取れずご迷惑をおかけしましたが、完結まで辿りつけたのはみなさんのおかげです。
久しぶりにSSを書けて楽しかったので、また気が向いたら何かを書きたいと思います。
最後までお付き合いいただいた方、途中で保守などしてくださった方、本当にありがとうございました。 お疲れ様でした
可可がいい子で報われて良かった
素敵な作品をありがとう 台本調だけど少し地の文もあって良かった
ちーちゃんに感情移入しすぎて苦しかったけど楽しかったよ おつ!面白かった
ちぃちゃんのエゴで振り回す感じが青春って感じでとてもよかった かのんちゃんからちぃちゃんへの好きの種類はどういう好きだったのかな 完結乙
お話としては綺麗にまとまっていて良かった
でも最後の選択肢でかのんを選んで更に泥沼にハマっていく世界線も見てみたいなと思ったり 乙
ドロドロなはずなのにどこか爽やかさを感じるお話だった 最後の最後にかのんへの想いを押し殺して(しまったように見えて)しまうのが千砂都らしいなと
全てが報われず救われないからこその良き三角関係エンド、乙。つらい! イチャイチャかのちぃばっか読んでたから凄い心揺さぶられたssでした!
でも面白かった…
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