遥「遥か彼方にある一粒のしずく」
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私、近江遥は姉である近江彼方が大好きです。
私は産まれた時からお姉ちゃんの妹だった。
薄らと、記憶の片隅に残っている思い出。
赤ちゃんだった私の手を小さな手で握ってくれたお姉ちゃん。
そんな彼女の表情は笑顔だった。
『えへへ〜。はるかちゃん』
『かなたちゃんは、おねぇちゃんなんだって〜』
『おねぇちゃんはいもうとをまもるこなんだっておかーさんがいってたの! だから』
『はるかちゃんは、かなたちゃんがおおきくなるまでまもってあげるね〜』ニコッ
『だからあんしんしてね。はるかちゃんっ』
遥「う〜ん……むにゃむにゃ……」
遥「おねぇ……ちゃ……」ニコニコ
遥「……ん〜……?」
遥「ん?」パチリパチリ
遥「!!」ガタッ! >>82 誤字修正
× → いや、再開って言った方がいいかもしれないね。
○ → いや、再会って言った方がいいかもしれないね。 いつも保守ありがとうございます
本日の夜に続き更新予定です ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「それじゃあ遥ちゃん。今から色々と質問をしていくけれど……大丈夫?」
遥「……大丈夫です」
遥(コノエカナタさん……私のおねーちゃん)
遥(その事を告げ、私のおねーちゃん? はどこかへ行ってしまった)
遥「……」
遥(追いたかったけれど、先生に止められた)
遥(今は一人にさせてあげましょうって言われた)
遥(……分からない。分からないよ)
遥(なんで追いかけちゃダメなの?)
遥(私はなんであの人の事を思い出す事が出来ないの……?)
遥(事故にあったことなんて……知らないよ……)
遥(なのになんで──)
「遥ちゃん? 本当に大丈夫?」
遥「……ごめんなさい。色々と考え込んじゃいました」 遥「ご心配をお掛けしました。大丈夫です。何でも聞いてください。……答えられる内容を答えていきます」
「……わかったわ。じゃあ、今から質問するから、分からないことは分からないと正直に答えてね」
遥「……はい」コクリ
そうこうして私は質問攻めを受ける。
簡単な質問から難しい質問等、幅広く問われた。
家族の事は彼方ちゃん以外のことは覚えているか。ペンはどう使うのか。好きな事は覚えているか。
本当に色々と聞かれた。
その結果、分かったことがある。
私は日常生活の中で行われる行動や勉強した内容は覚えていた。
でも周りの人達のことは何も思い出せなかった。
お母さんもお父さんも──おねーちゃんのことだって思い出せなかった。
なんだか心にぽっかりと穴が空いてしまったみたいで、話せば話すほど辛くなって来る自分がいた。 つまんねぇから落ちると思ってたが保守荒らしで延命されてたのか 遥「……」
「こんな質問ばかりして本当にごめんなさい。でも──」
遥「大丈夫です。分かっています」
「……」
遥「状況把握は……大事ですから。先生の気持ちは察せます」
「……しっかりしているわね」
遥「そんな事ないですよ」
遥「何をすればいいのか分からないから、こうしているだけですから……」
「……ごめんなさい。起きたばっかなのに色々聞きすぎちゃったわ」
遥「平気です……」
「遥ちゃん。最後にもう一回だけ聞くわね?」
「自分の周りにいた人たちのこと、やっぱり覚えていないのよね?」
遥「……」
その問いに対し、私はもう一度考え込む。
自分の名前すら覚えていなかった。
優しそうなあの人の名前だって分からなかったのに、覚えている人だなんて── ◾︎◾︎◾︎『今◾︎◾︎お◾︎◾︎◾︎ます』◾︎◾︎◾︎
◾︎『◾︎◾︎◾︎◾︎ん、おかえ◾︎◾︎さいっ』ニ◾︎ッ
◾︎『あっ、◾︎◾︎◾︎さん! この前教えて頂いた◾︎◾︎観ましたよ!』
◾︎◾︎◾︎『えっ!? もう◾︎◾︎くれたんですか? ありがとうございますっ』
──きれいなこ。
◾︎『私、今すごく幸せなんです』
◾︎◾︎◾︎『へ?』
◾︎『◾︎◾︎◾︎さんと友達になれて、◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎と楽しく過ごせる日々があって』
──ともだち。
◾︎『本当に、幸せです』
──しあわせなひび。 ◾︎◾︎く『……』
◾︎ずく『私もですよ。遥さん』
しずく『私も幸せです』
遥「」 「──ちゃん? 遥ちゃん!?」
遥「」
「ちょ、ちょっと遥ちゃん!? 大丈──」
遥「しずく」
「へ……?」
遥「しずくさん」
遥「桜坂……しずくさん」
「桜坂しずくさん……?」
遥「先生……私……」
遥「その人の事なら、少しだけ覚えています」
遥「私の……友達? だったのかな……?」
遥「うん。そうに決まっている……」ブツブツ
「……」
遥「名前は……しずくさん」
遥「──桜坂しずくさんです」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
スタスタ
「……」
「またここに来ちゃった……」
「でも、中に入る勇気なんて……」
「言わなきゃいけないのに……私は……」
しずく「本当にごめんなさい……」
しずく「……遥さん……」 ただでさえ自分のせいでと思ってるのに今の遥の状態知ったらますます責任感じてしまいそう しずくちゃんのことだけ思い出すとか彼方ちゃんはどう思うだろう >>113
怖いような興奮するような、不思議な期待感がある ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
スタスタ…
彼方「……」
彼方(病室、抜け出してきちゃった)
彼方(ずっと目が覚めるのを待っていた遥ちゃんが、ようやく目を覚ましたのに)
彼方「記憶喪失……?」
彼方「漫画とかドラマでしか見たことなかったような事が……なんで……」
彼方(遥ちゃんは私の事を覚えていなかった)
彼方「な、なんでぇ……!」ポロ、ポロ
彼方「っ……!!」
彼方「…………」ゴシゴシ
彼方(泣いちゃダメだ)
彼方「私はお姉ちゃんなんだから……泣いちゃダメ……」
彼方「……」
彼方「私はお姉ちゃんなんだから」 彼方「…………」
彼方(お母さん、今日も仕事だって言ってた。遥ちゃんが起きた事を連絡しても既読が付かない。電話にも出ない)
彼方「……ッ……!」ギリッ
彼方(遥ちゃんが大変だっていうこんな時にも休めないの?)
彼方(私はアルバイトを休んでいるのに、大人は休めないの?)
彼方(そうまでしないと、生活できないの?)
彼方(私達のために働いてくれているのは分かるけれど……)
彼方(それが“大人”の在るべき姿なの……?)
彼方「そうだとしたら」
彼方「……大人になんかなりたくないよ」
彼方「……遥ちゃん。……私、ずっと子供のままでいたいよ……」
彼方「…………」
スタスタ 彼方「あっ……」
しずく「……」ポツン
彼方「しずくちゃん……」
彼方(窓から見える)
彼方(今日も来てくれたんだ)
彼方「……」
彼方(でも、今日も帰っちゃうのかな?)
彼方(やだ。帰らないで)
彼方「話したい」
彼方(帰らないで、しずくちゃん)
彼方「す、スマホ……!」ゴソ、ゴソ
彼方「!! あった」
彼方「……」スッ、スッ
prrrr
彼方(あっ、しずくちゃんびっくりした)
彼方(お願いしずくちゃん。──電話に出て)
彼方(お願い)
彼方「私をひとりにしないで」
──ピッ
しずく『は、はい』
彼方「!!」 しずくちゃんだけ覚えてると知った時の2人が楽しみだ 彼方「こんにちは〜しずくちゃん〜」
しずく『……はい。こんにちは』
彼方「あはは……なんか久しぶりだね〜」
しずく『……はい』
彼方「……」
しずく『……』
しずく『か、彼方さん! わた──』
彼方「遥ちゃんが目を覚ましたよ」
しずく『』
しずく『ほ、本当ですか!?』
彼方「うん」
彼方「でもね、覚えていないの」
しずく『え?』
彼方「彼方ちゃんの事、覚えてないんだって」
彼方「なんにもわからないんだって」
しずく『』
彼方「記憶喪失……なんだってさ……」 しずく『そ、そんな……』
彼方「……」
しずく『なんで……』
彼方「しずくちゃん」
彼方「一緒に来て……」
しずく『!!』
彼方「彼方ちゃんをひとりにしないで……」
彼方「お願い」
しずく『か、彼方さん……』
彼方「お願い……」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「遥ちゃん。色々と聞かせてくれてありがとう」
遥「いえ……」
「とりあえず、さっき話した通り当面の間は入院よ。またお母様や彼方ちゃんが来た時に話し合いましょう? いい?」
遥「わかり、ました」
言葉が詰まる。けど、どうしようもないから返事はする。
──前の私もこんな感じで流されちゃってたのかな?
コンコンコン
「はーい? どうぞ」
ガラガラ
遥「!!」
彼方「え、え〜と……か、彼方ちゃん戻りました〜」ニコッ
遥(あっ、えっと……お、おねーちゃんだよね?)
遥(あの人が私のおねーちゃん、なんだよね?) 遥「え、えっと……」
遥「お、おねーちゃん……で……いいん、ですよね?」
彼方「……う、うん! そうだよ〜」ニコッ
遥「よ、よかった。……お、おかえりなさい」
彼方「……うん。ただいま」
遥「……」
彼方「……」
「……」
──なんか、気まずいや。
彼方「そ、そうだ遥ちゃん! 今ね、遥ちゃんのお見舞いに来てくれた子がいるんだよ〜」
遥「へ?」
「あら、そうなの? よかったわね。遥ちゃん」
彼方「ほらほら、そんな所に隠れていないでこっちおいで〜?」
彼方「“しずく”ちゃん」
遥「」
「へ?」
スタスタ
「か、彼方ちゃん! ダ──」
しずく「こ、こんにちは……」
遥「」
──その姿を見た瞬間、この子が誰だか“わかった”。 遥「桜坂、しずくさん……?」
──その一言で、理由は分からないけれど空気が凍った気がした。なんでだろ?
しずく「へ……?」
「……」
──先生が顔を俯かせている。なんでだろ?
遥「し、しずくさんですよね!?」
遥「全部じゃないですけれど、あなたのことは覚えているんです……!」
遥「あ、あってますよね!?」
──私は嬉しかった。分かる人が目の前に現れたんだもん。さっき思い出せた子が、こうして来てくれたんだもの。自然と笑顔が零れる。
おねーちゃん? にしずくさんの事が分かる事を伝えようと思い、私は彼女の方に顔を向けた。
彼方「」
──おねーちゃんの顔は真っ青になっていた。
──なんでだろ? 遥「お、おねーちゃん……?」
彼方「……んで?」
遥「へっ?」
彼方「なんで?」
スタスタ
遥「え? へ……?」
彼方「な、なんで……?」
おねーちゃんが私の目の前にやってくる。
「か、彼方ちゃん! い、一旦今は──」
彼方「──静かにして下さいッ!!」
遥「ひっ……!!」ビクッ!!
「ッッッ」
──怖い。 彼方「は、遥ちゃん……?」
彼方「私の事は……? わ、分かるよね?」
彼方「近江彼方だよ?」
ガシッ
彼方「は、遥ちゃんのお姉ちゃんだよ? ずっと一緒に過ごしてきた……家族だよ?」
遥「ご……ごめんなさい」
なぜだか知らないけれど、謝ってしまった。
彼方「あ、謝らなくていいんだよ?」
彼方「ただ──」ギュゥゥッ
遥「お、おねーちゃん……い、痛い……!」
彼方「“私の事も”、覚えてるよね?」
遥「わ、わかんないよ! 私、わかんない!!」
彼方「」
彼方「な……なんで……?」
彼方「なんで? なんで……?」
彼方「なんで……なんでなんでなんで!!」
彼方「──なんでッ!!」
遥「ひっ!!」
遥「こ、怖いです!!」
──つい、叫んでしまった。
凄い剣幕で迫られて、怖かった。
しずく「……ごめんなさい……」
──そんな中、しずくさんの謝罪が病室に響き渡った。 しずく「ごめんなさい」
しずく「ご、ごめんなさい……」ポロ、ポロ
しずく「ひっぐ……! ごめんなさい……ごめんなさい……!」
彼方「あっ……」
遥「し、しずくさん……?」
しずく「ごめんなさい……ごめんなさい…っ…!!」
しずくさんの涙が、床に落ちていく。
──雨のように、大粒の涙が落ちていった。
彼方「あっ、いや……ち、違うのしずくちゃん……。その……な、なんで私……!」スタ、スタ
彼方「ご、ごめんなさい……」
彼方「ごめんなさい!!」バッ
タッタッタッタ
遥「あっ……」
しずく「か、彼方さん!」
「彼方ちゃん! ごめんなさい。私、追いかけてくるわ。桜坂さんはここにいてちょうだい」タッタッ
しずく「……」
遥「……」
しずく「ごめんなさい」
──これが私が眠りから目を覚ました? 一日目の出来事だった。 色々想像してたけど悪い方のが当たってしまった
彼方ちゃんもしずくちゃんも辛いな 彼方ちゃんもさすがにここで大人の振る舞いは無理だったか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
あれから少し時間が経ちました。
今日も私は病室で目を覚ます。
私はまだお家にも帰れないし、学校にも行けないようです。
だけど──帰れたとしても、学校に行けたとしても、今と変わらず居心地は良くないんだろうね。
遥「……」
ベッドから上半身を起こし、周りを見渡す。
個室。誰もいない、静かな病室。
──誰もいない。
遥「…………」
窓の外を見つめる。
どんよりとした曇り空で、正直見ていて気分が良くなるものではなかった。
──そんな中、私を呼ぶ声が耳に届いた。
「遥さん」
私は声が聞こえた方へ顔を向ける。
遥「あっ……!」
自然と頬が緩んだ。
しずく「おはようございます。遥さん」ニコッ
桜坂しずくさんが、“今日も会いに来てくれた”。 ・
・
・
遥「──でね、もう休憩室に置いてある絵本は全部読み終わっちゃったんだ! 本当に面白かったなぁ……この歳になって絵本に夢中になるだなんて思わなかったよ」
しずく「ふふっ。そうだったんですね」ニコッ
今日もしずくさんは私に会いに来てくれる。
話を聞いてくれる。
毎日、欠かさず会いに来てくれる。
しずく「ちっちゃい頃も楽しめましたけれど、大きくなってからも楽しめますよね、絵本って。むしろ大きくなってからの方が、物語に込められた想いや伝えたかったメッセージが分かるというか」
遥「そうなの! しずくさんの言う通りなの!」
あれからおねーちゃんとは──会えていない。 遥「……」
あの日から、具体的にどれくらいの時間が経ったのだろう。
私と面会できる人は限られていて、親族と“私が唯一覚えていたしずくさん”だけだった。
徐々に会える人は増やしていく予定だって先生は仰っていたけれど、いつになることやら。
そして、その中でも会いに来てくれるのはしずくさんだけだった。
私の事を“はる”って呼んでくれる綺麗な女性であるお母さんも、私が記憶喪失になったという事を聞いた時は崩れ落ちていた。──そして、会いに来てくれることは無くなった。
私の家は母子家庭と聞いていた。だからお仕事で忙しいのかもしれない。
もしくは──以前の自分を知らない今の私と会うのが嫌なのかもしれない。
遥「……」
しずく「遥さん……?」
ぼーっとしていた私を見て、しずくさんはきょとんとした表情で私の名前を呼ぶ。
遥「……ねぇ、しずくさん」
遥「前の私って、どんな子だったの?」 しずく「え?」
遥「今の私と、そんなに違うの?」
遥「違和感があるの?」
遥「別人みたいなの?」
遥「……だからおねーちゃんもお母さんも、私に会いに来てくれないの?」
しずく「ち、違います!!」ガタッ!!
遥「……」
しずく「遥さんのお母様も、彼方さんも! ……少し忙しいみたいなんです」
しずく「お二人共遥さんと本当は会いたいんですよ」
遥「……」
しずく「それに、遥さんは今も昔も変わっていませんよ?」
遥「……ほんと?」
しずく「はい!」ニコッ
遥「……自分の好きだったものも覚えていないのに……?」
しずく「……」
遥「料理っていうものはわかるけれど、好きだったご飯も覚えていないし、趣味だって覚えていない」
遥「そんな私は……“前の近江遥”と変わっていないの?」
しずく「遥さん……」
遥「ごめんなさい……めんどくさい事を聞いちゃって」
しずく「……遥さんは」
しずく「今も昔も変わらず、私の友達です」
遥「!!」
しずく「私が、そばにいますから」
しずく「私が、支えますから」
しずく「だから……泣かないで?」
遥「っ……!」ポロ、ポロ
遥「うん……! うん…っ…!」ポロポロ
遥「ごめんね……色々忘れちゃって……!」
遥「ごめんなさい……!!」
しずく「…………」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
スタスタ
しずく「……」
しずく(どうしてこんなことになっちゃったんだろう)
しずく(神様はどうしてこんなにひどい運命を遥さんと彼方さんに与えるの……?)
しずく(事故に遭うということが必然だったんだとしたら、なんで遥さんを巻き込んだの……?)
しずく「私だけが事故に遭えばよかったのに」
しずく「……どうしてあの日……車に気がつけなかったんだろう……」
しずく「話に夢中になっちゃったんだろう……!」
しずく「…………」 >>145 修正
× → しずく「……どうしてあの日……車に気がつけなかったんだろう……」
〇 → しずく「……どうしてあの日……もっと早く車に気がつけなかったんだろう……」 悲しすぎる
彼方ちゃんは少し時間が必要だとしてもお母さんは何とか時間を作って顔を見せてあげてよ 打ち所の問題でしかないとドクターがしっかり説明してあげても納得できないんだろうな しずくちゃんのせいで事故にあったのにしずくちゃんのことだけ覚えてるんだ
みたいなドス黒い感情が彼方ちゃんに生まれてしまいそう しずく(遥さんが目を覚ましたあの日から、彼方さんは同好会に来なくなった)
しずく(連絡しても、返事がない)
しずく(3年生の方々は受験シーズンが近づいて来ているから、登校する機会も少ない)
しずく(だから、学校でも会えていない)
しずく(エマさん達も心配していた)
しずく「彼方さん……」
しずく『もー、彼方さん? こんな所でまた寝て……風邪ひいちゃいますよ? 起きてくださーい』ユサユサ
彼方『ん〜? あっ、しずくちゃんだ〜。おはよう〜』ニコッ
彼方『いつも起こしてくれてありがとうね〜』
しずく(ベンチで寝ていた彼方さんを起こしていた日々が、懐かしく感じる)
しずく(……あの頃に戻りたい)
スタスタ しずく「……へ!?」
歩いている途中、窓から外の様子を見た。
しずく「彼方さん!?」
──彼方さんの姿が目に映った。
しずく「!!」
私はすぐに走り、彼方さんがいる病院の正門まで向かう。
外はどんよりとした曇り空。今にも雨が降りそうだった。
雨が降っても大丈夫なように傘だって持ってきたのに、それを取りに戻らず、全速力で正門へ向かう。
しずく(彼方さん!)
しずく(来てくれたんだ!)
病院を走る事はダメなことだってわかっている。
だけど──今だけは許してほしいと思った。 彼方「……」
タッタッタッタ!!
彼方「へっ……?」
しずく「はぁ、はぁ、はぁ……──彼方さん!!」
彼方「しずく、ちゃん……」
彼方「っ!」クルッ
しずく「ま、待って!! 行かないで!!」
しずく「──遥さんが彼方さんに会いたがっています!!」
彼方「!!」
しずく「はぁ、はぁ……」
しずく「会いたがって、います」
彼方「…………」 彼方「……図書館に行こうと思っててさ、前を通っちゃったから病院を見ていただけなんだよね」
彼方「……会えないよ」
しずく「な、なんでですか……」
しずく「わ、私が邪魔だからですよね!? 大丈夫です。すぐに帰りますから……だから、遥さんと──」
彼方「違う」
しずく「え?」
彼方「違うんだよ。しずくちゃん……」
彼方「私が行ったとしても、あの子を怖がらせちゃうから」
しずく「そ、そんなことありません! あの時だって遥さんは少し驚いちゃっていただけで、あれは本心じゃありません」
彼方「そんなこと、わからないじゃん」
彼方「直接あの時の私が怖くなかったか、怖かったか……遥ちゃんに聞いたの?」
しずく「そ、それは……」
彼方「あの時の遥ちゃんの表情……本当に怯えてたよ。分かるんだ」
彼方「だって……あの子からあんな表情、向けられたこと無かったもん」
彼方「だから会えないよ」 しずく「そ、それでも……」
しずく「遥さんは……」
彼方「私は遥ちゃんのお姉ちゃんだから」
彼方「あの子にとって、障害になっちゃダメなの」
しずく「しょ、障害って……そんな!」
彼方「──分かってよッ!!」
しずく「!!」ビクッ
彼方「今の私じゃ……あの子を支えられないんだよ……」ポロポロ
しずく「か、彼方さん……」
彼方「だから……沢山勉強して……あの子の楽しかった日々を取り戻せるようにしなきゃいけないの……それが、今の彼方ちゃんのやるべきことなの……」
しずく「……」
彼方「この前、取り乱しちゃってごめんね」
しずく「……」
彼方「私……しずくちゃんの事も大好きなの。……だからこそ、しずくちゃんとは喧嘩したくないんだ」
しずく「……」
彼方「……遥ちゃんの事、少しの間よろしくね」バッ
タッタッタッタ
しずく「……」
──頬に一粒の雫が落ちてくる。
雨が降ってきた。
しずく「ぐすっ……ひっぐ……!」ポロポロ
しずく「わたし……どうすればいいの……?」
──その声に反応してくれる人は誰もいなかった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
prrrrrr!! prrrrrr!!
プー、プー
「まだ繋がらないの?」
「うん……」
「そう。……少し、心配になるわね」
「うん……」
エマ「彼方ちゃん、どうしたんだろう?」
エマ「心配だよ……」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています