せつ菜「桜舞い散るあの日の勇気をもう一度」
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しずせつ
卒業後のお話です
その辺を気にしない方向け しずく「―――…、と考えております」
審査員「…うん…分かりました」
しずく「……」
審査員「…はい、以上で面接は終了です」
審査員「合否通知については事前にお知らせした通りになります」
審査員「お疲れ様でした」
しずく「…ありがとうございました」
しずく「…失礼します」スッ
ペコ
ガチャ
パタン
しずく(はぁ…緊張した…)
しずく(とりあえずアピールしたいことは全部出せたかな…) ―――私は今、舞台女優を目指して劇団のオーディションを受けている
―――高校卒業してから約1年半。書類選考が通り、2次選考も通過し
―――今日、最終選考を終えひと段落といったところ
―――正直、思っていたよりもずっと早くここまで来られた
―――自分で言うのも少し恥ずかしいけれど
―――スクールアイドルも演劇も、ちゃんと頑張れてたおかげなのかなと思う
しずく(…でも、まだ分からない)
しずく(これから結果分かるまで落ち着かないな…)
しずく(受かってるといいなぁ…)
・
・
・ ガチャ
しずく「……」
カチッ
パッ
―――誰も居なくて暗い部屋に電気をつける
―――ただいまを言う相手はいない
―――卒業してからは一人暮らし
―――最初は新鮮さもあって伸び伸びできたけど
―――慣れてしまえば普通に寂しい
―――そしてそっちは慣れてはくれないみたい
―――でも、そんな寂しさを少しだけ和らげてくれるものがある
しずく(…ふふ、来てた)
しずく(せつ菜さんからの手紙)
しずく(さっそく読もう) ・・・・・・
『オーディション2次選考通過おめでとうございます!
いよいよですね!これが届く頃には最終選考終わってるかもしれませんね
しずくさんならやはり大女優になれますよ!私も今から楽しみです!』
・・・・・・
しずく(…ありがとう、せつ菜さん)ギュッ
しずく(……)
しずく(…また書いちゃおうかな)
しずく(優木せつ菜さんへ…)
しずく(今日も、あなたに元気を貰えて…――――)
―――最初はもっと頻繁にお話したいと思っていたし
―――今でもそう思うけれど
―――手紙も意外と悪くない。相手の反応が直に見えない分
―――少し照れくさいようなことも素直に書けてしまう
・
・
・ ―――せつ菜さんは高校卒業とほぼ同時にアイドルとしてデビュー
―――スクールアイドルとしての知名度のおかげもあってその人気の伸びは異常で
―――容姿はもちろん歌唱力もダンスパフォーマンスも全部が完璧で
―――アイドルとしてのファンも居ればアーティストとしてのファンも居て
―――ライブのチケット倍率は2桁どころか3桁も余裕で超える、らしい
―――ファンクラブ発足したら会員番号でマウント合戦が流行って少し荒れたりもした
―――何故手紙でやり取りをしてるのかというと
―――元同好会の誰も今のせつ菜さん連絡先を知らされていないから
―――個人的なやりとりは家族以外全て禁止されてるとだけ伝えられたきり
―――そんなことあるのかと思ったけれど、この異常な人気と何か関係があるのかも
―――徹底してスキャンダルを回避するための予防とか…?
―――とにかく、何もかもがあの日から別の世界の人みたいになってしまった
―――私の、人生最大の後悔の思い出
―――私にもっと勇気があれば、違った今があったかもしれないのに
―――私がせつ菜さんに告白して、それで… ・・・・・・
同好会元2年組卒業日
しずく『…せつ菜さん』
せつ菜『すみません、お待たせしました』
しずく『いえ…』
せつ菜『どうしたんですか?改まってこんな…』
しずく『…まずは、卒業おめでとうございます』
せつ菜『ありがとうございます!』
しずく『……』
せつ菜『あはは…どうしてもこの時期は寂しくなっちゃいますね…』
しずく『…す、すみません…』
せつ菜『いえ、卒業する皆さんを見送るのは私も経験してますから…』
しずく『それと……』
せつ菜『はい』
しずく『……』
せつ菜『……?』
しずく『…すみません、大丈夫です』
しずく『私……』 しずく『…私、せつ菜さんのことがずっと好きでした』
せつ菜『―――え』
しずく『私がスクールアイドルを始めたのは、演劇と同じものを感じたからですが』
しずく『スクールアイドルの本当の魅力に気付いたのはせつ菜さんのおかげです』
しずく『どちらも観客を魅了するという点は同じですが』
しずく『スクールアイドルは演じるのではなく、自分の持てる魅力で勝負するんだと』
しずく『まぁ、演じることだって私の一つですが…』
せつ菜『……』
しずく『せつ菜さんはそれを私に教えてくれて』
しずく『同時に、私もそんな風になれるようにあなたの事を見てきました』
しずく『それからずっと、せつ菜さんは私にとっての理想でした』
しずく『そんな理想が、憧れが恋心に変わるのはそう遅くはありませんでした』
しずく『いえ、多分初めてステージで歌うせつ菜さんを見た時から…』 しずく『こんな日になるまで言えなくて』
しずく『でもこれで卒業しちゃって…きっとあまり会うこともなくなって…』
しずく『それを実感してしまったら急に怖くなって…』
しずく『この気持ちを抱えたまま、せつ菜さんが居なくなってしまうのは嫌で…』
せつ菜『……』
しずく『だから、私と付き合ってください…!』
せつ菜『…っ』
しずく『……だめですか?』
せつ菜『まさか…はは…そんなこと…』
しずく『せつ菜さん…?』
せつ菜『……私も…好き、だったのに…』
しずく『…!、な、なら…』
せつ菜『……』
しずく『……?』
せつ菜『ごめんなさい、私…付き合えません』
しずく『!?…な……なん、で…』 せつ菜『…言えません。すぐに、分かると思います』
しずく『…わ、分かりません!意味が!はっきり言ってください!』ガシッ
せつ菜『……ごめんなさい』
しずく『い、嫌です!納得いきません!何か、理由があるなら…』グスッ
しずく『お願いしますっ…!』ヒック
せつ菜『っ……わ、分かりました。これ、内緒ですからね』
せつ菜『私、数日後にアイドルとしてデビューすることが決まってます』
しずく『……え…』
せつ菜『誰にも言うなって言われてるので、たった数日ですが絶対内緒ですよ』
せつ菜『もう、誰かのものになることはできないんです』
しずく『…あ…わ、私は…遅かった…?』
せつ菜『私たち、両想いだったんですね……あはは…』
せつ菜『一番好きな人に、私の大好きはとっくに届いてたなんて』
せつ菜『本当なら喜びたいところですが…』
しずく『……そんな…』ポロポロ しずく『私が…もっと早くに勇気を出していたら…』
せつ菜『……』ギュッ
せつ菜『気持ちに気付けなくてごめんなさい』
しずく『ち、違います、せつ菜さんのせいじゃ…』
せつ菜『それに、私も怖くて言い出せませんでした…だからおあいこですよ』
しずく『……』
せつ菜『…私の事、応援してくれますか?』
しずく『…っ、しますよ…当たり前、じゃないですか』グスッ
せつ菜『…私の最初のファンはしずくさんですね』
しずく『…そうですよ、デビュー前からの、ひっく、大ファンなんですから…』
せつ菜『そのうちファンクラブができるんですけど』
せつ菜『会員番号000番、貰ってくれませんか?本当は怒られちゃいますけどね』
しずく『貰います…っ、絶対私にください…』ポロポロ
しずく『ファンレターだってたくさん書きますっ!』ギュッ
せつ菜『……』ナデナデ
・・・・・・ ―――個人的なやり取りは禁止のはずなのに
―――私がファンレターを送ればせつ菜さんはこっそり返事をくれた
―――署名は中川菜々
―――これが分かるのは私たち元同好会の皆さんだけ
―――返事をくれるのは、ファンの中でも私だけ
―――付き合えなくても両想い、きっと厳しい管理の中特別扱いされてる
―――そのおかげで私は頑張れる
しずく(…それに…)ピッ
――――――
司会者『本日のゲストは、今や誰もが知る国民的アイドル、優木せつ菜さんです!』
せつ菜『こんにちは!優木せつ菜です!よろしくお願いします!!』
司会者『相変わらず元気が良くて気持ちがいいですね』
せつ菜『それだけが取り柄ですから!』
司会者『またまた』
――――――
しずく(テレビで見ない日なんてないくらい)
しずく(いつでもせつ菜さんの姿を見ることだけはできるから) しずく(…うん、書けた)
しずく(…ん?)チラ
しずく(あ、もうこんな時間)
しずく(バイト行かないと)スクッ
しずく(っと、手紙も出しちゃおう)
・
・
・
アパレルショップ
しずく「いらっしゃいませ♪」
―――本当はアルバイトはする必要がない
―――ありがたいことに、親の仕送りだけでなんとかなる
―――でも何もしないのもどうかと思うし
―――こういう経験も大事だと思うし、それに
侑「しずくちゃん、こんにちは」
歩夢「こんにちは〜」
―――たまに知ってる人が会いに来てくれるのが嬉しい しずく「侑先ぱ、じゃなかった侑さん、歩夢さん。こんにちは」
侑「どっちでもいいって言ってるのに」
しずく「いえ、いつまでも侑さんだけ先輩って呼ぶのも変ですし」
侑「真面目だなぁ」
歩夢「真面目っていう話かなぁ…別に普通だと思うけど」
侑「そうかな」
歩夢「そうだよ」
しずく「相変わらず仲良さそうで」
歩夢「…しずくちゃんはすぐそういうこという///」
しずく「ふふ♪」
歩夢「…侑ちゃん、あの話してあげたら?」
侑「あ、そういえばこの間せつ菜ちゃんに会ったよ」
しずく「え!?どこでですか!?」
侑「ご、ごめん、スタジオでだけど…落ち着いて、ね?」
しずく「あ、すみません…///」
歩夢「ふふっ」
しずく「あ、歩夢さんっ///」 ―――侑さんも実はちょっとした有名人
―――作曲家として、既にたくさんの曲をアーティストに提供している
―――その中にはせつ菜さんも居て
―――元同好会の中で唯一せつ菜さんに直接会える立場
―――正直、ちょっと羨ましい
―――対して歩夢さんはパートで働きながら侑さんと一緒に暮らしている
―――未だに街を歩けばスカウトされるらしいけれど全部断ってるらしい
―――興味が無いわけではないけれど、侑さんより優先するものはないとのこと
―――本当に侑さん一筋の人
―――ある意味、羨ましい
―――この二人は私の理想の…
侑「聞いたよ、オーディション順調なんだって?」
しずく「あ、はい。今日最終選考が終わったばかりで」
歩夢「そっかぁ。お疲れ様。受かってるといいね」
しずく「ありがとうございます」 しずく「あの、それで…せつ菜さんは…」
侑「うん、しずくちゃんのこと気にかけてたよ」
しずく「あ…」パァ
侑「ていうか会ったら絶対聞かれるよ。しずくさんはお元気ですかって」
しずく「そ、そうなんですね…///」
侑「そんなに気になるなら自分で会いに来たらいいのに…」
歩夢「今のせつ菜ちゃんには無理だよ…」
侑「まぁ忙しいだろうし、立場的にもね…」
しずく「そうですね…せめて身体だけは壊さないで欲しいです」
歩夢「はぁなんかいいなぁ。会えなくてもこんなにお互いの事を想うなんて…」
侑「ほんと、今どきこんな子達居るかねってくらい純愛だよ」
しずく「そんなことありませんよ…」 侑「っと、流石に話し過ぎだね、ごめん仕事中に」
しずく「いえ。ありがとうございます」
しずく「いつもお二人に来てもらえて、私嬉しいです」
歩夢「…やっぱりせつ菜ちゃんとも、会えたらいいのにね」
侑「歩夢…」
歩夢「…ごめん。でも、平気なの…?」
しずく「…本音を言えば辛いです。でも仕方ありませんし」
しずく「会えないのはせつ菜さんも同じですから」
歩夢「…ごめんね、わざわざ聞かなくても分かることだったのに」
しずく「大丈夫です。気遣ってもらえているのは分かってます」
侑「…服、見て行こうかな。じゃあまたね」
歩夢「ばいばい」
しずく「はい、ごゆっくりどうぞ」
――――
―――
―― ―――多くの人が初恋の人と結ばれない世の中で
―――私は別に失恋したわけでもない
―――想い人と死に別れたわけでもない
―――多くの人がなりたいものになれない世の中で
―――子供のころ、お芝居が好きな自分をひたすら隠して
―――泣きたいときもあった。周りに合わせて自分を演じる辛さもあった
―――それでも私は自分の夢に全力で居られる
―――そう思えば私が不幸だなんて甘えだ
―――全てが思い通りになるなんてありえない
―――せつ菜さんから聞いた話だけれど
―――今幸せそうな侑さんと歩夢さんだって、二人の間にもいろいろあったんだと
―――だから多少のことは我慢しないと… バイト終了後
しずく(…ん?かすみさんからLINE)
しずく(…!)
・・・・・・
『聞いてしず子!私、せつ菜先輩と同じ事務所のオーディション受かった!!』
・・・・・・
しずく(…すごい)
―――せつ菜さんの人気が爆発してから、せつ菜さんの事務所の競争率は跳ね上がった
―――それをあっさり通過するなんて、かすみさんはやっぱりすごい
―――なんだか私の周りは凄い人が多い…
しずく(本当におめでとう♪今度、お祝いしなきゃね…っと)
・・・・・・
『ありがと〜♪しず子も順調なんでしょ?ファイト!』
・・・・・・
しずく(ありがとう…よし、私もがんばろう)
――――
―――
―― 1ヵ月後
しずく「…や、やった…届いた…」
―――いつ頃来るかは聞かされていなくて
―――気が気じゃない1ヵ月だったけれど
―――ついに、私は…
しずく(ま、まずはえっと…)ポチポチ
〜♪
しずく「あ、もしもしお母さん?」
しずく「落ち着いて聞いてね?」
しずく「…私、オーディション受かったよ!」
しずく「…うん、うん…そう」
しずく「うん…ありがとうっ」
しずく「…ううん。詳しいことはまた話すね」
プツッ
しずく(あと、みんなにも報告して…)
しずく(……せつ菜さんに手紙書こう) ―――手紙は悪くないといったけれど
―――やっぱりこういう時は不便だ
―――本当は今すぐ報告したいのに
しずく(…おかげで、合格しました)
しずく(私もせつ菜さ…じゃなくて、優木さんのように…)
しずく(……それと、この間の新曲も凄くよかったです。毎日聞いてます…)
しずく(これからも応援してます…)
―――こんな他人行儀じゃなくて
―――私の心からの言葉で
―――願わくは自分の口で直接伝えたいな…
しずく(はぁ…もう、良いことがあったんだからこんな気持ちになってちゃだめ)
しずく(手紙出しに行こ…) 数週間後
劇団長「じゃあ、軽く挨拶してもらえる?」
しずく「はい。今日からお世話になります、桜坂しずくと申します」
しずく「役者になるのが夢だったので、こうして入団させてもらえて光栄です」
しずく「皆さんに少しでも追いつけるよう精一杯頑張ります」
しずく「よろしくお願いします」ペコ
パチパチパチ
劇団長「それじゃみんな、分からないこともあるだろうからいろいろ教えてあげてね」
先輩女優「あたし知ってる!元スクールアイドルのしずくちゃんでしょ?」
しずく「え、あ、はい。そうですが、どうして…」
先輩女優「どうしてもなにも、ファンだったんだよね!」
しずく「あ、ありがとうございます///」
先輩女優「あなたの歌はどこかミュージカルっぽさもあったし」
しずく「一応、演劇部にも所属してたので…」
先輩女優「なるほど。まぁこれからよろしくね、しずくちゃん」
しずく「は、はい!」
劇団員A「へー、即戦力ってやつじゃない?」
劇団員B「期待の新人どころじゃないね!」
しずく「そ、そんなことありませんけど…がんばります」 劇団長(試しに今の実力を少し見るだけのつもりだったけど)
しずく「…あなたが…何もしてくれないあなたが私の全てを奪ったんだよ!」
しずく「どうしてくれるの!?私の時間を返してよ!!」
劇団員A「…ごめん」
しずく「謝罪なんかされても―――!」
劇団員A「…ごめん」
しずく「それしか言えないの!?」
劇団員A「―――っさいなぁ!そんなこと言われても、どうしろっていうの!?」
劇団員A「何とかできるならやってるよ!それくらいわかるでしょ!?」
しずく「……っ」ツー
しずく「…ご、ごめんなさい…」シュン
劇団員A「……ううん…私も、ごめん…」
先輩女優「…普通に、次の劇でいけませんか?これ」
劇団長「うん。悪くない、どころじゃない…」
劇団員B「本当に好きなんですね…迫力があってめっちゃ引き込まれます」
先輩女優「はー、改めてファンになっちゃうわ…」 劇団長「おっけー。お疲れ様、桜坂さん」
しずく「あ、はい…」
しずく「どうでしょうか、私…皆さんについていけそうですか?」
劇団長「何言ってんの、文句なしだよ」
しずく「本当ですか!?」
劇団長「っていうかね…次の公演のもう予定組んでるんだけど」
劇団長「まだ期間はそれなりにあるし、やってもらいたい役がある」
しずく「え!?、そんな、いきなりですか…?さすがに…」
劇団長「大丈夫。あなたさえやる気なら私は推すよ」
しずく「…いえ、やります。やらせてください」
劇団長「…良い目だね。うん、期待してるよ」
しずく「はいっ」
劇団長「とりあえず、今日はあなたにいろいろこの劇団の事教えてあげるね」
しずく「はい、お願いします」 入団初日終了後
しずく「……まだかな」
―――緊張した。本職の皆さんの前で演技をするのは流石に怖い
―――でも予想以上の高評価に今は別の意味でドキドキしている
―――それに、もう役を与えてもらえるかもしれないなんて…
「はぁ、はぁ…ごめん、おまたせ!」ポン
しずく「ううん、全然待ってないよ」
―――初日を終えて今日はとある約束の日
―――もし二人とも受かったら、一緒にお祝いしようっていう
「そう?ならよかった」
しずく「うん。かすみさん、こんばんは」
かすみ「ふぅ…しず子もおつかれぇ」
・
・
・ かすみ「それじゃ、二人の合格を祝して」
しずく「乾杯♪」チンッ
かすみ「ノンアルだけどね」
―――私より少し早く夢を叶えたかすみさん
―――とはいえせつ菜さんのようにすぐにデビューではなく
―――今はレッスンがほとんど
かすみ「っていうかせつ菜先輩が異常なんだよねぇ」
しずく「やっぱりそうなの…?」
かすみ「いくら事務所に所属したからっていきなり大々的にデビューなんて無いよ」
かすみ「そこはかすみんも、別にすぐ表に出られるとは思ってないからいいんだけど」
かすみ「こうしてしず子…友達とも会えるし、連絡も取れるんだよ?」
かすみ「かすみん以外の子も一緒。そもそもあんな監禁?束縛?許されるのかなってくらい」
しずく「そうだよね…でも、かすみさんも本当におめでとう。凄く狭い門だったんでしょ?」
かすみ「書類選考の時点だと実感湧かなかったけど、2次で面接に行ったときは面食らったよ」
かすみ「かすみんの受けた日だけでこれじゃ、全部で何人居んのって…」
しずく「あはは…」 かすみ「しかも、元スクールアイドルの知ってる顔も結構居るし」
かすみ「…ま、かすみんの可愛さをもってすれば余裕?みたいなぁ」
しずく「一番かわいいもんね」
かすみ「馬鹿にしてない?」
しずく「してないしてない♪」
かすみ「せてめ嘘っぽくない演技してよね…」
しずく「ふふ」
かすみ「しず子は今日どうだったの?」
しずく「…実はね……」
かすみ「な、なに…なんかあった?」
しずく「…もしかしたら、もう何かしらの役を貰えるかもしれない」
かすみ「はぁ!?…またまた、嘘でしょ?」
しずく「嘘じゃないよ」
かすみ「…はー…うそぉ…なんか自信無くすんだけど」
かすみ「おめでとう。しず子だって凄いよ」
しずく「ありがとう♪」 しずく「私たちの周りって、凄い人多いよね」
かすみ「それは本当に思う」
かすみ「感覚麻痺しそうだよ…」
しずく「ね…」
かすみ「っていうか、してるよね。かすみん達も多分普通に凄いんだけど」
しずく「なんか全然そんな気がしないよね」
かすみ「そういや、せつ菜先輩から返事は?」
しずく「ううん、まだ来てないんだ…」
かすみ「もう結構経ってない?」
しずく「うん、いつもならもう届いててもおかしくないのに…」
かすみ「あー…でもたまーにせつ菜先輩を見かけるけど…」
しずく「え!?」ガタッ
かすみ「うわ、お、落ち着きなって…」
しずく「…///」スッ しずく「それで…?」
かすみ「あぁうん…なんか慌ただしいのはいつもの事だと思うけど」
かすみ「切羽詰まってるというか、余裕が無い気がするんだよね」
かすみ「遠目に見るだけで顔を合わせてるわけじゃないから分かんないけど」
しずく「…単純に忙し過ぎて書けない、っていうならいいけど…」
―――本当は良くない。返事は欲しい
―――けど、それなら多分いつか落ち着くから
―――そうじゃないとしたら…何なんだろう
しずく「分からないね…」
かすみ「侑先輩には?」
しずく「侑さんもいつでも会えるわけじゃないから…」
かすみ「はぁ…そっか…」
しずく「……ごめん、お祝いしに来たのに」
かすみ「…今日は付き合ったげるから元気だせしず子。ほら、食べよ?」
しずく「…うん」
・
・
・ かすみ「んじゃね」
しずく「今日はありがとう」
かすみ「いいよ、でも次はかすみんの話も聞いてよ?」
しずく「うん、約束する♪」
しずく「また誘うね…って言っても、かすみさんもアイドルだからなぁ」
かすみ「アイドルだろうが女優だろうが友達とご飯くらい普通は行けるんだよ」
しずく「…はぁ」
かすみ「ご、ごめん」
しずく「うそうそ、流石に分かってる」
かすみ「もう…ま、何か分かったら連絡するよ」
しずく「うん…おやすみ」
かすみ「おやすみ〜」フリフリ ・・・・・・
かすみ「あぁうん…なんか慌ただしいのはいつもの事だと思うけど」
かすみ「切羽詰まってるというか、余裕が無い気がするんだよね」
・・・・・・
―――先ほどのかすみさんの言葉が妙に忘れられない
―――忙しいのは知ってるけど…
―――本当に忙しいだけなら、いいんだけど…
しずく(…なんだか胸がざわつく)
しずく(…何もないといいけど)
しずく(…手紙が来ないことと無関係ではなさそうだから…) しずく家前
しずく「…あ!」
―――家に着くなり目に入る
―――とても見慣れた封筒、待ち望んだ相手の名前
―――急いで家に入り、荷物をベッドに投げ捨てて封を切る
しずく(何て言ってくれてるかな…)
しずく(褒めてほしいな…)
しずく(ふふ、久々だから余計楽しみ)
―――そうして期待いっぱいにしながら目にした手紙には
―――期待通りの言葉は何もなくて
―――代わりに目についた『次のデビュー記念日に引退します』という文字を
―――私の頭は理解ができないまま見つめるしかなかった
――――
―――
―― ―――それからほどなくして、せつ菜さんの引退発表が報道された
―――唐突過ぎる発表に世間は混乱
―――事務所からの説明は本人の希望、とだけ
―――多くのファンがせつ菜ロスに陥る
―――当然私も
―――まさか、自分がこんな経験するとは思わなかった
―――いつか辞める時も、私には事情を教えてくれると思ったから
―――そもそもこんなに早く辞めるなんて思わなかったから
―――予告通りラストライブを開催した後
―――各メディアへの露出も完全に消えて
―――まるでこの世界からも消えてしまったかのような伝説の人になってしまった
―――そんな中で約1年、私は色褪せてしまった世界をただ一人過ごし
―――そして現在まで、せつ菜さんからの連絡は一切ない しずく「先輩、お疲れ様です」
先輩女優「お疲れ様ー。今日も長丁場で疲れたね」
しずく「そうですね」
先輩女優「ていうか、こんな時期にここまでやらせるかね…」
しずく「公演まであまり時間がありませんからね…」
先輩女優「はぁ、仕方ないかぁ…」
しずく「あはは…」
先輩女優「あれか?あんたらどうせ一緒に過ごす相手なんていないだろって?なめてるよね」
しずく「…居るんですか?」
先輩女優「いないけど…」
しずく「……」
先輩女優「もー、何かいってよ!」
しずく「す、すみません…」
先輩女優「いや、冗談だからね?そんなガチで謝られると困るって」アハハ
しずく「…ふふっ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています