真姫「宝」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
一生ものと言われる何かを人はいつ手に入れるのだろう。
ある人は生まれた時と言っていた。家族は一生ものだと。もちろん、それは間違いでは無いのだろうけど家族は生まれた時から当たり前に私のそばにあって、手に入れたと言う実感がない。だから私にはいまいちピンと来ない。
ある人は家を買った時と言っていた。確かに一生ものの買い物かもしれない。けど、それも私にはピンと来ない。
私が一生ものの何かを手に入れたのは16歳の時だった。 あの日は夏だったか秋だったか明確な時期までは覚えていないけど保健室はエアコンが効いていた様な気がする。吹き出す風が冷たかった。消毒液の香りがツンと鼻につき、今でもその匂いを嗅ぐと思い出す。
絵里「それで?クールなマッキーがどうして喧嘩なんてしたの?」
ベットに横たわる私に絵里が問い掛かる。私は彼女に背を向けている。
真姫「別に。イライラしていただけよ。私、二日目重いのよ」
別に嘘は吐いていない。体調は最悪だし、現に保健室にいるのだから。 絵里はベットに腰を掛け、私と頭に手をポンと置いた。
絵里「イライラしてるからって人に当たる様な子だとは思ってなかったけど」
真姫「絵里の見る目がないだけよ」
せっかく心配して様子を見に来てくれているのに私はぶっきらぼうにしか返せない。 絵里「花陽も凛も落ち込んでいたわよ。真姫を傷付けたって」
ズキンと心が傷む音がした。友達を傷付けた癖に、一丁前に自分も傷付いてなんて自己中な人間なんだろう、私って。
絵里「まあ人間だからね。感情に起伏があるのは仕方ないか。調子が悪い時だってあるものね」
絵里は優しい口調でそう言っていた。 私は絵里の手を振り払う様に頭まで布団を被った。この行動になんの意味がある訳でもないけれど何となくそうしたかった。
絵里「はあ・・・」
絵里のため息が溢れるのが分かった。 バッと絵里が立ち上がるとこの場を離れる気配がした。私はそれが気になり恐る恐る布団から顔を出した。
絵里「やっとこっち向いた」
やられた。絵里はこの場から離れるふりをしたのだった。
絵里「こうでもしないと顔出さないでしょ?」
絵里はそう言うとクスッと笑った。 私を見つめる絵里の目に私は観念した。
真姫「私って面倒くさいでしょ?」
絵里「超が付くほどね」
てっきり否定してくれるのかと思ったので少し驚いた。でも、私はそれを悟られたくなかったので
真姫「だから可愛くないでしょ」
と言ってみた。すると絵里は
絵里「そんな事はないけどね。ほら、手のかかる子程可愛いっていうじゃない」
と言ってジッと見つめてくるので私は慌てて目を逸らした。 絵里はわざわざ私の顔を覗き込んで目を合わせようとする。私は思わずほっぺが紅潮してしまいそうになるので困っていると
絵里「ほら可愛い」
と笑って言った。 絵里がずっと見つめてくるので私は諦めて口を開いた。
真姫「絵里にとって希は一番の友達でしょ?」
私がそう問い掛けると絵里はキョトンとした。意外な質問だったらしい。
絵里「う〜ん、そうね。親友は誰かって聞かれたら希って答えるかも」 絵里にとって東條希が親友だと言う事は周囲の人間は皆んな知っている。
真姫「じゃあ私にとって一番の友達って誰だか知ってる?」
私がそう聞くと絵里は少し考えてから
絵里「ん〜そうね。やっぱり花陽と凛じゃないの?」
と答えた。私は首を横に振る。 真姫「凛にとって一番の友達は花陽なの。逆に花陽にとっての一番の友達は凛」
自分で言っていてとても切なくなってくる。
絵里「それは二人が言ったの?」
絵里の問い掛けに私は再び首を横に振る。 あの二人がそんな事を言う訳ない。けれど、あの二人と一緒に居るとどうしてもそれを感じてしまう瞬間がある。
凛と花陽は私にとって高校で初めて出来た友達だった。子供の頃私は友達と呼べる間柄の人間が居なかった。素直じゃない上に臆病な性格の私はいつだって一人で居たし、それが仕方ない事だと思っていた。
遠足の班決めはいつだってどこか余った所に加えて貰っていたし、体育でペアを作る様な時はいつも先生に相手して貰っていたと思う。 そんな私が少し勇気を出した結果、初めて出来た友達が凛と花陽だった。二人はこんな私と仲良くしてくれた。
凛と花陽は幼馴染で幼稚園の頃からずっと一緒に居てお互いの事をよく知っている。私が二人と過ごした時間なんて二人の付き合いに比べれば取るに足らないと自覚していたしそれ以上を求めてはいけないと思っていた。
けれど、二人との距離が縮まれば縮まる程にその差に気になった。要するに私は友達に嫉妬していたのだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています