歩夢「愛だけに!!」
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─
愛「…っ……ぅ…っ」
菜々「………少し、落ち着きましたか?」
璃奈「…平気?」
愛「っ…ん、うん…ごめんせっつー、りなりー…急にこんな…」ゴシゴシ
璃奈「ううん…」サスサス せつ菜「大丈夫ですよ、ハンカチ…使って下さい」
愛「…ありがと」フキ
璃奈「……」
愛「あぁぁめっっちゃ泣いた…っ」
愛「……でも悔しいなぁ…こんな、泣くつもりなんてなかったのに…」
菜々「そんなになるまでずっと溜め込んで…」
菜々「話してくれれば良かったのに…」 愛「…ぇ…へへ…だね」
愛「…人には一人で抱え込むなよーとか言っといてさ、自分が抱え込んでちゃダメだよね…」
菜々「……」
愛「でも…誰かに話すのがやっぱり、ちょっと恐かったんだ」
菜々「…横、座りますね」
愛「…うん」
菜々「……」スト 菜々「……愛さん、大丈夫ですよ」
菜々「私達はちゃんと受け止めれますから」
愛「……」
菜々「勿論どんな事でも…だから、良かったら話してくれませんか?」
愛「………」
璃奈「……愛さんこの前、言ってたよね」
愛「え…?」 璃奈「歩夢さんのことを大切な友達だと思ってるって」
愛「…うん」
璃奈「それは、本当の事だと思う」
璃奈「でも…いつからか気付いたんだよね、愛さんは」
璃奈「歩夢さんが好きだって」
菜々「……」 愛「………」
菜々「……やっぱり、そうなんですか?愛さん」
愛「……」コク
菜々「……!…そうでしたか…」
愛「………」
愛「ちょっとだけ長くなるけどいい?」
菜々「はい、大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですから」
愛「…うん、ありがと」 璃奈「……」
愛「……だいぶ前にね、りなりーが編集してくれたSIFの映像を確認がてら見せてもらったことがあったんだ」
璃奈「一緒に見たよね」
愛「うん、せっつーも見た事あるよね?」
菜々「…はい。見ましたよ」 菜々「映像越しで改めて見ても楽しさが伝わって」
菜々「皆さんがすごく輝いていて…本当に、すごく楽しくて」
菜々「過去一で最高のイベントだったなって思いました」ニコ
愛「うん、だよね」 愛「アタシも見ててね、メンバーや他校のスクールアイドルがステージで歌う姿がさ…」
愛「可愛かったり、綺麗だったり、かっこよかったりして」
愛「それぞれ違った魅力があって、みんな改めてすごいなーって思ったし」
愛「今後のモチベーションにも繋がるすごくいいフェスだったなーって思った」
愛「ほんとに、みんな輝いてた」 菜々「……愛さん?」
愛「……でもその中でね、一番惹かれたステージがあったんだ」
璃奈「…歩夢さん?」
愛「…うん」コク
愛「画面越しだけど…まるで全部を吹っ切る勢いで」
愛「全力で歌って踊って、全力で楽しんでる姿がアタシにはすごく魅力的に感じた」 愛「何よりも、歩夢の満面な笑顔が頭から離れなかった」
愛「その笑顔にすごくドキドキした」
愛「歩夢ってこんな笑顔も見せるんだなぁって思った」
愛「その時からかな、歩夢を本格的に気になりだしたのは」 愛「…勿論仲悪いってわけじゃなかったけど」
愛「正直それまでがっつり話すって間柄でもなかったし」
愛「前から仲良くなれたらなーって思ってたけど…やっぱり歩夢の事をしっかり知る機会なんてなかったから」
愛「…だから、これからは積極的に歩み寄って、少しずつ歩夢を知っていけたらって」
愛「…純粋に、もっと仲良くなれたらなって思ったんだ」 愛「そんな時に、二学期になってから徐々に歩夢の元気が無くなっていってさ」
愛「練習にも身が入ってなくて、見るからに何か悩んでる様子で」
愛「で…歩夢から話を聞いてみたら、案の定ゆうゆとの事で悩んでて」
愛「その事で歩夢の相談に乗って…色々話してさ」 愛「おかげでちょっと元気になったって言ってくれた時はすごく嬉しかった」
愛「向けてくれた笑顔が嬉しかった」
愛「…これで歩夢の悩みが少しでも解消出来ればいいなーって思った」
愛「…でもあの日…歩夢が部室で酷くうなされたあの日以降、歩夢は学校に来なくなっちゃって」
璃奈「……」 愛「そのあと、ゆうゆの方も歩夢とちょっと揉めちゃって、大分参ってて…」
愛「…ほっとけなかった、二人のあんなに辛そうな顔を見ちゃったから」
愛「…それにもう、あの時のような歩夢の笑顔が…歌や踊りが…」
愛「もしかしたら今後見られなくなるかもしれないって思ったらさ」
愛「いても立ってもいられなかったんだ」 愛「…その時は本当に、二人のためにもなんとかしたいって思った」
愛「純粋にお節介だったからってのもあったと思うけど…」
愛「だから、歩夢に会いに行って…話して」
愛「ちょっと強引だったけど、元気付ける為に遊びに誘ってさ」
愛「りなりーと3人で出掛けて…ゲームセンターで遊んだり」 愛「夜はせっつーと、ゆうゆも家に呼んで4人でお泊まり会して」
愛「…家でたこパしたりしてさ」
愛「すごく楽しい1日だったし、嬉しい1日だった」
愛「二人もしっかり仲直り出来て、本当に良かったって思った」 愛「…何より、その一日の中でちょっとずつ歩夢に笑顔が戻ってきた事が」
愛「アタシはほんとに嬉しかった」
愛「それから、一緒に過ごしていく中で歩夢の笑顔を見る度にドキドキした」
愛「この先も、歩夢の笑顔を横でずっと見ていられたらいいなって思った」
愛「次第にその歩夢の笑顔も…」 愛「歩夢といる時間も…空間も、歩夢の全部が愛おしいって思うようになった」
愛「ああ、アタシはいつの間にか歩夢に惚れちゃってたんだなぁって、やっと実感したんだ」
愛「…前に歩夢と、ゆうゆ以上に仲良くなりたいって勢いで言っちゃったことがあってさ」
愛「最初は、どうしてそんなこと口走っちゃったのか自分でも分かんなかったんだけど…」
愛「…やっと自分のその言葉の意味を理解した」 愛「自覚はなかったけど…きっとあの映像を見た瞬間から、芽生えちゃってたんだなぁって」
愛「最初はやっぱり…ちょっと戸惑った、こんな感情になった事なんてなかったから」
菜々「…伝えないんですか?歩夢さんに」
愛「あはは…っ、伝えないよー」
菜々「……」
愛「伝えられないよ」 璃奈「…歩夢さんを困らせちゃうから?」
愛「……変に悩ませたくないんだ」
愛「アタシは歩夢の笑顔が好きで、歩夢が大好きだから」
愛「それに、歩夢にとっての特別はやっぱり…変わらずたった一人だもん」
菜々「…愛さん…」 愛「もちろん歩夢の中で大切なものは沢山増えていったと思う」
愛「それでも歩夢の中ではやっぱり、ゆうゆが特別なんだよね」
愛「歩夢からゆうゆと曲を作るって聞いた時に改めて思ったんだ」
愛「歩夢にはゆうゆが必要だし、ゆうゆにも歩夢が必要なんだって」
愛「…きっと、この固い絆に勝るものなんてないんだって」
愛「…だから」 愛「歩夢とは実際こうして前よりも仲良くなれて…」
愛「それだけで十分嬉しいって思ったし」
愛「このままの関係で付き合っていければそれだけでいいんだって…ずっと気持ちに蓋をしてきた」
愛「でも実際、歩夢の方からずっと友達でいてほしいって言われちゃったらさ」
愛「嬉しいって思う分…一気に苦しくなっちゃった」
愛「…脈なしだなんて分かってるのに…ちゃんと諦めなきゃなのにね」
菜々「……」 愛「…でも、思いっきり泣いたし…話したらなんだかスッキリしたよ」
愛「聞いてくれて…受け止めてくれてありがとう」
愛「…二人ともほんとごめんね、愛さんはもうだいじょ…」
菜々「大丈夫じゃないでしょう…」
愛「ぇ…?」 菜々「それは自分が一番分かってますよね、愛さん」
愛「……っ…」
菜々「今は大丈夫だからといって、気持ちがある限り…また愛さんは辛い思いをしますよね」
愛「……それは…さ…」
菜々「それでまた苦しんで、泣いて…また自分に大丈夫だって言い聞かせて…」
菜々「そんなの、繰り返していく内にボロが出ますよ」
菜々「……そんなの、絶対ダメです…」 愛「………」
璃奈「ねぇ、愛さん」
愛「……?」
璃奈「…私の知ってる愛さんはね、いつだって自分の気持ちに正直で」
璃奈「誰にでも自分の気持ちを真摯に…真っ直ぐに伝える人だった」
愛「……」 璃奈「そんな愛さんだから、一緒にいて楽しくて…誰とでも仲良くなれて…」
璃奈「そんな愛さんと出会えたから
…愛さんが手を差し伸べてくれたから」
璃奈「…大切な友達になれたから、私はここまで変われたんだと思う」
璃奈「…私も、そんな愛さんみたいになりたいって思ったんだ」
愛「……りなりー…」 璃奈「だから、一人の大切な友達として、愛さんに私の気持ちを伝えるね」
璃奈「…一生のお願い。愛さんの想いを、歩夢さんに伝えて欲しい」
愛「…!」
璃奈「叶わないかもしれない…それでも、全部をぶつけてほしい」
菜々「…私からもお願いします、愛さん」
愛「…で、でもさ……」 菜々「大丈夫、歩夢さんはしっかりと受け止められますよ」
菜々「愛さんの真っ直ぐな気持ちを」
菜々「確かに気持ちを伝えたら、歩夢さんを悩ませてしまうかもしれませんけど…」
菜々「歩夢さんならきっと、愛さんの気持ちに真っ直ぐ向き合ってくれると思います」
菜々「それにやっぱり、何もやらずに…何も伝えずに諦めるのなんて愛さんらしくないです」 菜々「…逆に伝えないまま愛さんが一人で苦しんでしまう方が」
菜々「歩夢さんだけでなく…皆さんも悲しくなります…」
愛「………」
菜々「それに私は、歩夢さんにとっても愛さんは必要な存在だと思いますよ」
菜々「だって、愛さんといる時の歩夢さんは…本当に楽しそうでしたから」
菜々「ですから、もし叶わないものだとしても…少しくらい期待したっていいじゃないですか」 菜々「伝えなきゃ…やってみなきゃわからないですから」
愛「…っ…!…」
菜々「…仮に、万が一愛さんが心配するようなことになったとしても、私達が助けますから」
菜々「それに、いつだってこうして話を聞きますし」
菜々「泣きたい時はいくらでも泣いていいですから」 菜々「だから、愛さんには愛さんらしく、愛さんなりの好きを貫いてほしいです」
愛「……アタシなりの…」
璃奈「うん」
璃奈「……無茶を言ってるのは分かってる」
璃奈「けど…そんな無茶でも、無駄にはならないって思うんだ」
璃奈「だから…」 菜々「……まだ、諦めないで欲しいです」
愛「……」
…そっか、そうだね
バッ
愛「……2人とも」ギュウ
璃奈「…!わっ…」
菜々「へっ…ちょ、あ…愛さん…?」
愛「えへへ……ありがとね」 ……やってみなきゃわからない
いつの日かアタシが歩夢に言った言葉だった
同じ言葉をそのまませっつーに言われちゃうだなんて、思ってもみなかった
言われた瞬間にハッとした
…アタシはずっと臆病になってて、自分を見失って …それで自分の言葉に背を向けちゃってた
りなりーの言う通り…アタシはいつだって、誰にだって自分の素直な気持ちをぶつけてきた
相手のことを知りたいから
自分を知って欲しいから
今回だってそう、本当はどこかで自分の気持ちを歩夢に知って欲しいって思ってる でもずっと、知られることで歩夢との間に亀裂が出来て
縮まった距離が離れてしまうのがこわかった
だから諦めかけてた
けれど、二人の言葉に気付かされた
そんなのって、愛さんらしくないよね すっかり消極的になっちゃってた
アタシはもっと…相手にグイグイいっちゃうタイプで
出来た亀裂なんてお構い無しで、飛び越えてっちゃうタイプだった
アタシはいつだってそうだったって思う
…自分で言うのもなんだけど 愛「もう…二人にめっちゃ元気づけられちゃったよ、愛さん」
愛「ほんとさ…柄にもなく大分ヘタレちゃってたよね」
璃奈「うん、うじうじしてて腑抜けてた」
菜々「ぇっ…り、璃奈さん?言い過ぎでは…」
愛「あははっ…んーん、ほんとそうだもん。めっちゃ腑抜けてたよ」 菜々「…愛さんがそう言うなら、それもそうですね」クスッ
愛「おお、おう…切り返し早いなせっつー」
菜々「ふふ…でも、もう平気そうですね」
愛「…うん、ありがとね」
愛「りなりーも、ほんとにありがとね」 愛「ごめんね、あの時話さなくて」
璃奈「……ううん、私も本当は気付いてたのに…あれ以上聞くことが出来なかった」
璃奈「愛さんの悲しそうな顔を見ちゃいそうで…こわくて」
璃奈「打ち明けてくれるのを待つことしか出来なくて」
璃奈「実は私も臆病だったんだ」
愛「…ほんとごめんね」ナデ 璃奈「ううん…今度は怯えずに、ちゃんと聞く」
愛「…その時は愛さんもちゃんと答えるね」
璃奈「うん」
璃奈「……」
璃奈「…愛さんは、大丈夫だよ」
愛「…え?」 璃奈「実際愛さんが悩んで、ヘタレちゃう気持ちは分かる」
璃奈「誰にとっても大分ハードルの高いことだと思うから、でも…」
璃奈「愛さんは、どんな困難も楽しいに出来る力を持ってて」
璃奈「…どんな時でも、誰かを笑顔に出来る力を持ってるから」
璃奈「愛さんは、楽しいの天才だから」 璃奈「…私はそれに救われたし…歩夢さんも救われたと思うから」
璃奈「だから…今回も大丈夫」
愛「…ふふ、ほんと…2人ともめっちゃいい事言ってくれるじゃん」
愛「…うん…うん。伝えるよ、歩夢に」
愛「緊張はやっぱすると思うけど、今度はちゃんと自分の気持ちと向き合ってくる」 菜々「…はいっ」ニコ
璃奈「ファイト、愛さん」
愛「えへへ……うんっ」ニコ
…りなりーとせっつーは、優しく微笑みながら頷いた
二人の言葉がなかったらきっと…この先も暫くうじうじしてたと思う
助けられちゃったな …うん…そうだよね
何も伝えずに自己完結して挫けてくより
いっそ当たって砕けてく方が愛さんらしいや
伝えることに意味があるんだもんね
…それに二人の気持ちも
この感情もやっぱり無駄にはしたくない
だから…何もしないで終わらせるんじゃなくて
アタシらしく、この恋に区切りを付けよう ────
─
土曜日
ピロン
歩夢「……?」スッ
侑: ⎛(cV„Ò □ ÓV⎞Good morning!
歩夢「ぁ…侑ちゃん」
歩夢「急になんだろ…」ポチポチ 歩夢:おはよう
歩夢「………」
歩夢(…ベランダ)
ガラガラ
歩夢「……?」ヒョコ
侑「あ、おはよー歩夢」ヒラヒラ 歩夢「おはよ、侑ちゃん」ニコリ
歩夢「どうしたの?急に変なスタンプ送ってきて…」
侑「えっ変じゃないでしょ、可愛いのに」
歩夢「確かにまぁ…可愛いけど…」
侑「でしょ?」
歩夢「それ見せたかっただけ?」
侑「まぁ、それもちょっとあるけど…なんとなく歩夢起きてるかなーって思って」
歩夢「ふっ…もう、何それ」 侑「えへへ、でもよく分かったね。ベランダだって」
歩夢「…なんとなくだけどわかるよ」
歩夢「…それより侑ちゃん、学校行くの?制服着てるけど」
侑「あ、うん。学校でちょっと課題の練習したいんだ。音楽科の先輩が見てくれるっていうから」
歩夢「そうなんだ」 侑「歩夢は今日予定あるの?」
歩夢「……特には…一日家で過ごしてるかなぁ」
侑「そっか、まぁテスト明けだしね、ゆっくり休んでた方がいいよ」
歩夢「うん、ありがとう」
歩夢「侑ちゃんの方は?明日予定あるの?」
侑「明日は…特にないかな?」 歩夢「そっか、じゃあ…たまには二人でどこか出掛けない?」
侑「……あ、いいねっ。最近あんまり歩夢と遊べてなかったしね」
歩夢「うん、たまには息抜きも必要だし」
侑「ふふ…だね」
歩夢「うん」ニコ
侑「……」 侑「……ねぇ歩夢」
歩夢「…ん…?なに?」
侑「……」
侑「…ううん、ごめん。なんでもないや」
歩夢「……??」
侑「…よーっし、それじゃあそろそろ行こっかなぁ〜」グイーッ 歩夢「……」
歩夢「…あんまり、頑張りすぎないでね?」
侑「うんっ、わかってる!ありがと」
歩夢「それと寒いから風邪ひかないように暖かくしてね?」
侑「あははっ、歩夢ってほんとお母さんみたいだね」 歩夢「もぉ、またそういう事いう…」
侑「……えへへ、じゃあちょっと行ってくるね」
歩夢「うん、行ってらっしゃい」ニコ
侑「ん、行ってきますっ。また後でね」
歩夢「うん」ヒラヒラ
─ ─
テクテク…
侑「……」
侑「…はー…」
フワ
侑「……」 息が白い…
朝はやけに冷え込むなーと思ったら…少し早い気もするけど、もうそんな時期になってくるんだ
…なんだか、時間の流れが早い気がするなぁ
ヒュゥゥ…
侑「…スゥ…さむ…」ブルッ
──思い違いだよ 侑「……」
あの日からもう数日…昨日の事のように感じるくらい、何度もその言葉が脳裏を過ぎる
あれからも私たちは変わってない
今まで通りだと思う
それでも、私はずっとモヤモヤしてた その原因はもちろん、歩夢の思い違いだというあの言葉
…私は思い違いだなんて嘘だと思ってる
でも、そのことにずっと私は触れられずにいた
…このままでいいはずがないのは
十分わかってるのに ────
─
午後
〜♪
歩夢「………」シャンシャン
歩夢「……!」
歩夢「………いけそう」
今まで突破出来なかった鬼門を超えた…
こういう時、緊張で指先に力が入る
事前に爪を切っておいて良かったけど…油断して力が入りすぎて爪が当たらないようにしなきゃ
今…今こそ落ち着いて譜面と向き合わなくちゃいけない …よし、余計なことは考えない…落ち着こう
精神を研ぎ澄まそう…
ピロン♪
歩夢「あ!?」
愛:ζ㎗ÒヮÓリ Hello!!
歩夢「な…っ…ゎっ、あ…愛ちゃん…!?」 ドクッ
歩夢「ちょ…ちょ…っ」アセアセ
\ライブ失敗/ 歩夢「……」
歩夢「…ぇ…えぇぇ…」
通知で譜面が見えなかった上に、突然の愛ちゃんからのメッセージに思わず動揺した
…というか、どうでもいいけどまたこの手のスタンプだ…流行ってるのこれ
歩夢「………」ドキドキ
…とりあえず深呼吸 歩夢「はぁぁ…ふぅ…」
歩夢「も、もぉ…」
歩夢「……」ポチポチ
歩夢:どうしたの?愛ちゃん
歩夢「………」
ピロン♪ 愛:ちょっと、今から電話かけてもいい?
歩夢「……で、電話…」ポチポチ
歩夢:うん、いいよ
歩夢「………」
〜♪
歩夢「っ…」ビクッ
歩夢「……」ドキドキ ちょっとの期間会話してないだけなのに、思っていたよりも緊張しちゃう…
歩夢「…ああ、もう…ばか、緊張しちゃダメ…」
今度は別の緊張で指先に力が入らない…
どうしてこんな…落ち着いて…
歩夢「…ふぅ……」
ポチ 歩夢「…もしもし?愛ちゃん?」
愛『……あっ、もしもし?』
歩夢「…っ……」
愛『…歩夢?』
歩夢「ぁっ……ぇぇっ、えっと…な…なんか、ちょっとだけ久しぶりだね」 愛『ん?…あー……そだね。テスト期間中はあんまり話せなかったもんね』
歩夢「うん…ていうか、愛ちゃん…どうしたの?急に変なスタンプ送ってきて…」
愛『やや、変じゃないでしょ。可愛くない?』
歩夢「まぁ、可愛いけど………ん?」
歩夢「…あの、もしかしてそれを見せたかっただけ?」 愛『あははっ、まぁそれもあるんだけどね』
歩夢「…なんなの2人して…」
愛『ん?』
歩夢「ううん、なんでもない」
歩夢「じゃあ、スタンプだけじゃないんだよね?用件」
愛『ああ、うん。歩夢今忙しかったりするかな?』 歩夢「いま?…んーん、今お部屋の掃除を済ませてスマホゲームしてたところだよ」
愛『あ、そうなん?ふーん…因みになんのゲームしてたの?』
歩夢「シャンシャンしてた」
愛『あー!あれね、まだそのゲームやってたんだ』 歩夢「昔は盛り上がってたけど…今ではいつサービス終了するか分からない状態だし…」
歩夢「今の内に遊んでおこうと思って」
愛『なるほどね』
歩夢「うん、きっとどうせ近いうちに終わるだろうから」
愛『なんだろうなんか…慈悲があるんだかないんだか…』 愛『てかメッセ送っちゃったじゃん、邪魔になんなかった?』
歩夢「まぁ…フルコンボは逃しちゃったけど大丈夫だよ」
愛『えっ、大丈夫じゃないやつじゃん!わーごめんねっ』
歩夢「ふふっ…大丈夫だよ、また挑戦すればいいだけだし」
愛『んー、そうだけどさ』 歩夢「それよりどうかしたの?愛ちゃん」
愛『ん、ああ…そだね、話逸らしちゃった』
愛『…これからさ、会えたりしない?』
歩夢「え?」
歩夢「それは…うん、全然いいけど。どこか遊びに行くの?」
愛『あー、まぁ…うん、そう…』 歩夢「なんか歯切れ悪いね…」
愛『…えっへへ、ほんとはさ…歩夢と会って話したいんだ』
歩夢「え、私と…?」
愛『うん、直接会ってさ。話したいことがあるんだよね』
愛「ていうより…伝えたいこと」
歩夢「ぇ…」 愛『…ダメかな?』
歩夢「……それは電話じゃダメなことなんだもんね」
愛『うん、会って話したい』
歩夢「そ…そっか…」
愛『やっぱダメ?』
歩夢「…ぁっ…ううん、平気…平気だよ、元々この後ちょっと散歩でもしようかなって思ってたし」
愛『あっ、そーなんだ。なら良かった』 歩夢「…これからだよね?」
愛『うん』
歩夢「わ…かった…場所はどうしよっか?」
愛「あー、んと…じゃあ駅前でいい?かな?」
歩夢「うん、いいよ。駅前だね」
愛『うんっ、ありがと』
歩夢「…じゃあ今から準備して行くね」 愛『ん、愛さんも今から行くよ』
歩夢「うん…じゃあ、また後でね?愛ちゃん」
愛『うん、またあとでっ』
ピッ
歩夢「……ふぅ…」
歩夢「………」
…伝えたいことって… 歩夢「……」
歩夢「………」
…バカだ
何を…私は想像しちゃってるんだ
そもそもそんなの、関係ないことに決まってるのに
余計なことは考えないようにしなきゃ
歩夢「…脆いな…私って…」
歩夢「………」
歩夢「……準備しよ」スク ──
ピッ
愛「…よし」
〜♪
愛「…?ぁ、りなりーだ…」ポチ
愛「もしもし?」
璃奈『あっ…もしもし、愛さん?』
愛「うん、どしたの?りなりー」
璃奈『うん…その、ちょっとだけ心配になっちゃって』 愛「心配…?」
璃奈『…昨日、色々無茶なこと言っちゃったから』
璃奈『私の思う愛さんらしさを、愛さんに押し付け過ぎちゃったかなって』
璃奈『フィジカルが強くて、色んな人に頼られてる愛さんだから忘れちゃいがちだけど…』 璃奈『愛さんだって、私たちと変わらない一人の普通の女の子なんだもんね…』
璃奈『だから愛さん、無理に気負ってたりしてないかなって思って…』
愛「あー、そゆことか」
愛「ふふ…んーん、そんな事ないよ」
璃奈『……』 愛「アタシはただただ嬉しかったよ」
愛「…愛さん実はさ、人に自分の弱ったとこを簡単に見せられるほど強くないんだ」
愛「だから昨日みたいに溜め込んだ分溢れちゃってさ」
愛「なんなら人前で泣いちゃう事なんてことは絶対なかったし、見せたくなかった」
愛「かっこ悪いとこってやっぱ見られたくないからね」 愛「でもりなりーとせっつーはさ、愛さんの弱い部分を見ても、受け止めてくれて…言葉をくれて、親身になってくれたよね」
愛「愛さんはそれでまた前向きになれたから」
愛「押し付けなんかじゃなくて、アタシの背中を押してくれたんだよ。2人は」
愛「それにりなりーがアタシの事そこまで知っててくれてたんだなぁって思ったら、すごく救われた気持ちになれたし」 愛「…だからありがとうだよ、ほんとに」
璃奈『……そ…っか…じゃあ、今から愛さんは、愛さんのために愛さんのしたいことをするんだよね』
愛「うんっ、もち!」
璃奈『そっか』
璃奈『…でも、これからも何かあったら無理しすぎないで相談してね?』 愛「あはは…うん、そだね。約束するよ」
璃奈『私もそうするから』
愛「うんっ」
璃奈『……これから会うんだよね、歩夢さんに』
愛「うん、会いに行くよ」 愛「会って…多分伝えたら歩夢のこと困らせちゃうかもしれないけど…」
愛「それでも…今は伝えない方が後悔するって思うから」
愛「だから、後は当たって砕けてくだけ!」
愛「…なんつって」 璃奈『…緊張してる?』
愛「…あっはは、分かる?めっっちゃ緊張するよ」
愛「でも今は伝えたい気持ちでいっぱいだよ」
愛「だから…気合い入れてちょっと行ってくるね」
璃奈『…うん。頑張って、愛さん』
璃奈『行ってらっしゃい』
愛「うんっ、行ってきます!」 ────
─
侑「先輩、今日は付き合って頂いてありがとうございました!」
「お疲れ様、高咲さん。また手伝って欲しい事があったらいつでも言ってね」
侑「はい、それは勿論!その時はまたよろしくお願いします」
「ふふ…そういえば、作曲はどう?作詞の方はもう終わってるんだよね?」
侑「ああ……あはは…まぁちょっと、今の所はあまり進められてなくて」
「…そう」 「来月、校内ライブがあるんだよね?間に合わなそうだったらそっちも全然手伝うからね」
侑「…ありがとうございます」
「ふふ…まぁあんまり無理しすぎないようにね」
「それじゃ、高咲さん。これから戸締りして鍵返したりしなきゃだから、先に帰ってていいよ」
侑「…あ、はい。分かりました。それでは先輩、お先に失礼します…お疲れ様でしたっ」ペコリ
「はーい、さようなら」ヒラヒラ
パタン ……
侑「ふぅ…」
テクテク
気付いたら15時を回ってた
思ってたよりもがっつり練習しちゃったなぁ
侑「………」
…作曲、か…
侑「………はぁ」テクテク …なんだか…ちょっと、疲れちゃったな
テクテク
侑「……」ピタ
…この先に部室棟がある
今日はお休みだから部室には誰もいないはずなんだけど…
合鍵は持ってるし…ちょっと寄って休憩していこうかな
─ ─
部室
ガチャ
シーン
侑「いないのは分かってたけど…すごい静か…」
侑「……」テクテク
侑「よいしょ」ドサッ 侑「…あぁぁ…やっぱりこのソファーいい…」ググーッ
すぐに眠れちゃう彼方さんの気持ちが改めて分かる
そもそもこの部室の居心地がいい
侑「……下手したら寝ちゃうなぁこれ」ゴロン
侑「………」 …しばらく見れてなかったし…
ちょっと、動画でも見てようかな
侑「……」スッ
新着のトップに、歩夢と愛ちゃんと璃奈ちゃんが映っているサムネイルの動画があった
侑「………あっ、璃奈ちゃん昨日動画上げてたんだ…気付かなかった…」
侑「……これ…この前歩夢が話してたやつだ」
ポチ …それは約20分くらいの映像だった
きっと撮ってる時間は倍くらいあっただろうけど
この再生時間だけで時間を忘れてしまうくらい、すごい満足感があった
流石だなぁ、璃奈ちゃんは…
侑「…ふふ」
この3人の掛け合いが見ていて微笑ましくて、面白くて、見るからに楽しい空間で
私は、見ていて誰もが楽しめる動画だなって思った 何より、歩夢がすごく楽しそうで…
なんだか…歩夢がこんなに大笑いしてるの、久しぶりに見た気がする
私も笑っちゃったけど…やっぱりいいなぁ、こういうの
……ほんと私って
ガチャ 侑「ん…?」
菜々「…え、侑さん?」
侑「あ、せつ…じゃないか」ムク
菜々「ぇ、ああ…せつ菜でいいですよ、それよりも今日はどうしたんですか?」
侑「あ、ちょっと課題の練習したくて、音楽科の先輩に一日見てもらってたんだ」
侑「で、たった今終わったからちょっとここで休憩してから帰ろうかなって思って」 菜々「なるほど、そういうことですか」ニコ
侑「せつ菜ちゃんは?今日お休みだよね?」
菜々「あ、ぅ…私はちょっと、部室に忘れ物をしてしまって…」
侑「あ、そうなんだ。何忘れたの?」
菜々「ちょっと…その、本を…」 侑「ああー!ラノベだっけ?例のえっちなやつだ」
菜々「ちょっ、ちょっと侑さん!?えっちじゃないですよ!」
侑「じゃないの?」
菜々「じゃないです!」
侑「そうなんだ…せつ菜ちゃんって意外とそういうむっつりなの好きなのかなって思ってたんだけど…」 侑「…そこの机に置いてあるやつだよね?表紙が明らかに…」ユビサシ
菜々「ぅあっ…//…た、確かに表紙のキャラクターは際どい格好をしていますが…//」
菜々「な、内容は普通ですから!」
侑「へぇそうなんだ」ニヤニヤ
菜々「…む、ぅ…疑ってますよね…?」 侑「あははっ、ごめん冗談!せつ菜ちゃんがそういうの苦手なの知ってるもん」
菜々「………本当に苦手なんですからね?」
侑「うんっ、分かってるよー」ニコ
菜々「もう…侑さんはいじわるです」
侑「ふふっ、ごめんって」
侑「……」 侑「……ねぇ、せつ菜ちゃん」
菜々「…?なんですか、侑さん」
侑「少しだけ時間あるかな?」
菜々「時間ですか…?それは全然ありますけど…どうしたんですか?」
侑「良かった…ちょっとさ、私の話に付き合ってくれないかなーって思って」 侑「いいかな?」
菜々「……はい、勿論いいですよ」
侑「ありがとう」
菜々「きっと侑さんにとって深刻で、大切なお話なんですよね」
侑「…わかる?」
菜々「表情を見ていれば」ニコ 侑「えへへ…そっか」
菜々「座りますね」
侑「うん」
菜々「……」スト
せつ菜ちゃんが目の前に腰掛けて
こちらに視線を転じたタイミングで
私は一呼吸してから口を開いた 侑「…ふぅ…」
侑「…歩夢と、愛ちゃんの話なんだ」
菜々「………」
侑「歩夢と愛ちゃんさ、あの一件以来すっごく仲良くなったでしょ?」
菜々「……はい、そうですね」
侑「歩夢が人間関係とか…私との事で塞ぎ込んでる時、愛ちゃんは強引に歩夢を引っ張ってくれてさ」
侑「私も助けられたけど…それに歩夢は救われて」 侑「それ以来2人の距離が縮まっていってさ」
侑「…実は…私ね、歩夢と愛ちゃんはお互いに特別な感情があるんじゃないかなって思ってたんだ」
菜々「えっ?」
侑「まぁ、愛ちゃんって言っちゃなんだけど結構くえない子だし…真意なんて読めないんだけど、なんだかそんな気がしたんだ」
侑「私の勘だからアテにはならないかもだけど」 侑「でも歩夢に関してはさ、長い付き合いだからわかるんだ」
侑「他の子の話をよくするようにはなったけど…愛ちゃんの話はその中でもよくするようになったし…」
侑「…ずっと愛ちゃんの事を目で追ってたから」
侑「その時は全部無意識だったんだと思うけど」
侑「それでも最初は、なんだか嬉しかったんだ…歩夢にとっての特別が…大切なものがまた1つ増えたんだなぁって」 侑「だから…本当に2人がそうなんだとしたら、こっそり見守ってようって思ってた」
侑「でも…そんな時にさ、歩夢に相談されたんだ。自分が愛ちゃんをどう思ってるのか分からないって 」
侑「もしかしたら恋愛感情があるかもしれないって」
菜々「……」
侑「ああ、ついに歩夢は意識し始めたんだなぁって思った、けど…」 侑「同時に一気に寂しい気持ちになっちゃったんだ」
侑「だから私さ…咄嗟に言っちゃったんだ、それは多分違うかもしれないよって」
侑「それは一時の気の迷いなんじゃないかなって」
侑「本当は分かってるくせに、とぼけちゃった」
侑「見守りたいって思ってたのに、急に歩夢が私の知らない歩夢になっちゃう気がして…引き止めようとしちゃった」 侑「でも、やっぱりそれは私の勝手な都合だから…私の嘘で拗らせちゃダメだなって思った」
侑「だから、次の日に歩夢に謝って…正直に私の本音を話したんだけど」
菜々「…歩夢さんはなんと?」
侑「思い違いだったって」
菜々「…」
侑「色々考えたけど、私の言う通りで勘違いだったって…そう言われたんだ」 侑「…やっぱり愛ちゃんは自分にとって大切な友達でしかない…だから心配しないでって…」
菜々「…っ…そう、ですか…」
侑「…でもそんなの、嘘だって分かってた」
侑「それを分かってても、それからは何も言う事が出来なかった」
侑「…最低だよね、気付かないふりして…歩夢のその言葉に甘えて…縋って信じようとしたんだよ、私は」
侑「…ずるいよね、幻滅するよね」 菜々「……そんな事になってたんですね」
菜々「幻滅なんてしませんよ」
菜々「侑さん、私の話すことは全て憶測に過ぎないかもしれませんが…」
侑「え?」
菜々「……侑さんはきっと、転科と…この間の一件も相俟って少しナイーブになっちゃってたんですよね」
菜々「だから…あるはずもなかった不安がいつの間にか生まれて、募っていって…」 菜々「やっぱり大きな安心を得ることが出来た分、些細な事でも大きな不安の材料になってしまうんですよね」
菜々「今回のことに関しては全く些細なことではありませんでしたが…」
菜々「ですから余計に侑さんには強い不安が出来たんだと思います」
菜々「…歩夢さんは、そんな侑さんの気持ちが痛いほど分かるんですよ」
菜々「2人の想いは揺るぎなく同じで、ずっと変わらないものだから」 菜々「そう信じてほしいから、安心して欲しいから…」
菜々「侑さんの気持ちが誰よりも分かるから、歩夢さんはそういう選択をとったんですよね、きっと」
菜々「私は…侑さんが思ってる以上に、歩夢さんは侑さんのことを見ているし、想ってると思いますよ」
菜々「…すみません、わかったような事を言ってしまいましたけど…私はそう思いますよ」
侑「……」 侑「…ありがとう、せつ菜ちゃん」
侑「うん、そうだよね…あの時の歩夢もこういう気持ちだったんだもんね」
侑「…せつ菜ちゃんの言う通りだよ」
菜々「……」
侑「歩夢はいつだって私の事を見てくれてたし、大切に想ってくれてた」
侑「それはやっぱり、今も昔も変わらなくて」 侑「そんな歩夢とずっと一緒だったから、一緒に歩いてこれたから…」
侑「これからも私と歩夢の想いは変わらないんだって信じてこれてた」
侑「…確かに私、転科してから大分メンタルが脆くなっちゃってたんだと思う」
侑「…歩夢はきっとそれに気付いてて…」
侑「……うん、そうなんだよね」 侑「本当は懺悔だけしたかったんだ」
侑「でも…せつ菜ちゃんのおかげで大分気持ちがスッキリした気がする」
侑「ありがとね」
菜々「ぁっ…いっ、いえ…そんな…」
侑「…私、歩夢と話すよ」
菜々「…ぇ?」 侑「……私さ、この動画を見て思ったんだよね」スッ
菜々「…あ、それは昨日の…」
侑「そう、璃奈ちゃんが上げてくれた動画」
侑「これを見てさ」
侑「やっぱり歩夢にはとびきりに笑顔でいてほしいし、もっと幸せになって欲しいなって思ったんだ」
侑「だって、こんなに楽しそうで幸せそうな笑顔で愛ちゃんと話すんだもん」 侑「幼馴染としてはやっぱり、ちょびっとだけ妬いちゃうけどさ」
侑「それでも好きだって気持ちがあるなら、私の為に我慢なんてして欲しくない」
侑「まぁどの口がって感じだけど」
侑「でも…璃奈ちゃんが作ってくれたこの動画と」
侑「せつ菜ちゃんの言葉のおかげで決心ついたよ」 侑「私は大丈夫だからって、歩夢に話してくる」
菜々「…そうですか」ニコリ
侑「……愛ちゃんとも一度しっかり話したいな」
菜々「ぇ…?」
侑「愛ちゃんの気持ちも、本当のところはまだ分からないしさ」
菜々「ぁっ…えっと…侑さん、その事なんですけど…」
侑「ん…?」 ───
─
駅前
テクテク
歩夢「………」キョロキョロ
歩夢「…ぁっ…いた」
歩夢「……ふぅぅ…」
…テクテク
歩夢「ぁ、愛ちゃん」
愛「ん…?」フイ
歩夢「……お待たせ」
愛「おっ…ちーっす、歩夢っ」
歩夢「…待たせちゃった?」
愛「んーん、愛さんも今来たとこだよ」 いつも保守ありがとうございます
多忙の為に更新がもう少しかかります…滞っていて申し訳ないです 歩夢「そっか、良かった」
愛「……」
歩夢「…?どうしたの?愛ちゃん」
愛「あーいや…なんだろね、歩夢と会うのすごく久しぶりな感じしてさ。体感一ヶ月って感じ」
歩夢「え…そんな長く感じるかな?」
愛「うん、不思議と」
歩夢「…でも、確かにこの一週間みんなと会う機会ってあまりなかったもんね」
歩夢「テスト勉強もあったし、お互い他にもやることはあったと思うし」 愛「だねー、言われてみれば地味に…うん、忙しかったかも」
愛「特に最近はお店が忙しくなってきたかなって感じだし」
歩夢「そっか、すごいなぁ…お店の手伝いもしてるなら大変だよね」
愛「大変じゃないって言ったら嘘になるけどまぁ、どうって事ないよ?楽しいしね!」
愛「どっちかって言ったら動いてないと落ち着かない方だし」
歩夢「そっか」 歩夢「…ふふ、でも確かにじっとしてる愛ちゃんって愛ちゃんっぽくないかも」
愛「でっしょ〜?」
歩夢「でも、段々しんどいなぁってなったら頼ってほしいな」
歩夢「私で良ければだけど…お手伝いもするし」
愛「お…?ほんとに?」
歩夢「うん、愛ちゃんがお願いしてくれるならいつでも…」
愛「……おっ、ありがと!じゃあもし愛さんがぼろぼろのへとへとになった時はお願いしよっかなー」 歩夢「出来ればそうなる前にお願いして欲しいけど…」
愛「あははっ、そだね。…でも気持ちだけ貰っとくよ」
歩夢「え?」
愛「ほら…来月さ、クリスマスライブだしみんなこれから準備でそっちでも忙しくなるじゃん?」
愛「家の事情で迷惑掛けちゃうのもアレだし」
歩夢「忙しいのはそうだけど…それはお互い様だし、大変な時は力になりたいもん」
歩夢「だからカミナリの時みたいに困った時は泣きついて来てほしいな」 愛「…!ちょちょ、別にあれ泣きついてないよ?!」
歩夢「そうだっけ?」
愛「そうだよー!てか泣いてないし!思い返すとめっちゃ恥ずかしいから忘れてよね!」
歩夢「うーんそれは…ね?流石に忘れられる気がしないし、忘れたくないなぁ」
愛「わぁ、歩夢に弱み握られた…」
歩夢「ふふ、握ってるつもりはないし…誰にも言ったりしないよ」
愛「えーほんとー?」
歩夢「うん、ほんと」 愛「ならいいけどさ〜」
歩夢「そんなに知られたくない?」
愛「ん?あー…いや、絶対ってわけじゃないけどー」
愛「やっぱりちょっとさ、そういうとこ知られるのって恥ずかしかったりするし」
歩夢「気持ちは分かるけど…全然そういう恥ずかしいとこも見せていいと思うよ?」
愛「そうかな」
愛「……」
愛「………うん、そうかもね」ニコ
歩夢「うん」ニコ 実際に私はそう思う
愛ちゃんは、いつだって笑顔で
どんな人とでも楽しいことが出来て、どんな人だって笑顔に出来る
非の打ち所がないくらい眩しくて、かっこいいって
そんな愛ちゃんは本当に魅力的で、その魅力に惹かれている人は沢山いて、それは私にとっても憧れのまとで
だから怖いものなんて
苦手なものなんてないと思ってた
みんなもそうだと思う
愛ちゃんはそういう弱い一面を見せようとなんかしないから でも、きっとあの日の様な弱った愛ちゃんを見ても、誰も笑いものにしたりとか、幻滅したりとかはしないと思う
寧ろ、それ以上に魅力が深まってもっと好きになるんだと思う
…私が、そうだったからというだけかもしれないけれど
…だから、愛ちゃんのそういう一面もみんなに見せてもいいんじゃないかなって私は思う
愛ちゃんだって女の子だし
…でも、そう思う反面
見て欲しくないって思ってしまう自分もちょっといる 歩夢「……」
愛「…歩夢?どしたの?」
歩夢「…ぁっ……ううん。でも、こっちに気を遣わなくていいからね、困った時お互い様だから」
愛「………」
愛「…歩夢はやさしーねぇ」
歩夢「…そんな事ないけど」
愛「いやいやそこまで気にかけてくれる子って中々いないし」
歩夢「いるよ、いっぱい」
愛「……ふふ、じゃあいざという時は歩夢のお言葉に甘えちゃおっかな」 歩夢「ん、いつでも声掛けてね。その時は役に立てるように頑張るから」
愛「うんっ、ありがと」
歩夢「………」
歩夢「……ねぇ、愛ちゃ」
「あのー…上原歩夢さんと宮下愛さん…ですか?」
歩夢「ぇ…?」フイッ
愛「?」 JK「!!…わぁぁっ!やっぱり歩夢ちゃんと愛ちゃんだ…!!」
歩夢「っ!?」ビクッ
愛「??」
JK2「ねっ、言ったでしょ本物だって」
JK「うん!ほんとやばい…やばいよマジで本物…ほんとびっくりした…かわいい…ぁっ…鼻血でそ…う」
歩夢「えぇ!?ちょっ…だ、大丈夫?!で、ですか?」オドオド
愛「うわうわうわ…っ、なんかめっちゃ元気な子だね」
歩夢「元気どころかもう息絶えそうなんだけど…」
歩夢「ていうかほんとに鼻血出てるよ…えっと…」ゴソゴソ 歩夢「…はい、ポケットティッシュ…良かったら」スッ
JK「はぅぁっ、あっありがとうございますっ…一生大切にします…!」
歩夢「使ってね?!ただのティッシュだからっ!」
JK「あっ、えっへへっ…そうですよねすみません」フキフキ
愛「あっはは!面白いねーこの子」
JK2「あわわ…ごめんなさい、私も大好きなんですけど…この子すごく虹ヶ咲のスクールアイドルが大好きで…」
JK2「特に歩夢ちゃんの大ファンで、本物見て興奮しちゃって」
愛「ほうほう!なるほど!」
歩夢「ええっ?!そ、そうなんだ…嬉しいな、ありがとうございます」ペコリ JK「うぇっ、いえ…ちょっ、もぉぉ先に言わないでよ〜!私からファンだって事言いたかったのにー!」
JK2「いやそのこだわりよくわかんないしっ」
JK「わかれしっ!」
歩夢(仲良しだなぁ…)
JK「あっ、そだそだ!ちなみにこっちは愛ちゃんの大ファンなんですよ!」
愛「えっ?」
JK2「あ、そうなんですよすっごく愛ちゃんが大好きで!曲とか聴いたりPV見たりしてていつも元気もらってますっ」
JK2「あといつもの挨拶のセリフも大好きです!」
愛「へぇぇほんと!?愛トモじゃんめっちゃ嬉しい!ありがとね!」
JK2「…!いえいえこちらこそありがとですっ!こうして話してくれてるだけでほんと…感謝しかないですっ」 JK「ぁっ、ていうかごめんなさいいきなり声掛けちゃって!迷惑でしたよね」
歩夢「へ?ううん…びっくりしたけど迷惑だなんて、ファンの人に声掛けてもらえるのはすごく嬉しい。ね、愛ちゃん」
愛「うんっ、めっちゃ嬉しい!今まで声掛けられることって無かったしね」
歩夢「あはは、確かにそうだね」
JK「声掛けるのって割と勇気いりますもんね、私も結構緊張して勇気いりましたし!」
JK2「いやいやっ、迷わず真っ先に突っ走ってったじゃん自分!」
JK「ぐっ…そ、そうだけどほんとだよ!?ほんとですからね!!緊張しながら走ってきましたからっ」
歩夢「ええ…?」
愛「あっはは!何それ器用すぎでしょ〜っ」
JK2「ずっとテンション高くてごめんなさい」アセアセ 歩夢「ううん、私達は全然平気。びっくりしたけど」
愛「うん、ここまで大きなリアクションしてくれるのはめっちゃ嬉しいし」
JK「…え、え、神対応過ぎない?」
JK「ていうか改めて近くで見るとお二人ともめっちゃ可愛いし綺麗だなぁ」
愛「えっへへ、ありがとっ」
歩夢「…あ、ありがとうございます…//」テレテレ
愛「…ふふ、歩夢めっちゃたじたじじゃん」
歩夢「も、もぉ…からかわないでよ愛ちゃん…」
JK2人「「…かわいい〜」」
愛「ふふん、でしょでしょ?」
歩夢「なんで愛ちゃんが誇らしげなの…」 JK「愛ちゃんもすっごく可愛いですよっ」
JK2「うんうんっ」
愛「えへー、ありがとねっ」
愛「あ、てか二人ともすごい荷物持ってるね、買い物してたの?」
JK「ああ、さっきまであっちのショッピングモールで洋服買ってたんですよー」
JK2「今全品半額セールでちょっと調子乗っちゃって」
愛「へぇ…!でも全品半額ってめっちゃお得だね」
歩夢「半額…」
愛「お、歩夢気になる?」
歩夢「ま、まぁ…ちょっとだけね」 JK「気になるなら今の内に行っておいた方がいいですよっ、結構品揃えもいいし半額は今日までなので!」
愛「へぇ…!それは早く行かなきゃじゃん、ねぇ歩夢」
歩夢「え?う、うん、でも…」
JK2「…ぁっ!」
歩夢「…?」
愛「どしたん?」
JK2「いやちょっと…そろそろ帰らなきゃで」
JK「え、もうそんな時間〜?」 JK2「うん、今日の門限4時までなんだよね」
愛「え、早いね?まだ3時前だし」
JK2「あはは、身内に過保護な人がいるもので」
JK「えーそっかぁ、じゃあこの辺で解散?」
JK2「だね」
JK「まぁ買い物もしたし、歩夢ちゃんと愛ちゃんに会えたし!大満足だよねっ」
JK2「ふふ、確かに。でも、ごめんなさい。急にお声掛けしちゃって」
歩夢「ううん、本当に嬉しかったから。ありがとう」ニコ
愛「うんうんっ、ほんとありがとね!」
JK2「こちらこそっ、お話してくださってありがとうございました!」ペコリ JK「あ、今度ライブあるんですよね?」
歩夢「あ、うん。25日に」
JK「…歩夢ちゃんは…夏以来ですよね、ライブ」
歩夢「…うん、そうだね。色々あって…久しぶりのライブでちょっと緊張しちゃうけど」
JK「大丈夫ですよ、私みたいな熱狂的なファンが今では沢山ついてますから!」
歩夢「…ふふ、そうだね。おかげですごく実感してる」
JK「きっとアイドル活動してると行き詰まったり大変な事って沢山あると思いますけど」
JK「どんなことがあっても、私も含めてファンはみんなずっと待ってますから」
歩夢「…うん」
JK「それに、いつだってファンや仲間がいるってことだけは忘れないでほしいです!」 JK「ぁ、なんて…偉そうなこと言っちゃったけど…ほんとに応援してますからっ!勿論愛ちゃんも!他のメンバーの皆も」
歩夢「偉そうだなんてそんな…本当にありがとう」
愛「ふふ、良かったらライブ見てね」
JK「勿論!絶対見ます!この子も一緒に!ねっ!」
JK2「うん、見ます!私も二人と皆さんのこと応援してますからっ」
歩夢「…ありがとう」ニコ
…なんだか、すごくあったかい気持ちになった JK「あっ、最後にあの…!図々しいかもしれないけど、写真一枚…一緒にいいですか…?」
愛「写真?うん、勿論いいよー」
JK2「えっ!ほんとにいいんですか!」
愛「うん!アタシは全然平気だよ〜。歩夢も大丈夫?」
歩夢「うんっ、勿論平気」
JK「やった!ありがとうございます…!」
JK2「わーなんかすごい、夢みたいだよ」
JK「ふふっ、確かにね!じゃ、インカメでこうして…」
JK「よし、3人ともこっちに寄ってもらっていいですか?」 ズイッ
歩夢「…こんな感じかな?」
JK「ですね!でももうちょっと詰めても良さそうですね」
愛「うんうん!空気もすっかり冷たいし!もう少し距離詰めたいよねっ」
JK2「ぷっ…ふ…あははっ!最高に面白いです愛ちゃん!」
JK「あははっ、やっぱり楽しい人ですねっ愛ちゃんって!」
歩夢「…ふふ、ギャグの方は置いといてだけど…そうだね。」
愛「ちょちょ!一言多いぞ歩夢〜…」
愛「まぁでも、そう言ってくれるのは嬉しいし、こうして笑ってくれるのはめっちゃ気持ちいいね」
JK2「おかげで緊張がほぐれましたよっ」
JK「確かにねっ、私もほぐれちゃった」 JK「それじゃあこのまま撮りますね、いいですか?」
歩夢「うん、私は大丈夫」
愛「愛さんも大丈夫だよー」ピース
JK2「私もおっけー」
JK「はいっ、じゃあ撮りますねっ」
カシャッ
JK2「…お、上手く撮れたね」
JK「うん!よく撮れてる!最高」
歩夢「うん、綺麗に撮れて良かった」
JK「はいっ、一生の宝物にしますね!」
歩夢「あはは、ありがとう」ニコ JK「こちらこそありがとうございましたっ」
JK2「ありがとうございましたっ」ペコリ
愛「うんっ、ありがとねっ」
JK2「いえいえ、じゃあ…そろそろ行こっか?」
JK「うん。それじゃあこの辺で…今度のライブ、楽しみにしてますっ」
歩夢「うんっ、頑張るね」フリフリ
愛「ふふ、帰り気を付けてねー」フリフリ
JK2人「ありがとうございました!」ペコリ JK「こちらこそありがとうございましたっ」
JK2「ありがとうございましたっ」ペコリ
愛「うんっ、ありがとねっ」
JK2「いえいえ、じゃあ…そろそろ行こっか?」
JK「うん。それじゃあこの辺で…今度のライブ、楽しみにしてますっ」
歩夢「うんっ、頑張るね」フリフリ
愛「ふふ、帰り気を付けてねー」フリフリ
JK2人「ありがとうございました!」ペコリ JK2「あ、さっきの写真私にも送ってよねーっ」
JK「わかってるってー」
歩夢「………」フリフリ
愛「………」フリフリ
歩夢「……」
愛「……」
歩夢「なんか、すごかったね」
愛「ね、若いって凄いや」
歩夢「うん…」
歩夢「…ぇ…いや、私達も同じくらい若いよ愛ちゃん」
愛「あそっか、なんかお小遣いあげたくなっちゃうくらい可愛かったからつい」 歩夢「おばあちゃんみたいだね愛ちゃん」
愛「えへへ、確かにそんな感覚かもっ」
歩夢「おばあちゃんっ子ってそういう感覚になるものなのかなぁ」
愛「どうだろね、愛さんが特殊なのかも」
歩夢「愛ちゃんが特殊なのは否定しないけど…でも、多分歳下の子だよね。親しみやすくてついタメ口になっちゃったけど」
愛「知ってる学校の制服だったけど、リボンの色的に一年だったよ」
歩夢「え?よく知ってるね」
愛「そこの学校に友達いたからね〜」
歩夢「へぇ…そうなんだ」 歩夢「……」
愛「…ねね、歩夢」
歩夢「ぁ…は、はい」
愛「…さっきあの子達が言ってたショッピングモール行ってみない?」
歩夢「へ?」
愛「ほら、歩夢行きたそうだったじゃん」
歩夢「ぇっ…それは…まぁ、そうだけど…でも愛ちゃん、話があるんじゃ…」
愛「……うん、本当はこのまま近くの大きな公園にでも行って話そう!って思ってたんだけどさ」
愛「折角だからちょっと買い物してこーよ」
歩夢「………」
愛「ほんとは久々に歩夢と出掛けたいなーっていうのもあったし」 愛「だから…話はそれからしてもいいかな?」
歩夢「…話は、すごく気になるけど」
歩夢「確かにあの子たちの言ってた洋服屋さんは気になるし…」
歩夢「……」ジッ
愛「…ん?」
…少しくらいなら、いいかな 歩夢「……うん、分かった。じゃあ、先にちょっとだけ買い物しよっか」
愛「お、やった!ありがとね歩夢っ」
歩夢「ううん、ショッピングしたいなって気持ちはずっとあったし」
歩夢「久しぶりに愛ちゃんと買い物できるのは素直に嬉しいよ、私も」
愛「…お、そっか」ニコ
歩夢「うん、じゃあ…行こっか?」
愛「うんっ」 ─
───
店
愛「あゆむあゆむっ、このワンピースよくない?編み編みだよ!」
歩夢「ん?…あっ、可愛いねこれ」
愛「でしょ、まさに歩夢は好きなんじゃない?こういうワンピースとかよく着るじゃん」
歩夢「確かに好きだけど」
歩夢「んー…どうしようかなぁ」
愛「いいと思うよー?歩夢といえばワンピースみたいなとこあるし」
歩夢「そんな、おこがましいよ」
愛「おぉおぉ…突然の低姿勢」
歩夢「愛ちゃんは好き?こういうの」 愛「んーニットワンピースかぁ」
歩夢「うん」
愛「愛さんはあんまりこういうの着ないけど好きだよ?歩夢にめっちゃ似合うと思う」
歩夢「そ、そっか…」
愛「うん」
歩夢「…愛ちゃんもたまには着てみたらいいのに、こういうゆったりしたものとか」
愛「えー、どうだろ?違和感あるくない?」
歩夢「まぁ、確かに愛ちゃんってオシャレというか…大人っぽいの着るイメージだけど」 歩夢「実際着てみたら似合うと思うよ」
愛「そかな?」
歩夢「うん、例えばこの…」カチャ
歩夢「ロングスカートとか」
愛「うーわっ、可愛いけど絶対愛さん選ばないやつだ!」
歩夢「でもいいと思うよ」
歩夢「あとこっちのワンピースとか」カチャ
愛「おおー…」 歩夢「うーん…」
歩夢「愛ちゃん気をつけ」
愛「…?はい」ピシ
歩夢「んー…」ピタ
歩夢「…うん、いい!」
愛「え、ほんと?」
歩夢「うんっ、愛ちゃんに似合うと思うな、生地もいいし」
歩夢「…かわいいと思うし」
歩夢「…サイズもピッタリなんじゃないかな」 愛「うんっ、確かに生地いいね。割とあったかそうだし」
歩夢「そうだね」
愛「買おうかな、折角だし」
歩夢「えっ、即決め?」
愛「うん!」
歩夢「試着した方がいいんじゃない?」
愛「そだね、まぁ試着するまでもない気はするけど」
歩夢「え?」
愛「だって歩夢が似合うっていうなら絶対似合うでしょ」 歩夢「…買い被り過ぎじゃないかなぁ」
愛「買い被れるくらいのセンスあるじゃん」
歩夢「嬉しいけどちょっとプレッシャーだよ…」
歩夢「でもやっぱり着心地とか確認した方がいいし」
愛「確かに一理あるか」
歩夢「一理っていうか絶対確認した方がいいよ」
愛「あはは、そだね。まぁ買うのはほぼ確定だけど」
歩夢「確定なんだ」
歩夢「まぁ、私としては絶対似合うと思うから…というか愛ちゃんならなんでも似合うと思うし」
愛「それこそ買い被り過ぎじゃない?」 歩夢「買い被れるくらいのルックスがあるもん」
愛「それは歩夢だってそうじゃん」
歩夢「いやそれは……それこそ買い被り過ぎじゃないかな」
愛「いやいやいやいや…」
歩夢「いや、こっちがいやいやいやだよ」
愛「いやいやこっちがいやいやいやだって」 歩夢「いやいやいや…」
愛「いやいやいやいや…」
歩夢「……」
愛「……」
ぽむあい「「ぷふっ…」」
愛「っ…んもぉ、何このやりとりー」
歩夢「ぁっははっ、もうっ本当におかしい、愛ちゃんといるとホントにおかしくなるよ」
愛「ちょいちょい!どーゆー意味よそれ〜」
歩夢「…ていうか、元々愛ちゃんから始まったんだよ?」 愛「いやいやいやいや!そもそも歩夢が…」
歩夢「いやいやいや……」
歩夢「…って…もう、また変なくだり始まっちゃうよ?」
歩夢「ほら、試着試着」
愛「…あはは、そだね!試着……の前に歩夢のも決めちゃわない?」
歩夢「えっ…私の?」
愛「うん、アタシのはもう歩夢に勧めてもらったこれでほぼ決まってるし」
歩夢「そっか…うーんじゃあ…」
歩夢「私のは、愛ちゃんが決めてくれる?」
愛「え?」 歩夢「ほら、私が愛ちゃんに服おすすめしちゃったし…」
歩夢「だから、折角だから私も愛ちゃんのおすすめの服着たいなって思って」
愛「あーなるほどね、歩夢のかぁ…」
歩夢「あ、気軽にでいいよ。愛ちゃんがこれだ!って思ったものがいいな」
愛「うーん…ならやっぱりさっきのいいねーって言ってたワンピースかな」カチャ
歩夢「これ?」
愛「うんっ、可愛いし!やっぱり歩夢!って感じするし」
歩夢「私!って感じかぁ…」
歩夢「愛ちゃんがそう言うなら…うん、私も結構このデザイン好きだしこれにしようかな」
愛「毎度あり!」
歩夢「店員さんみたいになってるよ…職業病出てない?愛ちゃん」 愛「あっはは!職業病じゃないよー、それにウチで毎度ありとか言わないって、ジョークジョークっ」
歩夢「まぁ…八百屋さんとかのイメージだけど」
愛「あー言うね、魚屋さんとか!」
愛「…あ、そういえば、今ので思い出したんだけどお客さんとして他のお店に来た時にさ」
愛「店員さんのいらっしゃいませーに反応して自分まで言いそうになったことあったんだよね」
歩夢「うんそれ職業病だよ」
愛「えっ!」
歩夢「でも、飲食店で働いてる人からしたらあるあるらしいよね」
愛「へぇそうなん?アタシだけじゃなかったのか〜ちょっと安心したよ」
愛「でも歩夢とかもやりそうだよね、にっこり笑顔でいらっしゃいませからの赤面が容易に想像出来るもん」
歩夢「うぇ!?えっ…ぇぇ…?そんなこと、ないと…思う、ケド…」 愛「あははっ!自信無くなってきてるじゃんっ」
歩夢「……」ムゥ
愛「…えへへ。むくれちゃった、ごめんって」
歩夢「否定しきれないんだもん」
愛「歩夢は頑張り屋だからね〜」
愛「あ、ていうか話逸れちゃったね」
歩夢「…あっ、そうだよ!なんで職業あるあるの話になったんだろう…」
愛「なんでだっけね」
歩夢「一つ言えることは愛ちゃんから始まったやつだよね、絶対」
愛「異論なし!」
歩夢「…潔くてよろしい」
愛「へへっ、じゃあ…とりあえず試着してこようかな」 歩夢「うん、愛ちゃんが終わったら私も試着するよ」
愛「ん、分かった!じゃあちょっと行ってくるねー」
歩夢「うんっ、待ってるね」
───
─ 数十分後
愛「ふぅ…買っちゃったねー」テクテク
歩夢「うん、買っちゃったね、そんなに量は買ってないけど満足かな」テクテク
愛「ふふ、そだね」
歩夢「愛ちゃんも満足?」
愛「うんっ、歩夢のおすすめコーデだしねー」
歩夢「すごく似合ってたよ、愛ちゃん」
愛「ありがとっ、あんまり着ないタイプの服でちょっとだけ自信なかったけど…」
歩夢「歩夢がそう言ってくれるなら間違いないや」 歩夢「そんな…ううん、こっちこそ選んでくれてありがとう」
歩夢「服選びって人並み以上に悩んじゃうタイプだったんだけど…」
歩夢「愛ちゃんが勧めてくれたおかげで迷わずに決められたよ」
愛「いえいえ〜。似合ってたよ歩夢も!かわいかった」
歩夢「……うんっ、ありがとう」
愛「あっ、ねぇねぇ歩夢」
歩夢「うん?」
愛「ちょっとガチャガチャしてきていい?」
歩夢「えっ?」
愛「こっちのフロアにガチャガチャのコーナーあるみたいだから、久々にやってみたいなーって思ってさ」
愛「歩夢もやらない?」 歩夢「へぇ、なんか懐かしいね。私もちょっとやりたいかも」
愛「おっ、歩夢も久々なんだ」
歩夢「まぁ…昔は侑ちゃんとよくガチャガチャしてたけど」
歩夢「今はガチャガチャなんてスマホでしかしてないし」
愛「ソシャゲじゃん」
歩夢「こっちは石貯めれば無料だし」
愛「あー…歩夢って地道にめっちゃ石貯めてそうだもんね」
歩夢「えっ、よく分かったね?」
愛「性格的にそうかなって、節約とか得意そうだし」 歩夢「節約は…うん、本格的にしたことは無いけど無駄遣いはしないようにはしてるかな」
歩夢「買い物する時とか結構お値段見て考えちゃうし」
愛「あー、だから服選びも時間掛かるって言ってたんだ」
歩夢「服の場合はデザインの質や着心地も大事だから余計にね」
愛「確かに」
歩夢「別にすごくお金が無いって訳じゃないんだけどね」
歩夢「ただ基本的に無駄遣いはしないっていうだけで」
歩夢「でも…将来的には必要なスキルだよね、節約って」
愛「だね、社会人になったら歩夢も…場合によっては一人暮らしするんだろうし」 歩夢「一人暮らし…かあ…」
愛「それかゆうゆと二人暮らしも有り得るか」
歩夢「あはは、結構有り得ちゃうなぁ。ちょっと侑ちゃんのお世話が大変そうだけど」
愛「世話されてるゆうゆが目に浮かぶよ」
歩夢「あはは、私もだよ」
愛「…ふふ、でも楽しそうだよね」
歩夢「うん、楽しいと思う」
愛「いいよねそーゆーの、友達と生活するのとか憧れるもん。やってみたいなぁ」 歩夢「なら………」
歩夢「……」
せつ菜ちゃんと、愛ちゃんも入れて四人で暮らしてみたら楽しそうじゃない?
なんて…軽い気持ちで言いそうになって言葉を飲み込んだ
未来のことなんて分からないけれど、妙に現実になっちゃいそうな気がしたから
そうなったら多分、私自身がどんどん耐えられなくなっちゃう気がするから
…実際楽しそうではあるけど
歩夢「……」 愛「あっ、ガチャガチャあった!」
歩夢「!…あ、ほんとだ、いっぱいあるね」
愛「ね!色んなのあるねー」
歩夢「うん、わっ…ミニチュアハーモニカだって、吹けるのかな?」
愛「吹けるんじゃない?」
歩夢「あ、吹けるみたい…すごいなぁ。200円とか普通にするんだね」
愛「400円とかもあるよ、ちっちゃいフィギュア」
歩夢「わぁ…これ確か人気のアニメのやつだよね」 愛「そうそう、そういえばせっつーが好きって言ってたなぁ」
歩夢「せつ菜ちゃんと璃奈ちゃんのおかげでちょっとだけアニメ詳しくなったよね」
愛「確かに!人気なのはひと通りねー」
愛「無限発車編とかそんな感じの名前のアニメ映画も今めっちゃ人気だよね」
歩夢「なんか微妙に名前違うような」
愛「ん?あれ、違ったっけ…?」
歩夢「うん、無賃乗車?だったかな?」 愛「それも絶対違う気がする」
歩夢「私も言ってて思ったよ…」
愛「…アタシ達全然詳しくなかったね」
歩夢「うん…これ聞かれたら怒られちゃうね、二人に」
愛「あははっ!絶対怒られるね、後で思い出さなきゃ」
歩夢「ふふ、そうだね」
歩夢「…愛ちゃんはなに回すか決めたの?」
愛「あー、うーんそうだなぁなに回そっかなー」
愛「…歩夢は?」 歩夢「私は…この犬のぬいぐるみのやつ回そうかな」
愛「おー、可愛いじゃん」
歩夢「うん、可愛いよね」
愛「どの子狙い?」
歩夢「うーん、どれも可愛くて好きだけど…このコーギーかなぁ」
愛「あ、可愛いじゃん。粘っちゃう?」
歩夢「流石に粘りはしないかなぁ、これ100円だし三回までにしとこうかな、出なくてもみんな可愛いし」
愛「そっかそっか…じゃあ愛さんも三回までにしよっかな」 歩夢「うん、それが一番いいと思う」
愛「おけっ、じゃあ愛さんは…この裏側にもあるからちょっと見てくるねー」
歩夢「うん」
愛「……」テクテク
歩夢「………」
……愛ちゃんから話があるって聞いてたから、最初は少し緊張してたのに…いつの間にかすっかり楽しんじゃってるなぁ
…それから、私と愛ちゃんはガチャガチャをしたり
軽くゲームコーナーで遊んだりしてから、ショッピングモールを後にした ──
─
大きな公園
愛「………」テクテク
歩夢「……」テクテク
愛「…あ、歩夢歩夢、そこのベンチ座ろ」
歩夢「…あ、うん」
歩夢「…」スッ
愛「あ、だいじょぶ?冷たくない?」
歩夢「うん、このベンチ木で出来てるし平気」 愛「そっか…あ、飲み物いる?そこに自販機あるし」
歩夢「あ…じゃあ、ココア貰っていいかな?」
愛「りょかい!」
愛「じゃあアタシもこれにしよ」
…ガコンッ
愛「はいっ、ココア」スッ
歩夢「ありがと」 歩夢「えっと、お金…」
愛「あーあーいいってば!付き合ってもらったお礼って事でさ」
歩夢「そんなの気にしなくていいよ」
愛「いいのいいの、貰っといて」
歩夢「んん、じゃあ…今度いつか、私が奢るからね?」
愛「うん、楽しみにしてるっ」
歩夢「うん」
歩夢「…なんだか、前にも似たようなやり取りしたことあったよね、うちの近くの公園で」 愛「あー、あったね!なんか懐かしいようなそうでもないような」
歩夢「…一か月前くらいの事だけど、だいぶ前のような感じするよね」
愛「確かに…」
歩夢「あ…じゃあココア、いただきます」カシュ
愛「どーぞどーぞ」
歩夢「ん……」コクリ
歩夢「うん…やっぱりおいしい」 愛「ね、結局ココアが一番だよね〜」
歩夢「…なんだか、久々に無駄遣いした気がする」
愛「あ、ごめんね?」
歩夢「ううん、楽しかったから全然いいの」
歩夢「たまにはいいよね、何も考えずにお金使っちゃうのも」
愛「あー…まぁ、たまにはね?」
歩夢「さっきのゲームコーナーでも、100円くらいのお菓子を取るのに500円も使っちゃって」
歩夢「でも取れた時の喜びは凄かったなぁ、普通に買えば手に入るのにね」 愛「確かに、味も別に変わんないしね」
歩夢「ふふ、ほんとにね」
愛「それと、なんか見慣れたお菓子がクレーンゲームにあると無性に欲しくならない?普段食べないのに」
歩夢「あ〜、それわかるなぁ」
愛「不思議な現象だよね〜」
歩夢「うん…あ、そうだ」ゴソ
愛「…?」
歩夢「愛ちゃん、これいる?」スッ 愛「カプセルじゃん、さっきの犬のやつ?」
歩夢「うん、目当ての子は手に入ったんだけど他の2つは同じのだったから」
歩夢「だからおすそ分け」
愛「へぇ、じゃあせっかくだし貰っとこーかな。ありがとっ」
愛「えーと…おお、ポメラニアンじゃん」
歩夢「それも可愛いよね」
愛「うん!可愛い!鞄にでも付けとこーかな」
歩夢「うんっ、いいと思う」 愛「じゃあ愛さんからも一個あげよーかな…」ゴソ
愛「はいっ、これ!」
歩夢「…?」
歩夢「……?ば、く…?」
愛「うん、バクのぬいぐるみ」
歩夢「バクって確か…」
愛「そうそう、人の悪い夢を食べてくれるっていうやつね!」
愛「まぁ…もう歩夢には必要ないかもしれないけど、いつでもいい夢見てて欲しいなぁって愛さんは今でもそう思うからさ」 愛「ていうかそんな効果このぬいぐるみにあるわけないか」
愛「まぁ愛さん的にはそういう気持ちだよーってことで!」
歩夢「…ただのぬいぐるみだし、効果は確かにないけど…うん、すごい嬉しいよ。ありがとね、愛ちゃん」
愛「…ふふ、いえいえ。喜んでくれて嬉しいよ」
歩夢「それにしても可愛いね、これ」
愛「でしょ?ピンク色だから歩夢にぴったりじゃない?」
歩夢「確かに…大事にするね?」
愛「うんっ」 歩夢「……」
歩夢「……今更だけど、なんだか新鮮かも」
愛「…え?何が?」
歩夢「愛ちゃん達と出掛けて遊ぶ事はこの数日増えたけど…」
歩夢「……愛ちゃんと2人で出かけたことってなかったなぁって思って」
愛「………言われてみれば、そうだったね」
歩夢「うん」 愛「……そっか、アタシ…無意識に2人きりになるの避けちゃってたのかもね」
歩夢「え?」
……愛ちゃんがどこか、切なげに微笑んでる
夕日によって橙の光に照らされたその表情がより一層儚げに見えて
純粋に愛ちゃんが綺麗だと思った
愛「…アタシさ、昔から楽しいことが好きだったんだよね」
歩夢「…?」
愛「誰かと楽しいことを共有することがほんとに好きで」 愛「だから、色んな人と繋がって…色んな人と楽しいことで遊んで、笑いあって…」
愛「アタシにとっては家族はもちろん…ファンも、友達も…同好会のみんなもすごく特別で」
愛「優劣なんてつけれないくらい大切な人ばっかりで」
愛「みんなの笑顔を見るのがとにかく大好きだった」
愛「…歩夢も、その中の一人だったはずなんだけどね」
歩夢「へ…」 愛「アタシね、SIFの時の歩夢のステージを見た瞬間、すっごくドキドキしたんだ」
歩夢「っ…あ…愛ちゃん…?」
愛「…他の誰かでは感じたことが無い、初めての感覚だった」
愛「けど、歩夢とこうして遊ぶようになって…一緒にいるようになってから段々その感覚の正体に気付くようになったんだ」
歩夢「……っ」
愛「…ごめんね、歩夢」
愛「アタシ…これから歩夢に、愛さんの伝えたいことを伝えるね」 変わらず優しく微笑んで言葉を紡ぐ愛ちゃんから、私は目が離せなかった
その表情と、告げられる一言一言が私を釘付けにさせた
今…私と愛ちゃんの間に何が起こってるんだろう
言葉は理解出来てるのに、頭では状況が理解し切れてなくて…それなのに私の胸の鼓動は強く高鳴った
私にとっては…これ以上聞かない方がいいことなんだと思う
それでも愛ちゃんから目を離すことも…自分の耳を塞ぐことも出来なかった
そう思考する余裕すら私にはなかった
愛ちゃんは、小さく深呼吸をしてから…その言葉を発した
愛「…好きだよ、歩夢」 前回は2ヶ月半で更新来たからまだまだ余裕
いつも保守してもらってありがたい 見てるぞ
定期的に保守あるしまだ途中だから変にレス埋めたくないのはある 11月くらいから覗きに来てなかったけどまだ続いてて嬉しい 歩夢「っ…」
…何が起こったのか、すぐに理解が追いつかなかった
けれど…その一言は、今の私にはとても非現実的に感じて
私の心臓はいとも簡単にぎゅっと締め付けられた
数秒間で、その言葉を頭が勝手に反芻して…そうしてやっと頭が理解する
理解して…より鼓動が高鳴るのも
顔が熱くなってきてるのも感じた
そっか、伝えたいことはこれだったんだ… …電話の時、一瞬過ぎった事ではあった
…けれど、愛ちゃんはこれまでそういう素振りなんて見せたこともなかったし
私の気持ちがそうだから…そう思考しちゃうだけなんだって
だから、そんなわけあるはずないって…私の決心が中途半端にならないように、余計なことを考えないようにしてた
でも、確かに愛ちゃんは今
私に向けてしっかりと好意を示した 少しでも考えていたことが、現実になるだなんて思わなかった
…今も、現実だと信じきれてない
好意を寄せていた人が…同じように好意を寄せてくれていただなんて、中々ある話じゃないし
…ひとまずなにか言わなくちゃ…そう思ったけどすぐに言葉は見つからなかった
…ただ胸の鼓動だけがうるさく鳴り響く
愛ちゃんは、眉を八の字にしたまま優しく微笑んで見つめてくる
…どこか切なげにも見えるその表情が耐え切れなくて、愛ちゃんの目を直視出来なかった 愛「ああ、ごめんごめんびっくりしたよね」
愛「今のはさ」
歩夢「…い…」
愛「…?」
歩夢「…今のは、そういうことなんだよね…」
愛「…」
歩夢「…そういう意味なんだよね」
愛「うん」 歩夢「……」
愛「ごめんね」
歩夢「…どうして謝るの」
愛「今伝えたことも、これから伝えることも、歩夢を困らせちゃうことだと思うから」
歩夢「……」
愛「…最初はね、ずっと伝えないつもりだったんだ」
愛「でも、やっぱり無理だった」
歩夢「…」 愛「夏のライブ…あったでしょ?」
愛「実はさ、あの時のステージで踊る歩夢の笑顔に引き込まれたんだ」
歩夢「え…」
愛「映像越しで見たんだけどね、それだけでも十分ってくらいに、愛さんには凄く輝いて見えたんだ」
愛「きっと誰もがつられて笑顔になっちゃうような…そんな笑顔だった」
愛「その前からも魅力のある子だとは勿論思ってたけど」
愛「でも、あの時の表情が頭から離れなくなるくらいに引き込まれて、それからは歩夢が気になるようになってた」
愛「ずっと、少しでも近付けたらいいなぁなんて、そう思うようになった」 愛「今思えば、あのステージ上で歌って踊る歩夢に、そう思っちゃうくらい見惚れて…惹かれてたんだなぁって思う」
愛「だから、普通にお節介ってのもあったと思うけど、ずっと歩夢のことほっとけなかったんだよね」
愛「歩夢が塞ぎ込んじゃった時さ…」
愛「もう歩夢のステージが見られなくなっちゃうんじゃないかって思って、いても立ってもいられなかったから」
歩夢「………」
愛「…それで、色々あって歩夢とよく行動するようになってからはずっと嬉しくてさ」
愛「正直、すごく幸せだった」 愛「歩夢のそばに居るだけで…自然と笑顔になったり、温かい気持ちになれたり」
愛「自然と心が癒されたり」
愛「特別な何かをしなくても、歩夢の存在だけでずっと満たされてて」
愛「勿論りなりーやみんなといる時間も大好き…けど、歩夢といる時間はもっと特別に感じたんだよね」
愛「…感じたことも無い幸福感があってさ」
愛「だからこのままただ一緒にいれればなって…歩夢の傍で笑顔を見ていたいなって思った」
愛「もし悲しい気持ちになった時は…一番に歩夢を支えたいって思ったし、一番に笑顔にしてやりたいって思った」
愛「…そう思うくらい、歩夢といる時間が愛おしく感じて、アタシの中で歩夢がすごく大きな存在になってたんだ」 愛「でも歩夢にとってそう思える相手って…やっぱりアタシじゃないし」
愛「きっとこんなアタシじゃダメなんだよなぁって思った…」
愛「それに、こんなこと歩夢に知られたら嫌われちゃうかもって思ったしね」
愛「何より困らせたり、悩ませたり傷付けちゃうことがすごく怖かったから」
愛「だから…こんな気持ち伝えても無駄なだけだって」
愛「伝えないまま友達でいよう、それだけでも十分嬉しいからって…気持ちに蓋をして、割り切るつもりだった」
愛「割り切って…上手く友達として接していけるって思ってた」 愛「けど、割り切るには気持ちが大きすぎたんだよね」
愛「りなりーとせっつーに言われたんだ、何もしないで簡単に自分で区切りつけちゃうのは、愛さんらしくないって」
愛「…言われてハッとなったよ」
愛「簡単に諦めちゃうのは、確かに嫌だなって」
愛「だから…歩夢にはこの気持ちだけでも伝えたいって…知って欲しいって思ったんだ」
愛「…知ってもらったところでどうしようもないんだけどさ」
愛「けど、知られないままの方が…」
愛「…きっと伝えないままの方がもっとこの先後悔して、どうしようもなくなるって思ったから」
愛「伝えることに意味があるんだって気付かされたから」 愛「……だから、今日勇気出して歩夢を呼んだんだ」
愛「ごめん、迷惑掛けちゃうのは分かってる」
愛「けど、ちゃんと伝えて自分の気持ちに区切りだけでも付けたかったんだ」
歩夢「…愛ちゃん」
愛「……気持ち悪いって思わせちゃうかもしれないけど」
愛「…これがアタシの気持ち」 歩夢「……気持ち悪くなんて、ないよ」
愛「……」
歩夢「きっと…色々悩ませて、辛い思いさせちゃってたよね…ごめんね」
愛「……そんなこと気にしなくていいよ」
歩夢「……」
歩夢「愛ちゃん…あのね」 歩夢「…正直、戸惑ってて上手く言葉がまとまらないけど…」
歩夢「愛ちゃんの気持ちはすごく伝わったし、素直に嬉しいって思う」
歩夢「ほんとに…嬉しい…」
歩夢「…私ね…」
愛「………」
歩夢「…私……」
愛「……歩夢?」
歩夢「……っ…」 答えは決まってたはずなのに
…愛ちゃんの言葉からは、どれだけ思い悩んでいたかが伝わった
どれだけ想ってくれていたかが伝わった
伝わってしまった…
だから、その答えを口にすることが出来なかった
侑ちゃんも大切だけど…やっぱり愛ちゃんも大切で…二人とも悲しむようなことなんかしたくないから
…私には、どっちも言えない… 歩夢「っ…ごめん……私…言えない……っ」
愛「………」
愛「…うんっ、分かってる」
愛「歩夢はやっぱり優しいね…」
歩夢「ぇっ…」
愛「ごめんね、こんなの答える方がもっと辛いもんね」
愛「まだ混乱してるだろうし…無理して答えなくていい」
愛「…結果はさ、ほら…分かってたしね」
歩夢「!…ちが…っ…」 愛「違くないよ、そうでしょ?」
歩夢「ぁっ…」
愛「…大丈夫だよ、歩夢が受け止めてくれたように、アタシもちゃんとさ、受け止めるから」
歩夢「……」
愛「ちゃんと受け止めて…終わりにするから」
愛「……」
愛「ね、歩夢」 愛「…今しか伝えられないし…全部伝えたいから言うね」
歩夢「へ…?」
愛「…ふぅ……」
愛「………」
愛「……アタシは…」
愛「…歩夢が、たまにお母さんっぽくなるところが好き」
歩夢「…!」 愛「ついイタズラしたくなっちゃうくらい純粋なところとか」
愛「…怒ってむくれた時の顔が可愛いいところとか」
愛「…心配になっちゃうくらいちょろいところも」
愛「すごく家庭的なところも」
愛「意外にリアクションがいいところも」
愛「人一倍努力家で、一生懸命で…」
愛「割と自分に負けず嫌いなところも」 愛「誰にでも優しいところも」
愛「大切な人の為に一生懸命悩んで、考えちゃうところも…」
愛「それから…ふとした時に、まるで花が咲くように笑うところが…めちゃくちゃ愛おしくて、大好き」
歩夢「……っ…」
愛「そんな歩夢にアタシは惹かれたんだ」
愛「…ほんとに、こんな気持ちになるまでわかんなかった」 愛「誰かに心奪われるってことがどんなものなのか…特別に想うってことがどんな事なのかって」
愛「きっとこの先も、ずっと分からないままだって思ってた」
愛「けど、歩夢といてそれが分かるようになったと思う」
愛「…分かるようになったんだ」
愛「横にいるだけで苦しくなるくらいに愛しいって…好きだなぁって思うこと」
愛「そう思うだけでも気持ちがやすらぐってこと」
愛「初恋の人がこの人で良かったなって思うこと…」 愛「だから、アタシに恋を教えてくれて…んーん、恋をさせてくれて」
愛「…ほんとにありがとう」
愛「……これで最後にするから言わせて」
愛「アタシは…歩夢が好き」
愛「もうどうしようもないくらいに…大好きだよ」 歩夢「…っ…!」
どうして…
どうしてそんなに…っ
歩夢「っ……愛ちゃん…」
愛「……ごめん、ごめんね」
愛「…ずっと強引で、勝手しちゃってほんとにごめん」
愛「安心できないかもだけど、次会うときはさ…いつも通りの愛さんだから」
歩夢「……っ…」 愛「………」
愛「…っ…ごめん、そろそろウチの手伝いあるから帰んなきゃ」
歩夢「…!」
愛「…聞いてくれてありがとね」
愛「それと、今日は楽しかった」
愛「……また部活でね、歩夢」
愛「ごめんね…」ボソ 歩夢「…ぁっ……」
愛「………」テク テク
捲し立てるようにそう言うと愛ちゃんは、私に背を向けて去っていく
歩夢「っ…待っ……!」スクッ
咄嗟にその背に向かって手を伸ばそうとした
けれど、呼び止めたところで…掛ける言葉がみつからなくて、すぐにその手を引っ込めた
私は愛ちゃんの背を見つめることしか出来なかった ────
─
愛「………」テク テク
ピタ
愛「……」
愛「っ…はぁぁ…」
愛「…ああぁ…もぉ…!…泣くな…泣くな…っ」ペチッ …伝えたいことは、全部ぶつけた
伝えることが出来た
けど…
やっぱり困らせちゃってたよなぁ
愛「……」
…正直、分かってはいた
歩夢にあんな顔をさせてしまうことくらい
伝えたって誰も笑顔になんかならないことくらい それに歩夢がまた、ストレスを抱えてしまうかもしれないのに…でも
それでも伝えたかった、知って欲しいって思った…
この気持ちは止められない所まできてたから
これは本当に…アタシの自己満足の為にしたことなんだ
だから…これからのことはちゃんと、自分で責任をとらなくちゃ
自分に出来ることを考えなきゃ
これから歩夢との間に起こることは全部、自分のせいなんだから
告白して終わりになんかしちゃいけない ──
公園
「……いた」
歩夢「………」
「あーゆむ」
歩夢「……」
侑「やっほ」ニコ
歩夢「……ゆうちゃん…」
侑「…買い物してたんだね」
歩夢「……うん」 歩夢「練習、終わったんだね」
侑「うん、ちょっと前にね」
歩夢「そっか…」
侑「うん」
歩夢「……」
侑「……」 歩夢「…」
侑「…ねぇ、あゆ…」
歩夢「侑ちゃん…」
侑「ん…?」
歩夢「私…さっきまで愛ちゃんと会ってたんだ…」
侑「……」 歩夢「電話で呼び出されて…一緒に買い物して…」
歩夢「それで…ここで…」
歩夢「この公園で言われたんだ、好きだって」
歩夢「友達としてのものじゃなくて…本気の好きだった…」
侑「…うん」
歩夢「…断るつもりだった」
歩夢「…でも…何も答えられなかった…」 侑「どうして?」
歩夢「…すごく真っ直ぐだったから…」
歩夢 「終始微笑んでて…でもどこか少し切なげで…それでも向けられる目は真っ直ぐで…」
歩夢「伝える言葉も全部、真っ直ぐだった…」
歩夢「だから、気持ちがすごく伝わって…それが嬉しくて」
歩夢「すごく嬉しくて…」
歩夢「そんな愛ちゃんを悲しい気持ちになんてさせたくなかった」 歩夢「だから、何も言えなかった…」
歩夢「でも愛ちゃんは、元から結果が分かってたんだ…気持ちだけでも伝えたかったから…」
歩夢「だから、無理に聞こうとなんかしなかった…」
侑「…そっか」
歩夢「っ…」ツー
侑「!…」
歩夢「……ずるいよ…」ポロ
侑「……」
歩夢「ずるいよ、愛ちゃん…っ」 歩夢「私ずっと…ずっと愛ちゃんに心を掻き乱されてばっかりだ…っ」ポロポロ
歩夢「このままでいようって…そう思ってたのに…っ…!」
歩夢「グスッ…そう決めたのに…っ!…決心が鈍っちゃう…っ」
侑「歩夢…」
歩夢「…っごめん…、侑ちゃん…っ」
歩夢「やっぱり私……愛ちゃんが好きだ…っ」ポロポロ 歩夢「どうしようもないくらい…っ」
歩夢「でも、そんなこと言えないよ…」
歩夢「もう…っ…私どうしたらいいのかわかんなくなっちゃった…っ…」ポロ ポロ
侑「……」
侑「……知ってた」
侑「歩夢の気持ち…知ってて何も言えなかったんだ…」
侑「ううん、言わなかったんだ…」
歩夢「っ…」ポロポロ 侑「…歩夢があの時、思い違いだって言ったのは、私の為だって事も分かってた…」
侑「あの時もほんとは少し不安で…ずっと不安だった、だから…歩夢のあの時の言葉に縋っちゃってたんだ」
侑「…ごめんね」
侑「気持ちの問題のはずなのに、当たり前だったものが崩れてくのが怖くなってたんだ」
侑「二学期になって、環境が変わって…歩夢と話す回数が減り始めてから、そうなっちゃってたんだと思う」
侑「ほんと…どうかしちゃってたんだ、最近の私…」 歩夢「っ、…ゆうちゃん…」
侑「…」ギュ
俯く歩夢の目の前にしゃがみ込んで、優しく手を握る
すっかりその手は冷たくなっていた
侑「……ねぇ、覚えてる?」
侑「歩夢が初めてそのお団子の髪型にした時さ、私すごく可愛いって褒めた事あったでしょ」
歩夢「…っ……」コクン
侑「…歩夢はどんな髪型にしても可愛いけどさ…初めて褒めた髪型が、今の歩夢の髪型だった」
侑「歩夢、すごく嬉しそうだったよね」 侑「嬉しかったから、思い入れが強いから…今も歩夢はその髪型にしてくれてるよね」
侑「私が言いたいのはさ、初めてって…すごい力なんだと思う」
歩夢「…っ…」
侑「どんな些細な内容でも、良くも悪くも事実以上に大きく見せるんだ」
侑「自然と特別なものになっちゃう…」
侑「はたから見たらたとえ小さなものだとしても、自分にとっては特別で…大きくて…傷付けたくない、大切にしたいって思う」 侑「…その特別なものが自分にとっては弱点だけど、すごく強い力になるから…」
侑「私と歩夢だってそう」
侑「お互いに…初めて出来た幼馴染で…友達で、親友だからさ」
侑「歩夢の存在は今でも、私にとって原動力だから…」
侑「今なら歩夢も私に対してそう思ってくれてるって思える…自信もって言える」
侑「だから、すごく悩むこともあるし…必死で守りたいって思うんだよね」 侑「そんな気持ちがぶつかり合うと、今回みたいに不安定になっちゃうけど…」
侑「そんな時はちゃんと、我儘になって…本音をぶつけなきゃいけなかったんだって改めて思った…」
歩夢「……っ…」
侑「……私の今の本音を言うね」 侑「これは私の我儘…愛ちゃんに自分の本当の気持ちをぶつけて欲しい」
歩夢「っ…へ…」
侑「…ほんとは知ってたんだ、歩夢が愛ちゃんとここで会ってることも…愛ちゃんの気持ちも、愛ちゃんが今日何をするのかも」
歩夢「…っ!」
侑「さっき学校でせつ菜ちゃんに会ってね、全部聞いたんだ」
侑「愛ちゃんから、璃奈ちゃんと二人で相談に乗ってたんだって…だから、今日のことも知ってたらしくて…」 侑「…聞いててさ、相当思い詰めてたんだなって思った…あの愛ちゃんがだよ?」
侑「それこそ初めてだったから…初恋だったからすごく悩んで…泣くほど我慢してたんだと思う」
侑「きっと歩夢に迷惑をかけるから…歩夢の笑顔を守りたかったから」
侑「傷付けたくなかったから…必死に我慢して、気持ちに蓋をしてたんだと思う」
侑「それでもやっぱり、伝えたいって思ったんだよ…初めての恋だったから」
侑「自分のことよりも真っ先に誰かを助けに行っちゃう愛ちゃんが…今回は自分を助けに行ったんだ」 侑「傷付けるかもしれないのに…嫌われちゃうかもしれないのに、それでも伝えたかったから」
侑「愛ちゃんも…歩夢がすごく、どうしようもないくらい大好きだから…」
侑「だから、自分の我儘を通して…歩夢に気持ちをぶつけたんだと思う」
侑「だからさ…歩夢も愛ちゃんに気持ちを伝えて欲しい」
歩夢「…っ……侑ちゃんは…いいの、それで…」 侑「歩夢だって耐えられなかったんでしょ?耐え切れなくて今、私に愛ちゃんが好きだって、本音を吐露してくれた」
侑「歩夢は…私も特別で、愛ちゃんも特別で…だから心が揺れて…やっぱり好きで…」
侑「だから耐えられなくなったんだよね」
侑「大切で特別だから、両方守ろうとしたんでしょ?」
歩夢「……っ」
侑「…ありがとね…でも私はやっぱり、歩夢には笑っていて欲しいよ」
侑「同じように愛ちゃんにも笑ってて欲しい」 侑「…私なら大丈夫だよ、歩夢」
侑「私と歩夢はちゃんと繋がってる…すごく強い糸で…」
侑「切れることなんてないって、ちゃんと分かってるから」
侑「でも愛ちゃんとの糸は…ちゃんと繋ぎ止めなきゃね」
歩夢「……っ」
侑「…ほらほらっ、立ってっ」グイ
歩夢「へ……ぁっ…」スタ 侑「……次は、歩夢が我儘になる番だよ」
歩夢「…我儘……」
侑「うん…大分前に言ったでしょ?我儘な歩夢も可愛いって」
侑「そんなめんどくさい歩夢だって…愛ちゃんは受け止めてくれると思うし」
歩夢「ぅ……私、やっぱりめんどくさい…?」
侑「うんっ、めんどくさい!…でもそこがいいんだよ」
侑「ていうか私も愛ちゃんも十分めんどくさいから人のこと言えないけど…」
歩夢「……」 侑「でも…もし今後、歩夢がこれから自分を許せなくなっちゃったとしてもさ…私が許すよ」
侑「…私が歩夢の免罪符になるから」
侑「だからもう、泣かないで」
歩夢「…っ、侑ちゃん…」
歩夢「…もう…っ…どうして…」
歩夢「どうして二人して…そんなに真っ直ぐなの…」 侑「二人して歩夢が大好きになっちゃってるからだよ」
侑「せつ菜ちゃんっぽく言うなら…自分の好きを貫いてるんだよ」
歩夢「……っ…」
侑「だからさ…貫いてよ、歩夢も」
侑「両方大切なら…もっと欲張っていいんだから」
歩夢「……」
歩夢「…侑ちゃん」
侑「ん?」
歩夢「…私も、侑ちゃんの免罪符だよ…いつまでも」 侑「…ふふ…うん、分かってる。だから安心して我儘言えるんだよ」
侑「…それから、愛ちゃんのも…でしょ?」
歩夢「………」
侑「………」
歩夢「……」コクン 歩夢「…私も、ほんとは心のどこかで思ってた」
歩夢「愛ちゃんに…気持ちを全部知って欲しいって…」
歩夢「侑ちゃんとの事があったのもそうだけど…怖かったんだ、私も、知られて嫌われちゃうのが…」
侑「…歩夢の気持ちはちゃんと受け止めてくれるよ、愛ちゃんなら」
侑「愛ちゃんだって、歩夢を信じたから伝えたんだと思うし」
侑「だから、歩夢も愛ちゃんを信じて伝えればいいよ」
歩夢「……ありがとう、侑ちゃん」 歩夢「私、ちゃんと伝える…やっぱり伝えたい…愛ちゃんに…」
侑「うんっ」ニコ
侑「ならさ…ほら!急がなきゃ日が暮れちゃうよ?」ズイ
歩夢「!…えっ…ぇ…い、今…から?」
侑「…今じゃなきゃ…でしょ?」
歩夢「………」
歩夢「………そうだよね」 歩夢「今じゃなきゃだよね…」
侑「やっぱりちょっと怖い?」
歩夢「…少しだけ、でも大丈夫」
歩夢「侑ちゃんが背中押してくれたから…大丈夫」
侑「…そっか」ニコ
侑「あ…そうだ、愛ちゃんに伝言!」 歩夢「へ…?」
侑「ウチの歩夢をたぶらかしたんだから絶対責任取ってよね!って伝えといてっ」
歩夢「…ふ…なにそれ…」
侑「えっへへ…よろしくねっ」
歩夢「…」
歩夢「……ありがとう、侑ちゃん」
侑「んーん…こっちこそ、ありがとう」 侑「ほらっ、早く行ってきな!歩夢!」ニコ
歩夢「!…うん…っ」コクッ
侑「………」スッ
握りあっていた手をお互いに離すと
歩夢はそのまま、愛ちゃんの元へと駆けていく
不思議と…あの時の不安感が嘘だったみたいに、私は綺麗な気持ちで見送ることが出来た
今はもう、応援したいという気持ちだけ
侑「……がんばれ、歩夢」
そう呟いて微笑むと、残された歩夢の荷物を持って…そのまま帰路に着く
…なんだか、今日はいつになく夕日が一際綺麗に見えた 侑ちゃん切ない…
順番次第で別の結末もあっただろうからなおさら つまらん上にそこまで需要ある組み合わせでもないしようやるな ────
─
歩夢「…はぁ…っ、はぁ…っ…」
タッタッタッ…
歩夢「…っ…はぁ…っ…はぁ…っ!」
…… ─……思い返せば
侑ちゃんとの相談に乗ってくれたあの日からずっと…
愛ちゃんは私の傍に居てくれていた
二人きりになった事はほとんどなかったけれど
この2ヶ月近くの時間はほとんど、愛ちゃんと過ごした時間だったと思う
愛ちゃんはずっと…傍にいてくれて…見守ってくれて、気にかけてくれてた いつだって笑顔にしようとしてくれてた
私はずっと与えられてばかりで
そんな愛ちゃんに何も返せてないって思ってた
けど愛ちゃんは、こんな私と居るだけで
それだけで満たされてて…幸せだって言ってくれた
すごく嬉しかった
でも… ──ずっと大切な友達でいてくれる?
……きっと、あの時の私の一言は
愛ちゃんにとってすごく重たい一言だったと思う
愛ちゃんにとっても初めてのことだったはずだから、尚更
そう考えたら、愛ちゃんの気持ちを知らなかったとはいえ
辛い思いをさせちゃってたんだ
それに気付いたはずなのに…愛ちゃんの気持ちを受け止める事が出来なかった
…愛ちゃんに謝りたい それから、やっぱり自分の気持ちを伝えたい…伝えなきゃ
歩夢「…っ…はぁ……はぁ…っ」
歩夢「はぁ……っはぁ…」
…侑ちゃんに見送られてから相当走った
けれど、愛ちゃんの姿は見当たらなかった 愛ちゃんと別れてからそこそこ時間は経過してるから
もう家に着いてる頃かもしれない
愛ちゃんの家に行くなら、先にある横断歩道を渡らなきゃいけないけど…
歩夢「はぁ…っ…は…っ…」タッタッ…
歩夢「………っ!」 そう思考していた矢先に辺りを見渡していると
すぐ近くの歩道橋を渡る愛ちゃんの見慣れた姿があった
愛「………」テクテク
歩夢「っ…!」
歩夢(愛ちゃん…!)
歩夢「っ…」ダッ 歩夢「……はぁ…、はぁ…っ…!」タッタッ
伝える言葉は見つかってない…心の準備だって出来てないけれど
そんな事を考える間もなく私は無我夢中で走って、階段をかけ上った
歩夢「っ…はぁ…はぁ…っ」
上り切る…そして、向かい側の階段を降りようとする愛ちゃんに向けて
辺りに響くほどの声を張り上げた
歩夢「……っ、愛ちゃんッ!!!」 愛「…っ…!?」ビクッ
歩夢「っ…はぁ…はぁ…っ!」
愛「……びっ、くりした…」フイ
歩夢「…っ…はぁ…っ」
愛「ぇ…」
愛「ぁ、歩夢…?」 歩夢「はぁ…っ…はぁ…っ」
愛「…ちょ、どうし…」テク
歩夢「私も愛ちゃんと一緒だよ…っ!!!」
愛「え…?」ピタ
歩夢「私も…っ、愛ちゃんといる時間はすごく特別だった…!!」 愛「ぇ…」
歩夢「璃奈ちゃんと三人で出掛けて遊んだ時も…っ」
歩夢「…侑ちゃんやせつ菜ちゃんと四人でお泊まり会をした時も…すごく楽しくて…っ!」
歩夢「ずっと必死に私を楽しませたり笑わせようとしてくれてたことがすごく嬉しかった…!!」
歩夢「愛ちゃんが雷で弱ってる時…あの時私に頼ろうとしてくれた時もすごく嬉しかったっ…!」
歩夢「いつも…っ、いつも愛ちゃんといるとすごく楽しくて…嬉しいことばかりだった…!」 歩夢「ほんとに…一緒にいるだけですごくあったかい気持ちになれたし…っ」
歩夢「いつからかもっと…っ、もっと愛ちゃんの事を知りたいって思うようになった…っ!」
愛「……」
歩夢「それからは愛ちゃんのことを考える度に、そばにいるだけで胸がドキドキするようになった…っ」
歩夢「胸がきゅってなるくらい苦しくなることもあった…!」
歩夢「そのくらい…っ…気付いたら私も…っ」
歩夢 「っ…私も愛ちゃんに惹かれてた…っ…!!」 愛「っ…!」
その一言を発した途端に、また涙が流れ始めた
歩夢「私だって…っ…愛ちゃんが好きだよ…っ!」ポロポロ
歩夢「誰にも負けないくらい…っ、すごく好きだよ…!」
愛「っ…歩夢…」 歩夢「私は…っ、愛ちゃんの声も…匂いもっ…一緒にいる空間も好き…!」
愛「……っ…」
歩夢「愛ちゃんの純粋でひたむきな所も好き…!」
歩夢「誰に対してもすごく面倒見が良くて…その分人懐っこくて…っ」
歩夢「器用でかっこよくて…」
歩夢「でもっ、たまにちょっと不器用なところもあって…そんなところが可愛くて…!」 歩夢「いつだって元気で…明るくて…ポジティブで…っ」ポロポロ
歩夢「その反面ちょっぴり寂しがり屋なところもあって…っ…」
歩夢「そこもすごく可愛らしくて好きだよ…っ!」
歩夢「っ…何よりも…愛ちゃんの笑顔が好き…っ」
歩夢「優しく微笑む表情も…!」
歩夢「いたずらっぽく笑う表情も…!」
歩夢「…眩しいくらいに無邪気で…温かくて…っ…」
歩夢「…まるで太陽みたいに笑う表情もすごく好き…っ!」 歩夢「私は…っ、愛ちゃんの全部がどうしようもないくらい大好きだよ…っ…!!」
愛「…っ…」ダッ
歩夢「私…っ…この先もずっと愛ちゃんの傍に居たいよ…っ!!」
歩夢「だから…っ…!」
愛「…っ…あゆむ…っ!!」ガバッ
歩夢「!…ひぁ…っ…!?」 ドサッ
歩夢「っ…!」
愛「っ…はぁ…はぁ…っ…」ギュウ
伝えることに必死で、愛ちゃんの接近に気付かず
突然飛びかかってきた愛ちゃんに驚いて思わず抱き留め、その場でバランスを崩して尻もちを着いた
一瞬何が起きたのか分からなかったけど
その場でぎゅっと包み込むように強く抱き締められた事で、やっと状況を理解した
胸が張り裂けそうな程にドキドキする…
けど、素直に抱き締められている事実が嬉しくて
そのまま肩口に額を預けた
…すごく愛ちゃんの匂いがした 愛 「…っ…声、大きすぎだって…」
歩夢「!…ぅ…ごめん……っ」
愛「…びっくりしたよ…ほんと…」
歩夢「ぅぅ…っ…ごめ…伝えるのに必死で…っ…」
愛「……」 歩夢「っ…私ね……」
歩夢「…自分の気持ちが知られることで、侑ちゃんとの関係も…」
歩夢「愛ちゃんとの関係も崩れていっちゃいそうだって思った…」
愛「…うん」
歩夢「両方とも好きで、大切で…だから踏み出すことがすごく怖くて…」
愛「うん…」
歩夢「だから…っ…心の中だけで留めようって…気持ちだけ大切にしまっておこうって…」 歩夢「自分の気持ちに気付いた時から、そう決めてた…っ…」
愛「…」
歩夢「でも…っ、さっきの愛ちゃんの告白が真っ直ぐ過ぎて…それがすごく嬉しくて…っ」
愛「…うん」
歩夢「もう、愛ちゃんへの気持ちが抑えられない所まできちゃって…耐えられなくて…っ」 歩夢「でも…っ」
愛「…ゆうゆの事も、ほっとけなかったんだよね」
歩夢「…っ」コク
歩夢「だから…自分がもう…どうしたらいいのか分からなくなっちゃって…っ…」
愛「……」
歩夢「…でも、侑ちゃんは自分のほんとの気持ちを伝えて欲しいって…言ってくれた…」 歩夢「もっと、自分に正直に…我儘になればいいって…」
歩夢「両方大事なら両方とももっと欲張って欲しい…これが私の我儘だって…」
歩夢「侑ちゃんがそれを心から望んでくれてた…」
歩夢「だから、今度はちゃんと侑ちゃんの気持ちにも…」
歩夢「愛ちゃんの気持ちにも応えたい…」
歩夢「何よりも自分の気持ちをもっと…ちゃんと大切にしたい…っ」 歩夢「侑ちゃんに言われてそう思えた…」
歩夢「だから、愛ちゃんと侑ちゃんがしてくれたように…」
歩夢「…自分もちゃんと愛ちゃんに気持ちをぶつけたいって思って…だから…っ」
愛「…そっか」
歩夢「……ずっと…っ…辛い思いさせてごめんね…」 愛「…ううん、アタシの方が歩夢もゆうゆも苦しめちゃってたと思う…ごめんね」
歩夢「っ…」フルフル
愛「……」
愛「…ねぇ、歩夢…」
歩夢「…グスッ…な…なに…?」
愛「…すごい汗だくだよ?」
歩夢「……っ!ぇ…、ぁっ…、ごめ…っ」 愛「えへへ、大丈夫大丈夫」ギュ
歩夢「…っ…わ、私が…大丈夫じゃないよ…っ」
愛「ふふ……ありがとね、歩夢」
歩夢「ぇ…?」
愛「こんなになるまで、必死に走って…伝えに来てくれて」
愛「正直歩夢がそんな風に思ってくれてただなんて思わなかった…」
愛「…けど、気持ちがすごく伝わったし…すごく嬉しかった」
愛「夢なんじゃないかって思っちゃうくらい…変な感じだけどさ…」
愛「でも、夢じゃないんだよね…」 歩夢「………」
愛「……ねぇ歩夢、そろそろ顔見ていい?」
歩夢「…!っ…だ、だめだよ…っ…今ひどい顔してるもん…っ…汗だって…っ」
愛「…大丈夫だって」
愛「……顔見てもう一回聞きたいんだよね、さっきの一言」
愛「…アタシもさ、もう一回伝えたいから…」
歩夢「…ぅ…っ」 歩夢「…っ……」スッ
愛「………」
おもむろに顔を上げると、愛ちゃんと真っ先に視線が合った
…愛ちゃんの瞳は潤んでて、今にも涙がこぼれそうで …
それでも優しげに微笑んでて…ひたすらに笑顔だった 愛「……」スッ
歩夢「!…っ…」ピクッ
愛ちゃんの手が頬に触れる
すごく温かくて
視界が霞むのと同時にまた涙が溢れた
愛「…えへへ、改めて顔合わせるとやっぱり恥ずかしいね…」
歩夢「わ、私の方が恥ずかしいよ…っ…絶対ひどい顔してるし…っ…」ポロポロ 愛「そんな事ないって…」
愛「…でも…歩夢はさ、やっぱり笑顔が一番だよ」
愛「だって、アタシは歩夢の笑顔に惹かれたんだもん…」
愛「だからさ、笑って欲しいな…歩夢には」
歩夢「うぅ…っ…が、がんばる…けど…っ…」ポロポロ
愛「…うんっ、ありがと」 歩夢「……グスッ……ん…、じゃあ…愛ちゃんもだよ…?」
愛「……」
愛「…えへへ…うん、そだね」
愛ちゃんは自分の涙を拭って、再び笑いかける
…愛ちゃんの笑った顔を見ると、やっぱり安心する 私だけじゃなくて…誰でも笑顔にしてしまうような、そんな笑顔だから
きっとそんな愛ちゃんの笑顔に今まで救われてきて…そんな愛ちゃんの笑顔に私も一番惹かれたんだと思う
愛ちゃんが笑うなら、私も笑いたい
…私も、愛ちゃんの笑顔に呼応するように小さく笑いかけた
そうして愛ちゃんと視線を合わせ、密着したまま
もう一度、愛ちゃんに気持ちを告げた 歩夢「……好きだよ、愛ちゃん」
歩夢「…すごく大好き」
愛「…うんっ」
愛「アタシも歩夢が好きっ」
愛「…めちゃくちゃ大好きだよ」
歩夢「…うん…っ…、ありがと…愛ちゃん…っ」
愛「…えへへ…こちらこそ、ありがとね…歩夢」ニコ
歩夢「…ぅん…っ…」ニコ それからは、ぎゅっと抱き合ったまま
何度も好きだと言い合って
何度も名前を呼び合った
その度に、更に気持ちが止めどなく膨らんでいくのを感じた
もう十分と言っていい程、お互いに気持ちは伝わってるはずなのに
それでも足りないと感じてしまう
なんならもう…言葉だけじゃ足りなくなってきていた 伝えるだけでもすごく恥ずかしかった筈なのに
…満たされている筈なのに、もっと満たされたいと思う
もっと愛ちゃんを近くに感じたい
言葉だけじゃなくて、もっと確かなものが欲しい
愛ちゃんもそんな風に思ったり、感じたりしてくれてたらいいな
そうであって欲しいな
なんて…欲張りになってしまう
改めて、本当にどうしようもないくらいに好きなんだって実感した こんな気持ちも私にとっては初めてだった
…愛ちゃんは変わらず微笑んでる
改めて見ると…夕日に照らされていることも相俟って
愛ちゃんの表情がより一層綺麗に見えた
私と愛ちゃんは、お互いの意図を示し合わせるかの様に見つめ合う
愛ちゃんの目を見て…愛ちゃんも私と同じように求めてくれてるんだって…そう思った
少しくすぐったくて、すごく嬉しくて…この上なく愛おしい 歩夢「………愛ちゃん…」
愛「……歩夢」
引き寄せられるように、お互いに顔を近付けていく
愛ちゃんが目を閉じる…
…すごくドキドキするし、すごく恥ずかしい…
でも…それでも、愛ちゃんを求める気持ちに勝ることはなかった
もう、気持ちは止められない…止めちゃいけない
だから…自分もそのまま目を閉じて
じわじわと愛ちゃんとの距離を縮めていく
そうして、夕日に照らされて伸びた私達の影が…ゆっくりと重なった はい最強! はい最強!
あいぽむ最強! あいぽむ最強! あいぽむ最強! まだ時間が掛かりますがもう少し続きます
遅くなっていてごめんなさい 残りのレス数で完結出来るか微妙なので新しくスレを立てて続きを書くことにします
保守してもらっていたのにごめんなさい ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています