しずく(6歳)「お台場につれてきてもらった」
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「しずくちゃん。歩く時とか気をつけるのよ?」
しずく「うん!」
小さい頃、私は一度だけお台場に遊びに来た事があった。
お母さんがお台場にあるショッピングモールにお買い物があると言う事で、連れてきてもらったのだ。
その時の事は今でも覚えている。
齢6歳の頃である。 連れてきてもらったお台場は、地元の鎌倉とは違う雰囲気が漂っていた。
まるで異世界。
小さい頃の私は目をグルグルさせながらも、普段とは違う景色に感動し、物語の世界に入ったような感覚を覚えていた。
──しかし、私はそんな物語の世界で、ひとりぼっちになってしまった。
理由は、簡単である。 6歳のしずくちゃん絶対かわいいな
今もかわいいけど しずく「うぇぇええええん!」
しずく「おかーさん……!」
しずく「どこ〜……!」
──私は、迷子になったのでした。 お母さんが目的の物を買い物かごに入れ、レジに並んでいる途中。
私は物凄く暇だった。
知らない場所でそわそわとドキドキを感じながら、ただ待つ。
それは、6歳の子供には退屈だったのだ。
ひたすら退屈で、辺りをキョロキョロと見渡してしまう。 沢山の物が入ったカゴは重く、お母さんと手を繋ぐことも出来なかった。
──そんな中、耳に聞き覚えのあるメロディが届く。
しずく(これ、この前お母さんと観た演劇の曲だ!)
物凄く、心が踊った。
今すぐに、観にいきたいと思った。
──そう思った時には、走り始めていた。
メロディの聞こえる方へ。 「え? し、しずくちゃん!?」
しずく「ごめんなさいおかーさん! すぐ戻るから!」
暫く走り、辿り着く。
ショッピングモールの中にある広場で、案の定、劇をやっていた。
しかし、もう終盤だったのか、すぐに終幕してしまった。
しずく「もっと観たかったなぁ……」
そんな事を呟きながら、辺りを見渡す。
しずく「あれ?」
こうして私は──
しずく「お母さんがいるお店……どこ……?」
迷子になった。 しずく「うぅ……おかーさーん……!」
自業自得なのに、私は周りの目も気にせず泣いてしまった。
怖かった。よくある異世界に飛ばされる主人公は、なぜ突然知らない世界に行ってもめげずに動けるんだって疑問に思った。
周りの大人も、心配そうに私を見つめるけれど、気まずそうに立ち去ってしまう。
小さい子供に話しかける、怪しい人と思われたくなかったのかもしれない。
現代社会の悲しい事なのか。当時の私はひたすら泣く事しか出来なかった。
──でも、ヒーローは必ずやってくるんだよね。 「ねぇねぇ、どうしたの?」
しずく「ふぇ……?」
「もしかして、まいご〜?」
しずく「う、うん……」
私よりちょっとだけ大きいけれど、ほとんど背丈が変わらない女の子が目の前にいた。
話しかけてくれた。
「そうなんだ。も〜、まいごくらいで泣いちゃうなんて、おこちゃまですね〜」
しずく「え?」
「かすみんの方が大きいし、4さいくらい〜?」
しずく「わ、わたし6さいだもん!」
突然何だと思った。
いきなり小馬鹿にされた事で、悲しみよりも怒りが込み上げてきたんだ。 「え!? 5さいのかすみんより1さい上じゃん!」
しずく「だ、だいたいかすみんってなに? 変な名前!」
「な!? 宇宙一かわいい名前だもん!」
しずく「かすみんなんて名前、聞いたことないよ! 変な名前ー!」
「むきー! しつこい!」
さっきまで怖くて泣いていたのに、今ではぷんすかと怒っている。
子供って本当に、感情豊かだよね。 「……とりあえず、迷子なんだよね?」
しずく「……うん」
「まったく、しょーがないなぁ。かすみんが道あんないしてあげるよ!」
しずく「え? そ、そんなことできるの?」
「にっしっし……このショッピングモールはかすみんにとってはおにわみたいなもんなんですよ」
「よくママと来てるから!」
女の子がニヤニヤとしながら、自慢げに語っている。 「さいご、あなたのおかーさんとはどんなお店にいたの?」
しずく「えっと……およーふくのキジ? がたくさんあるとこ……」
「あっ、ならあそこしかない! かすみんがあんないするね!」
しずく「わっとと!」
女の子が、私の手を握ってくれる。
優しくギュッと、握ってくれた。
──内心、すごく安心したのを覚えている。 「あっ、そうだ」
しずく「え?」
「あなた、お名前なんて言うの〜?」
しずく「えっと……」
「うん」
しずく「しらない人には名前はおしえちゃダメってお母さんからいわれてるから……おしえない」
「急にまじめ!?」
しずく「決まりはまもらないとだもん。お母さんがいってた」
「迷子で泣いてたくせにぃ……もう! ならしょーがないよね!」
しずく「へ?」
女の子が、優しく笑顔で──名乗った。 かすみ「かすみんはね、中須かすみっていうの」
──私はこの日の事を、一生忘れない。
かすみ「これでしらない人じゃないでしょ?」
かすみ「かすみんと、友達になろうよ!」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
かすみ「しず子? し〜ず〜子〜?」
しずく「ふぇ……?」
かすみ「あっ、やっと起きた?」
綺麗な赤色の瞳が、私の視界に映る。
覗き込まれている。この子は、本当に綺麗な目をしてるなぁ。
可愛い。
しずく「あっ、かすみさん……」
かすみ「もー、しず子ったら同好会の練習休みなのに一人でこんなとこでうたた寝して〜。首痛めちゃうよ?」
しずく「ごめんね。ここ、落ち着くから好きなの。それで台本読んでたら居眠りしちゃった」
かすみ「気持ちは分かるけどさぁ〜……。最近疲れ溜まってるんじゃないの? 無理しちゃダメだよ」
しずく「うん。心配してくれてありがとうね。かすみさん」
かすみ「し、心配してるワケじゃないし!」
恥ずかしそうにそっぽを向く子は、中須かすみさん。
とても可愛くて愛おしい、私の親友だ。 かすみ「でもしず子、寝てる時すっごく嬉しそうな表情だったよ?」
しずく「へ? うそ……」
かすみ「ウソじゃないよ〜。なんか良い夢でも見てたの?」
しずく「…………」
──見ていたよ、かすみさん。
迷子になっていた私の手を引っ張ってくれて、お母さんの所まで連れて行ってくれた時の夢を、ね。
しずく「ふふっ、見てないよ〜」
かすみ「ほんと〜?」
かすみさんは、覚えてないかもしれない。けれど、あの時、私とあなたは出会っていたんだよ。
そしてあなたは──私のヒーローになった。
可愛くて、ヒロインという立場が正しいのかもしれないけれど、他人の為に動けるあなたは、私のヒーローなの。 しずく(かすみさんは、覚えてないんだろうなぁ……ちっちゃい頃だもんね)
かすみ「まぁ、いいや。しず子〜。今日は練習おやすみだし、久しぶりにヴィーナスフォートにお買い物行こうよ」
しずく「うん。いいよ。なんか久しぶりだね」
かすみ「でしょ? 可愛いかすみんの新しいかわいい服がほしいんだよね」
しずく「ふふっ、お金使いすぎちゃダメだよ?」
かすみ「もー、ママみたいな事言わないでよしず子〜!」
しずく「それにしても、ヴィーナスフォートかぁ……あそこ、広くって迷子になっちゃいそう」
かすみ「高校一年生にもなってなに言ってるの……?」
しずく「冗談だよ」
懐かしい夢を見たからだろうか。
変な事を呟いてしまう。 かすみ「……まぁ、大丈夫だよ」
そんな時、かすみさんから驚く一言が私の耳に届いた。
かすみ「迷子になっても」
かすみ「かすみんがまた手を引っ張ってあげるから」 しずく「──え?」
つい、口が塞がらなくなる。
ポカンとする私とは別に、かすみさんは少し恥ずかしそうな表情を作っていた。
かすみ「な、なんでもないから! ──か、かすみん! 先に正門行ってるね!」
そのまま、走り去ってしまう。
しずく「ま、待ってよかすみさん!」
しずく「い、今のって……まっ、待ってよー!」
しずく「かすみさん!」
私は、逃げてしまったヒーローを追いかける為に、そのまま走り始めた。 乙
ほのぼの最高のしずかすをありがとうございました はー可愛い
お互いに出会いのことおぼえてるの良いね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています